魔女の血判
これにて序章である一章は終わりです。
次章はいよいよバトルです。
だが、リアンも朱莉も納得しているようだった。
「結論が出マシタ。明日、ミコトはリアたちの近くにいてください」
俺抜きのミーティングででた結論は、案外簡単なものだった。
俺についての予知のはずが、俺が知ることができないというのもヤキモキする。
「それだけでいいのか?」
「ああ。君がこの予知の内容を知ると、未来が変わってしまうおそれがあるからな」
「わかった。とりあえず、お前らどうしが戦わなくて済むならそれでいい」
時刻は午前二時を過ぎたところだった。
俺以外の三人は、予知の内容の後は剣呑な空気はどこへやら。
超常的な能力について歓談していた。
俺はよくわからなかった。
朱莉は四神を降ろせるとか何とか。
リアンは魔術以外にもアルケミー連盟の名の通り錬金術を使え、占星術にも長けていること。
柊は使える超能力が、更にいくつかあること。
そんな話をしていた。
なんだかどこかのファンタジー漫画をごった煮したような会話だった。
誰かが聞いていたとしても、誰も信じないだろうなと思った。
しかし俺的には、そろそろ寝ないと、明日の始業式に寝坊しそうだった。
「なあ、そろそろお開きにしないか」
俺が発言すると、皆時計を一敬しはっとしていた。
「そうだね、じゃあ帰る準備をするね」
「リアも、少しすることがあるデス」
「私も少し外に出るぞ」
すると三者三様、家の中と外を好き勝手に移動していった。
俺の家なんだけどな……
十数分後
「済んだぞ」
「終わったデス」
「もういいよ~」
柊、リアン、朱莉の順で部屋に戻ってくる。
「お前ら、一体何してたんだよ」
「ん~、尊君を守る結界を張ってただけだよ。これで邪悪なものは入ってこれない」
「結界!?」
「リアは地下で、なにか異変があればリアに情報が届く魔法陣を描いてました」
「魔法陣!」
「私は普通にAESを天井裏に置いただけだ」
「アンチエスパーシステム!!」
人の家になんだか訳の解らないモノを仕込んでいったようだ。
父さんにバレたら、なんて言われるだろうか。
まあ、すぐには帰ってこないんだけど。
再び自室の円卓に戻る。
「とりあえず、これで三人は帰ってくれるのか?」
「うん、式神は残しておくから安心して」
平然と朱莉は監視できるような存在を残しておくことを提言する。
なんだか居づらいな。
「あの~皆さん。最後に提案があるのデスが……」
「なんだよ?」
「魔女の血判というのはご存知デスか? 魔女を中心にして、契約を結ぶのデスが」
「なにを契約するっていうんだよ」
「それはミコトが言っていた通り、全員でミコトを守るという契約デス……ちなみにその誓約は魔女以外は解呪できません」
「そんなことが出来るのか……二人はその契約を結んでもいいのか?」
「尊君を守るのは絶対だから、それを証明できるのなら悪魔とでも契約するよあたしは」
「魔術には詳しくないが、少年を守るのが私の役目だ。その話、乗らせてもらう」
「では、ちょっとした儀式をしますデス!」
するとさっき俺が首を斬ろうとした刀を持ち出し、「ちょっと失敬」と言って自身の手首を切った。
その血液は円卓テーブルの半分ほどに広がる。
「ちょ、リアン何してんだよ!」
「まあ見ててください、デス」
その後の手際は見事なものだった。
血液が広がるほど赤い液体が流れた後、傷跡を俺の首を治したときのように人差し指でなぞり治癒させた。
「本来は瀉血と言って、西洋魔術では血を流すのは健康になるものなので止血する必要もないんデスが。今はそういう時代ではないんデスよね」
そして円卓テーブルの形に沿って、血液で整った円を描きそこから七芒星の入った複雑な模様を描く。
描ききった後、円の真ん中に手を置き。
「Maga iubet te contractum servare.(魔女が命ずる、この契約を守ると。)」
と英語ではない、どこか古めかしい綴りを発音した。
すると指で描いたため、どこか波をうっていた魔法陣は元の形があるかのようにきれいな一本の線になり完璧な魔法陣に形が整った。
これには流石の二人も驚きを隠せていない。
「さあ、私の手の上に皆さん手を重ねてくださいデス!」
少し恐ろしいとも思ったが、乗りかかった船を降りるわけにはいかなかった。
リアン、朱莉、柊、俺の順で手を乗せる。
最後にリアンは自分のもう一つの空いた手を、一番上に重ねた。
「Hoc faciunt. Lian = Akatsuki (これを遂行する。リアン=暁月)」
一瞬青白い柔らかな光りが部屋全体を包み、視界が無くなる。
光が消えた後には、魔法陣はなくなってただの円卓テーブルになっていた。
「ハイ、これでいいですヨ~」
リアンは何事もなかったかのように、笑みを浮かべながら手を振っている。
これが魔女の日常なのだろうか。
だとしたら科学なんてものよりも、よっぽど素晴らしいものだ。
魔女狩りが発生した理由もうなずける。
きっとこの力が怖くて、魔女を殺したのだと容易に想像がついた。
そしてリアンは、その生き残りの末裔なのだろう。
とにかく、人生で初めての超常現象に心躍らされたのだった。
「じゃあ、私はこの辺で。いいものを見せてもらったわ。また明日、会いましょう」
そう言った途端、柊の体は消えていた。
超能力だ。正式名前はわらないが、テレポーテーションというやつだろう。
「あたしも日本刀を返してもらったし、帰るね。明日、気を付けてね尊」
朱莉はなんと刀を鞘に戻したかと思うと、ベランダから飛び降りた。
心配になり、ベランダから覗くとその姿はない。
代わりに空から美しい鳥の鳴き声が、聞こえた。
瞬きの一瞬だけ視えたようなきがする。
紅き炎を纏った大きな鳥。
四神の朱雀を守る鳳凰。
つまりフェニックスの背に乗って、帰っていったのだろう。
あいつ本当に俺の幼馴染か?
あの可愛らしかった幼少期からは想像できないほどに、逞しくなっている。
「ミコト、明日学校で会いましょう。待ってるデスヨ!」
マントを翻し、ベランダに向かう。
「お前も飛んで帰るのか?」
「ご名答デス」
さっき返した木とプラチナでできている装飾をあしらった、彼女の身の丈ほどはある杖を振りかざした。
「Ordinis fuga. (飛翔を命ずる)」
なにかの呪文とともに、等身大ほどの翡翠の色を呈した魔法陣が出来上がる。
その美しさと、巻き起こる風に彼女のツインテールが揺れる。
その杖にまたがってこう言った。
「Te amo. Te videre. (愛してる。またね)」
最後になにか呪文のようで、俺に投げかけたような言葉を口にし強い風を伴って一瞬にして消えていった。
それはまるで魔女が箒に乗って空を飛ぶような、そんな様子だった。
最後、なんと言ったのだろう。
意味はわからなかったが、なんだか恥ずかしくなった。
時刻は午前三時前。
一日の中で色々ありすぎて、考えもまとまらず。
そのままベッドに倒れ込み、朝を迎えた。