朱莉の想いプレコグニション
段々と皆の能力が明らかになっていきます。
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「今っ!」
しまった!
隙きをつかれ、とても同い年の少女のものとは思えない強い力で朱莉に刀を絡め取らた。
体術に加え、尋常ではない力に、組み伏せられるしかなかった。
そんな彼女は、一瞬白い炎のようなものが宿ったように見えた。
これも彼女の何らかの超常的な能力なのだろう。
地面に伏したまま、ジリジリと強い圧力のようなものを感じる。
そして、首筋に伝う血液とは違う温かみのある液体が顔に滴る。
「尊君っ、あたしは、朱莉は……大好きな尊君を失いたくないの!」
グスンとう吐息と涙をせき止めようとしているのか、息が詰まっている。
そうか朱莉は、もしかしたら幼い頃から俺が世界の鍵となることを知っていたのかもしれない。
あくまでも憶測の域をでないが、それで高校に上がってからは近寄らなくなり、陰ながら守ってくれていたのかもしれない。
それに朱莉の持っている力は、きっと生まれ持ったまま、天性のみで扱っているわけではないはずだ。
父にお寺の住職、母には神社巫女を持っているのだ。
相当な修行や努力によって、その力を扱えているのだ。
それも全て、俺を守るために。
「朱莉……」
「だから……自分から、死ぬなんて言わないで!」
再び涙が、顔に滴る。
幼馴染を泣かせてしまったという事実が、胸を締め付ける。
「朱莉君、少年をはなしてやれ。もう彼は、自分を傷つけようだなんて思ってないはずだよ」
最後に一度グスンという音が聞こえ、馬乗りになっていた体勢から降りてくれる。
「アカリ、大丈夫デス?」
俺が朱莉を泣かせてしまったからか、一触触発という雰囲気ではくなった。
それから俺たち三人で、約十分程朱莉をなだめていた。
結果的に、雰囲気が険悪でなくなったのは行幸だろう。
自分でつけた首の傷だったが、それもいとも簡単にリアンが治してくれた。
今回の場合傷ができた瞬間から、治すまで時間がかからなかったため、なんと時間を巻き戻したのだという。
これには俺は驚き、柊は原理を知りたがり、朱莉は真似ができないかブツブツ言っていた。
「さて、話を戻すが、私達が協定を結び協力して君を守ればいいんだね」
「そうしてくれると助かるな」
「ふむ、どうしたものか」
柊の言葉が皮切りに、それぞれが怪訝な表情を浮かべる。
「リアは、個人的には賛成デス。ただ、連盟のほうが納得してくれるかは……」
「あたしも同じ感じかな。あくまであたしは、協会の指示に従っているだけだから」
「その点私は融通が効くな。私達はあくまで通常の人間では防げない、世界規模の災害を超能で抑える組織。災害の中心である尊君がそれを望むなら、その通りにしたほうが世界も安全だろう。また自殺未遂をされても困るしな?」
こちらに目線を送ってくる。
さっきのことは、朱莉を泣かせてしまったのもあるし少し恥ずかしい。
しかし柊が乗ってきてくれるのは助かる。
「なあ柊、なにかお前の能力とかで、こう、なんとかできないものなのか」
自分で言っていて投げやりな言葉だと思った。
しかし手の内を知らない以上、知っている者に協力を仰ぐしかないのだ。
「私の能力で、か。少年、近くに来てくれないか。大丈夫だ、危害は加えない」
柊のことだ、なにか考えがあるのだろう。
円卓の反対側に座っている柊の前で正座する。
「これでいいか」
「ああ、ちょっと我慢してくれよ」
何をされるのかと思ったら、更に近くに寄ってきた!
というよりこれは……!
「んぐぅぅぅ!」
「どうだ、私の胸は心地良いか?」
「ハレンチデス!」
「ちょっと、あたしの尊君になにするの!?」
一瞬何が起きたのかわからなかったが、なんと柊は自身の胸を俺の顔に押し付けている。
顔に女性特有のふくよかな膨らみと、柔らかな匂いが漂う。
女の子ってこういう匂いするんだな。
とかしみじみ思っているが、これは頭が混乱しすぎて逆に何も考えられなくなっているだけだった。
ま、真面目なことを考えよう。
そういえば思春期の女の子というものは、時にフェロモンというべき匂いを発しているらしい。
だからいい匂いがするのか、と思った。
違う違う、そういうことじゃない。
やっぱりこの状況はダメだ。
その、倫理的に?
強引に柊から離れようとする。
すると、体全体が背中から物理的になにかに押されているような感覚。
しかし人が押しているようなものではない。
まさか、これも超能力か!
「ん? おかしいな」
「ふぇにが、ふぉかしいんふぁよ(何がおかしいんだよ)」
「いや、サイコキネシスの掛かりが弱いような」
「ふぃいからふぁなせ!(いいから離せ!)」
「お、すまんすまん」
胸から顔が離れる。
久しぶりの部屋の空気に、肺が正常な呼吸を要請する。
まだ鼻腔の中には、柊の匂いが残っていた。
これじゃあ、俺が変態みたいじゃないか!
「な、なんでこんなことをしたんデス?」
「まあ、考えが煮詰まったから、かな?」
「なんで疑問形なんだよ!」
「いやあ、なんとなく君の感触を味わいたかったのさ」
「なんとなくってお前……」
背中に感じるのは、さっきのサイコキネシスではなく、朱莉の鋭い視線だった。
気づかないことにしておこう。
「で、収穫はあったの? 柊さん」
ジト目で朱莉は柊に問いかける。
すると真剣な眼差しで、答えた。
「ああ。少年について、予知を使っていたんだ。するといいものが見れた」
ニヤッと笑うその顔は、なにか企んでいるように見えた。
「プレコグニションってことは、あたしたちがつかう祈祷術で天啓を授けてもらうのと同じようなものだよね? 何が視えたの」
「それはな、九之宮君、暁月君、こっちへ来たまえ」
「俺には内緒かよ……」
数分間、なにかを三人で話していた。
次回で一章は完結予定です。
リアンちゃん(推し)が活躍するので、明日投稿します。