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三つの組織と尊の願い。

ここからだんだんと話が面白くなってきます。

 唐突に声が聞こえたと思うと、二人の武器である杖と日本刀はなにかに弾かれたかのように地面に転がった。何かが当たったようには見えなかったが……。

 二人とも手を抑えて唖然とし頭上の屋根を見つめていた。

 そこから女性の通った声がした。

「ふふっこれだから頭の固い古参団体共は。すぐに実力行使に打って出たがる。私達に任せていればいいものを」

 シュタッ

 屋根の上に立っていた謎の女性は、2階建ての建物の上から、難なく地面に着地する。しかし思っていたより着地の音は軽く、まるで石つぶてが落ちたかのような音だった。

 彼女もどこの学校かは判別できないが制服を着ており、その上に何故か白衣を纏っている。長い銀髪をバサリと一度持ち上げ、悠々と語りだした。

「ふふっ、私が誰だか疑問に思っているようだな。本来は教える必要などないのだが、神代君の前だついでにお前らにも教えてやろう」

「俺のためだって……?」

「あぁそうだ。その二人だって神代君、キミを誰がどう守るのかという点でお互いの地位と利益のため争っているのだよ。私だって、キミ自身に危害を加える気などさらさらない。むしろ我々もキミを保護し、守ろうとしているのだよ。この世界のためにね。この認識であっているだろう?そこの二人も」

 銀髪の少女の朱い瞳が月夜に照れされたように煌めく。

「……」

「……」

「だそうだ神代くん。だから私達『世界ESP災害対策本部』つまり超能力者の集まりである団体は、キミを丁重に守ろうとしているんだ。世界を終わらせないために、ね」


 世界が終わるだって? そんなことはにわかに信じがたい。ましてや、そこに俺が出てくる意味もわからない。

 しかも今この女性はなんと言った? ESP? 超能力? そんな非科学的なものが存在するとでもいうのだろうか。いや、でも、さっき二人の武器を弾き飛ばしたのはきっと彼女だ。

 それも見えない何かで弾いたのだ。つまりそれは超能力……!

「尊君、この人の話に耳を傾けないで。お願い、何もきかずにあたしと逃げて」

 最も近くにいた朱莉はそんな耳打ちをしてきた。

 この三人は本当にわけがわからないことばかりしてくるし、意味もわからないことを喋っている。

 しかも逼迫した状況……三者の意見は一歩も引かず、全員俺をどこかへ拘束しようとしている……!


 そんなとき俺は、自分を信じる!


「えぇいお前ら! いいから全員一旦俺の部屋に来い!!!!!!」


 近所迷惑かもしれないが、三人に向けて一度だけ大きな声で叫んでやった。



***


――20☓☓年4月1日 午前0時52分 天気は晴れだが、俺の心はあまりに非常識な三人のせいで、気持ちが陰っている。


「んで、俺が死んでしまうと別の世界との門が開いてしまうから、それを知った誰かに殺されないように俺を保護したいと?」

「うん」

 危ないから日本刀は預かったが、それでも周りの二人を警戒している様子の朱莉はうなずいた。

「けどそれを知っている人……というか機関や組織は3つあって、それが『日本祈祷守護協会』と『西洋アルケミー連盟』それに『世界ESP災害対策本部』だと」

「今のところは、そうなりマス」

 何をしでかすかわからないから、ローブの少女の杖は取り上げた。

 しかし特に問題もないのか、あるいはそういう性格なのか、毅然とした態度で俺の出したお茶を飲んでいる。まるで西洋人形が飲み物を飲んでるようにみえる。

 そしてなぜかローブの下はうちの学校の制服だ。リアン=暁月(りあん=暁月)という少女は。

「そしてそれらの機関は、それぞれ予知とか占いとか祈祷によって今日四月一日、この瞬間から、その条件が発動されることを知った。だからそれぞれの機関の使いっぱしりとして、俺を拉致しに来たんだな?」

「概ね、それであっている」

 柊 京夏(ひいらぎきょうか)と名乗った彼女は、俺の円卓机の正面で遠慮することなくボリボリと俺の出したお煎餅を食べていた。

 この状況で少しは遠慮したらどうだろうか。

 それによく見ると、柊さんの服装は暁月さんと同じく俺の通っている学校のものだった。

 そういえば、銀髪の緋色の瞳の女の子いたよな。同じ学年で。

 なんどかすれ違ったこともある。

 その時は、とても綺麗なお姉さんという風に感じた。

 人付き合いもいいらしく、男子の人気が高いのもうなずける。

「そして、お前ら全員、今日から大禍原高校の三年生になるんだな? 朱莉はもとから同じ学校だし。暁月さんは今日から転校してくるんだよな。柊さんについては、どうりで学校で見たことある人だなと思ったんだよ!」

「あー、リアのことはリアンでいいデスヨ。名字で呼ばれるの好きじゃないので。だって、私外国人デスから」

 暁月さんもといリアン、可愛らしい笑みを浮かべる。

「私もさん付けはいらないわ、普通に柊か京夏ちゃ~んってよんでくれていいぞ?」

「だれがそんな名前で呼ぶか! じゃあ聞かせてもらうが、リアンと柊、お前らは一体何者なんだ、さっき杖から炎を出したり、手も触れずに武器を吹き飛ばしたりしていたが」

「リアは魔女デスヨ」

 リアンはサラッと現実味のないことを答える。

「言ったじゃないデスか、私は『西洋アルケミー連盟』の上級会員。中でも<東洋支部一等アルケミスト>デス。つまり錬金術から派生した、魔術を極めし乙女なんデスヨ。炎を出すくらいなんてことないデス」

「なら、私は超能力者とでも名乗っておこうかしら。まあ機関自体の名前が『世界ESPエスパー災害対策本部』だから大方予想ができていると思うけどね」

 そんな組織の詳細なんてだれが予想できるかっていうんだ。

 魔術も超能力もこのセカイに存在している事自体、飲み込めていないっていうのに。

 けれど先程の戦闘を見たら状況から、その非科学的な現象を飲み込まなければならなくなっただけの話で。

「だいたい朱莉もなんだよ、夜とはいえ日本刀なんて持ち出してくるなんて。もし警察に見つかったらどうするつもりだったんだ?」

「それについては大丈夫だよ、『日本祈祷守護協会』は公的機関の後援を受けてるから、何かあっても裏から話を通してもらえばすぐに釈放されるんだよね」

 なんだそのチート協会は。

 それじゃあどんな法を犯してもだいたいなんとかなるってことじゃないか……幼馴染ながらとんでもない機関に所属しているな。


「んで、俺はこれからどうしたらいいんだ?」

 三人は同時に別々の言葉を放つ。

「あたしに従って、保護されてくれればいいだよ」

「少年は、私たちエスパーに守られていればいい」

「リアと一緒に西洋の本部に来てくれてもいいデスヨ」

 一間おいて、俺は言い放つ。

「同時に話すな! そして多分だけど、一人で三人の要望には答えられない!」

 それぞれ違うことを言われたんじゃ、従おうにも無理がある。

 せめて意見を統一してくれればいいのだが。

「ふむ、では私の催眠ヒュプノで皆を洗脳すれば良いのだな」

「じゃあリアは、その前に錬金術アルケミスで皆さんに一服もるデス!」

「ならあたしは、呪術で皆を呪いにかけてあげる! そして尊君を守ってみせる!」

 再び一触触発の空気が漂う。

 予め武器を奪っておいて正解だった。

 もしこの場が、血みどろの現場になったのならきっと俺は後悔するだろう。

 後悔……?

 何に対してそう思うのだろう。

 自分自身に問いかける。

 そうだ!

「待ってくれ皆! 俺は、三人に争ってほしくない。もしこのまま戦闘でもしようものなら……」

 すぐさま、隠してあった朱莉の持っていたものを取り出し後ろに下がる。

「やめて尊君! あたしはそんなことために、今まであなたを見守ってきたわけじゃないの」

「いいや、皆が矛を納めるまでやめない。皆が戦うのなら、俺はここで……首を斬る」

 実際に持ってみると想像以上に重みのある日本刀の鋒を首に当てている。

 首筋に温かい液体が、つたっていくのを感じる。

 ごめん朱莉、朱莉の大切な刀を俺の血で汚してしまった。

「ミコトやめて欲しいデス。もし即死でもしたら、流石のリアでも治せないデス! それに、セカイの鍵が開いてしまいマス!」

 そうだ、それでいい。

 俺には人質としての価値がある。

 だから俺は交渉ができる。

「だったら約束してほしい。俺を巡って、争わないでくれ」

 朱莉とリアンが苦虫を噛んだような表情を浮かべる。

 しかし柊だけは、静かにお茶を飲んでいた。

「して少年、何が言いたいのかな?」

「俺は……」

 柊は俺の言いたいことがわかっているようだ。

 そして恐らく、冷静でいられるのは、本気で俺が首を斬ろうとしたら超能力で止めることが出来るからだろう。

 だから彼女にはこの交渉は、交渉でない。

 ただの俺の我侭を、至って冷静に聞いてくれようとしているのだ。

「皆と、普通の学校生活を楽しみたい」

 それがふと口から出た言葉だった。

 きっと、そうだなんだ。

 こんな綺麗で、可愛らしくて、愛らしい。

 そしてとても普通の人間では持つことのできない、超常の力を有している。

 そんな三人と、楽しく高校の最後の一年を楽しみたい。

 そう思ったのだ。

「それだけ?」

 朱莉は首を傾げる。

「ふむ。もうちょっとハードな内容が来ると思ったのだが、期待しただけ損だったか」

 ふふんと笑ってみせる柊。

「リアも……」

 リアンは何かを言いかける。

「リアン、なにか言いたいことがあるのか」

「いえ、ミコトには関係ないことデス」

 そんな感情を汲み取ったのか、柊はその場の空気を専有するように言い放つ。

「つまり、少年は私達に協定を結べ。そう言いたいのだろう」

 その笑みは、とても優しいものでまるで女神のような言葉だった。

 きっと柊は、超能力なんて使わなくても優しくて、気配りができて、それにリーダー気質があるのだろう。

 そんな彼女に救われた気がした。

「ああ、そうだ。そして、俺と一緒に、楽しい学校生活を送って欲しい」

 ふと刀を持つ手が緩んだ。


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