表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/14

クラウディアとフェンリル

「はぁ、はぁ、お前ら体力ありすぎだろ……」

 俺はついていくのが必死で、屋上の入り口につく頃には大分へばっていた。

「リアはとある神の加護を受けているので、へっちゃらデスヨ」

「あたしも四神の加護があるから、大丈夫」

「そもそも私は運動神経が良い」

「神の加護って……チートすぎんだろ」

 武藤には悪いが、息が治るまで待ってもらった。

「少年、準備はいいか? 鍵は開いているようだ」

「もちろん。なにか出来るわけじゃないけど、武藤を助けたいんだ」

 その気持に嘘はない。

 友人を、見捨てたりなんてできない。

ガチャ

 っとドアを開け、すぐさま三人で屋上に出る。

 そこには一人の男が立っていた。

 武藤の頭に、拳銃を向けて。

「神代、た、助けてくれ。俺、このままじゃ撃たれちまう!」

「分かってる、今助けるからな」

 とは言っても、この状況では分が悪い。

 武藤に三人の能力をみせる訳にはいかない。

 どうすれば……

 ふと、肩に手が置かれる。

「少年、案ずることはない。私が後で記憶を操作する。だから皆も安心して、力を使って良い」

「助かります、柊さん」

「といっても、拳銃くらいならキョウカが今すぐ片付けられるのでは?」

 そこでふと何かに気付き、眉を寄せる。

『諸君、よく来てくれた。まず一つ、神代尊を渡せ。それさえ叶えば、私はすぐに立ち去ろう。もし拒むなら、この男を撃ってやろう』

 バサッと白衣が揺れる。

「撃ちたいなら撃てば良い。だが、その男は返してもらうがな」

『ふふっ、あーはっはっは。知っているぞ、君は柊京夏。最強のエスパーなんだろう。この銃をどうにかしたいならすれば良い。君にできるかな?』

「やってみればわかっ……なんだと」

 腕を前に突き出した柊は、驚愕していた。

『私のまわりには、AESアンチエスパーシステムを展開している。いくら高位のエスパーでも、これは破れまい』

 いや柊がダメでも……

「『朱雀』!」

 『朧月』を持っている、朱莉が行った!

 その体には薄っすらと赤い炎を纏っている。

 『朱雀』の力によって、一瞬にして半分ほどの距離まで詰めたが……

「くっ……なるほどね」

「朱莉、どうした!」

「その真中あたりに、強力な結界が張ってあるの。強力な能力をもつあたし達は、通ることすらできないの」

「Ego sum aer, et aurora perspicua est.(我は空気なり、その暁は透き通る。)」

 小さな声で何かが聞こえた気がする。

『はっはっは、今の力。君が九之宮朱莉だね? そうかそうか、ということはもうひとりの彼女は……いない!』

「リアン……?」

 そこには誰も居なかった。

 周囲を探すが、見当たらない。

「Curre, Hermes. Per meae! ..(駆けろ、ヘルメス。我が命により!。)」

 どこかでリアンの声がした。

 するとはるか上空に、翡翠色の魔法陣が続々と展開される。

『な、なんだ。どうなっているっ、暁月=リアンはどこだ』

「後ろデス」

 そのまま男の正面に前宙で回り込み、持っていた銀色の杖から細剣を取り出して拳銃を跳ね除けた。

 武藤は恐怖からか、地面にうずくまる。

『な、にっ。結界の射程範囲より遠くから、あの一瞬駆けつけたのか』

 黒服の男の首には、漆黒の細剣が首を傷つけている。

 その血液はポタポタと、地面に落ちる。

「これでムトウは返してもらったデス」

 そこで柊が言い放つ。

『戻れっ、これは罠だ! 今プレコグが働いて、未来が見えた。今すぐ……』

 空から音がする、ヘリが降下してきた。

 リアンはすぐさま武藤を抱えると、すぐさま魔法陣を展開して結界を迂回しながら、こちらに戻ってきた。

 黒服の男が笑っている。

『はっはっは、罠に掛かるとは魔女も所詮はただの少女だな。聞いているか大魔道士様、早く私を生贄にしてください』

 その顔は、清々しいようで晴れ晴れとした恍惚とした表情だ。

 まるで、救われたような、そんな様子。

 ヘリから、巨大な黒い魔法陣が現れる。

 それが屋上まで、ゆっくりと降下してくる。

「これは……まずいデス! 皆ミコトを連れて、全力で逃げて下さい。リアが、なんとかしマス」

「そんな、リアンだけ残していけるかっ」

「違いマス。これは……これだけは、リアがなんとかしなければならないのデス」

『来る、来るぞ、私を生贄に怪物が!』

 異様だった。

 そして二度目にしたことのある光景だった。

 首筋から滴った血液が、漆黒の魔法陣に垂れ、それが徐々に巨大な魔法陣全てに行き渡る。

 血液が垂れて、広がっていくごとに男は干からびていく。

 魔法陣に体中の血液が吸収されていくように。

 そして男は最後干からびた唇で、こう言い残した。

『おお、『大魔道士Claudiaクラウディア』様。我が壊してみせます、<特異点>を!』

 その男の最期は、魔法陣が完成すると同時に屋上から飛び降りた姿だった。

 きっと下にいる人は驚いたであろう。

 人間が落ちてきたのは当然として、全身の血液が抜かれているのだから。

「これは、マズイ気配がするね」

「そうだな、でもリアンを置いて逃げるなんて真似はしないよな?」

「当然、そもそもあたし達の近くにいたほうが安全だよ。尊君はあたしが絶対に、守ってみせるから」

 ギュッと手を握られる。

 幼馴染の手のひらは、とても安心できるものだった。

「なんで皆、逃げないんデスカ!もうこの神を冒涜した漆黒の魔法陣が完成しマス。これはリアが……」

 リアンの頭をベレー帽の上から撫でる。

「お前を置いて、逃げることなんてできないってさ。それに、『最強』があつまれば、もっと『最強』になるだろう?」

「ミコト……」

 リアンは頭を撫でたからか、落ち着きを取り戻す。

「なあ柊、あのヘリは前みたく落とせないのか?」

「さっきからやっているが、あの男同様AESアンチエスパーシステムを効かせているようだ。私は手出しできない」

「なら朱莉は……」

「尊君、今はそれどころじゃないの。魔法陣の中央を見て、あたしは魔術にはあまり詳しくはないけど、なにかの召喚儀式みたい」

「そうデス。これは、生贄の命と引き換えに悪魔を呼び出す魔術。でもこの術式はは、悪魔なんて生易しいものが出てくるとは思えないデス」

 ヘリを見上げた。

「あそこにその大魔道士とやらが、乗ってるんだろう?」

「はい……『大魔道士クラウディア』、まさか存在したなんて」

「リアン君、これはもう止められないのか?」

「もう、手遅れデス。事前に術式が描いてあったのでしょう。結界の時から気付くべきでした」

 ヘリから成熟した女性の声が響く。

『そこの衆、<特異点>を守りながら戦えるのかえ? 我はしかと見届けようぞ』

 そしてヘリは風を切り、去っていく。

「魔術を通して、あたし達の見えないところで監視してるってわけね。でも、結果は変わらない」

 『朧月』を空高く掲げる。

「この刀に誓って、あたしは<特異点>、いや尊君を守る!」

 その時だった。

 屋上を覆い尽くそうな漆黒の魔法陣が一回転する。

「来るぞっ」

 柊が叫ぶ。

 そこに徐々に現れたのは、この世のものとは思えない足枷がついた巨大な狼の姿だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ