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不運な誘拐


「Ubi est murus(壁は、何処から)」

 その時、七芒星を模ったエメラルドを呈する魔法陣が武藤の頭上に一瞬だけ展開され、大きな坪鈴を弾いた。

ドサッ

 坪鈴は地面に落ちる。

 武藤はこちらを向いていたので、頭上の魔法陣には気づいていない。

「な、神代、今なにが起こった」

「間一髪だったな。お前が鈴紐を乱暴に扱うから、切れて鈴が落ちてきたんだよ」

「そうデス! 乱暴はいけませんよ!」

 リアンは何事も無かったように振る舞う。

 よかった、魔術のことはバレていないようだ。

「そうか、悪かった。この神社の人に謝らないとな」

 テンションの高かった武藤は一気にナイーブになる。

『どうかしたのー?』

 本殿の中から、朱莉と柊が出てくる。

「これは……少年、どういうことだ?」

「お、俺が悪いんです柊さん。ちょっと紐を強く振っちゃって、紐ごと鈴が落ちちゃったんです。本当に申し訳ないです」

 シュンとしている。

 反省しているようだ。

 その話を聞いた朱莉は、怪訝な表情で切れた頭上の紐の跡を見ていた。

 ギュッと服の裾が引っ張られる。

「どうした、リアン」

「あの紐は、日本では大切なものなんデスよね?」

「そうだな、少なくても神社では鳥居と同じくらい大事なものだ」

「……」

 押し黙る。

「なにかあるのか?」

「いえ、詳しくはアカリに聞かないとデスが、ムトウは良くないことが起きるかもデス」

 なんだと。

 つまり、鈴が落ちてきたのは偶然ではなく。

 武藤に身の危険を知らせるものだったとでも言うのだろうか。

 バタバタと本殿から巫女と神主のような男性が出てくる。

「これは……」

「いや、すいません……俺が強く揺すっちゃって……」

「神主さん、簡易的でもいいのでお祓いはできますか? 武藤くんを祓ってあげて下さい」

 朱莉は神主さんに向けて強い口調で言った。

 神主は。

「九之宮さんが言うなら……」

 と了承した。

 鈴紐と坪鈴を壊してしまったお咎めはなく、皆本殿に案内され朱莉の指示の下着々と武藤のお祓いの準備が始まる。

 朱莉がこちらへ戻ってきて、儀式は神主によって始まった。

 武藤はオドオドしながら本殿の椅子に座らされ、祝詞をあげられる。

 小声で朱莉に聞く。

「これは、どういう状況なんだ?」

「見ての通りだよ。彼、今とても悪い運気を纏ってる」

「鈴が落ちてきたのは、偶然じゃないってことか?」

「そうだね。普通あんな太い紐は、どれだけ引っ張っても切れないよ。鈴紐のちぎれ具合も見たけど、尋常じゃない。このお祓いも、気休め程度だね」

「そんな……武藤はどうなるんだ」

「わからない。だけど、普通じゃないことが起きるかも。最悪、死ぬよ」

 武藤が死ぬ……だと。

 そんなこと、ありえるのか。

 いや、よく考えろ。

 そういう災いを寄せ付けるやつが一人だけいるじゃないか。

「俺の……せいなのか」

「それもわからない。だけど自分を責めないで尊君。あたしもクラスメイトが死ぬ瞬間なんて、みたくないから」

 そう言って、持ってきていた細い布袋をギュッと握りしめる。

 青龍の加護を受ける『朧月』が入っているのだろう。

「朱莉君、彼の守護霊などは見れないのかい」

 柊が問いかける。

「実はさっきから、守護霊がいないの。強い能力を持っていたりすると、そういうこともあるけど……反対に、悪すぎる運を持つと守護霊は守りきれないことを悟って逃げてしまうの」

「つまり、武藤はそういう状況ってことか」

「そう、だね」

 歯切れの悪い言葉に、沈黙が続く。

 それはお祓いが終わるまで、つづいた。

 こんなこと、本人に言えるわけがない。

「(なにが起きても、俺達が守ってやるからな武藤……)」

 そう思うしか無かった。


「やー、皆さんご迷惑をおかけしました。代わりにショッピングモールでも、行きませんか? 俺が誠意を持って、奢らせてもらいます」

 さっきの重い空気とは打って変わって、明るい声で言う。

 その意見に、三人と目配せをする。

 全員同意した。

 今の武藤をこのまま家に帰すのは、リスキーだからだ。

 それより、俺達のまわりにいたほうが安全だ。

 なにせ<最強>が三人いるからな。

 そろそろ腹も減ったので、ショッピングモール内のレストランへ向かう。

「日本のレストランは美味しいデスネ!」

「そうですね暁月さん、俺の奢りです。存分に食べて下さい」

 リアンはお子様ランチで喜んでいた。

「ここのカレー旨いな。また食べに来たいくらいだ」

「尊君、カレー好きなの? 今度作ってあげようか?」

「良いのか? 助かる」

「少年、私のチャーハンをあげよう。ほら、あーん」

 スプーンを持って、俺の口元へ持ってくる。

「お、おう。あーん、うん、旨いな」

「私もそう思う」

 向かいに座っている武藤からはゴゴゴとでも音がなりそうな、オーラを纏っている。

 無視無視、関わると碌なことがない。

 途中その武藤は、お手洗いに向かった。

 しかしそれから、彼が返ってくることはなかった。

「変だな、ちょっと俺が様子見てくるよ」

 男子トイレにも、車いすトイレにもいない。

 確かにあいつは変態だが、流石に女子トイレに潜るほど変態では無いはずだ。

 だが一応リアンに確認してもらった。

「ミコト、ムトウは居なかったデスヨ」

「流石におかしいね、さっきの不運と関係しているとしたら……」

「そうだな。よし、待っていろ。接触感応サイコメトリーで様子をみてくる」

「あぁ、頼んだ」

 数分後

「残念なお知らせと、愉快な知らせどちらから聞きたい?」

 そう問うてきた。

「なら、愉快な知らせの方を」

「まだ武藤くんは、死んでいないだろうということだな」

「そうか、良かった……」

 いや、行方不明になっているので良くはないのだが。

「残念なお知らせはなんデス?」

「それは、すでに彼は何者かに囚われていると言うことだ」

「なんだとっ」

 怒りのあまり、俺は席から立ち上がる。

 まわりのお客からは奇異の目を向けられる。

「尊君、落ち着いて。最後まで柊さんの話を聞こう?」

 俺は席に戻る。

 柊の言葉に耳を傾けた。

「私が読めたのは、黒服の男が拳銃を突きつけていた」

「そして?」

「残留思念によれば、屋上へ向かったようだ」

「よし、皆、行けるか?」

 皆、「うん」と頷く。

 会計は、朱莉が瞬時にブラックカードをきり屋上へ向かう。

 このショッピングモールは非常に大きく、その上六階まであった。

 非常用階段を使い、現在の二回から走って屋上を目指す。

 やはり神社での出来事は、この状況を予見していたんだ。

 そして最悪の場合、武藤が死ぬ。

 それはなんとしても、回避しなければならない。


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