謎ショッピング
ついに三章突入です。
俺たちは朱莉の発案で、ショッピングに行くため電車に乗っていた。
「柊さん……俺と指輪でも、見に行きませんか」
電車の中でバラの花を差し出し、膝をついているのは武藤だ。
そう、今日の昼前買い物をしようと外を出ると武藤が立っていた。
『俺を差し置いて、あの美少女たちとでかけるんだろ? わかってるさ。気恥ずかしくて、俺を呼べなかったんだろう? 安心しろって、親友の俺がついていってやるさ』
休校中で基本的に家から出てはいけないのに、俺の家で待ち伏せをして、なぜか俺たちで出かけることを知っていた。
本人に聞くと。
『勘さ。美人が関わると、俺の勘が働くのさ』
と言っていた。
正直このメンツだと、武藤に話せないこともあるので正直邪魔だった。
だけど三人は特になんとも思わないのか、同行を許可してた。
まあ……三人がいいならいいか、と思いつつも電車での奇行は本当に迷惑だった。
「武藤君、電車内でのその行動をなんとかするなら考えてやらんでもない」
「はいっ、今すぐやめます」
柊の言葉には素直に従うのだった。
しかしすぐさま、リアンの手を取り。
「お嬢様、まだ日本は慣れていないでしょう? 今日は俺がエスコートしますから安心して下さい」
「いや、アカリに案内してもらうので結構デス」
「ぐはっ」
大ダメージを負っていた。
しかし負けじと、朱莉のに向かって言う。
「九之宮さん、デートするなら海派ですか、山派ですか」
「尊君がいれば、どこでもいいかな」
「ぶはっ」
更にダメージを負っている。
もうHPがないのか、端っこの席に座り消沈していた。
これでしばらくは静かだろう。
しかし武藤の奇行がなくとも、俺たちは目立っていた。
なにせ三つ編みで碧眼の朱莉、長い銀髪の上から白衣を着ている柊。
そして金髪翠眼でツインテールの上に可愛らしいベレー帽をかぶってマントを羽織った美少女が三人揃っているからだ。
特に近くにいる俺に揶揄の目線が飛び交う。
俺、悪くないよな……
そうして電車での時間は過ぎていき、商業施設が立ち並ぶ街の中心部へやってきた。
「それで、ショッピングと言えば街で一番でかいショッピングモールがあるけど、そこだよな?」
うん、とうなずいてもらえると思い問いかけたが、武藤以外誰も返事をしない。
「まずは神社へ行くのが定番よね」
「リアは蛇とか虫が売っているお店に行きたいデス!」
「最新のアニメグッズを入手しておきたい」
誰もまともなことを言わないのだった。
「朱莉と柊はまだわかるとして、リアンの蛇と虫は意味が分かんねえよ!」
「なに言ってるんデス? 使うからに決まってるじゃないデスカ」
あー、多分魔術に使うんだなこいつ。
それを友達とのショッピングで買おうとするのは、本当に意味不明だ。
「れ、レディーの皆さん。普通にショッピングモールはいかないんですか?」
武藤が当然の疑問を投げかける。
「嫌です」
「結構デス」
「却下だ」
そうしてまずは蛇と虫が売っているお店へ向かうのだった。
「おー! 生きの良いコオロギデスネ!」
「そうだねー。あたしも色々使えそうだなー」
「へ、へー。お二人はこういうのが好きなんですねー」
リアンと朱莉は楽しそうに、コオロギやムカデを見ていた。
武藤はドン引きしながらも、それに付き合っている。
俺と柊は店の外で待っていた。
「あいつらの趣味、他のクラスメイトにバレないと良いな」
「武藤君がなにも言わなければ、わからんだろう」
柊は楽観的だった。
「それにしても、柊がアニメが好きだとは思わなかったよ」
「そうか? 案外私はオタクだぞ。次はアニメ◯イトだからな」
「その格好で、そこに行くとコスプレにしか見えないだろ……」
「何を言っている、白衣は浪漫だ」
奇跡的に武藤達と同じことを言っている。
俺にはわからない、浪漫があるようだ。
次に向かったのは、アニメや漫画のグッズなどが売っている店だった。
「ほう、この作品続編が出ていたのか。こっちもか、こっちもだな」
ほいほいと、カゴに本を入れていく。
一体何冊買うつもりなんだよ……
リアンも日本のオタク文化に興味津々だったようで、武藤にわからない日本語を聞きながら漫画を読んでいた。
その時の武藤と言ったら、笑みに溢れて今にも零れ出しそうだった。
「なあ朱莉、さっきのお店ではなにも買わなかったのか?」
あれだけ興味津々にしておきながら、買い物袋などは持っていなかった。
「それなら、郵送で送ってもらうことになったよ。生き物はすぐに持って帰れないしね」
「そうか……良かったな。でも生き物って高いだろう? そんなに金を持ってきていたのか」
シャキっと財布から取り出したのは、真っ黒なカードだった。
ブラックカード使えんのかよ……
「ちなみに、リアンちゃんのもあたしが出してあげたよ」
「そりゃブラックカードなら、簡単に払えるよな……」
高校生に持たせるもんじゃないだろう。
流石名家。金持ちなだけある。
いやリアンもイギリスでは貴族だったと聞いたから、金には困ってなさそうだったけどな。
次に行ったのは、神社だった。
街中にある神社にしては大きい方だが、朱莉の実家である水巻神社と比べると小さく感じる。
「日本ではこの絵馬に願い事を書くのデスよね!」
「そうだよ暁月さん、是非この武藤との恋路について書いてくれると……」
「できマシタ!」
そこには『ミコトが無事でいられますように』と記載されていた。
「神代……なぜお前は暁月さんに、身を案じられているんだぁ」
非常に怖いオーラを出しながら、後ろから俺の肩を掴んでいる。
絶対に振り返らないでおこう。
その間、朱莉は同じ神社で知り合いだったのか本殿に案内されていた。
興味があったのか、柊はそれに同行していた。
「なあ武藤、せっかくだし日本の神社の参拝の仕方をリアンに教えてやってくれよ」
「お前に言われなくてもやってやるさ! さあ暁月さん、一緒にお参りしましょう」
本当は本家本元の朱莉がいてくれたら良かったが、一般的なことをリアンに教えていた。
神社の石畳の真ん中は歩かないこと、水で手と口を洗うこと、それから二礼二拍三礼を教えていた。
その時の武藤も、可愛らしい小動物を愛でるようにリアンを見守っていた。
気持ちはわかるが、正直気持ちが悪い。
そういう行動をやめないと、一生彼女ができなさそうだ。
「俺もお参りしておくかな」
カランカランカラン
小銭を投げた後、鈴紐で大きな坪鈴を鳴らす。
同じようにリアンも坪鈴を鳴らし、こちらに戻ってくる。
「上手くできてマシタか?」
「あぁ、完璧だ。偉いなリアンは」
その小動物のような可愛らしさに思わずベレー帽の上から、頭をなでてしまう。
「あっ……」
リアンは頬を染める。
「ご、ごめん。つい。迷惑だよな……」
「い、いえ……もっとシてくれていいデス。今度はベレー帽を取って……」
「そ、そうか」
言われた通り、ベレー帽を持ち上げて、なで続ける。
その間ずっとリアンは頬を染めて、ニコニコと幸せそうだった。。
カンッ
武藤が賽銭を投げていた。
きっと碌でもないお願いをしているのだろう。
カランカランカランカランカラン
なんども坪鈴を鳴らし、必死な様子だった。
一体何を願ってるんだか……
その時だった。
バキッ
嫌な音がした。
その音源は、武藤の頭上!
本人は気づいていない。
「武藤、危ない!」
鈴紐が切れているっ。
俺じゃ間に合わない。
武藤って、つくづくいいキャラしてますよね。
あんな友人欲しかった……