セカイの器。現れる霊能力者と魔女
尊はただの人間ではありません。
少なくとも、実は三人のヒロインとも互角に渡り合えるだけの力を限定的に発動させることができます。
あとリアンちゃんは可愛いです。
『神代尊。あなたは今宵、運命に遭遇することになる』
薄っすらと浅い意識の中、夢の中の人物は確実にそう言った。
浅い夢の中でもはっきりと伝わる強い口調で、話を続けたからだ。
『セカイは、あなたという器を壊せばセカイはリンクする。それは、私のセカイとあなたのセカイ、この2つのセカイがつながるということ』
目の前の真っ白いセカイの中、白いワンピースを着た少女は最後にこう言い放った。
『だからあなたは、死になさい!!!』
咆哮のような叫びを上げ、どこから取り出したのか大鎌を俺の心臓に向かって突き刺してきた。
そのあまりの衝撃で、ガバッと体を起こす。
わかってはいたことだが、夢の出来事だったようだ。
――20☓☓年4月1日 午前0時3分 天気は晴れ。
春らしい少し肌寒いが澄んでいる清々しい空気を感じたくて、深夜にも関わらずベランダに出る。
サラリと吹く夜風は、わけのわからない悪夢をまるで消化していくかのように心地よかった。
この時間になるとすでに両親は寝床に入っており、家内は静かだ。
二階のベランダからは、真正面に少しの街明かりと市営マンション。その上に輝く煌々と輝く星達が見えた。
少し目線を落とし、目線の左側を見渡すと自身が来週から登校すること三年目になる『私立大禍原高等学校』の野球用の高いフェンスと少しばかりの校舎も視界に入った。
一つため息をつき、今までの高校生活を振り返り今年度の抱負を考えた。
「最後の高校生活、このまま普通に過ごせればいいなって。」
俺は指定校推薦とはいえ、大学受験も控えているため慌ただしくならないよう平穏に生きていきたい。そう思った。
――だがセカイには、いや宿命、運命とも呼べるものには非情にも逆らえなかった。
ふと足元を見ると、手すりの隙間を通して玄関の前が見えた。
するとそこには、月夜に当てられキラキラ光るラミネートされたカードのようなものが見えた。
誰かの落とし物だろうか。もしクレジットカードとかだったら、警察に届けなければならない。
そう思った俺は、玄関から外に出るのが面倒だったためベランダ用のスリッパを履き、持ち前の運動神経の良さで手すりを使いうまく地面に降りる。
「これは……うちの学校の学生証か?」
『私立大禍原高等学校 2年4組 九之宮朱莉』
学生証にはそう書いてある。あれ、九之宮ってこれ確かうちの近くにある神社のアイツのやつじゃないか……。
「尊君、久しぶり。こうやって面と向かって話すのは中学生の時以来だね」
後ろを振り向くと、そこには夜空の星々と月明かりに煌々と反射する光沢を持った、日本刀の中腹が俺の顔の耳元と平行に指していた。
その闇に紛れた日本刀の持ち主を確認すると……黒髪で三つに編んだ靭やか髪。それと何者でも吸い込まれそうにな碧眼の少女。
そんな彼女は、巫女装束に身を包んだ九之宮朱莉だ。
先ほど拾った学生証の持ち主で、俺の幼馴染である。
「や、やあ、朱莉久しぶりだな。どうしたんだよ、こんな夜中に。女の子がこんな時間に独り歩きだなんて良くないぞ? それに本物かそれ? は、早くしまえよそんなもん」
高校ではクラスが違ったためあまり話さなくなったが、幼い頃から中学生の時まではよく遊んでいた幼馴染がこんなところにいるとは思わなかった。
しかも大振りな日本伝統の刃物を俺に向けている。夜に女の子に会うということ自体は、どきどき青春イベントの一つだと思っていたのだが、こんなシュチュエーションは夜這いだとしてもたちが悪いだろう。
「やっとこの時が来たんだから、そんなこといいっこなしだよ尊君。それに、後ろにいる<魔女>さん」
朱莉は日本刀の高さはそのままで、俺の耳元に来ていた日本刀を俺の背後に向けた。
つまり最初から、日本刀は俺に向けられていたのではなかったのだ。紛らわしくも俺の背後にいた、何者かを指していた。それを俺は誤解していただけだったのだ。
「あら、気づいていたんですネ。リアは、気配を消すのは得意なんですケド……なんでわかったのかナ?」
そこに立っていたのは電柱の影に隠れていた、小柄で綺羅びやかな金髪。それをツインテールにしている。何よりも特徴的なのは、突き刺すような翠眼の美少女であることだ。
リアというのは、自分自身のことだろうか。
彼女はどこの学校か判別できないが制服を着ており、その上に黒いローブを羽織って、対象的な色合いを持つ、白色のベレー帽をかぶりながらも闇に身を溶かしていた。
「そんなの、当たり前じゃないですか。あたしの使役している虚ろなモノたち、特に妖怪なんて数え切れませんから。そのモノたちの力をかりてあなたを見つけただけ」
「ふふっ、妖怪デスか……今どきはやりませんヨ?」
「魔女がよくいうわよ。錬金術も魔法も日本じゃとっくに誰も信じていないわ。尊君、あたしの後ろに下がってて……尊君はあたしが守るから」
朱莉の思いもよらぬ発言に戸惑いながらも逆らうことはできず、後ろに下がる。
「暁月さん、あなたの諜報機関にも、尊君に関するお達しが来ていただなんて驚きだわ。てっきりあたしたち『日本祈祷守護協会』の専売特許だと思ったのに。あなた達も、祈祷術が使えるだなんてね」
「祈祷術? とんでもないデス。リア達『西洋アルケミー連盟』が司るのは、魔術デスヨ。つまり、この世を支配する根源の力デス。よもや日本のキトウと同じ未来が視えるとは、我々も思っても見ませんでしたが。そこの神代さん、もといミコトは、セカイとセカイが繋がり崩壊を招く元凶となりうる人物デス。それを古来からセカイを守ってきた我々が、保護しないわけにはいきませんヨ」
二人の会話はヒートアップしていき、なにやら俺について仰々しい言葉を使いながら議論しているようだった。
しかし俺のことを話しているのにも関わらず、俺自身にはその内容が日本語であるのにも関わらず、全く理解が及ばなかった。
にほんきとうしゅごきょうかい? せいようあるけみーれんめい? わけがわからない。閑静な住宅のど真ん中で、刃物を出して繰り広げられている会話劇はまるで現実味を帯びていなかったのだ。
「もう話しても無駄だね。とにかく尊君を保護するのは、あたし達、日本国家主導の協会だから。西洋人は黙ってこの先の出来事でも占っていればいいわ。もしこの指示に従えないのなら……実力行使あるのみ!」
朱莉はそういうと日本刀を構え、大きく振りかぶると。どこか見覚えのある金髪碧眼の少女は、シュツッっと木とプラチナでできたような杖を取り出すとなにかをブツブツと唱え始めた。
「征け、Concrescunt flamma!(フレイムフォールッ!)」
すると杖の先には、赤い炎が放出され朱莉めがけてまるで流れる滝のように一直線に飛んでゆく。
朱莉はそれを自身の持つ武器で華麗に両断し、身を翻して俺の目の前まで転がり込んで来た。
そして刀を杖にして、立ち上がる。
「やっぱり日本刀では、西洋魔術とは相性が悪いみたい……でもなんとかして、尊君は守ってみせるからね」
灼熱の球体を両断しただけあり、それだけ体力の消耗も激しいらしい。
炎の熱と緊迫感から額に汗を滲ませているが、どうやらまだ勝機はあるのか、余裕の表情で俺を守ると宣言した。
『そこまでだっ!!!!』
パシンッ! パシンッ! カラン、カランカラン
複数作品を連載しているため、一作品の更新頻度が落ちるかもです。
是非私が連載している他の作品も、みてくれると嬉しいです。