「繰り返し」スキルが役に立たないと思われて追放されましたが、思いのほか有用でした
「テオドールよ……汝に与えられしスキルは【繰り返し】じゃ……」
成人の儀。
それは、15歳になって成人したものが神に祝福され、スキルを与えられる儀式。
本日、ルーカス家の三男である僕、テオドールもスキルを授かった。
「【繰り返し】……?聞いたことがないスキルだ……」
「もしかしてレアスキルか……!?」
「いったいどんなスキルなんだ!」
周りの大人たちが騒がしくなる。
どうもこのスキル【繰り返し】は前例がないスキルみたいだ。
そのため、僕にかけられた期待は大きかった。
その反動で、僕はルーカス家を追放されることになるのだが……。
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【繰り返し】スキルの能力。
それは、直前の動作を文字通り繰り返すというものだった。
剣を振ったあとに使えば、もう一度剣を振る動作を繰り返す。
ただ、それだけ。
その光景を目にした時の父が落胆した表情は今でも忘れない。
レアスキルでありながら、いわゆるハズレスキルだったからだ。
同じ動作を繰り返す時は、動きにまったくズレがない精密なものだった。
しかし、同じ箇所に二回剣を振ったところで、相手は既に移動しているだろう。
戦闘に同じ局面は存在しない。
そんな中でこんなスキルを使っていれば隙だらけになり、相手に首を渡すようなものだ。
「テオドールよ、お前のスキルはルーカス家には不要だ。……別荘を与える、そこで余生を過ごすがいい」
別荘を与えると言えば聞こえはいいが、その別荘へ最後に行ったのは5年以上前。
おそらく手入れもされていないだろう。
なぜなら、この王都の発展と共に過疎が進み、今では人がいなくなった村の近くだからだ。
そして、人がいなくなった後に、周辺にはモンスターが住まうようになったと聞く。
そんな所に住もうとすればモンスターに出会ってしまい……最悪殺されるだろう。
つまり僕は死んでもいいと思われていて……有り体に言えば追放されたということだ。
そして僕に拒否権はない。
「……分かりました。荷物をまとめて明日には出発します」
僕はそう言うと父に一礼し、自室へと戻った。
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「これでよし、と……」
僕は最後の荷物を袋に入れ、部屋を出た。
「どうして、どうしてにゃんですか、テオ様!」
そこで急に声をかけられる。
僕の専属のメイド、ミーニャだ。
ミーニャは人猫族の子で、戦争で孤児となっていた所を僕が父にお願いしてメイドにしてもらった子だ。
仕事はとてもできる子……というか、先輩たちに仕事を押し付けられがちで、それをどんどんこなしていたらいつの間にかメイド長に比肩するぐらい仕事ができる子になっていたという。
「まあ、僕のスキルがハズレだったからね……しょうがないよ」
「そんにゃ……じゃあ、私もついていきますにゃ!だって、ミーニャはテオ様専属ですにゃ」
「いや、あの辺はモンスターも出てきて危険なんだ、ミーニャは……」
「なおさらですにゃ!ミーニャは戦闘訓練も受けてるから大丈夫ですにゃ!むしろ独りの方が危険ですにゃ……」
顔が近い。
ミーニャは僕のことになると興奮して周りが見えなくなりがちなんだけど……。
父に直談判しに行きそうな雰囲気だったので、とりあえず父にその旨を伝えてみたのだが……。
「いいだろう、連れて行くがいい」
あっさりと了解を得られてしまった。
いいんだろうか、ミーニャは優秀な子なのに。
そういうことがあり、僕とミーニャは一緒に別荘へと追放されることになった。
別荘はここから一週間ぐらい馬車で行った所にある。
最低限の路銀と馬車を渡され、お昼前に僕たちはルーカス家を出た。
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「さて、最低限の路銀はあるけど、なんとか稼いでおかないと着いた後の食糧とかが不安だなあ……」
「じゃあ、ちょっとモンスターを倒して稼いでおくといいですにゃ」
僕がふと呟くと、ミーニャはそれに反応して解決策を出してくれる。
しかしモンスターか……僕の能力とスキルで大丈夫なんだろうか。
「私は戦闘訓練も受けてるので大丈夫ですにゃ」
僕の気持ちを感じ取ったのか、ミーニャはそう続ける。
メイドという立場でもありながら、侵入者などの撃退法も身に着けているらしい。
「それじゃあお願いしようかな。でも、僕もある程度モンスターを倒して経験値を稼がないと……」
そう、別荘のモンスターはこの辺の弱いモンスターとは限らない。
王都の周辺のモンスターで戦闘経験をしておかないと……学校などでは習ってはいるんだけど、実戦での経験は全くないから。
「それなら私がサポートするので大丈夫ですにゃ!」
ミーニャの心強い言葉。
「それなら、まずミーニャの実力を見せてくれる?どこまでできるか僕は知らないから……」
「分かりましたにゃ……あっ、丁度あそこに2匹スライムがいるので見ててくださいにゃー」
ミーニャは馬車を止めるとスライムの方に駆け出す。
そしてスライムとすれ違ったかと思うと、次の瞬間にはスライムが四散していた。
……み、見えなかった……。
「どうですかにゃ?」
「全く見えなかったよ……ミーニャ、本当に強いんだね」
「えへへぇ……これで大丈夫ですにゃ?」
「うん。……あっ、倒した後の魔法の宝箱、回収しておかなきゃ」
「そうですね、行ってきますにゃー」
魔法の宝箱。
それはモンスターを倒すと現れる不思議な宝箱。
どんなモンスターでも必ず落とし、どういう理屈かは分からないが代わりにモンスターの死骸は消えてなくなる。
中身はランダムにアイテムが入っていて、時々レアアイテムも出現する。
モンスターが強ければ強いほどいいアイテムが入っているが、低級のモンスターの宝箱でも極々まれに中級~上級モンスターの落とすアイテムが入っていることもあるらしい。
「テオ様、開けてみますかにゃ?」
「そうだね、初めての宝箱体験だから楽しみだよ」
ミーニャが持って来てくれた二つの宝箱を順番に開けてみる。
一つは薬草が、そしてもう一つには……魔法の宝箱が入っていた。
「当たりが出たのでもう一個、ですにゃ」
「ははは……これ、意味ないよね……」
このように、魔法の宝箱の中に小さい魔法の宝箱が入っていることもある。
どうせもう一個も開けるので入ってる意味はないと思うんだけど……。
「あれ、これは……」
「銀ですにゃ、ちょっと高く売れますにゃー」
宝箱から出てきたのは素材として使われる銀の塊。
加工して使えるので、鍛冶屋に持っていくと買い取ってもらえる。
「じゃあ次の村でこれを売って、そのお金で美味しいもの食べる?」
「賛成ですにゃ!」
その後もしばらくモンスターを討伐しながら進み、夕方ごろに村に着いて食事を採った。
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その後も魔法の宝箱を開けながら七日間の旅を終え、ようやく着いた別荘はと言うと……。
「荒れ放題……」
「荒れ放題……ですにゃ……」
数年ほったらかしにされていただけはある。
外装はボロボロになっていて草も伸び放題。一見廃屋にすら見えてしまうほどに荒れ果てていた。
幸い、内装はそれほど痛んでなかった。
しかし……どうしよう、これ。
「大丈夫ですにゃ!このぐらいならミーニャに任せてくださいにゃ!」
「でも、着いて初日だからあんまり無理しないでね?」
「お屋敷にいたころに比べればなんてことないですにゃ!」
ははは……そんなに仕事してたんだ……大丈夫かな、実家。
「とりあえず外の補修をするので、テオ様は中にいてくださいにゃ」
「うん、わかった……ところで」
「何ですかにゃ?」
「もうここには僕とミーニャしかいないから、言葉遣いは昔のままでいいよ」
「……!分かったにゃ!それじゃ、ミーニャはがんばって来るにゃ!」
ミーニャは大喜びで尻尾をぶんぶん振ってる。
今まで主従の関係上言葉遣いを矯正されてたけど、この状況ならいつも通りのミーニャでいて欲しいからね。
「……さて、僕は何をするかな……」
「あっテオお兄ちゃん、スキルをたくさん使ってレベルを上げてみるのはどうかにゃ?」
ミーニャがドアを開けて僕に声をかける。
そういえばスキルはレベルを上げると化ける可能性があると言われてはいる……。
他にやることもないし、剣を振ってスキルを使う、を繰り返してみよう。
ちなみに僕をお兄ちゃん呼びするのはミーニャが1歳年下だから。
昔、二人きりの時はかしこまらなくていいよ、と言った時に「お兄ちゃんが欲しかったからにゃ……」って言われたから、それからはお兄ちゃん呼びされている。
ミーニャががんばっている間に、僕はスキルを何度も何度も使ってはみたものの、レベルは一向に上がらない。
そんなにすぐにすぐには上がらないのだろうけど……スキルが化けたらミーニャに楽をさせてあげられるかな……。
こんなところまで一緒に来てくれたんだ、何かしらミーニャを喜ばせてあげたいんだけど。
そして少しの休憩をはさみ、再びスキルを使い続けた。
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外壁の補修が終わってからは、僕は外で剣の素振りをするようになった。
ミーニャの提案で固定した木材に木刀での打ち込みも始め、どんどんスキルを使っていったが一向にスキルのレベルが上がる気配はしない。
そしてとある日、事件は起きる。
木刀を打ち込み、【繰り返し】を発動する。
それを何度も繰り返していた時、打ち込んだ際に木刀が折れてしまったのだ。
そして、間違えて【繰り返し】を発動してしまった。
バキッ、と鈍い音を立てて木刀が折れる。
????????
おかしい、木刀は既に折れているはずなのに。
もう一度、木刀が折れてしまった……?
足元を見ると、折れた木刀の先が二つ転がっていた。
どういう……ことだ……?
「木刀を打ち込み、折る」という行動を繰り返したのか……?
「ミーニャ!来てくれ!」
「は、はいにゃ!」
僕はミーニャに現状を説明する。
そして、魔法の宝箱を一つ用意するように頼んだ。
僕の仮説が正しければ……。
ミーニャはすぐに魔法の宝箱を用意してくれた。
僕は魔法の宝箱を開け、中身を取り出して地面に置く。
【繰り返し】を発動する。
すると、空になっているはずの魔法の宝箱をもう一度開け、中身を地面に置いたのだ。
地面には、同じアイテムが二つ。
ミーニャは目を丸くしていた。アイテムが増殖してしまったからだ。
「こ……これ……全然ハズレスキルじゃないにゃ……」
「ぼ、僕もそう思う……」
地面に置かれた二つのアイテムを見ながら、僕は喜びをかみしめていた。
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その後もスキルを研究したけど、不思議なことに繰り返して増やせるのは魔法の宝箱を開けたときのみだった。
アイテムを右から左に動かして増やせたら最高だったんだけど、どうもそれはダメらしい。
スキルレベルが上がればまた変わって来るのだろうか。
それとも、とある物から別の物を生み出す場合のみ……木刀の件は、木刀から折れた木刀が生み出されたから、魔法の宝箱は中からアイテムが生み出されたから……なのかもしれない。
何にせよ、魔法の宝箱の中身を増やせるだけでも破格のスキルであるのは確かだ。
例えば引いたのがレアアイテムだったら、レアアイテムが二つになる。
もし魔法の宝箱が出てくるのが何回も続けば魔法の宝箱がどんどん増えていくわけだ。
そして、魔法の宝箱にはレア箱と呼ばれる、レアアイテム確定の宝箱がある。
レアアイテムが確定で増やせるとなると、冒険者垂涎のスキルで間違いない。
更に、魔法の宝箱を増やす方法は他にもあった。
モンスターにトドメを刺す時に使うと、同じモンスターを二回倒したことになり、魔法の宝箱も二つに増える。
そしてオマケに経験値も二倍入ることになる。
傍から見たら何もない空間を斬りつけて魔法の宝箱を出しているように見えて、とてもシュールな光景だとミーニャに言われた。
そして数か月後、念願のスキルがレベルアップすることになる。
追加された効果は、「繰り返し回数+1」だ。
これにより、僕とミーニャの暮らしはどんどん潤っていき――。
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数年後、僕とミーニャだけだった別荘の近辺は、人であふれかえる町になっていた。
「辺鄙なところに魔法の宝箱の報酬を数倍に増やしてくれる人がいる」と話題になり、冒険者が集まり、冒険者たちに商売をする人が集まり……最初は数軒しかなかった家も、今では500軒を超す勢いで増えている。
「領主様、今日はこちらをお持ちしました」
上級の冒険者たちが僕に差し出したのは、レア箱の更に上を行く超レア箱。
数万箱に一箱と言われるぐらいにレアな箱で、最高級のレアリティのアイテムが入っている。
手に入れたら奪い合いが始まり、パーティーが崩壊するとまで言われている魔性の箱。
でも、僕のスキルならそんなことにはならない。
「繰り返し回数10回」にまで成長したスキルを使えば、パーティー全員にアイテムが行き渡る。
それどころか、余ったアイテムは売るなどすれば更に利益になるのだ。
ちなみに僕の報酬は「手に入ったアイテム1つ、または同額のお金」と設定している。
これによって手に入れた資金は町の発展へと使い、更に住みやすい町を作り出すのが僕の夢だ。
「ふう、みんな今日もたくさん持って来てくれたなあ」
今日の仕事を全て終え、自室に戻る。
「ふふ、お疲れ様ですにゃ、テオ。はい、これ」
「ああ、ありがとうミーニャ」
そう言って冷たい飲み物を渡してくれるのは、今では妻になったミーニャ。
いつも隣で苦楽を共にし、いつしか恋仲になって結ばれた。
「実家にいた時はこうなるとは思わなかったね」
「そうにゃー、メイドとご主人様じゃ絶対に結婚なんて無理だと思うにゃ」
「でも、僕が追放されたからこうなれたんだから……父には感謝?しなきゃね」
「ふふふ、そうかもしれないにゃ。……あっ、またお腹の子が……」
今ではミーニャのお腹には僕たちのこどもがいる。
この子たちが安心して暮らせる町を、ミーニャや、町の人たちと共に作っていく。
そう改めて心に決めたのだった。
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ちなみに実家の方は、ミーニャがいなくなってすぐ、ミーニャに仕事を押し付けていたメイドたちが仕事をこなせずクビになったり、それで逆恨みされた父が元メイドたちに殺されかけたり。
更に僕の町が有名になってからは、僕が追放されたことを国が知り、この国で追放行為は重罪のためルーカス家がなくなったりしたらしいが……それはまた別のお話。