古代兵器アルゴギガース戦 ─巨人降臨─
突如現れた巨人。
このことは既に街中へ知らされ、テルフレアに住む人々に混乱を与えました。
確実にあの巨人はテルフレアに向かってきている。
その理由はわかりません。
ですが、理由はどうであれテルフレアに危機が迫っていることに変わりない。あの巨体で踏まれてしまえばテルフレアなど簡単に更地になってしまいます。
しかし幸いにもまだ距離はある。すぐにテルフレアが踏みつぶされるというわけではないです。
一度ウォルフさんのところへ戻るべきでしょうか……。
報告は行っているでしょうからこの非常事態には気づいているはずです。今もどうにかしようと作戦を立てているところかもしれません。
まあ、どうにかするにも私たちの残された選択肢は二つだけ。
テルフレアを捨てて逃げるか、あの巨人と戦って倒すか。
流石の私もあんな巨人を相手にしたことないので倒せるかわかりません。正直なところ、この街にいる皆さんの力を全て使ったとしても倒せるかどうか……。
いや、最初から諦めてはいけませんね。それに、逃げるのも無しです。ウォルフさんたちが住むテルフレアを絶対に守らなければ。
「リリィさん!!」
私の名前を呼びながら駆け付けてくれたのはカリーナさんとエドガーさんです。そしてバエル、グラとも合流しました。
「あれはいったい……」
「わかりません。ですが、あれがこの街に向かってきているのは確かです。この街を守るためにはあの巨人を倒すしかありません」
「でも、あれを倒すなんて可能なのか? 諦めたわけじゃないけど、あんなのに僕たちの攻撃が通用するかどうか……」
「それもやってみなければ何とも言えませんね」
「ま、まずはお父様と合流して話を聞いた方がいいのではないでしょうか。それに、倒そうにも私たちではかなり難しいですし街の人たちの協力が必要です。声をかけて協力してくれる人たちを集めましょう」
「では、カリーナさんとエドガーさんは一度ウォルフさんのもとへ行ってください。人数も可能な限り集めていただきたいです」
「リリィさんはどうするんですか?」
「野放しにするわけにもいきませんので私が少しでも進行を遅らせるために足止めしてみます。欲を言えば倒したいところですが、まあ無理しない程度に頑張りますので」
「リリィさん一人に任せるなんてそんなこと……」
カリーナさんは私のことを心配していました。
あの巨人を一人で足止めしようとしているのですからね。心配するのも当然だと思います。
でも、私は一人ではありません。タルトにバエル、グラだっています。
サフィーたちは、まだ危ないので戦闘には参加させません。彼女たちのことは引き続きよろしく頼むと伝えてもらうよう頼んでおきます。
カリーナさんは私たちだけで巨人の足止めをするのは反対のようでしたが、エドガーさんが一歩前に出て私に言います。
「本音を言えば僕もカリーナと同じ気持ちだ。でもここはリリィさんに任せる」
「エドガー……」
「大丈夫。リリィさんたちは僕らよりも強い。それに、こうしている間にもあの巨人はここに向かってきている。僕たちが一刻も早く一緒に戦ってくれる人を集めて、その後すぐ加勢に戻ってくればいいだけの話さ」
「だったら私も残って──」
「いえ、協力をお願いするための呼びかけは多い方がいいです。カリーナさんであれば尚更。領主の娘さんであるカリーナさんがこんな状況でも諦めず戦おうとする姿を見せれば勇気をもらえるはずです。だからお願いします」
そう頼むとカリーナさんは一度目を閉じ、再び開けると私を見つめます。
「……わかりました。すぐに戻ってきますからリリィさんは無理しないでください。行きましょう、エドガー!!」
カリーナさんとエドガーさんは踵を返しウォルフさんがいる屋敷の方へと向かいました。
さて、増援が来るまで頑張りますか。
一応アルゴギガースのステータスを『鑑定』で確認しましたが……全項目『測定不能』と出ました。わからないのであれば、仕方ないと割り切ります。
あの巨体ですので威力の低い攻撃ではまったく効果はないでしょう。
であれば最初から全力全開、超高火力の魔術を使います。
私は二本の杖を構え、魔術発動の準備をしようとしました。
しかし、ふと横を見るとバエルが巨人の足元にある森を眺めていました。
いつものバエルなら自分が先行するとか言うと思うんですけどね。今は静かな感じです。何処か調子が悪いのでしょうか。
体調不良なんてものが悪魔族にあるのか知りませんけど、無理して戦って悪化させるのは良くないですからね。まあ体調不良も私の『治療魔術』で治せますが。
「バエル、どうかしましたか? あの森に何かあるとか?」
「ああ、いえ。リリィ様が気にすることではございません。まずはあの巨人を倒すことを優先しましょう」
「倒せるかはわからないですけどね」
「リリィ様であればあのような巨人が相手でも難なく倒せるでしょう」
そうだったらいいですけどね。
とりあえず、何もしないわけにはいかないのであの巨人に向けて魔術を放ちます。全力全開超高火力といっても私のスキルで魔力も多く消費せず簡単に使えちゃいます。
では、行きましょう。
「【冥界怨獄炎砲】!!」
巨人の上空に魔法陣が立て並びにいくつも出現。
そこから黒炎が巨人を燃やし尽くそうと放たれます。
私が知っている且つ使える魔術の中でもかなりの火力が出せる魔術です。それを『多重詠唱』にて数を増やし、おそらく耐え切れる生物などいないと思うほどの火力となっています。
ちなみにこの魔術は『獄炎魔術』と『暗黒魔術』で構成された魔術です。
炎傷や呪詛という魔術を受けてしまったら追加で継続的なダメージが入る効果もあります。ただ、その前に倒してしまいそうな威力をしているので追加のダメージはあまり必要ないかもしれません。
一応【冥界怨獄炎砲】は魔道士の中ではかなり知られている魔術なので発動できるだけの魔力があれば誰でも使えます。
しかし、本来であれば長い詠唱が必要ですし、魔力の消費も激しいので連発できる魔術ではない。あと使った後はかなり疲れると聞いたこともあります。私の場合はスキルがあるので大丈夫ですけどね。
今ので倒してしまっても誰も文句は言わないでしょう。
そんなことを考えながら黒炎が巨人に直撃するところを見届けようとしましたが、信じられないことに私が放った元の数倍以上の火力を持つ【冥界怨獄炎砲】が巨人に直撃する前に霧散しました。
何が起こったのか見てはいましたがわかりません。
まさかとは思いました。ですが、たった一回でその結論に至るのは早い。
確認のためにもう一度巨人の頭上に魔法陣を浮かび上がらせ【冥界怨獄炎砲】を放ちます。
先程は全力全開と言いましたが、森の被害がとんでもないことになると思ってほんの少しだけ加減していました。ですが今回は本当に最大火力です。これが通用しないのであれば私は──。
それだけはあってほしくないなと願いつつ、二度目の黒炎が巨人に直撃するか確認します。
結果は、一度目と同じく霧散しました。
なるほど。これは相当厄介な相手であり、私一人ではどうにもならない相手です。というより魔道士では敵わない相手。
「……魔術を無効化する障壁ですか……」
魔術が霧散していまう原因は巨人本体ではなく巨人を守る障壁のようなものが存在して、それがあることによって巨人に直撃する前に魔術が無効化されています。
二度目の黒炎が霧散した時に『五感強化』にて視力を強化して確認したので間違いありません。これ以上は魔力の無駄使いです。
しかしそうですか……。魔術を無効化……。
こういう時も想定してエルトリアさんは私に『魔闘法』による戦い方を教えてくれましたけど、流石にこれはどうしようもないですね。
バエルは「リリィ様であれば難なく倒せるでしょう」とか言ってましたけど、普通に頭を悩ませていますよ。
魔術が通用しないのであれば足止めも何もないじゃないですか。もっと言えば私が役に立てることなどない。
それでも何か他に方法はないか探します。
諦めなければきっと必ず何か思い付く。
しかし、現実は甘くありません。
私に考える時間を与えまいと新たな襲撃者がやってくるのです。
巨人が向かってくる方向と同じところから何かの軍勢が一斉にこちらへ向かってきていました。
あれは……魔物ですね。魔物の大群がこちらに来ています。
冷静に分析しているように見えますけど、内心は滅茶苦茶焦っています。
だって今まで見たことないぐらいの魔物が向かってきているのですから。
焦っては駄目。そう自分に言い聞かせて深呼吸をします。
落ち着いたところで情報を短時間で整理。
魔物は巨人よりも進行する速さが速いのでまずはこちらを対処すべき。
そもそも、どうして魔物たちまであの巨人と一緒にテルフレアに向かってきているのか。
逃げるにしてもわざわざ追いかけられるような形で移動しなくてもいいはずです。となれば、他の理由がある?
いや、今詳しく考えることではないでしょう。魔物たちがテルフレアに向かってきている。それだけで十分です。
巨人に魔術が通用しない以上、今の私にできることは魔物をテルフレアに近付けさせないこと。
魔物を倒してしまえばその魔物の魂がもう一つの世界へ行ってしまうなど何だのと考えている暇はありません。
まずは魔物たちを一掃する。そのために魔術を使って魔物を倒そうとしましたが──
「リリィ様、どうやら魔物の軍勢はあれだけではないようです」
「えっ?」
「南側だけではなく全方位より魔物の軍勢がここテルフレアを目指して進行しています。突然のことで奇妙に思えますが今は措いておきましょう。数は現在も増え続けているので正確にはわかりませんが、およそ5万と言ったところでしょうか」
それはかなり不味いのでは?
巨人から逃げるためにこちらへ向かっているというならまだ理解できます。でも、それが全方位からとなると話は変わってきます。
一斉に同じ行動を取っている。
誰かに操られているとか? 魔物たちを使ってテルフレアを消そうとしている?
そう考えるとあの巨人も誰かの手によって操られていると考えるべきでしょうか。何の前触れもなく突然姿を現したのも変と言えば変ですし。
とりあえず魔物の対処を優先させるべきですね。
この場には私、タルト、バエル、グラがいます。あとは一応近くに居て駆け付けてきてくれた冒険者さんや従魔連れの方々が数名。しかしこの方たちは非現実的な光景に唖然としています。
5万の魔物──今も増え続けているらしいのでもっとですか──をこの数で相手する。
普通なら難しいかもしれません。けど、私たちなら辛うじて可能かも。
それでももう少し戦ってくれる人が欲しい。カリーナさんたちもウォルフさんのところへ向かったばかりなので戻ってくるのも時間がかかる。
「……やれやれ、ようやくですか。遅すぎますが、ちょうど人手も欲しかったところなので今回は良しとしましょう」
突然バエルが呆れた表情をしながらも呟きました。
そして私に笑顔でこう言います。
「リリィ様。魔物の方は心配しなくても大丈夫です。たった今残る三柱の悪魔たちが悪魔界からこちらの世界に来ると報告がありました」
「本当ですか!?」
「はい。ただ、状況が状況ですので、顔合わせは後程という形にした方がいいかと思います。それでもリリィ様が望むのであれば一度こちらに呼びますよ」
運はまだ私たちに味方しています。
バエルやグラと同じ最上級悪魔。しかも私と従魔契約を結んでいないので本来の強さのまま戦える。
ちなみに愚問でしょうがバエルにその悪魔たちがいたら魔物の軍勢たちを全て倒せるか聞いてみたところ──
「もちろんでございます。彼らだけに行かせてもあの程度の魔物の軍勢、敗北するようなことはまず有り得ません」
とのことです。
こちらへ来た悪魔たちだけでも勝てるというなら任せてみましょう。
「では紹介は後にするということで。まずはあの魔物たちをどうにかします」
「かしこまりました。私は少し気になったことがあるのでこちらはグラシャラボラスに任せます。出来ますね?」
「わ、私一人でですか……?」
「リリィ様には何かあった時のことを考えて温存してもらいたいのです。それに、あなたも最上級悪魔の一柱です。多少は弱体化されたとはいえ一人でも大丈夫でしょう。武器の使用も許可しますし」
「えっ! 武器使ってもいいんですか!?」
「ええ。存分に、好き放題暴れて構いません。ただしリリィ様には一匹も近付けないように」
「わかりました!」
そう言うとグラは一度悪魔界に戻り、戻ってきたと思いきや右手には自分の身長よりも大きな2メートル近い禍々しい大剣を軽々持っていました。私では絶対に持つことはできませんね。
その大剣をグラはうっとりとした表情で見つめていました。ちょっとだけ危ない子な感じになっていますよ。
「それでは行ってきます! フフ、フフフ……」
グラはその場から一瞬で消えて次に現れた時には既に遠くにいました。
そして鳴り響く轟音。
振り下ろされた大剣は一撃で多くの魔物を吹き飛ばします。
彼女が戦う姿は魔械巨人像で見ていますが、こうしてグラ本人が戦っている姿を見るのは初めてですね。
見た目に似合わず豪快な戦い方です。しかも笑いながら。まあ、グラも悪魔ですので戦っている最中は性格が変わるようなそういう一面もあるのでしょう。ちょっと驚きましたが私は気にしませんよ。
ちなみに、グラが持っている武器──というか彼女の依り代ですか。
それには『魂喰い』というスキルがあるそうです。なんかバエルが依り代に組み込んだみたいですよ。
効果は名前の通りですが、倒した魔物の魂を喰らいます。
つまり、魔物を倒しても倒された魔物の魂がもう一つの世界へ行くことはないということです。
そんな都合のいい事があっていいのですか! と思いましたが既にやってしまったことをですので何も言えません……。
そして、そのスキルは私も獲得しているようです。
しばらくレベルもあがっていないのでステータスを確認する必要はないと見ていませんでしたが、バエルが今さらっと言ってきたので確認してみると本当にありました。
これで気にせず──まあ今まで通り必要以上に魔物は倒しませんが──魔物を倒すことが出来ますね。バエルに感謝です。都合が良過ぎるとも思いますけど。
「グラシャラボラスも行ったことですし、残る3つの方角にも一柱ずつ配置させましょう」
バエルが指をパチンと鳴らすと強い気配が3つ現れました。
彼らがバエルたちと同じ最上級悪魔ですか。
早速戦闘を始めているようですが激しいですね。爆発音とかすごいです。
ちなみに彼らも『魂喰い』を所持していると。バエルが造った依り代なので当然と言えば当然ですが。
「さて。リリィ様、先程も言いましたが私は少し気になることがあるので調べに行ってもよろしいでしょうか? もしかしたらあの巨人を止められる──もしくは止められなくとも魔術を無効化する障壁を消せるかもしれません」
「わかりました。気を付けて行ってきてください」
「はい。それでは失礼しま──」
「おうおうおう!! 俺様の眠りを妨げるとはいい度胸じゃねぇか! このデカブツ──ってちょっ、ちょっと待て待てぇぇぇぇ!」
バエルを見送ろうとした時、突然大きな声が巨人の方から聞こえました。ここまで聞こえるなんて相当な大きさですよね。
そんなことを考えていると何かが空を飛び私の前に落ちてきました。
ええっと、見たままのことを話すと、なんか大きい人──3メートルまではないと思いますけど多分それぐらい大きい人──が頭から刺さっています。
でも、あんな高さから落ちて頭が刺さって生きているんでしょうか……。
「……ふごふごぉ」
あっ、生きているみたいです。
とりあえずこのままだと苦しいと思うので手を貸してあげようと思ったのですが、私一人では無理なのでバエルにも手伝ってもらいましょう。
しかし、バエルは頭が地面に刺さっているこの人を呆れた目で見ていました。
「まったく……何をやっているんですか、デオンザール」
えっ? バエルは今なんと?
「あのデガブツを投げて飛ばしてやろうと思ったら逆に蹴り飛ばされたんだよ、ったく。…………ん? おおおお、お前バエルか!? なんでお前がこんなところにいるんだよ!」
バエルが呼びかけるとその人は自分で地面から頭を抜きました。
そしてすぐさまバエルを見ると驚いた表情をしていました。
これが私ともう一人の私に仕えていた第三の従魔デオンザールとの出会いです。





