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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第三章 従魔激闘杯&古の巨人復活編

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事件多発

「とりあえず一命は取り留めました。ただ、失った血液までは戻っていないのでしばらくは安静にして、しっかり食べて栄養を摂って下さい」

「エドガーッ!!」


 カリーナさんはベッドの上に横たわっているエドガーさんに抱き着きます。

 それが原因でエドガーさんは苦しそうな表情をしていましたが、これはカリーナさんに強く抱き締められているからなので怪我のせいというわけではありません。

 本当に大変だったんですよ。

 ああ、怪我の治療ではないです。死んでなければどうにかできますからね。そちらは傷一つ残らず完璧に治療しました。

 大変だったのは涙を流しているカリーナさんを落ち着かせるために慰めていたことです。

 いきなり泣きながら私の部屋に入ってきた時は驚きました。事情を聞こうにもずっと泣きっぱなしで……。

 そこに駆け付けてくれたウォルフさんが来て初めて何があったのか聞きました。

 それでもウォルフさんの口から「エドガー君が何者かに刺された」と聞いた時には既に体が動いてエドガーさんのいる場所に向かおうとしていたので詳しい内容までは聞いていないんですけどね。


 私がエドガーさんのもとを訪れた時は結構危ない状況でした。

 というのも、エドガーさんを刺した刃物には強力な毒が塗られていて市販のポーションでも治らなかった。良くて毒の効力を弱める程度でした。

 お店に行って毒に効くポーションを買おうにも夜も遅いため開いているお店などなく。『治療魔術』を使える者も強力な毒を取り除くのは難しかったみたいで。

 エドガーさんのことはすぐにカリーナさんに伝えられたそうです。

 そしてカリーナさんは私が『治療魔術』を使えるのを知っていた。まあ私が教えたんですけど今そのことは措いといて。

 私ならエドガーさんを救えるかもしれないと思って夜遅くではありますが、カリーナさんがやってきたわけです。

 実際に救えたわけですが、どうしてエドガーさんの命が狙われることになったのでしょうか?

 詳しい話を聞きたいところですけど安静にしてほしいと言いましたし、また後日聞くべきですかね。

 そんなことを思っているとエドガーさんが上半身を起こして私に声をかけてきました。


「リリィさん、あなたには心から感謝している。ありがとう」

「私からもお礼を言わせてください。リリィさんのおかげでエドガーを失わずに済みました。ありがとうございます」

「いえいえ、間に合ってよかったです。でもエドガーさん、無理して起き上がるのは……。横になって安静にしてほしいですし」

「そうだね。けどその前に何があったかみんなに話さないと」


 エドガーさんは今に至るまで何があったのか教えてくれました。

 どうやらエドガーさんもテルフレアで起こっている従魔誘拐事件の調査を行っていたようで、自分の街には戻らずしばらくテルフレアに滞在することにしていたようです。

 調査の方は私たちと同じでこれといって有力な情報を手に入れることはできず。

 収穫はないまま借りている宿──今いる場所ですがかなり高そうな宿です──に戻ると従業員の方から一枚の手紙を受け取った。

 内容は「カリーナは預かった。返してほしければここに来い」という場所を指定されたものでした。

 それを読んだエドガーさんは急いで宿を後にします。

 今は「もっと考えて慎重に行動すべきだった」とエドガーさんは反省していましたが、従魔誘拐の件もありましたし、何より愛する人が誰かに捕まったと聞けば冷静でいられるのも難しいです。私だってエドガーさんと同じ行動をとります。

 呼び出された場所は人気のない薄暗い場所。夜もあってか近くには人が一人もいない場所だったそうです。

 音一つ聞こえず静寂した空間で待ち続けていると、突然後ろから何者かが現れて手に持っていたナイフをエドガーさんの腹に突き刺した。


「顔は……残念ながら暗くて見えなかった。でも何となく何処かであっているような気がするんだ。それが何処かは思い出せないけど……」


 犯人はエドガーさんを相当──殺したいほど憎んでいる人なのでしょう。

 しかし、エドガーさん本人も憎まれるようなことはしていないと言っています。

 エドガーさんはカリーナさんの婚約者であることはテルフレアの住人に知られています。二人が結婚することはみんなが祝福しているはずです。

 ということは、その中でも祝福していない人。

 犯人はカリーナさんではなくエドガーさんを殺そうとしていたので、男性と考えるべきでしょうか。まだ決めつけるには早いですけど、カリーナさんが他の男性と一緒に居られたくないからという理由で犯行に及んだとも考えられるかも。


 一先ず、少しだけ話を戻します。

 犯人に腹部を刺されたエドガーさんはレグルスを呼び出して犯人を追わせようとしました。

 この時もエドガーさんは「最初からレグルスを呼び出していれば」と後悔していました。今更後悔しても遅いけどねとも。

 呼び出されたレグルスですが、犯人を追うよりもエドガーさんを救うことを考えたのか命令を無視してまでエドガーさんを宿まで連れ帰りました。

 私もレグルスの判断が正しいと思いました。犯人を逃してもまだ捕らえる機会はある。しかし、命は一度失えば二度と蘇ることはない。命令に反してでもその選択をしたレグルスは賢い子です。

 あとは私が来るまでどうにかポーションや『治療魔術』で命を繋いで今に至ります。本当に間に合ってよかったです。


 さて、それでは犯人について考えましょう。

 エドガーさん曰く、犯人の顔は見えずとも姿は暗がりだったけど見ることはできたそうです。

 身長はそこまで大きくない。エドガーさんは高身長のイケメンさんですがそれよりも低い。だいたい170前後と言ったところです。体はどちらかと言えば細身だった気がしたと。大柄の男性ではないようです。

 これだけでは犯人が誰かわかりませんね。やはり顔が見れなかったのが大きいです。でも、余程のお馬鹿さんでない限りわざわざ顔を晒して殺そうとはしませんか。途中で見つかる可能性もありますし。


 一応エドガーさんの情報も踏まえて、再度エドガーさんを殺したいほど憎んでいる人がいないか思い出してみても当然心当たりがある人物などいません。

 まあそう簡単に見つかるわけないですよね。エドガーさんの情報に当てはまる人物なんてテルフレアにはたくさんいますし。

 結局進展なしですか……。従魔誘拐事件といい、エドガーさんが刺されたことといい、最近テルフレア内は物騒なことで溢れています。


 ……そういえば。

 今の情報に当てはまる人物が一人いますね。

 あの人です。従魔激闘杯の最終日にカリーナさんに花束を贈った男性。

 そういえばあの男性は今の情報に当てはまるなぁ、と思いました。

 

「カリーナさんは従魔激闘杯最終日に花束を贈ってくれた男性のことを覚えていますか?」

「えっ、はい。覚えていますよ。素敵な花束だったので。もしかしてその方がエドガーを刺したと?」

「そういうわけではありません。ただ、可能性として考えたまでです。ちなみに、最終日以降その方と会いましたか?」

「いえ、何処かで会えたらお話ししましょうと約束しましたけど今日まで会っていませんね」

「では()()()()? あの日よりも前です」

「前、ですか……。ちょっと待ってくださいね……」


 正直な話、私はあの時の男性が怪しいと思っています。

 以前ボロスがグラに好意を抱いている姿を見たように、思い返してみるとあの時あの男性もカリーナさんに好意を抱いているように見えました。しかもその好意はずっと前から抱いている。

 確証はないし、ただの勘ですけどね。当然間違っている可能性も十分あります。

 でも、もし本当にカリーナさんに好意を抱いていたら婚約者であるエドガーさんは邪魔ですよね。排除するためには存在を消さなければならない。犯行の理由としては十分なのではないでしょうか。

 そして、カリーナさんは何か思い出したのか顔を上げて口を開きました。


「そういえば学生時代……見た目は随分と変わっていましたがあの男性と雰囲気が似ている方がいました。確か名前は……ドリュゼラ・ウォルフォークさん、です」

「その人とは何か関わりがありましたか?」

「関わりと言ってもそんなにはないですよ。これでも学生時代はクラス長というのをやっていまして。同じクラスになった時にドリュゼラさんはよく一人でいらしていたので何か悩みごとがあるのかなと思い、心配で話しかけたことは数回あります」


 なるほど。もしかしたらそれが原因かもしれませんね。

 カリーナさんの何気ない優しさがドリュゼラさんという方に恋心を芽生えさせてしまった。

 その恋心は今日まで続き、婚約者であるエドガーさんの存在が憎くて仕方がなかったというところでしょうか。

 一途なのはいいですが、カリーナさんと恋人またはそれ以上の関係になりたいからとエドガーさんを殺そうとするのはあまりに行き過ぎています。

 そこまでしてカリーナさんを手に入れたいという風にも考えようによっては出来ますが私には到底理解できませんね。

 婚約者がいるなら諦める。そして、二人の幸せを応援する。それが出来ないからこんなことになっているのでしょうが。


 まあこれらは全てはドリュゼラさんが犯人という話で進めていますので真実であるとは限りません。

 勝手に犯人にしてしまって申し訳ないですが、あくまでもこれは私が個人的に怪しいなと思った可能性の一つということで。


「思い返してみればドリュゼラさんの目元には二つのほくろがありました。そしてあの時花束をくれた男性も同じ場所に二つのほくろが……。あの方がドリュゼラさんだったのでしょうか……」

「それは本人に直接聞いて確かめないとわかりませんね。ドリュゼラさんがエドガーさんを刺した犯人かもわからない」

「そうですよね。でも、皆さんはドリュゼラさんのことを不気味だとか言っていましたが話してみてわかったんです。ドリュゼラさんは優しい人。決して人を殺すようなことはしません。むしろ従魔に暴力を振るうカルロスさんとは違って命を大切にする方です」


 皆に避けられていたけどカリーナさんだけは違った。

 私としては、だからこそ好意を抱き、婚約者であるエドガーさんを殺そうと犯行に及んだとも考えられますが、そのドリュゼラさんという方が犯人ではないことを願いましょう。






 エドガーさんが謎の人物に刺されてから2日が経過しました。

 腹部を刺されたエドガーさんも順調に回復しています。

 生きていると知られれば再び命を狙われるかもしれないので大人しくしてほしいのですが、カリーナさん同様正義感が強く、すぐに従魔誘拐事件の調査に出てしまいました。

 ただし、安全面も考えてしばらくはエドガーさんもウォルフさんの屋敷でお世話になることに決まりました。

 というわけですので、屋敷はより一層賑やかになりましたね。

 サフィーたちの紹介をしたり、どういった経緯で私のもとにいるかなど、ウォルフさんたちにした説明をもう一度しました。もちろんエドガーさんの反応は二人と同じでしたよ。


 そして、今日も変わらず従魔誘拐事件の調査です。

 エドガーさんも調査するというので護衛にグラをつけました。

 グラであればエドガーさん関連の事件に巻き込まれても対処できると思ってです。更にレグルスも今回は同行していますし、人が賑わう昼間ですから再び刺される可能性は低いでしょう。

 カリーナさんには前と同様にバエルを同行させ、ドーラとバーンはウォルフさんの屋敷の人たちにお任せして私も見回りと聞き込みを始めます。


「サフィーとノワールも、怪しいなと思う人がいればまず私に教えてください」

「ワカッタ! サフィー、怪シイ人、見ツケル、ガンバル」


 といっても、昼間は特に事件が起きたりしないので進展はしないでしょうね。

 そんなことを思いながらテルフレア内を歩き回ります。

 すると、偶然にも串焼きのおじさんを見かけました。

 この時間なら屋台にいるはずなんですけどね。相変わらず人気な屋台ですのでこんなところにいる場合ではないと思うのですが。

 しかし、串焼きのおじさんの様子がいつもとは違います。

 かなり焦っているように見えます。キョロキョロと周りを見ながら何かを探しているみたい。

 まさか……!

 私の脳裏に過る一つの可能性。

 確認しようと串焼きのおじさんに声をかけようとした瞬間、おじさんと視線が合い、私の方へと走ってきました。

 長い間走って何かを探していたのか私の前で止まると肩で息をしながら呼吸を整えていました。 

 ですがおじさんがすぐに顔を上げて、私の肩を強く掴み、必死と焦りが混じった声で聞いてきました。


「お嬢ちゃん! 俺の、俺のゴーレムを見なかったか? 昨日の夜から姿が見えねぇんだ!」


 ゴーレムさんが居なくなって焦るおじさんに落ち着いてくださいというのは無理があります。

 しかし、だからこそ一度落ち着きを取り戻してほしい。

 私はおじさんにゆっくりでいいから事情を話してほしいと頼みました。

 おじさんはそれどころではない様子でしたが、どうにか落ち着かせて何があったのか話してくれました。


 おじさんは昨日仕事を終えた後、ゴーレムさんと二人で家に帰ったそうです。

 ただ、あの大きさではおじさんが住んでいる家に入ると家を壊しかねないということで、ゴーレムさんは外に建てた専用の小屋に戻った。

 おじさんは自分が寝る前にゴーレムさんを確認しに行ったそうですが、その時はまだゴーレムさんはいたそうです。

 最近は従魔誘拐事件も増えているのでおじさんも心配していましたが、敷地内に不審者が現れたらゴーレムさんは撃退しようとするし、何よりその音で目覚めるだろうと。

 しかし、翌朝ゴーレムさんの様子を見に行くとゴーレムさんの姿は無かった。抗うために戦った音もしなかったそうです。

  

 一通り話し終えたところでおじさんは酷く落ち込んでいました。

 大切なゴーレムさんがいなくなったのですから当然です。


「前にお嬢ちゃんにも話したが、あいつは俺が小さい頃から何をやるにも一緒で、この歳になってもずっと俺の側に居続ける大切な家族の一人だ。あいつが勝手にいなくなるとは思えない。きっと誰かに攫われたんだ。お嬢ちゃんに忠告しておいて自分の従魔がいなくなるなんてな……」

「おじさん……」

「それでも、それでもよぉ……。もしかしたら気分転換に何処か出歩いてるんじゃないかって思って……街中を必死に走って探したんだ……。でもよぉ……何処にも、居ねぇんだ……。何処を探しても見つからねぇ……」


 おじさんの瞳からは涙が止まらないほど流れていました。

 そんなおじさんを見て私は懐からハンカチを出して涙拭うように渡します。


「すまねぇな。お嬢ちゃんに話したところで帰ってくるかわからねぇってのに。しかもいい歳したおじさんが自分の娘ぐらいの歳の子にハンカチまでもらって慰めてもらっていやがる……」

「おじさん。私が絶対に! 必ず! ゴーレムさんを見つけます。だからもう少しだけ待っていてください」


 私はおじさんの両手を握ってそう誓います。

 

「オジサン、ダイジョウブ?」

「ああ、そっちのお嬢ちゃんにも情けないところを見せたな。というか、そっちのお嬢ちゃんはどうして一緒にいるんだ? このお嬢ちゃんの従魔ってわけじゃないだろ?」

「サフィー、アタラシイ、ゴシュジン、見ツケタ。ダカラ、イッショ」

「そうか。このお嬢ちゃんは優しいからな。でも、おじさんのゴーレムみたいに攫われないように気を付けるんだぞ」

「ウン。サフィー、気ヲ付ケ──」

『ウオオォォォォォォォォオオ!!』


 それは突然のことでした。

 まるで獣のような咆哮が響き渡ります。

 聞こえたのは街の南側。

 嫌な予感がした私はおじさんに別れを告げて急いでテルフレアの南側へ行きます。

 門を潜るとそこにいたのは遠くからでもわかるほど巨大な人。おそらく間近で見たら更に大きいであろう巨人です。


 その巨人は雄たけびをあげながらゆっくりとテルフレアへ近づいていました。

書籍版第一巻 好評発売中!!(また何となく宣伝……)

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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