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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第三章 従魔激闘杯&古の巨人復活編

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格の違い

 カルロスさんは従魔を呼び出します。

 現れたのは魔物の少女に蛇頭の魔物(ヒュドラ)。黒狼の魔物とワイバーンに加えて中級悪魔まで。

 ルールなしなので普通なら勝つために全ての魔物を召喚するでしょう。自分の従魔──ではなくて奴隷魔物がかかっているのです。私の従魔も欲しいと思うのであればここで出し惜しみする意味がありません。 

 それにしても、やはり多いですね。

 カルロスさんの奴隷魔物の中でも中級悪魔は初めて見ました。あとの子たちは従魔激闘杯で見ています。

 中級悪魔はバエルと違って羽が生えていたり角が生えていたりとまさしく悪魔という姿をしていますね。

 しっかりと受肉しているようなので悪魔界へ強制的に帰還することはないとか。

 もちろんこれはバエルから教えてもらった情報です。中級悪魔だというのも教えてくれました。同族同士だとすぐにわかるのでしょう。まあ、同族でも最上級と中級なので力の差はとてつもなくありますが。

 

 奴隷魔物5体にカルロスさんも戦闘に参加する。

 何度も言いますがこれはルールなしの試合。会場も闘技場なので従魔激闘杯に似ていますが全くの別物です。

 主人も参加するとなると単純に数だけで考えるとこちらが不利。

 しかしながら、数ではなく個の強さで考えてしまうと圧倒的にこちらが有利です。正直な話、私が出ずともタルトとバエルだけで勝ててしまうでしょう。

 任せるのも考えましたがやっぱりなしです。

 もともと本気で戦うと決めていましたし、仮に私は試合に参加せず勝ってしまっても「従魔が強いだけ」なんて思われるとなんか癪です。

 私が戦闘に参加するのは確定として3対6の構図ですか。

 奴隷魔物たちは悪くないので傷つけたくはない。出来れば試合が終わるまで足止めしてもらえればいい。その隙にカルロスさんと勝負をつけます。

 そう考えるとあと一人ぐらいこの場に居てほしいですね。

 しかし、バエルの言っていた悪魔たちはまだ来られないようですし……。

 誰か助っ人が来てくれないかなぁ、と思っていると──


(り、リリィ様。お困りでしたら私が出ます!!)


 なんとグラから念話で話しかけられました。

 依り代の方は慣れたのかと念話で聞くと「もともと機械の依り代で生活していたので慣れるのに時間はかかりませんでした」と返ってきました。

 だったら力を借りましょう。

 早急に来るよう伝えると私の横に魔法陣が浮かび上がり、グラが駆け足で悪魔界からこちらの世界に戻ってきました。

 バエルの時もそうでしたが、依り代が変わっても見た目は大した変わらないんですね。見慣れない姿より見慣れた姿の方がいいですけど。


「グラシャラボラス。私が用意した武器はどうしたのですか?」

「そ、その……。バエル様もご存じだと思いますが私は武器を持つと……」

「ああ、そういえばそうでした。今回は武器を持っていない方がいいですね。賢明な判断です」


 えっ、武器を持つとどうなるんですか?

 雰囲気から察するに武器を持たせたら危険ということですかね。

 まあ今は詳しく聞く時間がありませんので後々ということで。


「へぇ、他にも従魔がいたのか。呼び出したからにはそいつも約束に含まれるぞ」

「リリィ様、約束とはいったい何ですか?」

「えっとですね。話せば長くなるので簡単にまとめると、今からあの人たちと試合をします。それで私が勝ったら無理矢理従わせているあの人の従魔たちを解放。私が負ければタルトとバエル、そしてグラがあの人の従魔になるわけです。グラに話さず勝手に約束して申し訳ないです」

「り、リリィ様が謝る必要ないですよ! どうせ勝つのは私たちなんですから!」


 グラの言葉が気に食わなかったのかカルロスさんの表情が険しくなりました。私としては「よく言った」って思いましたけどね。


「おいおい、誰が誰に勝つって?」

「あのリリィ様……。あちらの方はこの状況がわかっていないのでしょうか?」


 グラが困った顔で私に聞いてきました。

 言いたいことはわかりますよ。でも向こうはわかっていないのです。だからこの状況でもまだ勝てると信じている。

 よく考えてください。魔物の中でも珍しいドラゴンと最上級悪魔が二人もいるんですよ。

 何処に勝ち目があるというんですか。私がカルロスさんの立場であれば即座に負けを認めます。それ以前に勝負を挑もうと思いません。

 ですが、状況が理解できていないのであればそれはそれでいいです。

 カルロスさんが『鑑定』のスキルを持っていれば戦力差は歴然だとわかるでしょう。しかし持っていないようなのでこの状況がどんなものか理解できていない。

 ただ、知らない方がいいこともあります。逆に知ってしまってこの試合は無しにしてほしいと頼まれるかもしれません。どちらにせよ、その頼みを聞くつもりはありませんが。 

 

「両者準備は整いましたね。観客席にいらっしゃる皆様方、今宵は世にも珍しいドラゴンが戦う姿をご覧になれます。また、リリィ様の他の従魔たちもなかなかのものです。どうかお楽しみください。それでは試合を始めてください」


 さて、ウーノさんの掛け声もありましたし早速行きましょうか。

 私が一歩踏み出そうとした時、突如全方位から魔術をぶつけられました。

 開始早々いきなりですか。まあ試合も始まっていますし先手必勝で仕掛けるのも作戦としてはありですか。むしろ定石と言っていいでしょう。

 別に文句は言いませんよ。だって私が受けたダメージはゼロ。障壁にも傷一つついていませんから。

 今の私には自動で発動する『魔力障壁』に加えて同等の強度を持つ【聖光領域結界(ホーリーフィールド)】を最大枚数の50枚が張られています。

 はっきり言って、私の用意した障壁を全て破るにはエルトリアさん並みの強さがないと無理です。それをカルロスさん相手に使っている。 

 カルロスさんのステータスを『鑑定』で見てみましたが──本当は見るまでもないですけど──カリーナさんよりレベルやステータス値が低かったです。そんな人には絶対に破ることはできません。

 そして、このステータスを見るに戦闘は奴隷魔物たちに任せていたのでしょう。カルロスさん自身が戦闘に出ていればもう少しレベルは高いと思います。そうしたら奴隷魔物たちもレベルやステータス値の制限も少しは無くなって力を発揮することが出来た。


 それにしても、爆発で生じた煙で前が見えませんね。

 あと、私に向けられた魔術の方向を考えるにカルロスさんや彼の奴隷魔物がやったわけではないですよね。

 カルロスさんは私の前に立っていました。奴隷魔物たちもです。

 なので後ろから魔術を放たれるのはおかしい。

 もしかしたら他にもまだ奴隷魔物がいたのかもしれませんがそんな感じでもなさそうです。

 

「ハッハッハ! 観客席にいる奴らからの魔術をあれだけ直撃して生きているはずもねぇ。魔道士とか言っていたが障壁も張る暇もなかったしな! おう、じいさん。始めたばっかで悪いが試合はもう終わりだ。魔物の方は頑丈だし死んではいないだろ。煙が晴れたらさっさと奴隷契約を結んでくれ」


 なるほど。やはりカルロスさん以外による攻撃でしたか。

 確かに()()()()()()()()と戦うなんて言っていませんね。

 しかもルール無しの試合なので何があっても問題ない。乱入者が来ても試合を止めることはない、というところでしょうか。

 ルールが無い時点で正々堂々の試合なんて臨めませんし、可能性としては考えていなかったわけでもないです。予想外だったのは試合中に乱入してきたことぐらいです。試合が終わった後に口封じのために襲ってくると思っていましたから。

 しかしまあ、煙で見えないからってそれだけで勝利を確信するとは……。もっと油断せずに止めを刺しに行くつもりでいないと。

 

「カルロス様。残念ながら試合はまだ続行です」

「はぁ? 勝負あっただろ!」

「勝負はまだ終わっていませんよ」


 そう言って私は『暴風魔術』にて煙を吹き飛ばします。

 煙の中から現れた私を見て驚きを隠せないカルロスさん。本当に今ので勝ったと思っていたんですね。私の方が驚きですよ。

 魔物の少女は私が今の攻撃を受けて焦っていたのか心配そうな表情で見つめていました。

 今は敵対しているとはいえ私の心配してくれるなんて優しい子です。彼女には大丈夫だと微笑んで安心させます。


「な、なんで今のを受けて生きているんだよ!? 直撃だったはずだ」

「ええ。大した威力ではなかったので避けるまでもなかったです」

「う、嘘だろ……」


 それはこちらのセリフですよ。まさか今ので戦意喪失ですか? 私を油断させるための嘘ですよね。今回は何があっても油断しないと決めているので効果は全くないですけど。


「普通ならあれだけの魔術を無防備で食らって生きているはずない……!」

「まあ私、自分で言うのもあれですが普通ではありませんし。それに、無防備ではないですよ。事前にしっかりと障壁を張っていました。この場にいる者の攻撃ではおそらく一枚も破れないであろう強固な障壁をたくさん」

「ふざけるな。おい、お前ら! あのドラゴンと残りの従魔を手に入れて売ればかなりの大金になる。報酬はいくらでも払ってやるから俺を手伝え!」


 カルロスさんは観客席にいる人たちに呼びかけます。

 その人たちは事前にお金は払うからとカルロスさんの話に乗って、試合が始まった瞬間に私に攻撃するように命じていたのでしょう。

 それはそうとタルトとバエル、グラを売る。

 私の大切な従魔たちにそんなことを言うなんて。

 その発言に再び怒りを覚えましたが、どうやら事態はカルロスさんの思い通りには進まないようですね。


「どうした。何故誰も降りてこない……?」

「皆さんはあなたより賢いようです。おそらくあなたは助っ人を頼んでいたようですが、今のを見て割に合わないと手を引いたのでしょう。そしてあなたもわかっているはずです。この試合はどう足掻いてもあなたに勝ち目はない」

「チッ! じいさん。この試合は無しだ。あいつがあんな化け物みたいな奴だとは知らなかったんだ!」


 本当に無効試合にしてほしいと頼むとは……。

 というか失礼な! 誰が化け物ですか! 

 確かに周りからは逸脱したステータスを持っていますけど、女性に対して化け物なんて失礼にも程がありますよ!


「頼むよ、じいさん」

「その頼みを聞くとして、その場合はカルロス様が負けを認めるということになりますがよろしいですか?」

「違う。この試合自体を無しにしてくれって話だ。話が無ければあの女と交わした約束も無くなる。そして俺をあいつから逃がしてくれ!」


 なんて情けないんでしょう……。

 自分が負けそうになって奴隷魔物が解放されると理解し、必死になって懇願する姿。情けなさ過ぎて見ていられません……。

 そんな姿を晒しているのですから当然観客からも不満や怒りが出ています。

 それにしても話が無くなれば約束も無くなるだなんて、そんな子供みたいな言い訳通るわけないじゃないですか。

 戦う気がない人を無理に痛めつけるのは私もやりたくありません。

 しかし今回は事情が事情です。少しは痛い目に遭ってもらわないと。

 第一、カルロスさんから話を持ち掛けておいて勝手に無かったことにするなんて私が認めません。

 それはウーノさんも同じようで──


「カルロス様。それを聞き届けることはできません。先程試合にルールはないと言いましたがこの催しのルールは存在します。それは決着が着く前に試合を破棄することは認められないということ。カルロス様が負けを認めるのであればこの試合はリリィ様の勝ちということで幕を閉じることになります」

「だから俺は負けを認め──ッ!?」


 言葉を遮るようにウーノさんが片手でカルロスさんの首を掴みました。

 ウーノさんの腕は筋肉が増え、血管が服越しからでも浮き上がっているのがわかります。

 同時に私を除いてこの場で最も強い人物がウーノさんだとわかりました。

 底知れない雰囲気といいますか……。ステータスを『鑑定』で見ても上手く隠しているのか情報を得ることはできませんでした。私を除いてと言いましたがもしかすると私以上に強いとか……?


「こちらが下手に出ていれば偉そうに……。たかが十数年しか生きていない小僧が調子に乗るなよ。その気になれば貴様の首など簡単に折れるのだからな」

「くっ……! はな……せ……」

 

 微かに聞こえる声がウーノさんの耳に入ったのか力を込めて掴んでいた手を緩めてカルロスさんを解放します。

 首を絞められて苦しんでいたカルロスさんはその場で咳き込みます。

 そんな彼の姿など一切気にせずウーノさんは私に向かって頭を下げました。


「驚かせてしまい申し訳ございません。カルロス様が醜態を晒しながら馬鹿げた──いや失礼、なかなかに面白い相談をしてきたものであまりの見苦しさについ手が出てしまいました。これはリリィ様とカルロス様の試合です。私が手を出してしまったこと、重ねてお詫び申し上げます」

「い、いえ……」

「先程もカルロス様に言ったようにこの試合は決着が着くまで終わりません。まあ誰が勝つかなどは最初から一目瞭然でしたけどね。カルロス様も愚かな方です。相手の実力も測れないまま勝負を挑むなど実に愚か。さて、それでは試合を再開しましょう」


 声のトーンが下がったと思いきや再開の話になると初めて会った時と変わらない感じに戻りました。

 謎に包まれた方ですけど今はカルロスさんの件を終わらせます。

 既に戦意は喪失していますので決着は着いているようなものです。

 しかし、カルロスさんはまだ敗北を認めていないので試合を終わらせるためには認めさせなければいけません。

 私は一歩、また一歩とカルロスさんに向かって歩きます。


「く、来るなッ! お前ら何している! 命令だ! その女を殺せ! 俺に近づけさせるな!」


 怒りながらカルロスさんが奴隷魔物たちに命じると彼らは苦しみながらも私の方へ接近してきます。

 辛いですよね。苦しいですよね。今私が解放させてあげます。

 奴隷魔物たちは私に攻撃を仕掛けようとしましたが、その攻撃は私に当たることはなかったです。

 障壁で防いだわけではありません。魔物の少女たちは自分の意思で私への攻撃を止めたのです。

 奴隷紋は主人の命令を聞かないと痛みを与える仕組みなのでしょう。彼女たちは痛みに耐えながらも抗っていました。


「ホントウ、モウ、イヤ……。オネガイ、タス、ケテ……」


 魔物の少女が途切れ途切れでしたが私に伝えました。


「はい。みんな助けます。なのでもう少しだけ我慢できますか?」

「……ウン」


 私は足早にカルロスさんのもとへ向かいます。

 カルロスさんは私が化け物に見えているのか腰が抜けていながらも逃げようとしています。

 この際私が化け物に見えても構いません。その代わり、カルロスさんには彼女たちが味わってきた痛みや苦しみを知ってもらいます。

 壁に背を向け私を見つめるカルロスさん。

 私は杖を上に向けて特大の火炎球──『獄炎魔術』【爆衝獄炎弾(クリムゾン・ノヴァ)】を浮かべると震えが止まらない様子でした。

 ですがそんなの関係ありません。私はカルロスさんに向けて杖を振り下ろし【爆衝獄炎弾(クリムゾン・ノヴァ)】を落とします。


「このままだと死ぬ……。し、死にたくない……! 俺はまだ死にたくない! やめてくれぇぇ!!」


 それを最後にカルロスさんは言葉を発しなくなりました。


 ………

 ……

 …


 ああ、殺してませんよ。カルロスさんは泡を吹いて勝手に気絶しただけです。

 実を言うと【爆衝獄炎弾(クリムゾン・ノヴァ)】はカルロスさんに直撃する前に『空間魔術』で別空間へと移しました。最初からそのつもりだったのですがカルロスさんはそれを見る前に気絶しました。

 一応『鑑定』で確認してみると、最悪ショックで死んでしまったかもしれないと思いましたが生きていました。

 私の目的はカルロスさんを殺すことではなくて魔物の少女たちを救うこと。なので止めは刺しません。

 これに懲りたら二度と同じ過ちをしないように反省してもらえたらいいです。まあこういうのって大体は繰り返してしまうと思うんですけどね。私の前でまた同じことをしていたらその時は今度こそ容赦しません。

 

 さて、とりあえず勝負には勝ちました。

 タルトやバエルの出番はありませんでしたね。グラもせっかく来てくれたのに出番がなくて申し訳ないです。

 では勝負に勝ったことですし早速魔物の少女たちをカルロスさんから解放してもらいましょう。

書籍第一巻 好評発売中!! (何となく宣伝です)


カルロスを殺さなかったのはリリィの優しさが出たところもありますが、単純にこの後も彼の出番があるからです。今回の話はその前準備みたいな感じですね。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
― 新着の感想 ―
ぬるいなー。殺そうとしてきた者は、後顧の憂いを失くすために、きっちり殺して欲しいよ。
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