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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第三章 従魔激闘杯&古の巨人復活編

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カルロスとの再会

 従魔激闘杯も終わりテルフレアはいつも通りの日常が戻りつつあります。

 そろそろ私も本来の目的に戻らないといけませんね。

 新たな従魔デオンザール──彼を探すために動かないと。

 バエルが言うにはテルフレア近郊の森に気配を感じるとか。まずはそこに行ってみないと始まりません。

 ですが、私には他にもやるべきことがあります。


 カルロスさんの魔物の少女の件についてです。


 彼女はカルロスさんを慕っている。そのカルロスさんが彼女のことをどう思っているのか知っているにもかかわらず。

 それでもいいと言っているのだからこれ以上深く関わろうとするのも余計なお世話なのでしょう。

 しかし、私はあの子を救いたい。

 この際あの魔物の少女がカルロスさんのところにいるのは構いません。無理に引き離すのも何か違う気がしますので。

 でもこのままではあの時みたいに暴力を振るわれる可能性があります。

 変えるべきはカルロスさんの考え方。

 バエルも言っていました。私もそう思っています。

 従魔は道具ではなく同じ生命。

 カルロスさんの従魔に対する考え方を変えるのが彼女を救う道に繋がる。

 

 ですが、そのカルロスさんと会おうにも何処にいるのかわかりません。

 探せばまだテルフレアにいるかもしれない。でももう既にここから旅立っているのかもしれません。そうだった場合はどうにもできません。

 困りましたね。こういう時、情報収集のプロがいればいいんですけどそう都合よくいかないのが現実です。

 デオンザールの時みたいにバエルが魔物の少女の気配を感じ取ることができれば見つけられるかもしれませんけど、カルロスさんが常時魔物の少女を外に出しているかわかりませんし、そもそも可能なのかもわかりません。

 バエルはデオンザールは長い付き合いであり、魔力の質とかもよく知っているから気配を感じ取ることが出来るようですが魔物の少女とは一度会っただけ。

 まあ、実際に出来るかは聞いてなかったので試しに聞いてみますか。

 バエルに魔物の少女の気配を感じ取ることが出来るか聞いてみると──


「もちろん可能です。あの少女のことをリリィ様はとても気にかけていらしたので彼女が持つ魔力の性質を覚えておきました。私としてもあの少女は非常に興味深い魔物でしたので」


 出来るんですか……。

 最初から聞かなかった私が馬鹿みたいじゃないですか。いや、バエルを頼らなかった私は馬鹿ですね。

 まあいいです。今そのことを気にしても仕方ありません。

 分かるのであれば早速探してもらいましょう。

 しかし、バエルでも魔物の少女の気配を感じ取ることはできませんでした。

 実は前にも同じことをしていたみたいです。それで見つけたら私に報告するつもりだったらしく。

 それで、何故バエルが気配を感じ取ることが出来なかったのか。

 どうやら彼女の魔力の性質は元々感知しにくいものみたいです。更には魔力の量も少なく、周囲の人や従魔の魔力量で掻き消されてしまっているとのこと。

 バエルは「奇襲を任せるにはこれ以上にない人材ですね」とか言っていましたが、今はそんな話をしている場合ではありません。

 

 結局見つからずどうすればいいかわからないままお昼を迎えました。

 腹が減っては何とやらです。何か食べながら考えましょう。

 ということで毎度おなじみの屋台通りにやってきました。

 お昼時もあってか混んでいますね。どの店も相変わらず繁盛しています。

 まだまだ全制覇には程遠いので今日はどの屋台に行こうか迷いますね。

 とりあえず寄ったことない屋台に行って食べたいものを買う。

 でも忘れてはならないのはおじさんの串焼き。あれだけは絶対に外せません。

 最近は美味しいものを色々と食べてちょっとだけ……本当にちょっとだけですよ! 体にお肉が付いてきた気がしますが冒険を再開してダンジョンに挑んだりしたら痩せる、はず……。

 おじさんの屋台に向かう途中、後ろから重厚感のある足音が聞こえました。

 この音は何度も聞いています。

 振り返るとおじさんのゴーレムさんがいました。手には串焼きにするためのお肉ですかね。結構な量です。

 タルト、売り物何ですから食べちゃダメですよ。生肉なんて食べたらお腹を壊してしまいま──いえ、タルトなら大丈夫かも。食べちゃダメなの事に変わりありませんが。


「こんにちは。ゴーレムさん」

「………………」


 言葉は話せませんがお辞儀して挨拶を返してくれます。

 行き先は同じなので私たちはゴーレムさんと一緒におじさんの屋台に向かいます。

 屋台に到着するとそこには行列が。

 従魔激闘杯一日目の時は奇跡的に空いていたのですぐに買えましたが、二日目以降は長蛇の列が出来ていました。

 元々人気な屋台というのもありましたが、私が一日目に串焼きをたくさん買っていた──主にタルトの分ですが──を見られていたらしく「ドラゴンを従える少女が大量に買うほどうまい串焼き」とかで更に人気が出てしまったとか。

 嬉しい反面、私がたくさん食べるみたいな勘違いが生まれていそうで複雑な気持ちになりました。たくさん食べているのはタルトですよ。

 どんどんと人が並んでいますし、空くのを待つのは無理みたいですね。

 仕方ありません。ここは時間をずらしてもう一度買いに来ましょう。

 そう思っておじさんの屋台から去ろうとしたのですが──


「おっ、お嬢ちゃんじゃねぇか! 今日もうちの串焼きを買いに来たのかい?」


 今日はおじさんの奥さんもお手伝いしているようで奥さんはお客さんの相手をしていて、おじさんはというと一生懸命お肉を焼いています。

 仕事中なのでそちらの方に集中してほしかったのですが、おじさんは私を見つけて声をかけてくれました。まあ隣におじさんのゴーレムさんがいるので見つけやすいですね。

 しかし、声をかけてられてしまうと寄らないわけにはいかないと言いますか……。串焼きも買おうとしていたので並びましょうか。

 私も長蛇の列に並んでしばらく。

 お客さんとも色々話をしていたので待ち時間は暇ではなかったです。

 そしていよいよ私の番が来て串焼きを注文します。出来上がるまでは奥さんと話をすることに。


「うちの旦那から聞いたよ。いやぁ、お嬢さんのおかげでうちも大繁盛して助かってるわ。本当にありがとうね」

「ここの串焼きはすごく美味しいので更に人気が出て良かったです。ただ、人気が出過ぎちゃってちょっと買うのが大変だなぁって思ったり……」

「はっはっは! そうだな、こんなに人気が出ちまうとお嬢ちゃんも買うが大変だよな。この際二号店でも出してみるか?」

「人気が出てるからって調子に乗るんじゃないよ。大体二号店なんて出しても誰が肉を焼くっていうのさ。あんたが二人に分裂できるわけでもないし」

「それもそうだな。息子共も別の街で仕事しているし連れ戻すわけにもいかねぇ。悪いなお嬢ちゃん」

「いえいえ、私も買いたい時はちゃんと並びますので。そういえば、最近小さな女の子を見ませんでしたか? 5~6ぐらいの女の子で頭に獣のような耳が生えた女の子です」


 カルロスさんと魔物の少女が必ずしもこの通りを訪れているかはわかりませんが、おじさんは毎日ここにいるのでもしかしたら見かけているかもしれません。

 仕事が大変そうなのでそこまで見るのは難しいと思いますけど聞くだけ聞いてみたほうがいいと思ったのでおじさんに聞いてみました。


「迷子探しか?」

「そういうわけではないんですが……」

「お嬢ちゃんのいう女の子に見覚えは──ってあの子じゃねぇのか?」

「えっ?」


 おじさんが指差す方向に魔物の少女がいました。

 カルロスさんはいませんね。魔物の少女は荷物を持っているのでおつかいを命じられたのでしょう。

 それにしてもこんな偶然あり得るんですね。

 とにかく追いかけなければ。見失うと次にどこで会えるかわかりません。

 ちょうど串焼きも出来たので代金を払って受け取ると私は急いで魔物の少女のところへ向かいます。

 魔物の少女も急いでいるようで駆け足です。

 しかも、体の小ささを生かした動きで俊敏。人も上手く避けています。追い付けないこともないですがバエルに頼んで先回りしてもらいます。

 屋台通りを抜けた魔物の少女でしたが、立ち塞がるようにバエルが前に現れました。頼んだ瞬間に姿を消しましたけど一瞬で追い付くとは流石バエル。


「ア、ウ……」


 バエルが足止めしてくれたおかげで私も追い付きました。

 でもその笑顔で魔物の少女を見つめるのはやめてほしいですね。いきなり現れて驚いていますし怖がってもいます。


「ごめんなさい。あなたにちょっと聞きたいことがあって」

「ア……。ワタシ、ケガ、ナオシタ、ヒト」

「はい。覚えていてくれて嬉しいです。その荷物はおつかいですか?」

「……ソウ。ゴシュジン、オナカ、スイタ。ゴハン、カエ、メイレイ」


 そう言った魔物の少女ですが彼女のお腹から音が鳴りました。


「あなたのご飯は? 一緒に買っていないんですか?」


 魔物の少女に問うと首を縦に振りました。


「メイレイ、ゴシュジン、ダケ。ワタシ、ゴハン、ナイ」

「でもお腹空いていますよね」

「……ウン」

「ならこれをどうぞ。この串焼きはとても美味しいんですよ。あなたに一本あげます」

「……イイノ?」

「ええ」


 アツアツの串焼きを魔物の少女に渡すと彼女はゆっくりと味わって食べていました。

 彼女の瞳からは涙が零れます。あまりの美味しさに涙が──というわけではないですよね。訳ありに決まっています。

 ここでは人の目もあるのでひとまず落ち着いて話せる場所まで移動します。

 ベンチを見つけたのでそこに腰を下ろしました。


「大丈夫ですか?」

「ウン。ゴハン、タベル、ヒサシブリ。オニクハ、モット、マエ」

 

 この子はご飯も思う存分に食べさせてもらえなかったんですね。

 なのに自分のご飯を買って来いと命じた。

 心底ムカつきます。もう、かつてないほどに。ここまで私をムカつかせたのはカルロスさんが初めてですよ。


「それならまだまだあるので食べますか?」

「デモ……」

「遠慮しなくていいですよ。私もちょうどお昼ご飯にしようと思っていたので一緒に食べましょう」


 屋台通りで買った食べ物を広げて魔物の少女と一緒に食べます。

 タルトも串焼きは気に入って買った分はほとんど食べますけど、今回は魔物の少女に分けてあげていました。優しくていい子ですね。

 魔物の少女も今までは暗い表情ばかりでしたけど笑顔が少しずつですが戻ってきて良かったです。

 しかし、魔物の少女は何かを思い出したかのようにベンチから降りました。


「ワタシ、メイレイ、サレタ。モドル」

「あっ、私も連れて行ってください。あなたの主人に話があるので」


 私は魔物の少女に案内されて宿を訪れました。

 遅れたことで魔物の少女は酷く怯えていましたが、元はと言えば私が彼女と一緒に昼食を食べようと言ったのが原因です。責任は私にありますので気にする必要はないと慰めてあげました。

 ドアノブに手をかけてゆっくりと扉を開く魔物の少女。

 するとすぐにカルロスさんの怒号が響き渡りました。


「遅いッ! お前は食料を買ってくることすら出来ないのか?」

「ゴメン、ナサイ……」

「ったく、どうしようもない愚図が。で、なんでテメェがここにいるんだ? ドラゴン使い」

「あなたと話がしたくて道案内をこの子に頼んだんです。遅れたのも私のせいなので責めないであげてください。お詫びと言ったらあれですが私が屋台で買った食べ物です。『空間魔術』で収納していたのでまだ暖かいですよ」


 笑顔のままカルロスさんに渡そうとしましたがカルロスさんはそれを勢いよく右手で払いました。せっかく作ってくれたのに勿体ない事しますね。

 今の行動が気に食わなかったのかバエルが手を出しそうになっていたので私が手で制して止めさせました。


「そんなのはどうでもいいんだよ。何しに来やがった」

「私の従魔も同じことを言っていましたが、従魔のことを道具ではなくあなたと同じ命として見ていただきたいなと思いまして」

「そんなことを言うためにここまで来たってか? 笑えるな。悪いが俺にとってその魔物も他の魔物も道具に過ぎない。テメェが何を言おうが変わらねぇよ」


 でしょうね。私も改めてこの人と会って考え方は変わらないのだと思いました。

 だからといって放っておけるわけもないです。他に何かないですかね。

 

「それでもテメェがそのチビが大切だって言うなら取引をしてやってもいい」

「取引、ですか……」

「テメェの連れているドラゴン、もしくは俺の右手を握り潰そうとしたそっちの男。どちらかとそのチビを交換してやってもいい。本音を言えばドラゴン一択だがそっちの男も道具としてかなり役に立ちそうだ」


 ……ふざけているんですか、この人は。

 魔物の少女を解放する代わりにタルトかバエルを寄こせと。

 本当にふざけていますね。しかも私の従魔たちまで道具呼ばわり。

 理屈はわかります。魔物の少女もカルロスさんの役に立っていた。戦力を一人手放すのだから代わりを用意しろということですよね。

 それでも納得は出来ません。渡すつもりはないし、万が一誰かに渡すことになってもこの人だけには絶対に渡しません。

 第一、タルトやバエルがカルロスさんを主人と認めるわけないので彼の従魔になることはないです。

 

「お断りします。私の従魔たちをあなたなんかに預けられません」

「残念だ。そいつはもう使えないから捨てて新しい従魔を仕入れたかったところなんだがな」

「捨て、る……? あなたは命を何だと思っているんですか!!」

「何度も言っているだろ。そのチビや他の従魔は俺の命令を聞く道具だ」

 

 もう、本当にキレていいですかね? 

 いや既にキレて限界なんですけど。

 バエルを止めておいてあれですけど私が今にでも手を出しそうです。

 

「テメェは従魔を家族や仲間のように接しているから俺の考え方なんて理解できない」

「ええ。理解したくもありません」

「俺が持ちかけた取引も蹴った。だが、俺としてはそのドラゴンとそっちの男を逃すのは惜しい。というわけでもう一つ。今度は取引じゃない」

「何ですか……」

「詳しいことは話せないが、どうしてもそのチビ、あと他の従魔を救いたいと思うのであれば次の満月の夜。テルフレアの東区画に誰も住んでいない空き家がある。日付が変わる頃そこに来い。お前が勝てば俺諸共好きにしろ。その代わりお前が負ければ全てを失う」


 次の満月の夜は二日後ですね。

 カルロスさんの言い方から察するに何か勝負をするのでしょう。内容は明かせないなんて怪しいですが勝てばいいだけのことなので気にしなくていいです。


「わかりました。その話、受けましょう」

「テメェならそう言うと思ったぜ。いいか、このことは誰にも伝えずテメェ一人で来い。もしテメェ以外の奴も一緒に来たら、わかっているな?」

「もちろん一人で行きますよ」


 そう言い残し私はカルロスさんの部屋から去ります。

 ああ、その前に大事なことを伝え忘れていました。

 私はカルロスさんの方を見ず、その場で立ち止まり彼に告げます。


「言うまでもないと思いますが私、あなたに対して物凄く怒っています。本気で戦いますので覚悟しておいた方がいいですよ」


 それだけ伝えて二日後。満月の夜を迎えます。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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