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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第三章 従魔激闘杯&古の巨人復活編

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“水の最上級精霊”と“獅子の十二星獣”

 魔物の少女のことは気がかりですが、今すぐにどうにかできる問題ではないので策を考えながらも従魔激闘杯午後の部の観戦をしています。

 大会一日目は一番下の階級の予選と本選に駒を進めた従魔たちの第一回戦。

 これは既に終わっていて、従魔たちの疲れもあるということから残りはまた後日という形になります。5日間で行うのは参加する従魔の数もありますけど、十分な力を発揮できるように休息を取れるようにしているわけです。

 他の階級も参加者が多いところは予選を行い本選に駒を進められる従魔を絞る。流れは同じですので説明することでもないかと。 


 そして、いよいよカリーナさんが参加する階級の戦いが始まります。

 この階級は参加者も下二つと比べると少ないので予選はありません。なのでいきなり本選が始まるわけです。 

 カリーナさんの出番は第三試合。

 それまでは第一試合と第二試合を観戦するわけですが、第一試合は接戦で非常に見ごたえのあるいい試合でした。

 それぞれの主人がしっかりと従魔を育てていることがよくわかりました。試合終了後は勝敗など関係なく互いに称え合って握手を交わす。友情が芽生えるのはいいことですね。


 いい試合を見れて良かったと思いながら次の試合を楽しみにしていたわけですが、そこで私は一気に不快な気持ちになりました。

 現在は第二試合が行われています。試合の内容はまあいいものだと思いますよ。

 しかし、参加している人物。ここに問題が。

 一人は女性の方です。この方は従魔を大切にしているのが雰囲気で分かります。この人は別に問題ではありません。むしろ頑張っていただきたいです。

 私が言っているのは彼女の対戦相手の方です。 

 その人物とは、あの暴力を振るおうとしていた魔物の少女の主人です!! 

 あの人を見るだけで先程の怒りが再び湧き上がってきます。

 戦っている従魔は魔物の少女ではなく別の従魔。まあルールがあるのでこの階級にあの少女が参加することはできませんので当然ですが。

 しかし、あの男性のように複数の階級に参加しても問題ないんですかね? 

 こういう時は隣にいるウォルフさんに聞いた方が早いです。


「ウォルフさん。一人の主人が複数の従魔を連れて、それぞれの階級に参加するのはルール上問題ないんですか?」

「特に問題はないよ。一つの会場で行っているから時間が被ることはないし。それに優勝賞金が目的で複数の階級に参加する人も少なからずいる。まあ複数の階級に参加したからって優勝できるとは限らないけどね」


 ということは、あの男性は優勝賞金目的で複数の従魔を連れて参加しているということになりますね。 

 もしかしたらそんな理由ではなく、純粋に大会を楽しみたく参加しているかもしれませんが、絶対にそんな理由ではないと断言できます。

 でなければあの少女に暴力を振るおうとはしません。勝敗にこだわっていたのも優勝賞金がかかっているからでしょう。

 参加する理由は人それぞれですので男性の理由が悪いものだとはいいません。

 ただ、魔物の少女の件もありますので個人的には負けてほしいと思っています。いや、そうなると今度は今出場している従魔が酷い目に遭いますか……。

 そんなことを考えていると第二試合の勝者が決まりました。

 結果は男性の勝ちです。相手の方の従魔も頑張って戦いました。今回は少しだけ男性の従魔の方が上だっただけです。

 





 第二試合も終わり、次は第三試合。

 注目の一戦なのでしょう。

 観客席からはいつも以上に歓声が上がっています。

 アナウンスが会場内に響き渡ると入場口からカリーナさんが登場します。

 やはり領主の娘さんだから注目される。という理由もありますが、精霊を従える従魔使いとして街の人から人気があるそうです。

 何でも、タルトのようなドラゴンほどではなくとも精霊を従魔にするのは難しいのだとか。カリーナさんはそんなこと一言も言っていなかったのでウォルフさんから聞いて初めて知りました。

 そのカリーナさんは炎と水の最上級精霊を2体も従えている。更には風と土の最上級精霊を従えようと日々努力している。

 私も負けていられませんね。カリーナさんを見ていると私ももっと頑張らなければと思います。

 

 しかし、カリーナさんほどの方だと対戦相手の方が可哀そうになると言いますか……。

 観客も完全にカリーナさんの味方をしていますし、何となく勝ってはいけない空気が出ているような出ていないような。

 こんな状況でもう一つの入場口から現れたカリーナさんの対戦相手。

 ほう、これはなかなかのイケメンさんです。

 この距離ではよく見えないのでスキルを駆使して見ました。

 灰色の髪に青い瞳。身長も高くスタイルもいい。貴族にも見えますね。

 このイケメンさんが入場すると更に会場が盛り上がりました。特に女性の声が大きいですね。カリーナさんが入場した時の歓声をかき消すほどです。

 

「相変わらず凄い人気だな。"エドガー"君は」

「お知り合いなんですか?」

「ああ。彼はカリーナの夫になる男だよ。真面目で優しい男で従魔にも愛をもって接するいい青年だ。カリーナとも昔から仲がいいし街に出て遊びに行ったりもしているよ。最近は恥ずかしくて一緒に遊びに行ったりはしていないけどね。まあ別々の街に住んでいるから会う機会が少ないっていうのもあるけどね」

「へぇ、そうなんですか」


 ………………。

 って! カリーナさん、婚約者がいるんですか!? 

 思わずウォルフさんに再確認したぐらい驚きましたよ。

 そんなことカリーナさんから一言も聞いていませんよ。いやまあ、私に話す必要がないと言えばそうなんですけど。そう言った話も今まで会話に出てこなかったですし。

 でも確かに、貴族の女性は結構早く結婚すると聞きます。

 カリーナさんは領主の娘さん──つまり貴族ですから結婚という話は生きていれば必ず関わってくるでしょう。

 エドガーさんという方は私の目から見てもいい人だと思うし、結婚してからも特に問題なく生活を送れると思いますね。

 おめでたい話ですので私も嬉しいですよ。

 しかし、結婚ですかぁ……。

 一応私も女です。結婚に興味はあります。独り身でいるよりは結婚した方がいいに決まっていますしね。

 ただ出会いがない。一つの街に定住しているわけでなく、色々な国や街を巡っているので出会いがない。

 何処かに良い人いないですかね。まあ今のところタルトやバエルがいるので寂しさを感じているわけではないですが。


「それにしても、婚約者同士の勝負ですか」

「こればかりは運だからね。上の階級に行けば行くほど参加者も減ってしまうから二人が一回戦で当たってしまう可能性はあったんだ」

「ウォルフさんはどちらが勝つと思いますか?」

「リリィさんは難しい質問をするね。父親としてはもちろんカリーナに勝ってもらいたいところだけど、エドガー君にも負けてほしくないと思っているよ。主人もそうだけど従魔も互角の強さだからどちらが勝つかはわからないかな」


 エドガーさんの従魔がカリーナさんの精霊に匹敵する強さを持っていると。

 こう言ってしまうのは悪いですが第一試合と第二試合に出場していた従魔たちとカリーナさんの精霊が戦っても勝つのはカリーナさんでしょう。

 そのカリーナさんの従魔と同格ということは、一回戦でありながら事実上の決勝戦といってもいいかもしれませんね。

 どんな戦いを繰り広げるのか今から楽しみです。







 カリーナとエドガーは互いに向き合ってニコリと笑っていた。


「まさか一回戦からカリーナと戦うことになるなんてね」

「私もトーナメント表も見た時、エドガーが初戦の相手だって知って驚いたわ。運がいいのか悪いのか」

「本音を言えば君とは決勝で戦いたかったけど、決まってしまったことに文句を言っても仕方ない。でも、疲れが残っていない万全の状態で君の精霊と戦えると考えるとこれも良かったのかもね」

「あら、奇遇ね。私もあなたの"十二星獣"と万全な状態で勝負出来て嬉しく思うわ。でも負けるつもりはないわよ。リリィさんと約束しているからね」


 リリィとの約束というのはカリーナが優勝した暁にはリリィの従魔であるタルトと勝負をしてもらうというものだ。

 リリィ本人は別に優勝せずとも時間がある時に勝負を受けるつもりだったが、カリーナ曰く「大会で優勝できない実力ならタルトちゃんと戦っても負けるだけ」と。

 カリーナも自分の精霊がタルトに勝てるとは思っていない。彼女にも力の差というものは理解できる。

 それでも戦いたい。戦ってみたい。

 そのためにもまずは優勝する。その優勝がタルトに挑戦するための資格であると自分で決めていた。だから彼女はこの大会、絶対に負けられないのだ。


「リリィさんというのはあのドラゴンを従える少女か。羨ましいよ、あんな子と知り合いだなんて」

「大会が終わったらエドガーにも紹介してあげるわよ。でも今は目の前の勝負よ。婚約者だからって手加減しないから」

「ああ。僕も全力で行かせてもらうよ。"獅子の十二星獣(レグルス)"!!」

水の最上級精霊(ウンディーネ)!!」


 両者自慢の従魔を呼び出し、今日一番の激闘が始まる。







 あれがエドガーさんの従魔ですか。

 真っ白な毛並みを持つ獅子の魔物。宝石のように輝く綺麗な黄色の瞳に凛々しい(たてがみ)が何ともカッコイイです。

 でもそれ以上にフワフワしているのでなんかこうモフモフしたい気がします。機会があれば……いえ、カリーナさんに紹介してもらえば大会が終わった後でもモフモフ出来るかもしれませんね。あとでカリーナさんに頼みましょう。


 さて、カリーナさんとエドガーさんが従魔を召喚したわけですが、まずはエドガーさんの従魔──レグルスが動きます。

 一気に距離を詰め、鋭い爪をウンディーネに向かって振り下ろします。

 しかし、ウンディーネはそれを予想していたのか身軽に回避します。

 上から目線で申し訳ないですがいい動きです。カリーナさんの育て方や教え方が上手なのでしょう。

 レグルスの一撃を回避したウンディーネは間を開けずに反撃を仕掛けました。

 片手をレグルスに向けてウンディーネが水の球体を勢いよく放ちます。

 魔道士が使う【水球(ウォーターボール)】に似ていますが威力が桁違いです。流石は水の最上級精霊と言ったところでしょう。その名は伊達じゃありませんね。

 しかしこれをレグルスは回避します。体勢が崩れているというのによくあんな近距離で躱せますね。私なら障壁があるので安心して直撃を受けます。安心して直撃という言葉は自分で言ってて意味が分かりませんが……。


 そこから激しい攻防が続きます。

 レグルスは基本的に接近戦を得意とするタイプなので距離を詰め、ウンディーネは水魔術主体で戦うため距離を取って戦っている。

 かれこれ20分近く勝負が続いていますが、学べるものも多々あるので飽きたりはしません。

 観客も同じです。次はどんな風に仕掛けるのか。決着はどうなるのか。気になって仕方ない様子。

 もっと見ていたい。誰もがそう思っていてもいずれ終わりは来るものです。

 今まで距離を取っていたウンディーネがレグルスに接近。これにはレグルスも一瞬動きが止まりました。

 しかし、この一瞬の戸惑いが勝敗を分けました。

 ウンディーネはレグルスの正面にまで迫ると顎に向かって拳を一発振り上げます。そのまま追撃でもう一発。

 これまでの疲労もあってレグルスは今の攻撃で戦闘不能です。つまりウンディーネとカリーナさんの勝ちとなります。

 距離を取って魔術主体で戦うという先入観が近接で来ないと決めつけてしまったのでしょう。そして、おそらくこの動きを見せるのは過去を振り返っても今回が初めて。

 エルトリアさんの教えが勝負ごとにおいて必要だと再認識できますね。魔術を使う者である私も『魔闘法』を用いた近接戦闘の経験を増やさないといけませんね。相手は……バエル辺りに頼みましょう。バエルなら近接戦闘も出来ますし、いい訓練相手になります。


 ちなみに、この会場には結界が張られていて、試合終了後に負傷した部分を治癒する効果があるそうです。

 あとは一方的な試合になって死ぬ危険性が出てもその前に障壁で守る効果もあるとか。なので最悪なことが起こる心配をする必要はないです。

 ただし、試合前に負った傷は会場に張られている結界の効果でも治らないみたいです。あくまでも試合中に負った傷まで。だからあの魔物の少女の怪我は治っていなかったわけです。



 そして、大会も順調に進んでいき従魔激闘杯一日目は無事に終わりました。

 ウォルフさんはまだ仕事があり、カトレアさんもウォルフさんの手伝いをするとかで私が先に帰ることに。

 その途中でカリーナさんと出会って、一緒にいた婚約者であるエドガーさんとも会いました。

 エドガーさんは私のことを知っていたみたいです。まあ、開会式の時に色々やっていたのでこの会場内で知らない人はいないかもしれませんね。

 それでもお互い初めましてなので自己紹介を済ませておきました。見た目で何となくわかっていましたが、話してみてもいい人だとわかります。

 日も暮れて早く帰らないといけないですが、エドガーさんには頼みたいことがあります。それはエドガーさんにもあったようです。


 私はエドガーさんのレグルスの(たてがみ)を触ってみたい。

 エドガーさんは私のタルトをよく観察したい。


 お互いに相手の頼みを聞き届けました。私だけお願いを聞いてもらうわけにはいきませんからね。

 タルトには悪いと思いましたが──どうやらタルトはエドガーさんに触れられるのに抵抗はないみたい。もしかして若くてイケメンだから?

 真実はわかりませんが私は私でレグルスの(たてがみ)を触ります。

 戦っている時のレグルスは荒々しい感じでした。でも普段は大人しいのか好きに触らせてくれました。

 フワフワでずっと触っていたいぐらいです。これをエドガーさんは毎日モフモフできる思うと羨ましいです。


 今日は色々ありましたが一番の収穫は、モフモフは良き、ということですね。

エドガーの十二星獣について補足。

彼は十二体全ての魔物を従えているわけではありません。

あと一体ぐらいは、と思っていますが流石に全部は強すぎなので。

他の十二星獣は後々登場する予定です。

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