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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第三章 従魔激闘杯&古の巨人復活編

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魔物の少女

 従魔激闘杯一日目も午前の部が終わり、今はお昼休憩の時間です。

 私は参加はしていませんが初めての従魔激闘杯。なかなかに見所が多くて面白いです。

 戦い方も従魔それぞれで異なりますし、彼らの主人が一生懸命、愛をもって育てているのが観戦している私にもわかります。まあ愛の大きさなら私も負けていませんがね。

 従魔への愛を語ってしまうとウォルフさんやカリーナさんほどではありませんが長くなってしまいますのでここまでにして。

 一日目の午後の部にはカリーナさんが出場するみたいです。

 実は大会が始まる前に期間中に聞いたのですが、カリーナさん本人のレベルは178と予想よりも高かったです。正直戦いとは無縁な人に見えたのでレベルはもう少し低いかなと思っていました。 

 でも従魔を育てることもあり、魔物との戦闘は多く積んでいると。それもあって今のレベルにまで上がったらしいです。

 カリーナさんの従魔はかなり強力な個体のようで参加する階級は参加できるレベルの上限が300の階級。カリーナさんのレベルよりも低いですがそれでも十分に戦える、むしろ余裕で勝ってしまうほどとか。


 ちなみにカリーナさんの従魔は精霊です。

 中でも最上級精霊と呼ばれる精霊。簡単に言えばバエルやグラのような最上級悪魔の精霊版です。

 カリーナさんはその最上級精霊を2体も従えています。

 炎の最上級精霊(サラマンダー)水の最上級精霊(ウンディーネ)という精霊です。前に一度見せてもらいました。

 他にも風の最上級精霊(シルフ)土の最上級精霊(ノーム)という精霊が居て、最近はシルフとの契約ができるように頑張っているみたいです。

 でも従魔が増えるのはいいけど育てるのが大変になると言ってましたね。私の場合は一から育てるわけでなく、最初から最強クラスに強いわけですからその大変さを共感できないのが残念です。

 今度私も一から魔物を育てようかな。魔物を従魔にするのはかなり難しいですけど出来てしまえばこっちのものです。

 ああでも、まだまだ増えるんでしたよね。新しい従魔を増やす予定なんてないかもしれませんね。

 とりあえずこの件は一旦保留にしておきます。


 さて、お昼休憩ということで私は今買い出しに来ています。

 大会が始まる前に買い出しをしたのでは?

 それはタルトの分であって私のお昼ごはんではありません。というかタルトのために買った食べ物などもうないですよ。これは私とタルトのお昼ごはんの買い出しです。

 特に気にしていませんでしたが、タルトって本来よりも結構小さい大きさなのによくあんなに食べますなぁ、とふと思いました。

 もしかすると胃袋は本来の姿の時と変わらないのかもしれませんね。だったら大きさに見合わない量を食べても納得できます。

 食費は(かさ)んでしまいますが、美味しそうに食べるタルトの姿は可愛くてそれを見られるだけで満足なのでそのような問題は些細なことです。まだまだ余裕はありますけどお金が減ったら稼げばいいだけですからね。何よりお腹を空かせている方が可哀そうです。

 ただ、あれだけ食べて太らないというのは羨ましいですね。私がタルトと同じ量を食べていたら確実に太ってしまいますよ。


 お昼休憩なので観戦席にいたお客さんも外に出てお昼ご飯を買ったりしているため、若干混雑しています。

 そして、大会が始まる前に盛り上げようと色々とやったのでお客さんにたくさん声をかけられています。

 非常に嬉しい事なんですけど、お昼休憩の時間も限られているので早めに買い出し済ませておきたいところなんですよ。かといって無視したりするわけにもいきませんし、ちょっとだけ困っています。

 何とかしてお客さんとの話も終わらせて屋台を見て回っているとあの時の串焼きのおじさんと再び出会いました。

 少し前に忙しい時間を乗り越えたのか空いていますね。相変わらず美味しそうな匂いがします。


「おうっ、お嬢ちゃん。また会ったな」

「こんにちは。ゴーレムさんも」


 挨拶するとおじさんのゴーレムさんは頭を下げて返事をしてくれました。


「おじさんはここでも串焼きを売っているんですか?」

「稼ぎ時だからな。いつもの場所は休みにしてこっちに来てるってわけさ。それよりもお嬢ちゃん、随分と人気者になっちまったな。大会が始まる前にそっちのドラゴンとなんかやったんだってな」

「まあ、領主さんのお願いだったのでお世話にもなっていますし私も力になれたらなと思って」

「俺も見たかったが店の準備があってな。ところで今日は別の連れだな。あの時の腹空かせたお嬢ちゃんは一緒じゃないのか?」


 グラのことですね。

 グラはバエルが造った新しい依り代に慣れるためにあの日から悪魔界に戻っています。連絡がないのは一日でも早く慣れるように頑張っているのでしょう。寂しいですがタルトとバエルもいるので大丈夫。


「あの子はちょっと用事で今は別行動です」

「そうか。なら仕方ないな」

「それより今日も串焼きを買っていいですか?」

「もちろんだ。この前みたくサービスしてやるぞ」


 おじさんから串焼きを買って、他にも屋台を巡りながら食べ物を調達しました。主にタルトが食べたいものを買っています。

 甘やかしすぎではと思われるかもしれません。私自身もそう思う時があります。でも、気をつけなきゃと思っていながらもついつい甘やかしてしまうんですよねぇ。

 多分これは一生治らないんだろうな、と思いつつ屋台で買った食べ物の量を思い出します。

 食べ物は一人だと持ち切れないので今は一時的に【異次元収納箱(アイテムボックス)】に入れています。一人で持ち切れないとなっている時点でかなりの量だというのがわかると思います。

 それでも料金は安かったのでお金をたくさん消費したわけではありません。ただ、これが何年も続くと考えるとどうにかしないといけないとは思っています。

 少しでもお金を稼ぐためにもやっぱり優勝賞金が出る従魔激闘杯に参加した方が良かったですかね。






 買い出しも終えたことですし、そろそろ戻らないと再び街の人たちに囲まれてしまいます。

 急いでウォルフさんのところへ戻ろうとした時、会場内にいた一人の主人と一匹の従魔に視線が行きました。

 

「あの子は……」


 主人が男性だったことは私としては興味のない情報でした。

 それより従魔の方。

 人間でいうところの5~6歳程度の体。青い髪に黄色の瞳。そして何より頭には獣の耳が生えている多分女の子です。

 彼女は従魔激闘杯午前の部に参加していました。

 参加していたのは一番下の階級です。

 基本的に従魔激闘杯はトーナメント方式で行われます。

 しかし、一番下の階級は参加する人数が特に多く、トーナメント方式で行うとかなり時間がかかるため、バトルロワイアルという形で予選を行っていました。

 その勝者が本選に駒を進められるわけですが、彼女は予選敗退で本選に出場することは出来ませんでした。

 幼い体で奮闘する彼女の姿を見て私は密かに応援していました。結果は残念でしたが一生懸命戦ったのです。私が彼女の主人なら「よく頑張りましたね」と褒めてあげます。そして、この敗北を糧に強くなるための手伝いをします。

 きっと彼女の主人もそう思って彼女を褒めようと──


 ……ちょっと待ってください。


 何故私は気付かなかったのでしょうか。応援と観戦に夢中になっていたから?

 彼女の外見はどう見ても"獣人族"です。

 国や街によっては人族以外は魔物と捉える場所も少なからずあります。奴隷という扱いをする場所もありますね。

 ですがテルフレアは獣人族など人族以外にも人権がある街。大会の観客や街に住む人にもそういった方を何度か見かけましたからそうなのでしょう。

 ならば何故彼女が従魔激闘杯に参加しているのか。

 これはあくまでも従魔の大会。獣人族を魔物と定めないのであればこの大会には参加できないはずです。参加登録の時には入念なチェックが入るみたいですから獣人族だということが知られる。運営の目を欺くことはできない。

 必ず何かある。そう思って彼女のことを『鑑定』にて調べてみました。

 すると、彼女が従魔激闘杯に参加できる理由がわかりました。


「なるほど。そういうことでしたか……」

「ええ。おそらく彼女は"グレートウルフ"と呼ばれる魔物。その中でもかなり珍しい人化した個体です。なので彼女は獣人族ではなく魔物と判断されたのでしょう。それにしても酷いですね。良き主人に出会えなかった彼女の運が悪かったというべきでしょうか……」


 バエルの言葉の意味。それは私にもわかります。

『鑑定』を使った際に知りましたが彼女、大会に参加していたので外傷は少なからずありますが、それ以前に内臓部分の方が酷く傷ついています。これは大会で負った傷ではなくてもっと前のものですね。

 参加登録する際は運営もここまで詳しくは見ないのでしょう。

 必要なのはレベルとステータス。仮にステータスを見て生命力が最大値より低くなっていたとしても「先程までレベル上げをするために修行していた」などといくらでも言い訳が出来ます。


 けど、今はそんなことどうでもいいです。

 私は彼女の姿を見て怒っています。怒りの矛先は当然彼女の主人。

 あの男性は彼女の状態をわかっていた上で従魔激闘杯に参加させていたというわけですよね。

 しかも彼女は怯えているようにも見える。あれでは自分の意見を言うこともできない。おそらく反抗出来ないように躾をしているのでしょう。

 かといって、これはあの男性と彼女の問題。私が割り込んでどうにか出来るわけではない。

 それでも余計なお世話と思われても構わないので一つ注意をしようと彼らのところに行こうとした時──


「なに負けてんだよッ! 俺は勝てって言ったよなぁ! 主人の命令を聞けない従魔は──」


 そう言って男性はあろうことか自分の従魔である魔物の少女に向かって拳を振り上げて殴打しようとしていました。

 これには私も我慢の限界でした。

 今から走ってもこの距離では間に合わない。それでも私は彼女のもとへ走り出そうとしました。

 しかし、男性の拳は彼女に当たることはありませんでした。

 走り出そうとした瞬間、私の横にいたバエルが咄嗟に動いて男性の拳を止めたのです。

 私では無理でもバエルなら何とか出来るのではないかと声をかけようとした一瞬の出来事です。バエルも同じ従魔として思うところがあったのでしょう。

 とにかく、バエルの判断が彼女を救った。彼女が殴られるのは見たくありませんでしたからね。助かりました。流石はバエルです。


「なんだ、テメェ……」

「失礼。私の目にはこのか弱い魔物の少女を殴ろうとする野蛮な男が見えましたので勝手ではありましたが止めさせていただきました」

「……チッ! 離せよ」

「この少女を殴らないのであれば」


 後ろ姿で表情は見えませんが、バエルもバエルで怒りを覚えているのでしょう。

 でもやり過ぎは駄目です。いや、今まで彼女にしたことを考えると構わないのかもしれませんが、それが事実であるかは本人の口から出ていません。気持ちはすごくわかりますがここは一先ず抑えてほしいところ。

 そうしないと男性の拳が握り潰れてしまいます。男性はバエルに拳を掴まれて、強く握られているのか苦しそうな表情をしています。


「バエル、そこまでです」


 私がそう言うとバエルは力を緩めて男性の拳を放しました。

 バエルが私の従魔であると察した男性は私のことを睨みます。


「テメェは開会式の時の……。おい、テメェの従魔のせいで俺の右手にヒビが入ってたらどうすんだよ!」

「その時は彼の主人である私が責任をもって『治癒魔術』で治します。右手に違和感があれば教えてください」

「そ、そういう問題じゃ──」

「そんなことよりも! あなた今この子が大会で負けたからって殴ろうとしていましたよね。勝ち負けにこだわるのはわかります。それでも彼女はあなたのために頑張ったんですよ。結果なんて二の次です。頑張ったんだから彼女を褒めるべき。それをあなたはこの子が勝てなかったからといって殴るなんて……同じ魔物を従える者として恥ずかしいです」

「俺とテメェじゃ考え方が違うんだよ! テメェはどう思ってるのか知らねぇが俺にとって従魔は道具だ。道具を好きに使おうがそれは俺の勝手だろッ!」


 従魔は……道具? この人は本気で言っているんでしょうか。いや、本気で思っているからこそ、その口から最低最悪な言葉が出るんでしょうね。

 中にはこの人と同じ考えを持っている人もいるでしょう。しかしテルフレアは魔物を愛する街。従魔を道具だなんて思っている人はごく少数ですよ。

 まあ、それは一度措いといて。

 私は心の底からこの人を殴ってやりたいと思いました。この男性の顔を見るだけで虫唾が走ります。

 この際問題になっても構いません。この怒りを男性にぶつけようとした時、バエルが私の前に出ました。


「人も魔物も命の価値は皆平等です。私たちはこの世を生きる生命であり道具ではありません。しかし、それでも世の中には人族も奴隷として道具のように使われる国が存在します。今の発言だともしあなたが奴隷になって道具のように扱われても文句は言えないということになりますね」

「いきなりなんだよ。今関係ないだろ。俺が奴隷になるわけでもないし……」

「いえいえ、私がありとあらゆる手を使えばあなたを奴隷に落とすことは簡単に出来ますよ。道具を使う側から使われる側になれば彼女の気持ちもわかって今のあなたの考えも変わるかもしれませんね」


 ニコリと笑いながら怖いことを言いますね……。おかげで冷静になりましたよ。男性もバエルの歪な笑顔に一歩後退りました。

 そして少しの沈黙の後、従魔激闘杯午後の部が始まるアナウンスが会場全体に響き渡りました。

 男性は何も言わずに私たちのもとから去りました。それを追うように魔物の少女も去ろうとしましたが──


「あっ、待ってください」


 私が呼びかけると魔物の少女は振り返ります。

 怪我をしたままでは辛いでしょうから『治療魔術』で彼女の怪我を治しました。


「カラダ……イタクナイ。カラダ、カルイ。ケガ、ナオッタ、アリガトウ」

「喋れるんですね。どういたしまして。その……本人の前で言うのもあれですが、あの人のところから逃げたいと思ったりしないんですか? あなたを殴ったりしようとする最低な人なんですよ?」


 そう聞くと彼女は首を横に振りました。


「ゴシュジン、ワタシ、ヒツヨウ。ワタシモ、ゴシュジン、ヒツヨウ。ダカラ、イッショ。モウ、イカナキャ。アリガトウ」


 彼女は急いで男性を追いかけました。

 彼女の後姿を見ると胸が締め付けられます。

 あの子はどんなに暴力を振るわれても主人のもとで生きることを選んだ。いや、それしか生き残れる道がなかった。

 何とか出来ないですかね。

 違います、何とかしなければいけない。彼女がそれを望まなくても、余計だと思われても、私はあんな不憫な扱いを受ける彼女を見過ごせません。

 テルフレアに滞在している間に彼女を救う方法、もしくはあの男性の考え方を変える方法を考えなければいけませんね。


「ところで、バエルが先程言っていたことですが本当に出来るんですか?」

「ええ、もちろん。リリィ様が望むならあの男を奴隷落ちにさせましょうか?」


 聞いてみただけですので、とりあえずそれは無しという方向でお願いしました。

活動報告にも書きましたが、


この度『聖魔女』書籍版第一巻の重版が決まりました!!


たくさんの方が手に取っていただき嬉しく思います。

かなりの加筆と書籍版特別の書き下ろし外伝などがありますのでまだ手にしていないけど興味のある方は是非ともよろしくお願いいたします!!

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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