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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第三章 従魔激闘杯&古の巨人復活編

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開幕 従魔激闘杯

 3日後。いよいよ従魔激闘杯が始まります。

 一時は席を買えず観戦できないなんてことになりましたが、ウォルフさんのおかげで無事に従魔激闘杯を最後まで観戦できるようになりました。本当に感謝の言葉でいっぱいです。

 しかしまあ、この3日間は充実していたというか大変だったというか……。

 午前中は日を追うごとに熱気が高まっているテルフレアを見て回り、屋敷に帰って夕食を食べた後ははウォルフさんやカリーナさんと従魔について語り合う。 

 楽しい事には変わりありませんが、特にお二人が少しばかり熱が入って夜遅くまで付き合わされていましたね。 


 そんなわけで大会当日の朝。

 日頃の夜更かしもあってかちょっとだけ寝すぎてしまいました。といっても、従魔激闘杯が始まるまでまだまだ時間がありますし特に問題ありません。

 いつもは早起きだけど今日は少しだけ多く寝てたな程度の話です。なのでウォルフさんやカリーナさんが悪いというわけではないです。

 それ以前に私が寝坊しそうになった時はバエルが起こしてくれるでしょうから心配することはありません。朝起きた時ずっと立っていたのか知りませんがベッドの横で待機していたのは驚きましたが……。


 支度を済ませると扉のノックが聞こえ、返事をするとフリオさんが朝食が出来たと呼びに来てくれました。

 フリオさんの案内で食堂に向かうとテーブルには朝食が並んでいました。

 貴族だからか朝食も豪華なんですよね。中でも焼きたてのパンは毎日食べたいと思えるぐらいフワフワで絶品です。

 そんな美味しそうに──実際美味しいんですけど──食べている私を見てバエルは何を思ったのか最近は厨房にお邪魔させてもらっているようです。何でも、私が気に入った様子だから作り方を伝授してもらっているとか。

 まあ邪魔になっていなければいいんですけど……。

 今日も私が目を覚ます前に厨房で色々と料理の研究をしていたみたいです。

 バエルがやりたいのであれば好きなようにやらせます。でも身につけた技術は果たしてお披露目できる日が来るのか、それは私にもわかりません。

 ちなみにウォルフさんやカリーナさんたちは準備の関係で既に屋敷を出発しているようです。なので朝食は私とバエルとタルトのみ。


 朝食を食べ終えるといい時間になったので私たちも屋敷を出発することにしました。

 フリオさんに闘技場まで送りますよと言われましたが、私はこの3日間テルフレアを見て回ったおかげで場所もある程度把握していますし、闘技場まで迷うことはありません。

 大丈夫ですと告げ、扉を開けて門の外へ。

 初めて会った時は少し怖いなと思った門番さん──"ドレファス"さんに「おはようございます。今日もお疲れ様です」と挨拶をすると


「……お気を付けて行ってきてください……」


 と返してくれました。

 前までは屋敷に帰ってきた時も「……どうぞ」と言って門を開けてくれたり軽く挨拶を交わすぐらいでした。

 でも今日はいつもと違って何だか嬉しい気持ちになりました。私のことを心配してくれたからですかね。

 ドレファスさんに見送られて私は闘技場へと向かいます。






 大会当日もあってか街中はかなり賑わっています。

 街中でこの感じだと闘技場周辺はもっと賑わっているでしょう。

 私の予想は的中していて闘技場周辺ではたくさんの屋台が出ていたり、従魔たちと一緒に芸をしてお客さんを集めたりしている人がいました。

 いいですね、これこそお祭りって感じがします。

 朝食を食べたばかりなのでお腹は空いていません。なので屋台に寄る必要は──ありますね。念のためタルトの分の食べ物を買っておきましょう。

 いつもたくさん食べるタルトです。ですが、タルトからしたら朝食は気持ち少なかったかなと思います。きっと途中でお腹が空いてしまうでしょう。そのまま放置するのは可哀そうですからね。

 従魔たちの芸は見たいですが、長居してしまいそうなので諦めます。時間がある時に見れたらいいな。


 さて、タルトの分の食べ物を買い終えた私はバエルとタルトと共にいよいよ闘技場の中へと入ります。

 そういえば、私はどうやってウォルフさんのいる場所へ行けばいいのでしょうか。運営さんに言っても信じてもらえるかわかりませんし……。

 こんなことなら最初からフリオさんに送ってもらうべきでした。フリオさんなら領主の屋敷に仕えている人物だと知られているだろうから説明すれば簡単に案内してくれる。

 かといって今更戻るのも時間がかかってしまいます。ウォルフさんも待っているだろうから心配しますよね。

 ここは一つ、話が伝わっていることを信じて運営さんに声をかけてみましょうか。

 運営さんを探して声をかけよう考えていたところ、前方からメイド服を着た方が私の方へ向かってきているのが見えました。

 

「リリィ様、こちらにいましたか」


 声をかけてくれたのは領主の屋敷に仕えるメイド長のミレーユさんです。会ったのは屋敷を訪れた翌日です。

 ちなみにミレーユさんはフリオさんと同年代の幼馴染だとか。もっと言えばお二人は24歳です。見た目から若いと思っていましたがその年で執事長とメイド長を任されるとは。

 屋敷の中にはもっと年上の執事やメイドがいました。その人たちからしたら少なからず不満はあるのではと思ったのですが、そんなことないようで皆さんお二人を自分たちのリーダーであると認めているみたいです。

 それにしても幼馴染で同じ職場。立場的にも同じ。なんだか運命を感じますね。

 恋愛の話とかそういうの期待してもいいのでは……。

 と思っていましたが別にそういう話はないようです。むしろ幼馴染で同じ立場だからこそライバル視しているそうです。特にミレーユさんが。

 

「遅かったので探していました。フリオと一緒に来なかったのですか?」

「ええ。闘技場なら一人でも行けるからと私が。ただ、やっぱり一緒に来た方が良かったなって思ってたところです。来たはいいもののウォルフさんのいる場所にどうやって行けばわからなくて。運営さんに言っても信じてもらえるかわからないじゃないですか」

「そこは多分大丈夫です。ウォルフ様がリリィ様の容姿を運営の皆様に伝えておりましたので」

「そうだったんですか」


 それなら最初から心配する必要なんてなかったんですね。


「けどフリオの奴、こうなることも想定できないのかしら、まったく……」

「あの、フリオさんのことは悪く言わないであげてください。もとはと言えば私が一人で行くって言ったのですから」

「しかし──いえ、リリィ様がそう仰るのであればこれ以上は止めておきましょう。それよりもウォルフ様のいる場所へご案内します」


 闘技場の中を進むと厳重に警備されている場所まで来ました。この先を進むとウォルフさんがいるようです。

 先に進むと闘技場の内側を一望できる場所に到着しました。

 壁際には兵士さんが何人か立っています。万が一、何かがあった時に対応できるようにいるのでしょう。

 そして用意された三つの席。

 一つはウォルフさんのもの。もう一つはウォルフさんの奥さんである"カトレア"さんという方の席。カリーナさんとそっくりで母親というよりは姉のように見えるほど若いです。カトレアさんとも何度かお話しています。

 残る一つは私の席ですね。

 こうしてみると貴族でもないただの冒険者の私がこのような大金を払っても立ち入ることが出来ない場所の席を使っていいのか不安になります。

 いや、ウォルフさんの提案でこの席を使うことが出来るんです。つまりウォルフさんの許可があって使わせてもらっている。ここは堂々としておきましょう。


「おお、来たね」

「本日はこのような席を用意していただきありがとうございます。それにしても、ここからの景色はすごいですね。戦う場所だけでなく観客もよく見えます。観客も満員ですね」

「ははっ、この大会は年に一度しか開かれないからね。これを見るために地方からやってくる者もいるぐらいだ。そして参加者も、ね。まだ見たことない従魔が出場するかもしれないと思うと私も楽しみで仕方ないよ」

「あらあら、あなたったら。まだ大会は始まっていないのよ。リリィさんも楽しんでいってくださいね」

「はい。私も今からすごく楽しみです」

「ところでリリィさん。大会が始まる前に一つお願いしたいことがあるんだが聞いてくれるかな?」

「何でしょうか」

「実は──」


 ウォルフさんのお願いですが、大会を今以上に盛り上げるために力を貸してほしいとのことでした。

 予定にないことをいきなりやっても大丈夫なのかと聞くと、引き受けてくれた時と断られた時、どちらでも進行できるように準備は済ませてあると。用意周到とはこのことですね。

 私はウォルフさんのお願いを引き受けました。

 引き受けると答えるとウォルフさんは「リリィさんを利用する形ですまない」と謝ってくれましたが、それで大会が一層盛り上がるのであれば迷わず力を貸します。そうと決まれば準備しなければいけませんね。





 


 私の準備が終わると同時に大会の方の準備も終わったようです。

 現在会場では大会のルールが説明されています。

 従魔激闘杯では基本的に従魔同士の戦いになります。

 主人もその場にいることは可能ですが戦闘の参加は原則禁止です。でも従魔を強化する補助系の魔術のみ使用が認められています。

 ただし、魔術を使用するかは参加登録前に問われ、申告せずに補助系の魔術を使用した場合は失格扱いになります。ちなみに使用する場合は魔術込みで参加できる階級が決まるそうです。まあそうでなければ公平ではないですからね。


 説明はだいたいこんなところです。 

 次に聞こえたのはウォルフさんの声。拡声器の魔道具を用いて観客や参加者に話をします。そして私の出番も近づいてきています。


『既に知っている者の方が多いだろうが改めて自己紹介をしよう。私がこの街の領主であるウォルフ・ストラウスだ。今日から5日間、この街の一大イベントである従魔激闘杯が開催される。まずはこうして無事に開催できたこと嬉しく思う。私も観客の一人として楽しませてもらうよ。そして控室にいる参加者諸君。この大会に初めて参加する者もいれば、前回も参加したがその時よりも従魔の強さに磨きをかけた者もいるだろう。是非とも私や観客たちに君たちが愛して育てた従魔の力を見せてほしい』

 

 ここに居ても聞こえるぐらい会場では大きな拍手が起きています。

 えっ、さっきから私は何処にいるのか?

 実は闘技場の入場口に待機しています。そろそろお呼びがかかる頃ですかね。


『それともう一つ。今回は特別ゲストを呼んでいる。もしかしたらほとんどの者は知っているかもしれない。彼女は少し前にこのテルフレアを訪れ、皆に感動を与えただろう。かくいう私もかつてないほどに感動した。まさかドラゴンをこの目で見られるとは思わなかった。ここまで言えばわかるだろう。それでは紹介しよう。ドラゴンを従えし者、リリィ・オーランドだ!!』


 ウォルフさんの言葉を聞き終えて私は入場します。

 観客席にいる人が一斉に私の方を見ています。

 言うまでもないですがすごい視線の数です。この場にグラがいたら恥ずかしくて私の後ろに顔を隠しそうですね。

 私は何と言うか恥ずかしいとは思わなかったです。いえ、視線が集まり過ぎて逆に恥ずかしいという感情がなくなってしまったのかもしれませんね。

 さて、せっかくウォルフさんの演説で会場が熱気に包まれたのに何もしないままだと冷めてしまいます。まあお願いを引き受けたのですから盛り上げないわけにはいかないですよね。

 まずは──


「タルト!!」


 タルトに呼びかけるといつもの大きさから本来の大きさへ姿を変えました。

 これには観客席にいる人たちも「おおっー!!」と声を出して驚いています。何だったらウォルフさんも身を乗り出しています。そういえば見せるのは初めてでしたね。

 これだけでも十分かと思いますが、やるならとことんです。とことんやってこの会場を大いに盛り上げてみせましょう。

 私は魔術を使って会場を盛り上げます。

 最近は魔術を使う機会がなかったので大盤振る舞いです。

 とりあえず観客席にいる人が楽しめることを思いつく限りやりました。

 ただ、時間が押してしまうと進行に支障が出るのでいいところで切り上げます。

 これはあくまでも大会がメインです。それにここまで盛り上がれば私も十分役目を果たしたでしょう。

 私は観客の皆さんに一礼してこの場から去ります。


 入場口に戻ろうとするとそこにはバエルがいました。

 ウォルフさんは例外として、バエルは最上級悪魔なのでそれを公言してしまうと観客は興味より恐怖が勝ってしまうかもと思ったので今回は待機してもらっていました。


「リリィ様、タルト殿、お疲れ様です」

「ごめんなさい。バエルも一緒に出来たら良かったんですけど」

「いえいえ、お気になさらず。それに私が加わってはリリィ様の素晴らしい演技を邪魔してしまう恐れがあります。私も観客として見たかったので満足しています」


 そしてウォルフさんの所へ戻ると真っ先にウォルフさんから感謝の言葉を送られました。

 大会を盛り上げたこともそうですが、どちらかと言えば成体になったタルトの姿を見れたことに感謝していた気がします。

 私はお願いされたことを実行しただけなんですけどね。でも観客もウォルフさんも満足してもらえたので良かったです。

 さあ、私の役目も無事に終わったことです。ここからは従魔激闘杯を楽しむことにしましょう。 

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