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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第三章 従魔激闘杯&古の巨人復活編

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領主の屋敷

寝落ちしそうなのでいつもより更新早いです。

 あれから真っ直ぐに領主の屋敷へは向かわず、カリーナさんの案内のもと、少し寄り道をしながら街中を見て回っています。

 早めに行って観客席のことなど話しておいた方がいいのではと思いましたが、途中で屋敷の使用人さんに見つかり、その時に今回のことを領主さんに伝えるようにとカリーナさんが頼んでいました。

 カリーナさんは「父が断る理由はまずないだろう」と言っていました。むしろ私を歓迎してくれると。

 私たちの話は結構広まっているらしいです。カリーナさんの耳にも入っていることは当然領主さんの耳にも入っている。

 あとはわかりますよね。

 滅多にお目にかかれないドラゴンを連れた旅人がやってくる。そんなの見たいに決まっているではないかと。


 自分の娘が勝手に話を進めていても問題ない。それよりもドラゴンと逢わせてくれる機会を作ってくれて感謝するだろう。


 そうカリーナさんは言っていました。

 そんな簡単に上手くいくのかなと私は思いました。

 でも魔物と共存できる街の領主さん。当然のことながら魔物が好きなのでしょう。そうでなければ今のテルフレアはないでしょうし、多分大丈夫ですね。

 夕食をご馳走してくれるそうですが、その後は泊っていっても構わない。むしろ従魔激闘杯が終わるまで泊っていって色々話を聞かせてほしいと言われています。

 そこまでお世話になるつもりはなかったですし、領主さんもそこまで許可を出すのかどうか。

 しかしカリーナさんは絶対的な自信を持っていました。「父のことなら大丈夫。父もリリィさんのお話を聞きたいはずです!」と。

 自信満々に言われてしまうと私も大丈夫のように思えてきました。

 カリーナさんと関係を持てたのはタルトのおかげですね。感謝しなければいけないです。


「リリィさん、向こうに美味しいケーキを出しているお店があるのですが行ってみませんか?」


 案内の途中でカリーナさんに提案されました。

 時間的にも小腹が空いてきたところです。そして、実は甘いものが食べたい気分でもありました。これはもう行くしかないでしょう。

 そのお店は砂糖やフルーツをふんだんに使ったケーキが人気だそうです。ちょっと価格はお高めですが、頑張ったご褒美に買う人も多いとか。

 昔の私ではお財布と相談して買うかどうか考えるところ。でも今はお金に余裕があるので気にしなくても大丈夫です。

 提案したのは自分だからとカリーナさんに奢ってもらうところでしたが、何でもかんでもお世話になるわけにはいきません。

 自分の分は自分で払います。それに、グラはともかくタルトがどのぐらい食べるかわかりませんし、かなりの額になったら流石にカリーナさんに払わせるにはいかないといいますか……。


「では、その美味しいケーキがあるお店に──」

 

 誰かに見られている?

 ふと視線を感じました。

 今までとは違う感じです。

 珍しいタルトを遠くから見ている人たちの視線はあまり気になりませんでした。別に不快感を感じていたわけでもないので。

 でも今回は違います。考えすぎかなとも思いましたが、何だが鳥肌が立つような視線を感じます。はっきり言ってしまうと気持ち悪いです。

 視線を送っているのは誰か確かめようと振り返ってみました。でもそれらしき人物は見当たらない。気持ち悪いと感じた視線も途端になくなりました。

 気のせい……だったのかな? 絶対に誰かが見ていると思ったんですけど……。 




 


 カリーナさんがオススメしていたお店のケーキは最高でした。

 甘いものは人を幸せにしますよ、本当に。

 タルトもグラも満足そうにしていたので良かったです。楽しく美味しくケーキを食べれて私も満足です。

 ケーキを食べている時も先程の視線を感じるかなと思っていたんですが、最後まで気持ち悪い視線を感じることはありませんでした。

 どうやら本当に気のせいだったみたいですね。自分では気づかなかっただけで疲れていたのかもしれません。

 ですが、甘いものを食べて一気に回復。幸せな気分にもなれたし疲れも吹き飛びましたよ。


 ケーキを食べ終えた私たちはもう少しだけ観光を続けて時刻は夕暮れ時。

 夜は夜で案内したいところもあるそうですが、一度屋敷に帰らないと親御さんが心配します。

 いくら大人だからといって一人で夜道を歩くのは危険です。まあ街灯もぽつぽつと灯り始めているので真っ暗になるというわけではないですが……。

 それでもカリーナさんは領主の娘というテルフレアでは有名で立場的にも偉い人。何かあっては遅いです。

 ただまあ、闇に紛れてカリーナさんを拉致しようとする輩が居てもここには私とタルト、グラの三人がいますからね。拉致できるものならやってみてくださいよ、って感じです。


「リリィさん。色々と連れ回してしまって遅くなりましたがここが我が家です」 

「いえ、案内してほしいと頼んだのは私の方なので気にしないでください。それよりも、ご家族の方々が心配してないといいですが……」

「大丈夫ですよ。私にはとっておきの護衛がいますから。父や母もそれを知った上で一人での外出を許可しています」


 この場にはいないようですが、とっておきの護衛というのはカリーナさんの従魔ってことですかね。

 カリーナさんほどの偉い方なら本人が不要と言おうが護衛の一人や二人同行させるはず。そうしないということはカリーナさんの従魔はかなりの強さであると考えるのが妥当ですね。 

 それにしても、流石は領主の屋敷だけあって建物は大きいです。従魔と遊ぶには十分なほどの広い庭もあります。

 門番さんは事前に私が来ると伝えられていたようで疑われることなく門を開けてくれました。この門番さん、ちょっと目つきが鋭くて怖いなと思っていたのでドキドキでした。目つきの鋭さも門番を任された理由かもしれませんね。

 

「彼、少し目つきが怖いですよね。しかも寡黙な方ですので余計怖さが増していると言いますか。私も慣れるまではちょっと怖かったです。でも任された仕事をしっかりやっている真面目な人なんですよ。それに気配りが出来て優しい人です」


 確かにあの門番はちょっとだけ怖いですけど、それ以上に優しい方だと思いました。なんて言うんですかね、そういう雰囲気が出ているというか。自分でもよくわかりませんがそう感じましたね。

 

 敷地内を進み、カリーナさんが大きな扉を開けると如何にも仕事が出来そうな雰囲気が出ている執事服を着た男性が出迎えてくれました。


「おかえりなさいませ、カリーナ様。そちらはお客人ですね?」

「ええ。彼女はリリィ・オーランドさんと言います」

「リリィ様、ようこそお越しくださいました。私、この屋敷の執事長を務めております"フリオ"と申します。以後お見知りおきを」

「こちらこそよろしくお願いします」

「他にも私とは別にメイド長の"ミレーユ"という者もおりますが、紹介は彼女本人からの方がいいと思いますので後ほど。カリーナ様、夕食までもうしばらくお時間がありますが如何なさいますか?」

「そろそろ仕事も終わる頃だと思いますし、父にリリィさんを紹介しようかと。お願いしたいこともありますからね」

「かしこまりました。では私もお供します」


 フリオさんに案内され、一つの扉の前まで来ました。 

 扉をノックすると「入れ」と返事が来たのでフリオさんが扉を開けて私たちを先に部屋の中へ入れてくれます。

 部屋の中には一人の男性が椅子に座って仕事をしていました。机には紙の束がいくつか纏まってありますね。


「お父様、ただいま帰りました。その……まだお仕事中でしたか?」

「気にすることないさ。仕事といってもこれを片付けたら終わるところだったからね。それよりおかえり。闘技場はどうだった?」

「大会前だというのにすごく盛り上がっていました! 他にも強そうな従魔や可愛い従魔などたくさん見れて楽しかったですよ」

「それは良かった。ところで、カリーナの横にいる子が話で聞いていた子かな? 私はカリーナの父でテルフレアの領主でもある"ウォルフ・ストラウス"という。一応子爵だがここは公の場でもないし、何より君は客人だ。あまり気にしなくていいよ」

「そ、そういうことなら……。初めまして。私、リリィ・オーランドと申します。この度はお招きいただきありがとうございます」


 駄目です。普段からこういう風な喋り方なので畏まった挨拶になってしまいます。これにはウォルフさんも苦笑い。

 

「まあ気にしなくていいと言われても気にするか。私の言葉など無視してリリィさんの話しやすい感じで構わないよ。それで、話はだいたい聞いているよ。すまなかったね、うちの娘が我が儘を言ったせいで大会の観客席の予約が出来なかったとか」

「私からも改めて謝罪します。本当に申し訳ないです。そしてお父様。本来であれば私のせいですので私がどうにかしないといけないことはわかっています。ですが、今の私に出来ることはお父様に頼むことしかありません。どうにかリリィさんに席を用意できないでしょうか」

「いいよ。というかリリィさんの前で無理なんて言えないしね」

「ありがとうございます!!」

 

 なんか話が勝手に進んでいましたが、こんなにあっさり決めていいものなんですか? 

 もっと観客席の空きが出る予定がないかとか色々調べたりしてから決まるものだと思っていたので驚いています。


「ただ、毎年行われる従魔激闘杯は既に人気行事になっている。当日何らかの事情で席に空きが出たとしてもすぐに買われてしまうだろう。ということで提案なんだが、闘技場には貴族などが利用する席の他に領主とその関係者しか利用できない特別な場所がある。リリィさんさえ良ければそこを使わないかい? 一般席と違って落ち着いて試合を観戦できるよ」

「そ、それはすごく嬉しいんですが本当にいいんですか?」

「私が運営に言えば席の一つや二つ増やせるし大丈夫。逆に一般席を用意する方が難しい」


 ウォルフさんがそう言うのであればここは甘えましょうか。

 

「ではお願いします」

「うん。明日にでも運営に連絡しておくよ。さて、席の件も解決したし──」

 

 ウォルフさんが立ち上がると私の前まで来ました。

 そして──


「リリィさんの連れている従魔、ドラゴンだよね!? カリーナはドラゴンを連れた人が来たから探してくると言っていたが、私は仕事に追われて行くことができなかった。私だってすぐに見たかったのに……。でもカリーナがリリィさんを連れてきてくれた。こう言ってしまうと確実にリリィさんの気分を害してしまうだろうが、カリーナにはドラゴンを間近に見られる機会を作ってくれて感謝している。そしてカリーナの顔を見ればわかる。思う存分触らせてもらったんだろ? 私にも是非その子を触らせてもらえないだろうか」


 本当にカリーナさんの言った通りになりましたね。

 気分を害してしまうとウォルフさんは言っていましたが別に私は気にしていませんし、あの時カリーナさんが私に声をかけてくれなかったら出会うこともありませんでした。

 それよりもウォルフさんが必死に頼む姿……カリーナさんとそっくりです。流石は親子と言ったところでしょう。


「タルト、ウォルフさんもあなたのことをなでなでしたいって」

「キュゥ……」


 おや、どうやら乗り気じゃないみたいです。カリーナさんの時は喜んでいったのに。

 ああそうか。乗り気じゃない理由がわかりました。

 タルトも女の子です。異性に体を触られるのは抵抗があるのでしょう。私だってべたべた触られるのは嫌ですから。

 しかし、今後もお世話になる身。少しでも恩を返したいところなのでタルトに無理を言って頭だけ撫でてもらう方向になりました。

 ウォルフさんは満足しないかと思いましたが、頭を撫でるだけで滅茶苦茶満足していました。「もう思い残すことはない」とか言ってました。いや、タルトの頭を撫でられただけで死なないでくださいよ!?

 

「リリィさん。貴重な体験をありがとう」


 それもカリーナさんが言っていた気がします。やっぱり親子は似るものですね。


「いえ、満足していただけて何よりです」

「従魔激闘杯が終わるまでは自分の家のようにくつろいでくれて構わないからね。あとでフリオかミレーユに客室へ案内させるように言っておこう。まだまだ聞きたいことがたくさんあるがそろそろ夕食の時間だ。一緒に食堂の方へ──」


 すると突然私の横に魔法陣が浮かび上がり、私の従者が歩いて悪魔界からこちらの世界へ戻ってきました。そして彼は私の前で跪きました。


「リリィ様、この度は申し訳ございません。『機神の塔』での失態、このバエル深く反省しております。ですがあの日の失態を繰り返さぬよう依り代の改良も終え、少しばかり修行もしてきました。まだまだ未熟者ではありますが今後ともよろしくお願いいたします」

 

 いやまあ、無事に戻ってきてくれるのは嬉しいんですが、世の中にはタイミングというものがありましてね。

 ウォルフさんも突然のバエル登場で驚いているじゃないですか。


「ところでこの御方は?」

「ウォルフさんと言ってしばらくお世話になるこの街の領主さんです」

「それはそれは。では挨拶しないといけませんね。ウォルフ殿、初めまして。私リリィ様に仕える従魔が一体、バエルと申します」

「まさか悪魔族……? しかもこの感じ……。私も何度か悪魔族を見てきたがそれでも上級悪魔まで。しかし、この悪魔族はそれ以上の……」

「おや、見る目がありますね。お察しの通り私は最上級悪魔の部類に入ります。何でしたらそこにいるグラシャラボラスも最上級悪魔の一柱(ひとり)です。しかし私にとって種族などどうでもいいこと。リリィ様の側に仕え至福の時を過ごすこと、それこそが一番大切なことですから」


 後半部分など聞いておらず、最上級悪魔という事実を知ったウォルフさんは俯いてしまいました。

 しかしすぐに顔を上げ、興奮気味で私に迫ってきました。


「リリィさん! 夕食の後で構わない。是非とも! 彼らのことについてもお話ししてほしい! 彼との出会いとかすごく興味がある」

「わ、私もお願いします!」


 この勢いで迫られて断ることも出来ず了承してしまう私でした。




「そうだ、グラシャラボラス。ご馳走を振舞っていただいた後、あなたは一度悪魔界へ帰りなさい」


 えっ、バエル。唐突に何を言い出すんですか。

 いきなりそんなこと言われてグラも困惑していますよ


「も、もしかして、バエル様が戻ってきたから私はもういらないのですか……?」

「何を言っているんですか。あなたはリリィ様に必要な存在です」

「ならどうして……」

「まだ先ですが残る悪魔たちもこちらにやってきます。彼らには私が造った最高傑作の依り代を与えています。にもかかわらず、あなただけ周りより劣った依り代というわけにはいかないでしょう。あなたの分も用意したのでそれに変えて慣れておきなさい。あと武器も新調しておきました。きっと気に入ると思いますよ」


 なんだ、ただ優しいだけですか。

 唐突に言うから私もびっくりしましたよ。

 でもそうですか。残る悪魔たちもこちらに来る。

 楽しみでもあり不安でもあります。彼らはバエルと違って私に忠誠を誓うのかわかりませんから。いきなり襲い掛かってくる可能性もあったり?

 まあとりあえずその時が来る日を待ちましょう。

本日いよいよ書籍第一巻が発売されました。


色々と書きたいところですが長くなりそうなので活動報告に書籍化した時の気持ちとか書いています。時間があれば覗いてみてください。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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