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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第三章 従魔激闘杯&古の巨人復活編

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従魔集う街 テルフレア

 本来の大きさのタルトのまま街の出入口前に降りると騒ぎになると思うので、毎度のことながら人目につかない離れた場所に着陸します。 

 そこから少し歩いてテルフレアに到着。

 私はデオンザールを知らないので彼の気配を感じることはできません。

 この中で唯一知っているバエルもこの場にはいません。彼のいる悪魔界からデオンザールの気配を感じ取ることはできないでしょう。

 ですが僅かな希望に賭けてバエルにデオンザールの気配を感じないか念話にて確認してみました。私の予想ではそれ以前に感知できないと答えてくるだろうと。

 しがしながら、思わぬ返答がバエルからきました。


(私としては複雑な気持ちですが、デオンザールはテルフレア内にはいませんね。彼の気配はここよりもう少し離れた場所から感じます)


 どうやらバエルは私の体を通して他者の気配を感じ取ることが出来るようです。

 もう何でも出来ますね。バエルに頼めばある程度のことはどうにかしてくれそうです。もしかしたら常識の範疇を軽々超えるとんでもないことだってやってしまうかも。

 まあ流石にバエルにも自重というものがあるはずです。私が呆れてものも言えないようなことはやらないでしょう、絶対に。

 ……大丈夫、ですよね? 

 なんか考えれば考えるほど何かやらかすのではないかと不安になってきます。

 いやいや。信頼できる従魔を疑ってはいけません。バエルにだって常識はある。ここはバエルを信じましょう。

 

 デオンザールがテルフレアにいなくとも気配は強くなっているらしいので、まずはそちらの方を優先すべきかなと思いました。

 しかし、案の定バエルは反対。場所は何となくわかるから後回しにして構いませんとのこと。それよりも私にはテルフレアの街を楽しんでもらいたいと言ってました。

 正直悩みましたが街の中を観光したいのも事実です。まあ多少時間がかかってもデオンザールは待ってくれるでしょう。


 そういうわけでデオンザールには悪いなと思いつつ、テルフレアへ入るべく入門審査を行っている列に並びます。

 この入門審査を経てテルフレアに入れますが、列に並ぶ前に気付いたんですけど従魔を連れている人が多いです。それなりに並んでいる人はいますが半分近くは従魔連れですね。

 多くの街を巡ったわけではないのでわかりませんが、ここまで多いのは珍しいと思います。

 噂では同じ大陸に魔物を敵視するマリアオベイルという国があるみたいです。

 従魔も魔物と判断し、最悪その魔物を処分するとか。  

 魔物を敵視する国があるというのにこれだけの従魔──この感じだと街中も従魔連れが多いでしょう──が集まって大丈夫なんでしょうか。いや、大丈夫だからこうして従魔を連れている人が多いのかな。


 そんなことを考えていると私の番がやってきました。

 入門審査には身分を証明できるものを提示しなければいけません。

 ですが私には冒険者ライセンスがあります。つまり身分を証明できる。

 証明できるものがなければ別室で審査が待っていますからね。質問やら犯罪歴がないかとか色々調べられて時間がかかります。

 とても大事なことだとは理解していますが、出来ることなら短時間で済ませたいところ。まあ私にはもう冒険者ライセンスがあるのでそんなこと考える必要はありません。

 後ろにはテルフレアに入ろうと多くに人が並んでいますからね。早く確認してもらって私も中に入りましょう。

 私は冒険者ライセンスを門を警備する兵士さんに渡します。

 さあ、これでテルフレアに入れる──と思いましたが、様子が変ですね。兵士さんは驚いていました。


 もしかして知らぬ間に大きな罪を犯していた?


 でも思い当たる節はありません。

 あっ、そういえば冒険者ライセンスに書いてある私のステータス。

 兵士さんが驚く理由が多分わかりました。私のステータスを見てしまったからでしょう。あんなステータスはなかなかお目にかかる機会はないと思います。

 こればかりは仕方ありませんね。ステータスを表示させる際は細工を施すことも可能ですが、冒険者ライセンスを通してステータスを見る時はどうしようもありません。そもそも冒険者ライセンスに書かれたステータスを勝手に書き換えるのは禁止されています。

 それに、これはステータス関係ではないですが、列に並んでいる最中に後ろの方で何やらひそひそと話している声が聞こえたんですよね。

 自意識過剰かと思いましたが間違いなく私たちの話でした。いえ、厳密に言うとタルトとグラのことですね。

 彼らの会話を思い出してみます。


『なあ、やっぱりあれってドラゴンなんじゃ?』

『幼体に見えるがあの感じは間違いないと思う。見た感じワイバーンってわけでもなさそうだからな』

『それにもう一人の方。悪魔っぽい角も頭から生えてるし悪魔族じゃないか? しかもかなり階級が上の方に見える。最上級……は流石にないと思うけど上級ぐらいまではあると思う』 


 あぁ……これは言うまでもなくやらかしましたかね。

 魔物を従える人たちですからそれ以外の人たちより知識があるのでしょう。

 ドラゴンを従えるのは珍しいのか。それは彼らの──というか周りの反応から見てわかりました。確かに色々な種類の従魔を見ましたがドラゴンはいませんでした。居ても小型のワイバーンぐらい。

 あと流石にないと思われたそうですが、流石にあったんですよ、これが。

 うちのグラは最上級悪魔。何らなもう一人いますし、更に三人増える予定です。


 うん、理解しました。私はどうやら常識外れのようです。

 いや、前々から少し思っていましたよ。私と同等もしくはそれを超えるステータスを持っている人なんてごく僅かですし。エルトリアさんとロザリーさんしか知りませんからね。

 従魔だってびっくりするぐらい強い。私なんか戦闘に出なくても彼らに任せれば勝手に終了している。おそらく今後はもっと楽することになる。

 

 しかし、実力は別に隠すことでもないかと思います。エルトリアさんも隠す必要はないと言っていましたし。

 自分や従魔が強いことをいいことに威張り散らすのは如何なものかと思いますが、そんなことしなければ視線は集まれど不快感は与えないはず。

 変に絡んでくる人も少なくなるでしょう。中には相手の実力も測れず絡んでくる人もいますが、そういう人はちょっとお馬鹿なだけです。


 ところで、私はいつまで待っていればいいのでしょうか。

 冒険者ライセンスを返してもらってそろそろ街の中に入りたいのですが──


「あの……」

「あっ。し、失礼しました。こちらお返しします。犯罪経歴などないか確認しましたが特に問題はありませんでした。ようこそ、テルフレアへ」

「ありがとうございます」


 そう言ってテルフレアの門を通ります。

 何だか他の人と違って随分と丁寧に歓迎されましたが、これもステータスのおかげということであまり気にしないで行きましょう。

 ただ個人的には私以外の人にも丁寧に歓迎した方がいいかなと思いましたね。ああでも、雑にやっているわけではありませんでしたよ。ちゃんと仕事はしていましたから。


 さて、門をくぐり抜けてテルフレアの中にやってきました。

 やはり新しい街を訪れるのはいいですね。アルファモンスほどの広さはありませんがそれでも十分活気が溢れています。

 テルフレアでの生活も楽しくなりそうです。

 それで、この街に入って一番に目立つのは従魔連れの多さ。

 列に並んでいる時から予想していましたが当たっていたようです。

 まるで人と魔物が共存する街。

 普通ならあり得ないと思いますが今私の前にはその光景が広がっている。こういう街があるのもいいですね。

 

 まず新しい街へ来たからには観光しないと。

 そう思った私はタルトとグラと共にテルフレアの街中を進みます。

 相変わらず見られていますね。特に従魔連れから。余程タルトとグラが珍しいのでしょう。

 何と言いますか、多分見ているのは私ではないと思いますけど、たくさんの人から見られるのは落ち着きませんね。

 だからといってタルトとグラを別空間へ戻し、必要な時だけ召喚するというのはやりたくありません。

 理由はただ一つ。一人になるのが嫌だから!!

 というわけで、いつも通りこのままでいきます。


「たくさんの人から見られていますね……」

「大丈夫ですか?」


 一人になるのは嫌ですが私も鬼ではありません。

 グラが不快と感じるならば悪魔界か別空間に戻って召喚するまで待機してもらっても構いませんが──


「大丈夫です。少し恥ずかしいですがバエル様からリリィ様を御守りするように仰せつかったのでその命を放棄するわけにはいきません!!」 

「そ、そうですか。でも無理しないでくださいね」

「し、心配していただきありがとうございます!!」

 

 ぺこりと私に頭を下げるグラ。

 しばらく一緒に生活して思ったんですけど、私相手に緊張しっぱなしと言いますか。もっと楽にしてもらっていいんですけどね。

 無礼を働いたからといって罰するわけでもないですし。むしろフレンドリーな感じで来てもらっていいのに。

 でも今になってグラがフレンドリーな感じで来るのは違和感があるかも。今の彼女だから愛らしさがある。

 私の前だからといって緊張せずに楽にしてほしい。そう思いつつも心の何処かでは今のままでいてほしい。

 まったく、難しいものですよ。まあ決めるのはグラですし、彼女が決めたことに私が口出しする権利はないですね。




 観光を続けていた私たちですが、今まで休むことなく歩き続けたせいもあってお腹が空いてきました。

 時間も昼近くなのでそろそろお昼ごはんにしますかね。

 と、思う前に私たちは屋台がたくさん並んでいる通りに足を運んでいました。

 どうやらこの通りからする良い匂いが私たち引き寄せたみたいですね。

 お店の中に入ってご飯を食べるのもいいですが、こういう食べ歩きは街を見ながら色々なものを食べられるので好きです。

 屋台通りを進み、気になったものや美味しそうなものを探します。

 私の胃袋にも限界があるので食べたいものを厳選しないといけません。こういう時、タルトの胃袋が羨ましいです。


「そこの可愛いお嬢ちゃん! 腹が減ったならうちの串焼きはどうだい? 一口食べれば口いっぱいに肉汁が溢れる一品だぜ! うまさはおじさんが保証してやる。まずかったらお金は全額返してやるぞ。気に入って買ってくれたらおまけもしてやろう!!」


 屋台通りを見て回りながら食べたいものを探してるとおじさんに声をかけられました。

 串焼きですか。他の食べ物も食べたい気もしますが、まずはガッツリ肉というのもいいですね。何よりタルトが涎を垂らしながら串焼きの屋台を見つめています。

 おじさんに声をかけられて反応しましたし、うちのタルトが肉をご所望のようなのでこれはもう行かなければいけませんね。

 ですが、私は串焼き──いえ、焼いた肉に関しては辛口評価をしますよ。これでも私はオルフェノク地下大迷宮で生活した3年間、食事はほとんど自分で焼いた肉ですからね。それなりに腕は磨かれています。

 美味しいかまずいか、その勝負受けて立ちましょう。

 冷静になると自分でもなんで張り合っているのかわかりません。でも、こういうノリも時には大切だと私は思いますね。


「ではおじさん。ご自慢の串焼きを人数分お願いします」

「り、リリィ様!? 私の分は別に──」


 言い切る前にグラのお腹から大きな音が聞こえました。

 悪魔族もお腹は空くみたいですね。一緒に食べられないのは寂しいですから良かったです。


「はっはっは! ちょっと待ってな。そっちの腹空かせたお嬢ちゃんのためにも急いで焼いてやるから」

「急ぎ過ぎて中まで焼けていないっていうのは無しですよ」

「安心しな。おじさんはプロだからそんな初歩的なミスはしねぇよ」


 そしておじさんは串に刺さった肉を焼いていきます。

 肉を焼いた時に出る匂いが食欲をそそりますね。余計お腹が空いてきます。

 私もお腹の音が鳴らないように我慢し続けると焼きあがったようでおじさんが串焼きを三本渡してくれました。

 では、実食です。

 出来立てアツアツの串焼きを一口。

 衝撃が走りました。

 一回噛むだけでほろほろになる肉。筋もしっかり切られていて硬い部分など一切ありません。

 そして噛めば噛むほど溢れる肉汁。熱くて火傷しそうになりますが肉のうまみが口いっぱいに広がって幸せです。

 味もしつこくなくて何本も食べれてしまいそう。

 認めざるを得ません。私の負け、そしておじさんが肉焼きのプロであることを。いやまあ、わかりきっていたことではありますけどね。


「どうだい? うまいだろ」

「はい、とっても。追加で何本か頼みたいんですが……」

「おう。何本だ?」

「それじゃあ、15本ほど」

「そんなにか? 買ってくれるのは嬉しいがそんなに食べれるのか?」

「大丈夫ですよ」

「ならいいが。わかった、ちょっと時間がかかるから待ってろ」


 確かに15本は多いかもしれません。でもこのほとんどはタルトの分です。私はあと一本食べれば十分です。それ以上は他のものが食べられなくなりますから。

 それにしても、タルトが気にいるほどの美味しさ。

 私も美味しいと認めましたが、私の焼く肉を美味しそうに食べていたタルトが私以外が焼いたを気に入るなんてなんだか複雑な気持ちですね。

 この串焼きに負けないようにしよう。そう心に誓う私でした。 

 

 焼きあがるまで待っている私たちでしたが、後ろの方に気配を感じました。

 振り返ってみるとそこには大きな箱を持った魔物──多分ゴーレムですね。そのゴーレムが私たちを見つめていました。


「おお、帰ってきたか」

「知り合いですか?」

「ああ、俺の──というよりかは俺のじいちゃんの従魔だ。もうじいちゃんはいねぇが、俺が子供の時から遊んでくれたりしてな。今ではこうして肉の仕入れとか手伝いをしてくれてる。無口だが優しい奴なんだよ」


 おじさんは笑ってそう言いました。

 この子のこと好きなんですね、とおじさんに聞いてみると「そ、そんな恥ずかしい事聞くんじゃねぇ!」と照れながら答えてくれました。

 けど、小声で「まあ、そうだけどよ……」と言っていたことを私は聞き逃しませんでしたよ。


「ほら、出来たぜ。おまけで20本にしておいたからな。たくさん食えよ」

 

 代金を渡して入れ物に入った串焼きを受け取ります。

 タルトはアツアツを食べたいようだったので一本渡しておきましょう。グラにも食べるか聞くと遠慮しながらも一本持っていきました。グラも気に入ったみたいですね。


「そうだお嬢ちゃん。お嬢ちゃんは別の街から来たんだろ? 俺は何年もこの街に住んでいるがお嬢ちゃんみたいな子は見たことないからな」

「はい、先程この街に来たばかりです」

「なら、この通りをまっすぐ進むと闘技場が見える。この街に来たんだから一度見てみるのもいいんじゃねぇか。結構大きな場所だからすぐにわかると思うぜ。それに、近々従魔がメインの大きな大会が開かれるんだ。自信があるなら出てみたらどうだ? そん時は応援するからよ」

「面白そうですね。わかりました。ちょっと行って見てきますね」

「おう。じゃあ元気でな」


 おじさんに別れを告げて、次は闘技場を目指しましょう。


「あっ、そうだ! お嬢ちゃん、ここ最近従魔が行方不明になる事件が多いんだ。誰かに誘拐された可能性が高いらしい。特にドラゴンなんて珍しいからお嬢ちゃん気を付けるんだぞ!」


 実はここに来るまで何度か兵士さんとすれ違っています。

 私は従魔が何かのきっかけで制御不能になって取り押さえるためにいるのかなと思っていました。でもそういう理由で巡回して警備を強化しているのかもしれませんね。

 とにかく私も気をつけましょう。タルトが誰かに誘拐されるなんて考えられませんけど。この子なら返り討ちにするでしょうし。

 それでも教えてくれたおじさんに感謝して私は闘技場へと向かいます

少しだけ書籍版の告知を。

書籍第一巻ですが、都心の方では既に書店に並んでいるそうです。

このご時世ですのでなかなか外出する機会がないと思います。

それでも、もし書店を訪れる機会があって『聖魔女』第一巻を見かけたら手にしていただけるとすごく嬉しいです。

また、Amazonさんでも予約はまだ行っています。「書店に行けないよ」という方はそちらで予約することも可能です。


今後ともWEB版、書籍版共々応援よろしくお願いいたします。

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