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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
外伝 エルトリアの過去

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ボロボロの本

「何じゃ、これは……?」


 図書館にて気になる本を見つけたエルトリア。その後、彼女は自分の部屋に戻り、専属メイドのレナには「まだ読んでいる途中の本もあるのでほどほどにしてください」と注意されたため持っていける本は数冊だけになったが、エルトリアはその本を自室で読んでいた。

 まず読もうとページを開いたのはボロボロの本。

 不思議と持って帰って読まないといけないと思った本だ。この本だけは他と何か違う……異様な雰囲気を感じ取ることができる。

 正直不気味とも感じた。このままページを開かずに明日元の場所に戻しに行こうとも考えた。しかしそうした場合、後々気になってしまうだろう。

 だからもう迷わず見てしまえとエルトリアはページを開き、書かれている内容を見た結果が──


「まったく読めん……なんて書かれているんじゃ、これ?」


 見たことない文字だった。

 エルトリアは九歳だが図書館から持ち帰った本などを読んでいる。その中には読めない文字もあったがそれは独学で覚えていった。おかげで彼女は様々な文字を理解できるようになったのだ。

 しかし、それでもボロボロの本に書かれている文字だけはエルトリアでも見たことがないものだった。

 まだ読んだことのない本も図書館には当然ある。その中には読めない文字で書かれた本もあるかもしれない。

 

「読めない文字ほど解読できた時は嬉しいからな。暫くはこの本の解読に集中することになりそうじゃ」


 未知の文字に思わず笑みが零れるエルトリア。

 これを解読できればまた一つ賢くなれる。そう信じて……。

 早速解読に取り掛かろうにも時刻は既に午後十時を回っている。

 解読するための資料は多い方がいい。再び図書館に出向き、似たような文字で書かれた本を探そうにも一人で夜の王宮内を出歩いて見つかるのは少々面倒だった。


「今からレナを呼ぼうにも遅いからなぁ。呼んで図書館に行きたいと言っても絶対に反対するのが目に見えている。それに、この時間じゃとそろそろ……」


 エルトリアは急いで本を持って布団の中に入り込む。

 そしてすぐに部屋の扉が開いた。

 開いた扉から顔を覗かせていたのはレナだった。子供ならもう寝る時間だ。それはエルトリアも例外ではない。王族だろうと子供は子供。レナはエルトリアがちゃんと寝たのか確認しに来たのだろう。

 レナはエルトリアの部屋の中を見回す。

 当然のことながらエルトリアの姿はない。ベッドの方を見てみると顔を出していないがベッドの上は小さい山のように盛り上がっている。

 普通なら寝ていると判断するだろう。しかしながらエルトリアとの付き合いが長いレナは違った。


「はぁ……」


 小さく溜め息を吐いて部屋の中を進むレナ。

 向かった先はエルトリアが隠れているベッドだ。ベッドに近付き布団を剥がすとそこには本を抱えて丸くなっていたエルトリアがいた。


「れ、レナ……何故妾が起きているとわかったのじゃ……」

「それはですね──」


 レナはエルトリアに語った。

 まず部屋の電気がついていること。エルトリアは急いで隠れようとした結果、部屋の電気を消し忘れていた。消し忘れということも考えられるが、エルトリアの場合はこういう時はほぼ確実に起きているとレナは長年の付き合いから知っていた。しかもエルトリアは睡眠時間を削ってまで読書をしようとする。夢中になっているとも言えるだろう。だから注意せずに寝に入っている方が珍しい。

 あとはベッドの上。布団から数冊の本が顔を出していた。急いで本をベッドまで持っていった証拠だ。隠しきれなかったのだろう。

 レナは毎回「どうしてエルトリア様は賢いのにこういうところは少しおバカなのだろう」と思う。

 自分が来る前に電気を消して寝ているフリをすればいい。本だってベッドまで持って行かずに机の上に置いておけばいいものを。

 気づいて入れば実行に移しているだろうがこの感じだとおそらくエルトリアは気づいていない。まあそれも愛嬌があっていいのだろう。


「──というわけです。もう夜も遅いので寝ないと駄目ですよ」

「むぅ。妾はまだ眠くないのじゃ!」

「そういうわがまま言う子の本は明日まで没収します」


 そう言うとレナは慣れた手付きでエルトリアの本を回収していった。


「なっ!」

「明日の朝には返しますので今日はもう寝てください。でないと大きくなれませんよ。それでは失礼いたします」


 有無も言わせずレナはエルトリアの自室から出ていった。

 一応エルトリアはこの歳にして数々の魔術を使える。そして『空間魔術』も使えた。用意周到なエルトリアは『空間魔術』──【異次元収納箱(アイテムボックス)】の中にレナに本を没収された時も想定して予め未読の本を入れていた。

 だがこれがバレたら次からは【異次元収納箱(アイテムボックス)】の中にある本も没収されることになる。それだけは避けたい。

 もうレナが様子を見に来ることはないと思うだろう。しかし、彼女はたまに突然やってくるのだ。本当に眠っているのかを確認しに。

 エルトリアもそれは知っていた。だから安易に【異次元収納箱(アイテムボックス)】にある本を取り出して読むことが出来ない。


「こうなってはもう寝るしかないな……」


 諦めたエルトリアは仕方なく眠ることにしたのである。



 そして翌日。エルトリアが起きたと同時にタイミングよく昨晩没収した本を持ってレナが部屋に入ってきた。

 目を擦りながら未だに眠そうにしていたエルトリアだったがレナが持っている本たちを見た瞬間に一気に目が覚めた。


「エルトリア様、おはようございます。昨日の本を返しに来ました」

「うむ!」


 本を受け取るとすぐにボロボロの本のページを開こうとするエルトリアだったが、またしてもレナの邪魔が入ってしまう。


「熱心なのは構いませんがもうしばらくすると朝食の時間です」

「そんなのは後でいい。昨日はほとんど何も出来ずに終わってしまったのだ。だから今日こそはこっちを優先しなければ」

「駄目です。朝食は大事なのです。陛下たちも待っているでしょうから早くいきますよ。本は後でも読めますから」

「むぅぅ。でも……」

「でもじゃありません。わがまま言ったって無理にでも連れていきますからね。もちろん本は置いていきますよ」


 レナの言葉でエルトリアは口を尖らせて下を向いていた。それほどまでにボロボロの本の解読をしたいのだろう。

 それもそのはず。この本は図書館に通い続け、多くの本を読んできたエルトリアでも知らない文字で書かれている。謂わば未知の世界。彼女からすれば食事なんかよりも遥かに興味があるものだ。

 しかし、だからといって家族との団欒を切り捨てることはできない。家族でもエルトリアは王族。一般的な家庭とは異なる。特に大事にすべきだろうとエルトリア自身も理解していた。

 レナの言う通り本の解読は後でもできる。今は大切な家族と一緒に朝食を食べる方がいいのだろう。

 そんなことを考えているエルトリアを見てレナは一つ提案をした。


「……エルトリア様がその本を読みたいという気持ちは十分にわかりました。ではこうしましょう。先程連絡がありましたが、教師の方が次の授業の準備を行うため今日の座学はお休みだそうです。こういう時こそ過去に学んだところの復習をすべきでしょうがエルトリア様には不要でしょう」

「そうか。では今日一日は妾の好きなように過ごしてよいのか」

「そういうわけですので今日はエルトリア様に付き合うことにします。図書館でもどこでも好きな場所に連れまわして構いませんよ」

「よ、よいのか!?」

「良いも何も結局付き合わされるでしょうし。まあそれが私の仕事でもありますが。今日は思う存分図書館に籠っていいので今は陛下たちと一緒に朝食を取ってください、いいですね?」

「わかったのじゃ!」


 一日中図書館に籠っていいと許可が下りたエルトリアは元気よく返事をした。そしてボロボロの本を置いてレナと共に食堂へ向かう。

 

 




 それから二週間が経過した。

 エルトリアはここ二週間はボロボロの本を解読するのに専念していた。

 図書館に行けば似たような文字で書かれた本がないか探したり、授業をしてくれる教師に聞いてみたりした。

 だが進展はなかった。

 図書館に行ってもそのようなものは見つからなかった。教師に聞いても見たことないと言われてしまう。

 二週間が経過した今でも本の内容はまったく読めない。

 念のためエルトリアは父親であるヒューゼンベルグ国王にも聞いてみた。

 ヒューゼンベルグ国王も読書を趣味としている。若い頃はエルトリアほどではないが図書館に何度も通っていた。

 昔から王宮にいるヒューゼンベルグ国王なら何か知っているかもしれない。

 そう思って聞いてみたが、ボロボロの本の存在は知らなかった。

 エルトリア同様、ヒューゼンベルグ国王も図書館にある全ての本を読んだわけではない。故に知らないのも当然と言える。残念だがこればかりは仕方ないのだろう。 


 進展がないがそれでもエルトリアは解読を続ける。むしろ苦戦しているから面白いまであった。

 今日もまた図書館で参考になる資料を探す──はずだったが今日は違った。

 いつもなら図書館に行っている時間だが今彼女がいる場所は王宮にある訓練場。そして訓練場中央では父のヴェルダと次男のガイアスが模擬戦を行っていた。

 正直言って興味はまったくない。出来ればすぐにでもここから去って図書館に向かいたかった。

 武術に関しては一応知識はある。本を読んで何となく理解していた。だが実際に使ったことはない。誰かと戦うわけでもないし、彼女は強力な魔術が使える。だからあまり必要としていなかった。

 しかし度々こちらを見てくる父ヴェルダ。娘に自分のカッコイイところを見せたいのだろう。ガイアスは必死に食らいついているがヴェルダには余裕がある。

 

(流石は父上。しかし、こう……何度も見られるとウザイな……)


 これを本人の前で言えば酷くショックを受けるだろう。だから今の言葉は心の中で留めておこうと決めたエルトリアだった。そしてガイアスにはヴェルダに一撃を入れられるように強く願った。 

 模擬戦が終わるまではまだ時間がかかる。黙って図書館に行くわけにもいかないと思い、エルトリアは持ってきたボロボロの本を手に取った。

 絶対暇になるからと本を数冊持ってきて正解だった。解読は進まないだろうが眺めるだけでもいい。それに他にも持ってきているのだから暇にはならないだろう。


「あらエルトリア。お父様とお兄様の模擬戦は見なくていいの?」


 そう問うてきたのはエルトリアの隣に座る女性。

 誰が見ても絶世の美女と呼ぶであろうその女性はエルトリアの母親である"エリス・ルカ―ド・ヒューゼンベルグ"だった。

 エルトリアがヴェルダに付き合ったのは母であるエリスも同席するからだった。一人なら父の誘いでも断っていた。


「二人の戦いを見てるのも飽きた。こうやって本を読んでる方が楽しい」

「エルトリアは昔から本が好きだったものね。あなたが小さい頃に何度も絵本を読んでって頼まれたのが懐かしいわ。今は一人で読めるようになったから寂しい気もするけど」

「……母上は外で遊べとは言わないのか? 父上や兄上たちは一緒に体を動かそうと誘ってくるし、レナだってたまには体を動かさないと駄目と言ってくる。妾は体を動かすよりも本を読んでいたいのに」


 エルトリアの問いを聞いてエリスは娘の頭を撫でた。


「人には向き不向きがあるから私は無理して外で遊びなさいとは言わないわ。エルトリアはヴェルダたちみたいに体を動かすよりも頭を使う方が向いていると思うから。でも、ずっと運動しないのも体に悪いから毎朝私と散歩しない?」

「母上と、散歩?」

「散歩も立派な運動よ。いつもよりも少し早く起きて庭とかを散歩するの」

「母上と一緒なら、やる」


 そんなやり取りをして約束したエルトリアは微笑んでいた。朝から大好きな母と一緒に散歩できるのが嬉しかったのだろう。

 そして話題はエルトリアの持つボロボロの本へと移った。


「レナからエルトリアがその本の解読に苦戦してるって聞いたけど、そんなに難しいの?」

「うむ。頑張って調べているけどなんて書いてあるのかわからないのじゃ」

「そっか。ねえ、せっかくだし見せてくれない? エルトリアでもわからない言葉を私が見てもわからないと思うけどどんな風に書いているか見てみたいな」


 別に隠すつもりはないからとエルトリアはエリスにボロボロの本を渡したが、案の定エリスも読めなかった。

 

「うーん、私もこんな文字見たことないわね。貸してくれてありがとう。解読頑張ってね。エルトリアなら出来るって信じてるから」

「もちろんじゃ。それはそうと、ずっと気になっておったが今日はエルリック兄様がいないんじゃな。父上との稽古なら一緒に来ると思ったのじゃが……」

「あら、レナから聞いていないの? エルリックは風邪を引いちゃって今は部屋で安静にしているわ」

「エルリック兄様が風邪なんて珍しい……」


 だが風邪ぐらいなら『治癒魔術』でも治せる。後でエルリックの部屋に見舞いに行って治っていなかったら『治癒魔術』を使おうと考えるエルトリアだった。


 しかし、エルリックの風邪はエルトリアや王宮にいる『白魔道士』の『治癒魔術』でも治らなかった。

 王宮にいる『白魔道士』なら未だしも魔術においても天才と呼ばれているエルトリアの『治癒魔術』でも治らないなど信じられなかった。

 そしてその勢いは止まることなく事態は更に深刻になっていくのであった……。

書籍版第1巻の発売が今日で残り1ヶ月を切りました。


なろう様のホームページの下の方に『書報』というものがありまして、そこで紹介していただいています。


既にご存じの方もいるかもしれませんが、リリィとタルトのイラストが紹介されています。是非見ていただけると嬉しいです。

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★書籍版公式ページはこちら!! 書籍、電子書籍と共に12月9日発売予定!

奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
― 新着の感想 ―
[一言] 今更ですが、エルトリアは子供時代も口調変わらないんですね
[一言] 本のせいか?
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