第二のダンジョン『機神の塔』
執筆作業以外にも色々とやることがあったりして、それに時間を使っていたため更新が遅れました。
そして翌日。
ある程度の情報収集を昨日のうちに終わらせたので早速『機神の塔』へと向かうことにしました。
久し振りの一人──といってもタルトと一緒ですが──での行動なので適当に寄り道もしながら目的地に到着。
やはり外観は『獣神の塔』と変わりませんね。相変わらず天高くまで聳え立っています。
では行きましょうか。黙って立っていても始まりませんからね。
建物内部は『獣神の塔』と変わらないまま。でも冒険者はこちらの方が断然強そうです。
歩いている時に聞こえたのですが、何名かはこの辺で有名な冒険者だそうで実際に他の冒険者に囲まれたりしています。
しかしこの中で誰が強いのかはあまり興味がありません。
エルトリアさんのような方がいれば話は別ですけどあんな方はそういませんよ。あの方は特別です。
ちなみに、自慢というわけではないですがここにいる冒険者の中で一番高いレベルを持った冒険者は私です。
まあレベルが全てというわけではないので一番強い冒険者かと問われると技術的な面もあるのでそうとは言い切れませんが。それでもエルトリアさんとロザリーさんに鍛えられているので負けるつもりはないです。
と、そんな話は置いといてダンジョンに侵入するためには魔法陣を使わないといけないのでそのために長い列に並びます。
最初はそうでもなかったのですが、時間が経てば経つほど注目されている気がします。
あれですかね……。タルトが側にいるとはいえ私が一人だからですかね。
確かにダンジョンに単独で挑むのは明らかに無謀な挑戦ではあります。基本は何名かでパーティーを組んで挑むものですから。
しかし、今の私のパーティーメンバーは別行動をしていていません。
他のメンバーを募るにも一度パーティーを解散しないといけないので私の独断では決めることはできないです。まあそもそもの話、エルトリアさんたち以外の人とパーティーを組むつもりはないので募集の話は最初からないですね。
そしていよいよ私の番がやってきます。
「ようこそ『機神の塔』へ。冒険者様は後ろの方とご一緒ですか?」
「いえ、私一人です」
そう答えると受付の方が困ったような表情をしました。
理由は何となくわかります。
先程も言ったようにダンジョンに単独で挑むのは無謀な挑戦。更に私は魔術しか使えないと思われている女性。
しかもその辺に生息する魔物よりも格段に強い個体が徘徊するダンジョンですので従魔を引き連れていても十分に危険だと考えているのでしょう。
無謀な挑戦をしようとする冒険者を止めるのも受付の役目です。どうしてもダンジョンに挑戦したいならパーティーを組んでくださいと言われそう。
こういう時は論より証拠です。
私は懐から自分の冒険者ライセンスを取り出して受付の方に見せます。
それを受け取った受付の方は書かれている内容を見るや否や大きく目を見開き驚きの表情を浮かべています。
本来であればあまりステータスを見せたくないのですが、エルトリアさんは自分の強さを隠す必要はないと言ってましたし。それでもステータスを赤の他人に公開するのは時と場合によりますけどね。
「た、大変失礼いたしました! こちら、お返しいたします!」
冒険者ライセンスを返してもらいましたが、あまりにも予想外の内容だったのか私を目の前にして緊張している様子になっています。
普段通りにしてもらった方がこちらとしても楽なんですが……こういう事態に慣れていないのでしょうか? もしこれが私ではなくエルトリアさんの場合ならどうなっていたんでしょうね。
その後、後ろにいる冒険者から『何者だ、あの子?』とか『そんなに凄い冒険者なのか?』とか聞こえましたが無視です。
ダンジョンの仕組みは『獣神の塔』で知っているので説明は省いてもらってすぐに『機神の塔』第1階層へと転移します。
第1階層に無事転移するとそこは殺風景な一室でした。
天井や床、壁は全て金属で出来ています。あとは、いくつか配線のような長い管が無造作に置かれてもいますね。
特に意味もなく興味本位でその管を持ち上げてみましたがかなりの重量です。片手で持ち上げるのは厳しいぐらい。
一通り見ましたが他に目ぼしいものは見当たらなかったのでとりあえず部屋の外に出ることにします。
扉らしきものに近づきましたがやはりこれも金属で出来ていますね。まあ当然と言えば当然ですか。
そして部屋の外へ出ようと扉に触れようとした時、触れる前に扉が自動で開きました。
形は違えど開く仕組みは冒険者ギルドの扉と同じですかね。
冒険者ギルドへはほぼ毎日のように通っているので何度も利用してきましたが、やはり扉が自動で開くのは便利ですよ。
冒険者ギルドの扉も『機神の塔』に存在する扉の仕組みを参考にして造られたものかもしれませんね。ダンジョンがあるアルファモンスならではと言ったところでしょうか。
ここはダンジョン。周りに人はいませんし邪魔にならないので詳しく見れると仕組みはどうなっているのか軽く調べてみましたが、いまいちよくわかりませんでした。
私は機械そのものに詳しくありませんからね、こればかりは仕方ありません。
面白そうではあると思いますけど知識がない以上は追及するのは難しいのでこのことはまたいずれ、機会があれば調べることにします。──きかいだけに、ってね。
……さあ、気を取り直してダンジョン攻略をしましょう!
えっ、さっきのは見逃さない?
そんなことよりダンジョン攻略ですよ。いちいちくだらない事を振り返っては時間を無駄にしてしまいます。こういうのは聞かなかったことにするのが利口な判断です。
それで、部屋を出てみたはいいものの右か左、どちらに進めば次の階層に進める魔法陣があるのでしょうか。
この場にエルトリアさんがいればある程度直感で正解へ導いてくれますが今は別行動でいませんし……。
正直魔法陣から遠ざかる道を選んでも出現する魔物がどんなものなのかを確かめられるのでいいんですけどね。
でもどうせならなるべく早く上の階層に行きたいという気持ちもあるんですよ。実は一番乗りに攻略してエルトリアさんたちに自慢したいなんて考えていたりいなかったり……。
「うーん、どうしましょうか……」
「キュ?」
困っている私を見てタルトが首を傾げます。
そうだ。悩むぐらいなら決めてもらえばいいのです。
「よし、ここはタルトに任せます。タルトはどっちに行った方がいいと思いますか?」
「キュゥ~……。キュイ!」
数秒悩んだ後にタルトは右の道を指差しました。
「右ですね。では右から探索しましょう」
探索を開始してから15分ほどが経過しました。
そしてここでやっと『機神の塔』に入って初の戦闘です。
現れたのは人の形を模した機械の人形。確か機械人形という魔物でしたっけ。実際にこの目で見たのは初めてです。
形は様々あると言われていますが今回は人型。だいたい170センチぐらいの大きさですね。ただし、両腕は両刃剣が取り付けられています。
人間でいうと肌にあたりますが、その色は黒金色で統一されていて顔のパーツはありません。つまり目も口も存在しないわけです。
人形なので飲食や呼吸は不要でしょうが顔のパーツがないと何というか不気味ですね。絶対に夜中に遭遇したくないタイプですよ。
レベルの方は57となかなかに高い。当然ステータスも。
一気に魔物の強さが上がりましたね。ダンジョンの第1階層にしてはいきなりの強敵に入るのではないでしょうか。
でもこれで三番目に難しいダンジョンなんですよね。
一番難しいとされている『魔神の塔』へ向かったエルトリアさんが遭遇する魔物っていったいどんな化け物たちなんでしょうね。
ロザリーさんが向かった『龍神の塔』だって『魔神の塔』ほどではなくとも強い魔物が当たり前のように徘徊しているはずです。
不安や心配は……いえ、ありませんでした。あの二人が魔物にやられる姿など想像できませんし。
では戦闘を開始しましょう。
まずは向こうの出方を窺います。
標的と見定めて動き出す機械人形。
回避して魔術で一気に仕留めるのも考えましたがそれでは面白くない。そもそも私には障壁があるので攻撃が当たることはないため回避する必要性はないです。
機械人形は私に向け腕と一体化した剣を振り下ろしますが障壁によって阻まれ、剣は鈍い音を上げると共に折れます。
やはり強度が足りませんでしたか。まあレベルの差もありますし至極当然の結果でもありますから仕方ありません。
武器を一つ失った機械人形ですが、一度後退することなくもう片方の剣で再度攻撃を仕掛けてきました。
基本的に魔物には考える脳があり感情もある。なので一度失敗すれば別の手段を考える。勝てないと思えば逃げるし恐怖を覚える。これは人間と変わりないです。
ただ、機械人形は違うのかもしれません。
知性はある──現に襲い掛かったわけですし──と思うので感情が欠落しているかもしれないですね。
分かりやすくいえば恐怖心がない、自分が死のうが構わないとかですかね。玉砕覚悟というのは時に計り知れない力を生むことがあります。
埋めようのない圧倒的な力の差があるので今回は気にしなくていいですが、これが上層のフロアボスとかだと厄介なんですよ。
二本の剣が折れ、完全に武器を失った機械人形が次に取った行動は突進でした。
普通に考えれば武器を失った時点で逃走を図ると思いますが突進ですか。
あの頭の中にあるのは「是が非でも私を倒す」というところですかね。私なら状況によりますけど敵わないと思ったら逃げますよ。
さて、これだけ傷ついた機械人形が相手では弱点属性を調べる余裕もないです。おそらくどんな魔術を用いても一撃で倒してしまう。私の場合だと万全な状態の機械人形であっても一撃で倒してしまう可能性はありますけど……。
ひとまず適当に魔術を使います。
今回私が放ったのは炎系統の魔術ですが、まともに食らった機械人形は跡形もなく消滅してしまいました。
案の定予想通りでしたね。
でもこれはやりすぎました。これでは魔物の素材が残りません。もう少し火力を抑えないと駄目ですね。
それからダンジョン攻略を進めること2時間。
私は今『機神の塔』第8階層を訪れています。
順調に進んでいるので今日は第25階層ぐらいまでいければいいかな、なんて考えています。
ちなみにここに来るまでにかなりの機械人形と戦いました。おかげで素材がたくさん手に入りましたよ。
素材は売ったらお金になりますが、少しこれを使ってやってみたいことがあるので残しておきます。何をするかは後のお楽しみということで。
そういえば、このダンジョンには危険なトラップもありました。
巷では"モンスターハウス"と呼ばれる特定の部屋に入った瞬間に魔物が大量に出現するトラップです。
単独でダンジョンに挑んでそのトラップを発動させてしまったら生き残るのも難しいかもしれません。この危険性もあるからダンジョン攻略にはパーティーで挑むべきとも言われています。
私も恥ずかしながらそのトラップを発動させてしまい……。
もっと注意深く行動しないといけませんよね、反省してます……。
しかし、魔物が大量に出現するということは素材と経験値を大量に獲得できるチャンスでもあります。素材がたくさん手に入ったのもこれが大きいですね。
たとえ同じようなトラップを発動させても私なら大丈夫と思いつつ、注意深く探索することも忘れずに第8階層内を歩き続けると一つの扉を見つけました。
この扉自体は今まで見てきたものと変わりません。
問題はその中です。
何かがいます。
それは『機神の塔』で遭遇してきたどの魔物よりも強い気配を放っている。
他の冒険者という可能性もありますが、もし魔物であれば少しは期待できると思いますね。
扉の前に立つと扉は自動で開きます。
その先には驚愕の光景が広がっていました。
私の目に映ったのは機械の山です。おそらくこれらは全て機械人形の残骸なのでしょう。
数にすると100……いや、もっとありますね。
この数になるとトラップを発動させてしまったのでしょうか。私が訪れた時にはもう終わっていたようですが。
いったい誰が……。
すると機械の山の頂上で何やら動く影が見えました。
その影も私を見つけたのか降りてこようとしてましたが──
「あっ、ちょっ!」
足を滑らせて転がるように落ちてきました。
かなり高さがありましたからね、普通に痛そうです。
それにしてもこの声、つい最近何処かで聞いたことあるような。
声の主と今の落下で怪我をしていないか転げ落ちてきた人の様子を確認しにいくとそこには以前会ったことがある人物がいました。といってもお互い名前は知りませんけど。
「いたた……。あれ? 誰か入ってきたと思ったらこの前の。こんなところで会うなんて奇遇だね」
「え、ええ……」
その人物とは『機神の塔』へ挑む前に迷子の女の子と一緒にいた同じく迷子だった青年です。





