ロザリーとの勝負
今回は長いです。いつもの倍はあります。
スマホだと読み疲れてしまうかも……。
まあ昨日は更新がなかったのでその分も含めた更新だと思ってください。
あれから『魔闘法』習得も含め、エルトリアさんのもとで修業を開始して五日が経過しました。
本当なら『獣神の塔』の攻略は一週間で終わらせる予定でしたが残念なことにまだ完全攻略とはいきません。ただ、予定は予定ですし期限が決められているわけではないので自分たちのペースで行きましょう。
と、言っても攻略は進んでいます。実は最上階も目前なんですよ。
ちょうど二時間ほど前に最上階の一歩手前である第99階層を訪れていました。
第90階層より上の階層は全てフロアボスのみが出現するので階層内を探索して魔法陣を見つける作業は要らず、フロアボスを倒すだけで次の階層に行けるので非常に楽です。
フロアボスとの戦いは特に苦戦を強いられるものでもなかったのでここでの詳しい解説は必要ないでしょう。一体一体説明するとなると時間がかかりますので。
まあ、第90階層から第99階層までのほとんど……というか全てのフロアボスを私一人で倒したことは言っておきましょうか。
これもまたエルトリアさんの修行であり、手は貸さないから一人で倒して来いと言われました。
フロアボスも【オルフェノク地下大迷宮】にいる魔物と比べれば大したことない──でも第96階層からはパーティーの平均レベルから【オルフェノク地下大迷宮】の中層辺りを徘徊している魔物と同じくらいでしたか──相手だったのでエルトリアさんやロザリーさんの力を借りずとも一人で余裕でした。修行した成果とも言えますね。
さてと、『獣神の塔』の攻略を振り返るのはここまでにしましょう。
現在私たちは第89階層にいます。
すぐに最上階に向かわないのは最後は万全な状態で挑みたいから。最上階にいるフロアボスも余裕で倒せるかもしれませんが念のためです。
そういうことなら今すぐにダンジョンから帰還して休めばいいと思いますよね。
でも最上階への挑戦は一日休息を挟んで明後日になりました。ここのところダンジョン攻略に集中していたのでお休みも必要だというわけです。
気分転換も兼ねて明日は皆さんで【アルファモンス】の観光をするんですよ。楽しみで仕方がありません。
それで何故すぐ帰還せずに今もダンジョンの中にいるのか、ですね。
どうせ明日は一日休みになるのです。日が暮れるまで時間もまだまだありますし修行の続きをしたいとエルトリアさんに伝えたからです。
今日は第90階層からスタートしたため階層の探索も無し。フロアボスを倒すだけだったので疲労も全然ありませんでした。
本人には言ってませんけど、エルトリアさんって私に対して過保護な部分があるので疲れているのが見抜かれたら休ませようとするんですよね。
確かに疲弊してたら注意力が散漫になって思わぬ危機に直面する、なんてこともあります。
私も【オルフェノク地下大迷宮】で生活して何度も経験したことがあります。しかし、どうしても大丈夫だと思い込んで進んでしまうんですよね。
こういうのって治そうにも無意識でやってしまうので治らないんですよ。まあ、今後は自分でも気を付けるようにしますが。
今回は大丈夫そうだなと過保護なエルトリアさんから許可を頂き、こうして修行をしているわけです。
ただし、遠くからエルトリアさんに監視されているので私が疲れていると見抜かれたらこの修行も一時中断となります。
どれだけ駄々をこねてもこの決定は絶対に変わらないので一つ一つの動きをより正確に、完璧なものにするように意識します。
えっ、エルトリアさんが遠くで見ているのに誰が私の相手をしているのか?
そんなのロザリーさんしかいないですよ。
たまに魔物とも相手しますが、魔物だと単調な動きが多いので修行相手と呼ぶには少し物足りない。やはりロザリーさんのような方を相手した方が私のためになります。
最近は近接戦をロザリーさんに、魔術などはエルトリアさんから技術を学んでいます。おかげさまで私もどんどん強くなっている気がします。
そして今はロザリーさんとの直接対決の真っ最中です。
いきなりですが結論から言うと私は『魔闘法』の習得に成功しました。
この速さで習得するとは思っていなかったのかエルトリアさんは驚いていました。素質があるとも褒めてくれましたね。
私も『魔闘法』の話を聞く限りではたった五日で習得できるとは思っていなかったので驚きましたよ。
おそらくですがエルトリアさんの教えが良かったのでしょう。コツも意外に早く掴めたから驚異的な速さで習得出来たんだと思います。
でも個人的にはまだ完成ではないかなと思ったり。
エルトリアさんやロザリーさんのものと比べるとどうしても練度が足りないのだと実感します。
部分ごとの『魔闘法』発動にも時間が少しかかったり、まだ意識して発動しているところもあります。
お二人は無意識のうちにやっているみたいな感じがあるので『魔闘法』を習得してもやっとスタートラインに立っただけということがよくわかります。
圧倒的な差を埋めるためには日々の努力や修練ももちろん必要です。
しかしながら、実戦でしか得られないものもある。ロザリーさんほどの使い手なら得られるものも大きい。
「さすがは主が見込んだ方です。こうも簡単に『魔闘法』を習得して使いこなしている。私は習得までにかなりの時間を費やしたので正直嫉妬しています」
そう言いつつ足を踏み込み私に向かって拳を振るロザリーさん。
私はそれを手で受け止めます。
空間には空気が破裂したような音が大きく響きます。『魔闘法』無しだったら私の腕は吹っ飛んでいると思いますね。それだけの威力です。
しかし今は私に合わせているだけであってロザリーさんが本気を出しているわけではありません。本気を出されると私ごときでは敵いませんけどね。
攻撃力と魔力の合計値が『魔闘法』の威力に繋がる。
私の攻撃力はお粗末なものですので期待できません。たった1の攻撃力が加算されたところで意味はないですよ。
対してロザリーさんは攻撃力も魔力も高い。『魔闘法』のみで勝負しても私の負けは確定しています。
今回は勝敗に意味はなく、実戦の動きを見て学んだり試したりする場なのでロザリーさんは私に合わせて威力を調整しているわけです。
「使いこなしていると言っても私の『魔闘法』はロザリーさんより全然練度が劣っていますよ」
「まあ私だって何年も研鑽を重ねてここまで来ているのでそれを簡単に超えられると同じ師を持った姉弟子として立場がないですからね」
受け止めていたロザリーさんの拳ですが、離さないように握っていたのにもかかわらず容易く振りほどかれ、勢いがついた上段回し蹴りへと繋がれます。
スラッと長い脚から繰り出されるその一撃は美しい弧を描いています。私もロザリーさんみたいに長い脚があったらなぁ……。
って、見惚れている場合ではありませんでした。
受け止めるのも考えましたがこの攻撃は今までと違います。おそらくですが受け止めてもダメージを受けるでしょう。
ここは回避するのが賢明な判断ですね。
予想よりも伸びてきそうな気がするので絶対に直撃しないためにも普段より大きく後退します。
その瞬間ビュン、と重く風を切る音が耳に入りました。
受け止めずに回避して正解でしたね。今の攻撃は全力で防御しても吹き飛ばされていましたよ。
「反射神経もなかなか。いえ、むしろ以前よりも良くなっています。速さに慣れたからですかね。どちらにせよ、これは少しだけ本気を出しても問題なさそうです」
それから激しい攻防が続きます。
ふと思ったことですが、私たちからすれば組み手の一つに過ぎません。しかしこの光景を第三者が見たらどんな感想を持つんですかね。
ダンジョンの中には映像用魔道具があるようで冒険者ギルドに中継されているみたいなので今の私たちも見られているかも。
ああでも、それらしき魔道具はダンジョンの探索中に見かけたときもありましたけどこの場所には無かったですね。どうでもいいことを考えていました。
そんなこと考えている暇があったらロザリーさんの方に集中しなさいって言われそう。というか現に余計なことを考えていたせいで圧されています。戦闘以外のどうでもいいことは考えるのはやめましょう。
「動きに迷いが出てますよ。もしかして余計なことを考えていましたか? だとすれば甘く見られたものですね」
……どうやらロザリーさんにバレていたようです。
反省してくださいと言わんばかりの一撃が私の右腕を襲います。
受け止めるしかないと直感が働いたので常時発動していた『多重障壁』に加え魔力により右腕を強化しました。
ちなみに今言うことでもないと思うのですが、エルトリアさんのおかげで『多重障壁』も習得しています。
更に『物理障壁』と『魔力障壁自動発動』が組み合わさり今では『多重障壁自動発動』になっています。これでいちいち『物理障壁』を用意する必要がなくなりましたね。
なので多少強めの攻撃でもなんとかなると思っていました。
しかし、ロザリーさんの拳は私の『多重障壁』を貫通して骨の髄まで痺れるような感覚に陥るほどの威力でした。
こんなのまともに食らった日にはどうなるかわかりませんよ。最悪の場合、腕が消し飛ぶんじゃないですか?
私は今とんでもない方と組み手をしているのだと再確認しました。最初から真面目にやっていましたが気を引き締め直していきましょう。
「正直今ので決着が着いたと思いましたが……」
「結構ギリギリでしたよ。まだ右腕も痺れていますし、もう一度同じ威力の攻撃を受け止められる自信はないですね」
これ以上長引かせてもエルトリアさんに止められそう。
でもこのままやられっぱなしというのも納得できませんね。
どうにかしてロザリーさんに一撃入れることはできないか考え中です。
「組み手とはいえ戦いの場において足を止めての考え事は死を意味しますよ」
そう言って地を蹴りロザリーさんは私に接近してきます。
戦略的撤退なら未だしも現状逃げても意味がないので私も迎え撃ちます。
再び空間に鳴り響く空気が破裂する音。今度はいくつも鳴り響いています。
両者攻撃を受け流しながら相手の隙を窺う状況が続きます。
「リリィ様の成長スピードは恐ろしいものですね。次の一手が一つ前のものよりも洗練されているのがわかります。気を抜いているとすぐに追い抜かされそうです」
と、ロザリーさんは額に数滴の汗を垂らしながらも少しだけ口角を上げ、この状況を楽しんでいるかのようでした。
私も少しずつですがロザリーさんと渡り合えるようになって嬉しいですが、今は私に合わせているだけであってロザリーさんは本気ではないんですよね。
攻撃力がスキルで減少していなかったら良かったのになと思う私。でも無理なものは無理なので諦めます。
さて、この調子でいってもどちらかの体力が尽きるだけです。
足を止めて考え事は死を意味するとロザリーさんも言っていたのでこうしている間にも何か手はないか考えているのですが……。
一つだけ思いついた手──いや、やってみたいことですね。
出来るかどうかわかりませんがそれを考えても仕方ありません。何事も最初から成功するわけではありませんし何回もやって成功に導けばいい話なのです。
それで私がやってみたいことというのは力を一点に凝縮させて一気にぶつけることです。ただの思いつきなので出来たらいいな程度の気持ちですね。
力の集中は手のひらにします。ぶつけるイメージは拳で殴るよりも手のひらから放出する感じ。
確か武術に発勁というものがあった気がします。いつだったかは覚えていませんがどこかで見たことがあるんですよね。
魔力とは性質が違う気? というものが関係すると聞いたことがありますがまあ似たような感じで出来るでしょう。
とりあえずロザリーさんの攻撃を回避しつつ『魔闘法』で両方の手のひらに力を集中させます。片手じゃないのは両手にすれば威力も二倍になるのではないかという単純な考えです。
準備を終えて、攻撃と攻撃の合間にある僅かな隙を突いた私はロザリーさんに目掛けて集中させた力を一気にぶつけます。
さすがにロザリーさんほどの方であれば怪我はしないと思いますが、万が一怪我をさせてしまった時は謝罪し責任もって私が治療します。
でもそんな心配も忘れるような奇妙な出来事が起こったのです。
私が放った一撃なんですが急に右手が白、左手が黒く輝いたのです。
こうなるのなんて予想していませんよ。私はただ手のひらに力を集中させただけなのに。
そして更に驚いたのはその威力。
攻撃してしまった時点で時すでに遅しなのですがロザリーさんに向けた一撃はとんでもない爆発を生み、空間全体を震わす一撃になってました。
いやいやいや、と。こんなこと誰が予想できるんですか?
それよりもロザリーさんの安否確認です。あんなの食らって怪我していない方がおかしな話ですよ。
爆発により煙が生じてロザリーさんの姿が見えません。
まさか私は取り返しのつかないことを──
最悪な結果を考えていると煙の中から二つの影がこちらに向かってくるのが確認できました。
その影の正体はエルトリアさんとロザリーさんでした。
ロザリーさんには怪我のひとつもありません。それを見て安心した思わず膝から崩れました。
「あの……ごめんなさい……私……」
私は震えた声で謝罪をしました。
そんな私の頭にエルトリアさんは優しく手を添えます。
「気にすることはない。御主もああなるなんて予想してなかったんじゃろ。ロザリーだってあれに巻き込まれる前に妾が救助したから無傷じゃ」
「ですが……」
「私も全然気にしていませんよ。それよりもリリィ様があんな奥の手を持っていたのに驚きです。主が間に入ってくださったから助かったものの正直駄目かと思いましたよ」
「本当にごめんなさい……」
「あっ、責めてるつもりじゃないですよ。リリィ様はお気になさらず。今回は回避できなかった私に責任があります。更には主にまで面倒をかけさせてしまった。このロザリー、一生の不覚でございます」
「ロザリーも気にするでない。あれは予測していないと避けきれん」
そして今日の修行はここで終わりとなりました。
「ところでリリィよ。一つ聞きたいのじゃが御主が先程使った技は狙ってやったのか?」
「えっと……はい。力を一点に集中させて放ったらどんな風になるかなと。それがどうかしましたか?」
「いや、聞いてみただけじゃよ。それより疲れたじゃろ。少し休憩してからダンジョンを出るぞ」
わかりましたと返事をして私は壁を背にして座ります。
ちょっとだけ気分が優れないので心配して見に来てくれたタルトを両手で抱いて心を落ち着かせます。
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エルトリアは壁を背にして座り込むリリィを遠くから見つめていた。
リリィが使った白と黒の閃光が混じった技。
実はエルトリアはあれに見覚えがあったのだ。
『魔闘法』にはそれを用いた技がいくつか存在する。
しかし、エルトリアはリリィにその技を一つも教えていなかったのだ。
理由は基礎を覚えていないのに技を覚えさせるのは早すぎるから。
だがリリィは実際に使ってみせたのだ。
もともと『魔闘法』は世間一般には知られていないスキル。
そのスキルをもとにした技を誰にも教えられることなく、自分で答えを導き出して見事に完成させた。
しかもリリィが使った技は『魔闘法』による技の中でも奥義の一つとも言える技。
(素質はあると思っていたがここまでとはな……。いやしかし、教えてもいない奥義をいきなり使えるか? 今回は属性が聖光と暗黒じゃったから【逢魔・魔境天】か。ロザリーでも【逢魔】習得はまだだというのに……)
偶然。それにしては上手くいきすぎている。
まず『魔闘法』をたった数日で習得するのがおかしい。エルトリアの予想ではもっと時間がかかるはずだったのだ。
それをリリィは予想を超える速さで習得した。
別に早く習得したのならそれだけ他のことに時間を使えるから良かったとエルトリアは考えていたが技を教えるのは当分先。ましてや奥義の一つである【逢魔】は今回教えるつもりはなかった。
故にリリィが偶然かは定かではないが【逢魔】を使ったのはエルトリアであっても予想外の出来事だったのである。
(まったく、興味の尽きん女じゃなぁ……。それに──)
エルトリアはリリィのことで他にも気になることがあった。
それは【セルビス】で初めて出会った時から。だがそれを問いただしても求めている答えが返ってこないことはわかりきっていた。
「まあいずれそのうち答えがわかるか」
「? 何の答えがわかるのですか?」
「いや、何でもない。ただの独り言じゃよ」
ふっ、と笑って落ち込むリリィに歩み寄るエルトリア。
彼女が求める答えにたどり着くのはまだまだ遠い先の話……。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
さすがにこの量を書くのは疲れたので少し休みます。
執筆はちょっとずつ進めますけどね。
次回更新、日曜日までにはしたい……。





