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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第二章 最難関!? 神々の塔攻略編

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『獣神の塔』に挑戦──の前に

「リリィよ、気付いておるか?」


 談笑しながら冒険者ギルドから『獣神の塔』に向かう途中でエルトリアさんが突然聞いてきました。


 質問の意味は理解できてます。

 というのも冒険者ギルドを出てからずっと私たちについてきてる人がいるのです。

 その人たちは男性の冒険者三人組。顔ははっきりと覚えていませんが私たちがパーティー登録をした時にギルド内にいた人たちだったはずです。


 同じ冒険者なのですから彼らも『獣神の塔』へ向かっており、その偶然で私たちの後ろをついてきている。


 なんてことも一応考えられます。しかし、おそらくですが彼らの目的は別にありますね。途中で気付かれないように表情を窺いましたが良からぬ事を考えている感じでした。


「あの人たち、距離を取りながらも私たちの後ろをずっとついてきてますよね」

「気になるからと言ってあまり目を合わせるでないぞ。このまま『獣神の塔』へ入れば何も起こらずに済む」

「でもどうして私たちの後ろを尾行しているんでしょうか……」

「冒険者ギルドでの一件が関係していると思います」


 ロザリーさん曰く、冒険者ギルドでパーティーの登録をした際に受付のお姉さんが大きな声でエルトリアさんのレベル──というよりは私たちが規格外のレベルだったことを言ってしまったことが原因だと。

 確かにあれは目立っていましたね。ほとんど冒険者が私たちのことを驚きと疑いの表情で見ていました。


 過ぎたことをどうこう言っても仕方ない。

 エルトリアさんに至っては「周囲に格の違いを知らしめることができてよかったではないか」と言っています。最初からお姉さんの行動を望んでいた感じですね。


 文字通り自分たちとレベルに大きな差があれば恐れ多くて大半の冒険者は近寄ろうとは思わない。まあ、例外もありますが……。


「だがあの受付嬢が悪いわけではない。いつものように仕事をしている中で突然常識外れのステータスを見せられたのじゃ、いくらその道のプロといえ反射で驚くのも無理ない」


 何度も言うようにステータスは偽装することができない。

 でもエルトリアさんのユニークスキルである『色欲』であれば魅了状態にさせて魔王であることを認識させないのと同じように反応も他の冒険者のライセンスを見た時と同じような反応にさせれば良かったのではと言ってみたところ──


「うむ…。御主の言い分も一理あるな。妾は基本的には己のレベルやステータスを隠す気はない。しかしそれ故に御主に迷惑をかけてしまうことを知った。長年妾に従ってきたロザリーにも迷惑をかけたじゃろう」

「いえ、別に私は今更感が強いので気にしていませんよ。それに、最強と恐れらている強欲の魔王に比べれば主がかける迷惑なんて大したことではないですよ。昔、主の使いで強欲の魔王のもとを訪れた時には無理難題を課せられましたから……」


 その日のことを思い出したのかロザリーさんは少し遠い目になっていました。

 何でも仕事ができそうなあのロザリーさんがあんな目をするなんていったいどんなことがあったのか。

 ただ、そのことを詳しく聞いてしまうとロザリーさんのトラウマを思い出させてしまう気がしたので聞くのはやめました。


「その節は本当にすまなかったのう……。妾もあやつがあそこまで無茶を言うとは思わなかったのじゃ」

「強欲の魔王からすればあれも戯れの一つなのでしょう……」


 二人だけが知っている共通の話題に入れないのが少し残念です。


「あの……」

「ああ、すまんかったな。今はあの日のことを話す時間もないことじゃし、いずれまた別の機会にでも話してやろう。で、今回妾が学んだことは時には穏便に済ませたほうが良いこともあるということじゃ。今回は妾の失態じゃな。以後気を付けることにしよう」


 反省の色を示すエルトリアさんでしたが、「しかしダンジョン攻略が始まれば嫌でも目立つことになるな」と言ってきました。

 それはまあ、誰も攻略できていないダンジョンを本気で攻略しようとしているのですから、攻略した暁には目立つどころの騒ぎではなくなります。


 しかし、まだ達成していない未来を考えたところで本当に実現できるかどうかは別の話です。まずは『獣神の塔』の攻略に集中しなければ。


 それからというもの私たちの後ろをついてきている男性冒険者の三人組は特に目立った行動はしていません。しかし、変わらずに一定の距離を保っています。


 関わってこないのであれば本当にただ目的地が一緒なだけのでしょうか。

 だとすれば私の思い過ごしだったかもしれませんね。

 

 そして冒険者ギルドから出発して然程時間も経たずに『獣神の塔』に到着しました。

 遠くから見てもその大きさは十分に見て取れましたが、真下から見上げるといっそう巨大な塔であることがわかります。

 これを最上階まで登るのは骨が折れそうですね……。


「さて、着いたな。当分の間はこの『獣神の塔』の攻略を進める。まあ妾の予想では一週間もかからんじゃろ」

「そんな短期間で攻略できるものですか?」

「本来であればもっと時間はかかるじゃろうが妾たちは例外みたいなところがある。それに『獣神の塔』は他と比べて出現する魔物も弱い。【アルファモンス】に訪れた冒険者が最初に挑戦するダンジョンとも言えるな」


 そう言うとエルトリアさんは『獣神の塔』へ向かおうと一歩踏み出したとき──


「そこのお嬢さん方、もしかしてこれから『獣神の塔』に挑戦するつもりかい?」


 声をかけてきたのは私たちを尾行していた三人組の一人。

 背はそこそこ高い。髪は金色で顔も美形です。腰に一本の剣を携えて三人組のなかではリーダーらしき雰囲気が出ています。

 

「だったら俺たちとパーティーを組まないか? パーティーメンバーの上限は六人までだ。俺たちと君たちでぴったり数が揃う。ダンジョンを攻略するなら人数は多いほうがいい。それに俺たちは『獣神の塔』を38階層まで突破している。君たちは『獣神の塔』に挑むのは初めてだよね。パーティーを組めば一番進んでいる冒険者が突破した階層から始められるんだ。君たちにとっても悪くない話だろ?」

 

 悪くない話と言われましても…。

 これについてエルトリアさんはどう考えているのか小声で聞いてみたところ──


「別に誇れるものでもないぞ。基本的に【アルファモンス】にあるダンジョンは100階層で構成されておる。終盤ならまだしも半分も到達していないのであれば論外じゃな。あやつらが突破した階層など妾たちだけでも簡単にいける」


 だそうです。ではこの話はなかったということで。

 まあ、エルトリアさんならこの提案に乗らないと思っていましたし、私も彼らには何か裏がありそうと感じていたので最初からお断りする予定でした。


「申し訳ないのですがダンジョン攻略は私たちだけでやりますので」

「いやほら、お試しでもいいからさ」


 こういうグイグイくる人はあまり好きになれません。

 こちらは断っているのに自分の勝手を押し付けてくるのは正直言って鬱陶しいだけです。


「だから本当に……」

「別に悪いことはしないって。だから冒険者ギルドに戻ってパーティーメンバーの追加登録を──」

「随分と白々しいではないか。呆れを通り越して笑えてくるぞ」


 男性の言葉を遮るようにエルトリアさんは言いました。


「御主らは妾たちが冒険者ギルドでパーティー登録をしているときその場におったな。つまり妾たちのレベルも知っているはずじゃ。それを知って尚パーティーの勧誘を必死にしてくるということは善意ではなく利用するためじゃろ」

「そ、それは…」


 正論を言われて男性は黙ってしまいました。そして、少ししてそれを認めるように口を開きます。


「……はい。俺たちは『獣神の塔』を攻略するためにあなたたちを利用しようとしてました……。こんなこと言うのは図々しいですが、どうか俺たちとパーティーを組んでもらえないでしょうか」


 リーダーであろう男性が頭を深く下げると仲間の冒険者たちも頭を下げます。

 しかし、それを見たエルトリアさんは冷静に──


「断る」


 と一言だけ告げました。

 男性冒険者たちは予想外の返答に驚いている様子でした。


「ど、どうしてもだめでしょうか」

「御主らがどんなに頭を下げようと妾の判断は変わらぬ。そもそも何故冒険者ギルドではなくダンジョンの目前で声をかけた? 普通に考えれば冒険者ギルドで声をかけるじゃろ。わざわざ一度冒険者ギルドから離れる意味があるのか? 妾はただ時間を無駄にしているだけとしか思えん」


 更にエルトリアさんは言葉を続けます。


「それに、こう見えて妾は長生きでのう。800年近く生きておる」

「はっ? はっぴゃ──」

「それだけ生きておれば、悪意や敵意を持って接してくる者の判別もできるようになる。一応言っておくが、努力して隠そうとしても無駄じゃよ」

「……す、すごいね。でも、君が800年も生きているなんて信じ──」

「ところで。小耳に挟んだのじゃが、どうやらこの街では最近、女を狙った事件が多いらしいようじゃな。被害者は酷い有様で、中には保護をした翌日に自害した者もいると聞いた。同じ女として許せないことじゃ」

「………………」


 黙る男性冒険者たち。そこにエルトリアさんが追い打ちをかけます。


「御主たちからは、とてつもなく邪悪な気を感じる。何度も犯罪を繰り返し、それを何とも思わないどころか、楽しんでおるような輩とパーティーを組みたいと思うじゃろうか」

「……………………」

「まあ、とはいえ、これらは全て妾の憶測。当然気を悪くさせてしまったじゃろう。その詫びと言ってはあれじゃが、パーティーは組めんが、事実確認のためなら付き合っても構わんぞ?」


 ニコリと笑って問うエルトリアさんを見た男性たちは、額に脂汗を搔きながら次にとった行動は逃走でした。


「逃げたか。あの様子じゃと黒で間違いないな。ロザリー」

「お任せを」


 するとロザリーさんはその場から突如消え、いつの間にか三人組の前に立っていました。

 そして、またまた突然三人組はその場で膝から崩れ落ちたのです。

 周りの人は何が起こったのか分からず仕舞いだったでしょう。私も一瞬の出来事だったのでよくわかりませんでした。


「少しの間ですが身動きを取れなくしました。彼らはどうしますか?」

「とりあえずこの街の衛兵にでも渡し、詳しい調べを受けてもらう」


 そして私たちは『獣神の塔』に挑戦するのを止めて、近くにいた衛兵さんに事情を話し三人組を引き取ってもらいました。

 

 後にわかったことなのですが、彼らは気に入った女性を見つけては暴行やそれ以上に酷いことを行っていた極悪集団だったそうです。

 かつて彼らの被害に遭った女性の一人からの証言もあったので間違いないです。

 

 衛兵さんたちも被害報告を聞いて探していたようですが一向に見つかる気配はなく……。彼らは上手いこと身を隠しつつも犯行に及んでいたのでしょう。場所を変えるなどの考えがなかったのかは一旦措いておくとして。


 彼らには相応の罰が与えられます。おそらく死罪は免れないかと。

 しかし、死罪になっても自業自得です。救いの手を差し伸べる人などいるはずもありません。


 これで良かった、なんて被害者の方々を考えると安易に言えませんが同じことを繰り返されることはとりあえず無くなったと思います。

 これからはそう言った事件が起こらぬように街の警備も厳重にしてほしいものです。


 あとこれは個人的に気になったのですが、彼らはよくエルトリアさんのレベルを知っても同じことをしようと思いましたよね。どこにそんな自信があったのか不思議でした。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
― 新着の感想 ―
その道のプロならなおさら自制心と経験をもって抑えてもおかしくはないと思う。少なくとも港町の受付嬢はそんな失態を犯してはいないのんだし
[気になる点] 声をかけて逃げただけで衛兵に突き出されるものだろうか。
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