色欲の魔王とのお茶会は続く
「ふと思ったが、御主の幼馴染み──アドルとか言ったか。そやつは勇者になったのじゃろ?」
「はい、私がダンジョンで生活している間に勇者になっていましたね。最初に聞いた時は驚きましたよ。嘘かと思いましたが実際に職業が勇者になっていましたし認めるしかないですが、それがどうかしましたか?」
「いやな、勇者も魔王同様にユニークスキルがある」
勇者が持つユニークスキル。
勇者は世界に7人いるそうで、そのユニークスキルは『忠義』『慈悲』『忍耐』『勤勉』『博愛』『節制』『純潔』の7つだそうです。勇者に8人目は存在しないらしいです。
魔王のユニークスキルはその魔王が死んだ時に誰か他の魔王候補に譲渡されるのでしたよね。
では、勇者の場合はどうなるのでしょうか?
もし私の推測が正しいのであれば──
「察しの通り、勇者のユニークスキルもその者が死んでしまったら他の勇者候補へと譲渡される」
「つまり勇者が一人死んだことになる、と」
「うむ」
やはり私の推測は間違っていなかったようです。
亡くなった理由は裏世界の住人に殺されたか、もしかすると寿命が尽きてしまったか。
何はともあれ、その勇者が亡くなった事でアドルは勇者に目覚めたということですね。
「問題はどの勇者が死んだかじゃな。まあ、勇者との関わりは無いと言っても等しい。ユニークスキルの話も他の魔王に聞いただけじゃしな。で、誰が死んだかはわからんか。アドルという者にユニークスキルはあったか?」
「私が前に鑑定で見た時はなかったですね」
あの時──【オルフェノク地下大迷宮】で出会った時はレベルやステータスは格段に上がっていましたがユニークスキルなるものはなかったです。
アドルもエルトリアさんみたいなユニークスキルを手に入れることになるなんて驚きですよ。それがいつになるかはわからないようですが。
「勇者とは言え新参者じゃしユニークスキルを持っていなくても仕方ないか。そのうち発現するじゃろ」
「だといいですね。ちなみに勇者や魔王のユニークスキルに序列とかはあるんですか?」
私のちょっとした好奇心です。
ただでさえ珍しいユニークスキル。勇者や魔王のユニークスキルとなるとかなり興味あります。
しかし、これでエルトリアさんのユニークスキルが他のユニークスキルより断トツで劣っていたら失礼な事を聞いてしまったことになりますよね。
言ってしまった後に気付いたので謝罪と撤回をしようと思ったのですが、エルトリアさんは全く気にしていない様子。
「気にせんで良い。探究心に最も大切なのは興味や好奇心。それらを胸のうちに押し止めてしまったばかりに知識や情報を得ることが出来なかったなど一番つまらん。妾も【アルファモンス】にある誰も攻略していない塔に興味があったからここまで来ているわけじゃしな」
「そうだったんですか」
「もともと妾は戦いなどあまり興味はなく知識を得るために没頭していた。故に800年近く生きていてあのレベルじゃ。普通に生きていたら今の倍──戦いに全てを費やしていたらそれ以上になっておるじゃろうな」
あれ以上の数値になっているなんて異常すぎて想像できませんね。
でもこれはエルトリアさんの話であって他の魔王の事ではない。ならば他の魔王はエルトリアさん以上のレベルやステータスを持っているということ?
せっかくですし聞いてみると、エルトリアさんはレベルだけで言えば7人の魔王のなかで四番目に高いレベルだそうです。
エルトリアさんでちょうど半分ですか。
では一番レベルの高い魔王はいったいどれだけの数値なのでしょうか。
これはいずれわかることだとエルトリアさん答えてくれませんでした。
レベルやステータスを見た驚く私の顔を見たいから教えない、とのことです。
意地悪な気もしますが、いずれわかる、と言っているのですからその時が来るまでどんな魔王か想像しながら待ちましょう。
ちなみにエルトリアさんはレベルだけで言えば四番目ですが、生きている年数は二番目に長いそうなので立場的には上にいるそうです。
一番ではないのかと思いましたが、その一番長く生きている魔王は『強欲』のユニークスキルを持つ魔王だそうで、魔王のなかで群を抜いた強さを持っていると。
結局一番レベルの高い魔王を知ってしまったことになりましたが、ステータス等は未だにわからないままなので楽しみにしておきましょう。
「で、ユニークスキルの序列についてじゃったな。勇者側は知らんから魔王側だけで良いか?」
「はい、お願いします」
「まず間違いなく『強欲』が一番じゃな。強欲の魔王──あの女は欲しいものは是が非でも手に入れようとする奴じゃ。しかもスキルまで欲すれば手に入れることだって出来る。まあユニークスキルは無理みたいじゃが。はっきり言うがあの女に勝てるものなどこの世界に存在しない。それだけ常軌を逸しているのじゃ」
話を聞いただけでも敵う相手ではないことがわかりました。
スキルが欲しかったら手に入れられるって何なんですか。
それが通用するユニークスキルがあるなんて世界のバランスが崩れているようなものです。
「その魔王が世界を滅ぼすなんて言い出したら……」
「あっという間に蹂躙されるな。しかし、あの女は世界ではなく世界の平和を欲している奴でもあるから世界を滅ぼすなんてことはしないじゃろう。自分はこの世界が好きだとか言っておったしな。ただ、昔そやつを怒らせた馬鹿な魔王がおってな」
どうやらその昔、些細なことをきっかけに強欲の魔王を怒らせた魔王がいたそうです。
エルトリアさん曰く、本当に些細でくだらないことだったようですが、強欲の魔王は意外にも子供っぽいところがあるみたいでその魔王の発言に憤怒したようです。
それから強欲の魔王は暴れまわって周囲の被害は甚大。
どうにかして他の魔王が止めて強欲の魔王の怒りは収まったようです。
ちなみに強欲の魔王を怒らせた魔王はもういないようです。
強欲の魔王ではなく別の者に殺されたとか。
新しい魔王へと引き継がれた今でもそのユニークスキルを持つ魔王は強欲の魔王に良く思われていないようです。
巻き添えを食らっているだけで普通に可哀想ですね……。
「『強欲』に関してはこんなところじゃな。残りのユニークスキルについては『暴食』『傲慢』『憤怒』が戦闘面に特化しておる。『怠惰』『嫉妬』、そして妾の『色欲』はどちらかと言えば支援などそういう方面に適しておるな」
「なるほど。でもエルトリアさんも他の魔王たちにも見劣りしない強さを持っていると思いますよ」
そう言うとエルトリアさんは笑いました。
「カッカッカ! リリィよ、御主はなかなかにわかっているではないか。妾も他の魔王には負けるつもりはないと自負しておる。強欲の魔王は除いてじゃが」
「そこは負けないと言い切っても」
「無理なものは無理じゃよ。不老不死で死なないとは言え、あの魔王に喧嘩を売って勝てる見込みがない」
「そういえばエルトリアさんってステータスに不老不死ってありましたよね」
「うむ。死ぬことが出来ない体ではあるが無限に知識を追い求められるから悪くはない。しかし、不老と言っても肉体は衰えないだけで年は取ってしまうのが難点じゃな。どうせなら若く美しくありたいじゃろ?」
確かに女性ならば若く美しくありたいですよね。
「でもエルトリアさんを見ても800年近く生きているなんて誰も思わないかと。私だってステータスを見ていなければ自分より年齢が下だと思っていましたから。それに何より、エルトリアさんは貴族のご令嬢よりも綺麗で凛としている女性に見えます。私はエルトリアさんのような方を生まれて初めて見ました。きっと他の人もそう感じると思いますよ」
エルトリアさんの後ろで待機していたロザリーさんも同意しているのか首を縦に振っています。
ちなみにしばらく触れていませんでしたが、タルトは大人しくロザリーさんが用意したお菓子を食べていますよ。
「御主はお世辞も上手いな。だが褒めても何も出んぞ」
「紛れもなく本心から出た言葉ですよ」
褒めても何も出ないと言ってましたが、明らかに嬉しそうな表情で私やタルトに高そうなお菓子や紅茶を勧めるエルトリアさん。
それからは世間話やらエルトリアさんの昔話やらで盛り上がり、すっかり部屋の窓から見える景色は真っ暗になっていました。
「長々と引き留めて悪かったな」
「いえ、私もすごく楽しかったですので。まだまだお話を聞きたいので明日も来ていいですか?」
「無論じゃ。いつでも来ると良い。今日はもう遅いからロザリーに部屋まで送らせよう」
私はロザリーさんに付き添ってもらい部屋まで戻りました。
そして二日後。
いよいよ誰も攻略できていないダンジョン──『神々の塔』がある【アルファモンス】へ到着します。
いきなり二日後になったのは船内でのネタが思い付かなかったからです……。
次回より第二章が本格的にスタートします。





