冒険者ライセンス
その方の名前はエルトリア・ルカード・フューゼンベルグ。
種族は魔族の中でも吸血鬼族でした。
そして、レベルは3,665……。私の三倍以上です。
当然ステータスは異常な数値でした。本来のタルトのステータスでも敵わないほどです。
ちなみにエリトリアさんに吹き飛ばされた男性のレベルは鑑定で見た結果58でした。
これだけのレベルの差があって無事に生きているのだから運が良かった──というわけでないようです。
気になったのは男性の生命力。
体が吹き飛ぶほどの攻撃を受けて男性の生命力が減ってないなんてあり得ない話ですよね。絶対にダメージを食らっているはず。
なのに男性の生命力は1も減っていませんでした。
現場を目撃した時には既に終わっていましたのであくまでも私の推測になりますが、エルトリアさんは打撃を与えたと同時に治療魔術を使った。
まあ、これが一番考えられる可能性ですよね。
一瞬でも治療魔術を使うのが遅かったらあの男性は木っ端微塵だったと思います。
人間が木っ端微塵になる姿は想像したくありませんね……。
さて、エルトリアさんのことはここまでにしましょうか。
近いうちに会おうと言ってましたし、いずれ会えるのでしょう。目的地は同じようですからね。
私は私のやるべき事をやります。
事が終わって散らばる冒険者たち。
依頼に向かう者、男性の心配をして様子を見に行く者、何事もなかったかのように平然と過ごす者。
私はそのどれでもなく受付に向かいます。私の目的は冒険者ライセンスの発行ですから。
「ようこそ、冒険者ギルド【セルビス】支部へ。本日はどのようなご用向きでしょうか?」
受付のお姉さんが笑顔で対応してくれます。
仮面を着けているにもかかわらず動揺せずに普段通りの対応……。この人は間違いなくこの道のプロですね。
最初から『黒白の仮面』を外しておけば良いのでは、という指摘は無しでいきますよ。
「実は前の冒険者ライセンスが更新できなくて期限が切れてしまって。なので新しく冒険者ライセンスを作りたいなと」
そう告げて私は三年が経ってボロボロになった冒険者ライセンスを受付のお姉さんに渡します。
「これはまた随分と使い込まれまれていますね……。確認しますので少々お待ちください」
受付のお姉さんは私のライセンスを板状の魔道具らしきものに乗せました。
そして、情報を読み取り終わったのか表示されたのは半透明の板──ステータスを表示させた時に出るものに近いです。
「リリィ・オーランド様ですね。失礼ですがご本人で間違いないでしょうか?」
「はい、そうですが……」
そう答えると受付のお姉さんは「もう少々お待ちください、直ちに確認して参りますので」と告げて部屋の奥に行ってしまいました。
何か問題でもあったのでしょうか。
まあそれは後にわかることでしょう。私は受付のお姉さんの言う通り大人しく待つことにします。
そういえば冒険者界隈にはこんなものが存在します。
名称は色々ありますけど冒険者のほとんどは〝テンプレ展開〟と呼んでいますね。
私も冒険者をやっているうちに知りました。
わかりやすく言うと、冒険者希望の者に対して──
『おいおい、冒険者ってのは命懸けの仕事なんだぜぇ。子供の遊び場じゃないんだ。怪我したくないならさっさとママのところに帰りな』
とか言うやつです。
私も何回か見たことありますよ。何でしたらアドルたちと共に経験したことがあります。でなければ一言一句覚えているはずありません。
冒険者ライセンスを求めてここへ訪れたのですから一人になった状況でもしかしたらと思いましたが、先程の一件があってか私に絡んでくる冒険者はいませんでした。
エルトリアさんの行動がかなり効いたのでしょう。
何も知らなければ何処かの貴族令嬢に見えますからね。
綺麗な女性だからとしつこく絡んだ結果があの男性なのです。少なくともあの光景を見た者はしばらく女性の冒険者に絡んでいくことはないでしょう。
そんなことを考えていると受付のお姉さんが戻ってきました。手には何枚か資料を持っているようです。
「お待たせしました」
「いいえ。それで、その資料は……?」
「実はリリィ・オーランド様は冒険者ギルド側で死亡・行方不明扱いになっています」
死亡・行方不明扱いですか。確かに三年も行方をくらましていたらそう判断されてもおかしくないですよね。
「こちらの資料は冒険者本部から送られたもので、どういう経緯で死亡・行方不明扱いになったかの詳細が書かれています」
説明を聞くと、私がアドルたちに囮にされてから数日後に【カルティエラ】の冒険者でも精鋭の冒険者がダンジョン攻略班として【オルフェノク地下大迷宮】を捜索したようです。
すぐに捜索しなかったのは冒険者を集めるのに時間がかかったからでしょう。【オルフェノク地下大迷宮】は油断していると上層でも危険ですから。
捜索を続けて見つかったのは当時の私が着ていた服の切れ端だけだそうです。
アドルたちも私のものだと冒険者ギルドに報告したようですが、それだけでは証拠不十分で死亡だと断定できないことから私は行方不明扱いになっていたようです。
受付のお姉さんに真実を言っても良かったのですが、その場合だとアドルたちに私の存在が気付かれてしまう。
それはまだ早い。ここは先程の衛兵さんと同じく良い感じに話を作って乗りきりましょう。
「本当はこの通り生きていたんですよ。かろうじて魔物から逃げ延びた私はとある場所で強くなるために修行して気付いたら三年の月日が流れていました」
「そうだったのですか。それはさぞ辛い経験をしましたね」
「でも結果的には生きてるので問題ないです。それで、冒険者ライセンスの方はどうなりますか?」
「期限が切れてしまっているのでこちらは使えませんが新しく冒険者ライセンスを作ることは可能ですよ」
私は新規の冒険者ライセンスの発行を希望しました。
提示された書類には登録に必要な個人情報を記入します。
個人情報はステータスを見れば大半はわかりますが、ステータスを見せて嘘偽りではないことを証明するのにも必要ですので書かなければいけません。
書類に必要事項を書き終えた後は何も情報が記されていない冒険者ライセンスに血を一滴垂らします。
この血から個人情報を読み取り、書類に書いた内容と一致していれば冒険者ライセンスの完成です。
違った場合はやり直しが可能です。しかし、一度個人情報を偽ったとなると受付からの信用は失うでしょう。
当然私は個人情報を書きましたよ。
冒険者ライセンスは私の血を吸収します。
これで私だけの冒険者ライセンスが完成しましたね。更新は一年以内にしないと期限が切れるので気を付けないと。
忘れずに覚えてようと考えてた時、私は重大な事を見落としていることに気付きました。
私のステータスが記載されているのですよね。あの常識はずれの魔力や精神力が……。
気付かなかったのはエルトリアさんのレベルを知ってしまったからでしょう。
自分よりも高いレベルの方が居て安心したから忘れていた。
普通に考えれば私のレベルも常軌を逸するものですよね。
どうしましょう。受付のお姉さんに私のステータスを知られてしまいました。
あり得ない数値に驚いたり──はしてませんね。
いえ、驚いているのは驚いていますがいまいち反応が悪いと言いますか。
「あの……」
「あっ、申し訳ございません。こちらリリィ・オーランド様の冒険者ライセンスになります」
私は冒険者ライセンスを手渡しで受け取ります。
「私のステータスについて驚いたりしないんですか?」
「確かに驚きましたが先程こちらへ訪れた冒険者様もライセンスの更新に訪れてその時見たステータスに一度驚いていますので。ですがリリィ様のステータスも十分過ぎるぐらい高いものだと思いますよ」
自分のステータスを自慢したいとはあまり思いませんけど少しだけ残念な気もしますね。
まあいいです。
それより何事もなく冒険者ライセンスを受け取りましたが、試験とかはしなくていいのでしょうか?
昔から冒険者だったとはいえ、新しくライセンスを発行するのですから試験はあると思うんですが。
受付のお姉さんに聞いてみると──
「前の冒険者ライセンスを持参していれば一度試験は受けている証明になるので免除されますよ。それに、冒険者ギルドでは犯罪履歴がなく且つ一定以上のレベルとステータスを持つ方は自動的に試験を免除されることになっています」
なるほど。だったら気にすることもないですね。
まずは冒険者ライセンスを手に入れられて良かったです。





