怒りの魔術……やり過ぎかも…
私は今正常な判断が出来ないと自覚しています。
これから自分でも引いてしまう残虐行為を行うでしょう。
しかし、それが何か?
悪いのは全て黒い靄で姿を隠しているアレですよね。
黒い靄を引き剥がせば正体が露になるのか、それともそういう魔物なのか知りませんがタルトを傷付けたのに変わりない。
翼の治療を終えて傷が完治したタルトには少し待っててもらいましょう。
さて、油断せずにアレに近付いているわけですが逃げる素振りは見せませんね。
見る感じでは怯えている?
足がすくんで立てない様子です。
私と顔も合わせてくれませんね。
まあ『黒白の仮面』を着けているので向こうからしたら私の表情はわからないと思いますけど、表情を読み取れないのはこちらとて同じです。
そんなことより、確かに私は怒っていますがそこまで怯えるほどでしょうか。
アドルと戦っていた時とはまるで別人ですね。端から見ると私の方が弱者を虐める悪人に思えます。
もしかして、実は弱かったり? でも私の【聖光領域結界】を8枚破る攻撃力があるのでそんなことはないはずです。
色々と考えている間にも距離は近付き、今ではアレの目の前に立っています。
最後まで逃げませんでしたね。いや、逃げることが出来なかったと言うのが正しいでしょうか。
どちらにせよ、私が手を抜くことはありませんよ。
タルトを傷付けたこと。その罪は何よりも重い。
深い絶望を味合わせるとも言いましたしね。
ただ、深い絶望とはどういったものでしょうか。
命あるものは一度死ねば二度と蘇ることはない。
死者蘇生の魔術もなくはないですが禁忌とされています。
その昔、とある黒魔道士の男性は愛する女性を謎の流行り病で失いました。
流行り病は治療魔術でも治すことが出来ず、ただただ衰弱していく姿を見届けるだけだったそうです。
愛する女性を亡くした男性は長年研究し続けた魔術にてその女性を蘇らそうとしました。
しかし、既に女性の魂はこの世に存在しなかった。
仮令蘇らせたとしても肉体に魂が無ければそれはただの肉塊でしかない。
更にその肉体に別の魂が入り込み、姿は愛する女性だったが中身は破壊の限りを尽くす化物へと変わり果てたのです。
破壊の化身となった女性は人を殺め、国を滅ぼし、人類史上最悪の存在になった。
──という話があります。
ちなみにその女性は4体の『魔王』によって殺されたという話です。
まあ、これが事実なのかは知りません。誰かが酒に酔って作った話かもしれませんよ。
しかし、この話は魔道士界隈でもかなり有名な話なので、間違っても死んだ人間を蘇らそうとは思わないのです。
それで何の話でしたっけ?
ああそうだ。目の前にいる謎の生命体をどうするかでした。
一撃で殺すのはあまりにも呆気なさ過ぎる。それで私の怒りが収まるかと聞かれたら無理ですね。
かといって威力を加減するのも難しいです。
今の私だと威力の低い魔術を使おうとしても誤って最大火力で放ってしまう自信があります。
これは困りましたね。一撃で死なれてしまっては深い絶望の意味を成さない。
いや、私にだけ出来る方法がありました。
確かにこれは残虐行為です。こんなことを思い付くなんて私は自分が恐ろしく感じます。
ですが可哀想などとは微塵も思いませんよ。
知っていますか? 普段は大人しい人間が怒ったら一番ヤバいということを。
私は謎の生命体に『宵闇の魔道神杖』を向けます。
そのまま魔術を発動しようと思いましたが悪足掻きなのか魔力障壁を張っていますね。
至近距離だとしてもこれではダメージが軽減されます。良くないですね。
なので私は持っているスキルの中にある『崩壊魔術』を使います。
本来はタルトが持つスキルで実際にどんな効果なのか見たことないので知りません。
ただ、直感でこれが最適解だとわかりました。
私が使った『崩壊魔術』──魔術の名前を【技能崩壊】と付けましょうか──により謎の生命体が発動した魔力障壁は破壊されました。
謎の生命体は再度魔力障壁を張ろうとしていましたが発動することが出来ない。
スキルを完全に破壊することは出来ないと思うのでおそらく一時的なものでしょう。
それで十分です。
私はそのまま獄炎魔術を使って謎の生命体を炎で包みます。
言語は理解出来ませんでしたが苦痛で叫ぶ声は変わらない。
勘違いしないように言っておきますけど、この行為が楽しいなんて思ってませんよ。むしろ叫び声が耳に残るのも合わさって最悪な気分です。
生命力ギリギリまで燃やすと謎の生命体は黒い煙を上げます。
途切れ途切れに声を出しています。皮膚が爛れているかもしれませんが黒い靄で正確にはわかりません。
さて、ここからが本番ですよ。
謎の生命体は致命傷を負いました。これだけでも酷く苦しんでいるでしょう。
ですがお忘れですか? 私の本来得意としていた魔術を。
致命傷は私の治療魔術で簡単に治ります。
そして、そこに攻撃系統の魔術を放つ。
炎魔術で燃やして治して。
氷魔術で凍らせて治して。
風魔術で刻んで治して。
土魔術で殴打して治して。
雷魔術で感電させて治して。
………
……
…
その繰り返しをしていくうちに謎の生命体は声すら出なくなりました。
勿論死んでいませんよ。普通に生きてます。生命力も私の治療魔術で全快していますからね。
ただし、心に負った精神的苦痛は治療魔術でも治すことは不可能です。
死を実感したと思いきや助かって、また死を実感する。
この連鎖に耐えきれる心を持つ人間はいませんよ。
怒りをぶつけ終えて、冷静になったところで私がやったことを改めて考えてみると……殺すのは確実にやりすぎですよね。
本当にどうかしてましたよ。これじゃあ本当に私が悪役じゃないですか。
まあ、やってしまったことを後悔しても仕方ありません。
というよりそもそもの話、アレがここに来たのが──もっと言えば私のタルトを傷付けたのが悪いですよね?
つまりこれは当然の報いであり私は悪くない。そういうことにしておきましょう。
しかし、私が同じ過ちを繰り返さぬようにタルトが傷付いても多少は我慢できるように努力することを心に誓いました。
戦いは終わってもその後が大変なのです。
この謎の生命体はどうしましょうかね。
とりあえず【異次元収納箱】で持って帰りますか。冒険者ギルドに引き渡せば何かわかるかもしれません。
私は謎の生命体に触れようとした瞬間──
「※□■、?←≒\─∥%&☆∽∀」
何者かの手が私の肩に触れていました。
この回、リリィちゃんは結構なヤバい子になっていましたが普段はあんな感じではないのでご理解頂けると有り難い。
それともう一つ。
皆様の応援のおかげで目標にしていたランキング入りを達成しました!! ありがとう御座います!





