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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第六章 混血の姫と六妖刀編

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神桜島大決戦 其の二

 神桜麗月は他人の精神世界に入り込み、その人物の記憶を見ることが出来る。


 過去の記憶の中でも、最も辛い記憶。そこに割り込み、更に絶望の底へと突き落とすことで、リリィの心を折り、魔術を使って従順な駒にさせる予定だった。

 

(……これは、いったいどういうことだ……)


 神桜麗月が見たもの。

 それは見渡す限り無限に続く果てしない闇。


(これが、あの娘の精神世界だと言うのか……?)


 仮に辛い記憶がなかったとしても、他の感情の記憶はあるはず。いや、存在しないなど絶対にあり得ない。

 無論、リリィにだって当てはまる。それ故に目の前に広がる闇以外、何もない光景に戸惑いを隠せない。


「おや、お客さんですか」


 背後から聞こえた声に反応し、神桜麗月が振り返る。

 だが、そこには誰もいない。変わらず無限の闇が続いているだけ。


「こちらですよ」


 再び背後から聞こえる声。今度は耳元で囁くように自分へ話しかけてきたが、反応して振り返っても、やはり誰もいない。

 微かに聞こえる笑い声は、今の自分の反応を見て楽しんでいるものだった。遊ばれていることに、神桜麗月の心に若干の怒りが芽生える。


「──姿を現せ」


 怒気を帯びた声で神桜麗月が言うと、目の前に一人の女が現れる。

 自分の姿もそうだが、暗闇の世界でも女の姿は、はっきりと認識できる。女は黒いローブを身に纏い、フードを深く被って顔は、よく見えない。


「はじめまして、神桜麗月」

「貴様は──あの娘に似たものを感じるが、不気味さで言えば、貴様の方が遥かに上。別人格というやつか?」


 神桜麗月の問いに、女は小さく笑う。


「さあ、どうでしょう。私から答える気はないので、あなたの好きなように解釈していただいて構いませんよ。それより、本日はどういったご用件で?」

「この娘を余の──」

「ああ、やっぱりいいです。彼女を通して見てましたから」


 自分から聞いておきながら、その返しには神桜麗月も腹が立ったが、女はそんなこと一切気にもせずに話を続ける。


「残念ながら、彼女の身体を渡すことはできません。彼女には、あなたを倒すという大事な仕事があるので」

「余を倒すだと? 笑わせるな。今までのことを見てきたような口ぶりだが、それなら小娘が余に敵わなかったことも知っているだろ?」

「ええ、もちろん。初戦は負けましたね。ですが、次に会った時は、どうかわかりませんよ?」


 神である自分が、人間ごときに負けるはずない。

 それなのに、女からは既に事の結末を知っており、次はリリィが勝つと言わんばかりの自信が見て取れる。

 

「次などない。あの娘は命ある限り、余の駒として働いてもらうのだからな」

「やれやれ、もう忘れましたか? 何を言おうが、あなたの望みは叶いません。ちなみに、力尽くで奪おうとしても無駄ですよ。神であろうと、ここではあなたの方が圧倒的に不利ですので」


 それを聞いて神桜麗月は女に右手を向ける。

 神桜麗月の背後に無数の魔法陣が浮かび上がり、そこから多種多様な属性の魔術が放たれた。

 

 女は向かってくる魔術を回避する暇もなく直撃し、まともに食らってふらつくと、そのまま霧のように神桜麗月の前から消えた。


「わかっていただけましたか?」


 魔術を放った神桜麗月から少し離れた場所に再び女が現れる。最初から食らってなかったかのように、魔術によるダメージは確認できない。

 

「ここは精神世界──うーん、夢の中という表現の方がいいですかね。夢の中というのは、自分に都合のいい世界を作れます」

「…………」

「そして、ここの主導権を握っているのは私。私が当たらないと思っている限り、あなたの魔術は私には効きません。まあ、もうここで魔術は使えないですけど」


 神桜麗月は試しに魔術を使おうとしたが、女が言ったように魔術が起動しない。


 魔術ではなく、物理による攻撃に切り替えようが、結果は同じだろう。

 こうなっては、どうしようもできないのが現実だ。リリィを駒にできないのであれば、ここに居続ける必要はない。


「……興が醒めた」

「あら、もうお帰りですか?」

「貴様と話しても、鬱憤が溜まるだけだろうからな」

「そうですか。でも、せっかくここまで来ていただいて、何もなしに帰すのも申し訳ないですし──」


 女は少し考えた後、名案が思い浮かんだのか、両手をパンッと叩き──


「そうだ! 代わりにオモチャを貸してあげます。もちろん貸すだけなので、後で返してもらいますけどね。それまでは自由に使ってください」


 一方的に話が進み、気づけば見覚えのある景色。神桜麗月は強制的に元の世界へ戻された。


「……奴が何だったのかわからないが、次はあの娘が勝つような言い方をして()()か。考えていることもわからんな」


 右手はリリィの首を掴んでいたが、今は彼女の姿がない。

 その代わりに、神桜麗月の右手にはリリィが使っていた二本の神杖──『崩天魔』と『幻武創』が握られていた。


「あの娘の気配がない。余の感知が届かぬ場所へ逃げたか」


 周囲には暇潰しに楽しめそうな相手の気配はない。


(これを取り戻しに、あの娘は再び余の前に現れるだろう。それまで力をつけるとするか。ついでに、あの娘の代わりでも用意するとしよう。そうだな、余に捧げられた魔物共も使うか)


 神桜麗月の両手に膨大な魔力が集まる。

 魔力はそれぞれ形を作り、三本の刀となった。


 既にある妖刀は全て神──神桜麗月が作り出したもの。つまり、この世に新たな妖刀が三本生まれたということになる。

 

(他の妖刀に比べれば、少々劣るが、こやつら以外にも使える駒は、いくつか確保できた。欲を言えば、()も従わせたかったが……他と違って余の言葉で支配されぬか。まあいいだろう)










 

 激しく地面に打ちつけたみたいに全身が痛い……。それに、周りが物凄く騒がしいような……。


 何があったんでしたっけ……。

 確か、2日目の神桜祭も楽しんでいて、デオンザールとオウキさんの大食い対決を見たあと……サフィーたちと一緒に美味しいもの食べに行こうとして……。


 急にボロボロになったペディストルが空から落ちて来たんです。そして、神桜麗月という神桜島の神様が私たちの前に現れた。

 

 ──そうです。私は祭りの会場に居た人たちを避難させるために、神桜麗月と戦ったんです!


 寝ている場合ではありません。あの後どうなったのか確認しなければ!


「うっ!」

「わぁっ!!」


 身体を起こすと全身に痛みが走ります。

 周りを見ると、広めのテントの中にいるようです。


 次に自分の身体を見てみると、あちこちに包帯が巻かれ、長年愛用してきたローブも、かなりボロボロに……。そういえば、神桜麗月の強烈な魔術をまともに受けたんですよね。

 

「リリィさま、大丈夫?」

「キュイ……」


 私のことを看病してくれていたのか、タルトとサフィーが心配そうに聞いてきました。さっきの驚いた声はサフィーの声ですね。


「はい、大丈夫ですよ。私はどのくらい寝てましたか?」 

「えっと、一時間くらい」


 神桜麗月と戦ってから一時間……。

 彼女を止められる者は、おそらくいないでしょうし、この一時間で大勢の犠牲者が出ていることでしょう……。


「師匠たちにリリィさまが起きたこと伝えてくるね」


 サフィーは走って外へ出ていきました。

 そして、すぐに従魔たちと、オウキさんたちが私のもとへやってきます。ただ、神桜麗月にやられたバエルたちの姿はありません。


「リリィ嬢、無事か!?」

「無事と言えば無事です」

「まったく、無茶しやがって……」


 これ以上、危険と判断したら徹退すると言っておきながら、みんなを不安にさせる結果になってしまって……。これでは主として失格ですね……。


「撤退する気はあったんですが、相手の魔術をまともに食らってしまって……。おかげでボロボロです」

「申し訳ありません……。私とフォルネさん、ツバキ様の三人でリリィ様の傷を治そうと『治癒魔術』を使ったのですが、なぜか治らなくて……」


 グラが頭を下げて私に謝罪します。

 三人がかりでも治せなかったのは、神が使う魔術だから、並みの『治癒魔術』では効果がないということでしょうか。それとも最後に食らった、あの魔術が特殊なだけ?


「こうなったのも私が原因ですし、謝らないでください。傷を癒そうとしてくれただけでも嬉しいです」

「リリィ様……」

「それより、救助の方はどうなりましたか?」

「命令通り、あの場に居た奴らは全員『聖魔女の楽園』に避難させたぜ。大和やそれ以外に住む奴らも避難できているが……」


 その先をデオンザールは言いづらそうにしていました。内容は何となくですが、予想できます。


「デオンザール。私が眠っていた一時間に何があったのか、報告を続けてください」

「……ああ。わかった」


 私が神桜麗月に敗北した後、彼女は町や村を次々に襲撃したそうです。供物がどうとか言ってたので、それが関係しているのでしょう。


 私が眠っていたので、自分たちの判断で救助を行っていたようですが、それでも救えなかった命はありました。

 

 そして、こちらの戦力も少し削れてしまったようで、どうやら各地で一般市民の救助中に襲撃されたと。

 相手は神桜麗月ではなかったみたいで、報告では神桜麗月の他に敵が三人いるようです。


 襲撃を目撃した者たちの報告では、三人の敵は、それぞれ特殊な能力を使い、私の従魔クラスでないと、勝つことは難しいみたい。


「新たに現れた敵については、ひとまず置いておくとして。みんな、よく頑張りました。特にマナフィールは大活躍でしたね」

「いえ、私にできることはこれくらいなので……」


 私が褒めると、それが嬉しかったのかマナフィールは照れている表情を見せます。


「そんじゃあ、この先どうするか話し合うとするか──っつっても、戦う以外に道はないと思うが」


 オウキさんの言う通り、このままでは何も解決していない。私たちが取れる選択肢は、神桜麗月を倒すことのみ。


「そうですね。神桜麗月との戦いは避けられない。作戦会議をしないといけません。ただ、その前に一ついいですか。私の杖って、どこにあるか知りませんか?」


 神桜麗月に首を掴まれてからの記憶はありませんが、自分で杖を仕舞っていないことは確実です。


 あの後、何かがあって神桜麗月から解放され、気を失った私が地面に激突する前に、従魔の誰か──あの高さから落ちて無事ということは、おそらくタルトが私を助けてくれたのでしょう。


 このテントまで私を運んでくれたということは、途中で落としていない限り、杖も一緒にテントの中にあるはず……。


 ──ま、まさか、落としたとか……? いやでも、誰かが回収してくれている可能性だってあります。 


「リリィ嬢の【異次元収納箱(アイテムボックス)】にないのか?」

「は、はい」

「……じゃあ、あいつらの見間違いじゃねぇのか……」


 見間違いとは? デオンザールの深刻な表情を見るに、良いことではないのは間違いないです。


「リリィ嬢。おそらくだがリリィ嬢の杖は、神桜麗月が持ってる」

「……え?」

「救助中に神桜麗月を見た奴らがいたんだが、そいつらが言うには、神桜麗月の背後に二本の杖があったっぽくてな。あいつらはリリィ嬢の杖に似ていると言ってたが、今ここにリリィ嬢の杖がないなら……」


 ほぼ確実と言ってもいいでしょう。最悪以外に言い表す言葉がありません。

 ただでさえ、神桜麗月は、かつてないほどの強敵なのに、そこにシルファさんが造った二本の杖の力が加わったら、完全に勝ち目がなくなる。


 それに、私のために杖を造ってくれたシルファさんに合わせる顔がありません。会った時、何て言えばいいのか……。


「おっ、ここにいたか」


 タイミングが悪いというか何というか。

 杖の話題が出ている時に、シルファさんがやってきました。背中には布で巻かれた棒状の物を背負っています。


「シルファさん……」

「どうした、元気ないな。ほら、ご要望の杖だぞ」


 シルファさんから背負っていたものを手渡されます。

 デオンザールをモチーフとした杖なので、他の杖と比べて大きいですが、持ってみると思ったより重くない。相変わらず、とんでもない力を秘めていますが。


「名前は『巨壊神杖・覇千砕(ハセンクダキ)』。パワーだけで言えば、多分こいつがダントツ。今まで造った杖より扱いが大変かもしれないが、まあお前ならイケるだろ」

「…………」

「聞いた話だが、何かとんでもなくヤバい敵と戦うんだろ? けど、オレが造った杖が三本もあれば、何とか──」

「シルファさん! えっと……『崩天魔』と『幻武創』は、その敵に奪われてしまいました……ごめんなさい……」


 嘘を吐いたって意味がない。ここは正直に事実を述べ、謝罪するべきだと思いました。

 でも、シルファさんの顔を見れません。顔を上げた時、彼女がどんな顔をしているのか見るのが、とても怖い。


「リリィ」


 何を言われるのか、不安でいっぱいです。

 すると、シルファさんの両手が私の頬を挟み、グイッと強制的に顔を上げさせられました。 


「ひ、ひるふぁはん……?」

「『崩天魔』と『幻武創』のスキルは消えてないか?」


 今までずっと同じものを使ってきて気にしたことがなかったのですが、武器が持つスキルというのは、長く使い続けると装備を解除しても、獲得した状態でステータスに反映されるみたいです。


 それを最近、シルファさんから教えてもらいました。

 なら、スキル有りの武器を、たくさん集めればスキルを獲得し放題になるのではと多くの人が考えるでしょう。


 しかし、うちが少々特殊なだけで、本来であればスキルを持つ武器は、稀少かつ高価。

 武器のスキルが、いつ獲得出来るかも装備によって異なります。数か月のかかる時もあれば、数年かかることも。


 そして、奪われた杖たちのスキルですが、ステータスを確認してみると──


「……あります、ちゃんと」

「そっか。なら、問題ないな」


 杖を神桜麗月に奪われたというのに、シルファさんは思いの外、あっさりとしています。


「言っとくが、オレは別に怒ってないからな。まあ、諦めるっていうなら話は別だが、オレの知るリリィ・オーランドは奪われたままで終わらない。 だから『覇千砕(コイツ)』を使って取り返してこい。今度は奪われるんじゃねぇぞ?」


 そう言って、笑みを浮かべるシルファさんを見て、思わず涙が出そうになりましたが、ここはグッとこらえます。

 

「必ず──必ず、シルファさんが造ってくれた杖を取り返します! 絶対です!」


 そうと決まれば、いつまでも落ち込んでいる場合ではありません。私の杖の奪還、そして神桜島の平和を取り戻すための作戦会議です。


 敵の強さを考えると、今回は総力戦。霧禍と炎衆の人たちも、ここへ避難しているようなので、協力を仰ぎましょう。


「な、なあ。少し入りづらい雰囲気だったから機を窺っていたんだが、そろそろ入っても良いか?」


 作戦会議の準備をしようとした時、今度は一人の着物を着た女の子がテントの外からこちらを覗いていました。


「どうかしま──」


 最初は避難した際に親とはぐれてしまい、ここへ来たのかと思いました。

 でも、すぐに、それは違うと。

 女の子に対する違和感。同じようなものを、つい最近感じました。


 姿は言うまでもなく子供。雰囲気だって、それとは真逆に思えます。

 ただ、顔や髪の毛、美しい桃色の瞳を見ると、彼女には面影がある。

 何より、直接戦った私の心が、あの女の子は間違いなく“本物”だと訴えかけている。


 私は恐る恐る彼女に問うことにしました。


「い、一応お聞きしますが、もしかして、あなた()神桜麗月……?」

「うむ! その通り! 余は神桜島を守る神──神桜麗月だぞ!」

明日はカドコミ&ニコニコ漫画にて、コミカライズ第3話②が更新されます。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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キャラが多すぎて...たまに混乱するから、登場人物の紹介が欲しいな...
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