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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第六章 混血の姫と六妖刀編

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神桜島大決戦 其の一

「なんだ、次は貴様らが余の遊び相手になってくれるのか? 先の連中も悪くなかったが、少々物足りぬと思っていたところだ」


 言葉の一つ一つに途轍もない重圧が乗っている。

 オウキの話をまともに聞かずに『聖魔女の楽園』へ避難しなかった者たちは、その重圧に耐えきれず、次々と泡を吹いて倒れ始めた。

 

(……ッ、どうしたら……)


 倒れた者たちの救助をするべきだと頭ではわかっている。しかし、今ここで動いていいのか、リリィは指示を出せないでいた。


「それらは余の供物。救いたいと考えるのは勝手だが、救おうと動けば殺す。興が削がれるようなことはするでないぞ」


 殺気の籠った言葉がリリィたちに放たれる。

 額から流れた一滴の汗がリリィの頬を伝う。


 指示を出さなくて正解だった。もしあそこで指示を出していれば、確実に全員殺されていた。


「……あ、あなたは、いったい何者ですか……?」


 下手に動かなければ、これくらいの質問は許されるだろうとリリィは意を決して問うた。


「久方ぶりの外界で気分がいい。特別に教えてやろう。余は“神桜麗月(シンオウレイゲツ)”」

「神桜麗月だと……マジかよ、ありえねぇ……」


 相手の名を聞き、オウキは動揺する。

 リリィも、その名前は神桜島の歴史について調べていた時に知った。


「……オウキさん。私の覚え間違いでないなら神桜麗月って、あの大きな桜の木に眠っている神様の名前ですよね……」

「……ああ、そうだ。確かにアレが本物の神っていうんなら、このとんでもねぇ圧にも納得できる」


 神の名を語る偽物──という線もなさそうだ。

 リリィも納得した。アレが正真正銘、本物の神なら、その身に流れる魔力も人間如きが感知できるものではないだろう。


 しかし、なぜその神がここへ? 年に一度の祭典だから?


 危険と判断したバエル、バラム、ペディストルが返り討ちに遭っているのだから、共に祭りを楽しもうというわけではないだろう。

 

「あなたの目的は──」

「待て。余は駄弁りに来たわけではないぞ?」


 ほんの一瞬の出来事。距離を詰められ、神桜麗月がリリィの目前にまで迫っていた。

 決して油断していたわけではない。むしろ、今まで生きていた中で一番警戒をしていたくらいだ。

 

「──ぐッ!!」


 リリィの左横腹に神桜麗月の強烈な蹴りが入る。

 幸いにも、リリィは神桜麗月が現れた時に、自分が展開できる限りの障壁を張っていたため、無防備ではなかった。

 とはいえ、女が繰り出せるとは思えない威力、重さにリリィは耐え切れず、蹴り飛ばされる。


「リリィ嬢ッ!」

「「リリィさまッ!」」

「リリィッ!」


 蹴り飛ばされたリリィを心配する一同。神桜麗月の蹴りが開戦の合図となった。


「テメェ! よくもリリィ嬢をッ!!」


 最初に動いたのはデオンザールだった。

 神桜麗月に迫り、強く握られたその拳で殴りかかろうとする。

 しかし、迫り来る拳を神桜麗月は避けようとしない。神である彼女なら容易に避けられるというのに。


「【流転水々(ルテンスイスイ)】」


 赤子を撫でるかのように、デオンザールの拳に優しく触れ受け流し、勢い余って体勢を崩すデオンザールへ透かさず腹部に一撃を見舞う。


「がはっ!」


 想像よりも遥かに強烈な一撃。戦闘不能にならないように加減はされたが、デオンザールは予想だにしない威力に膝をつく。


「次」


 視線の先にはサフィーとアヤメがいた。

 リリィとデオンザールが、ああも簡単にやられたのだ。子供二人が、どうにかできる相手ではない。

 勿論、二人も実力に大きな差があることくらい重々理解している。『聖魔女の楽園』へ逃げても責める者はいない。


「ふぅ……」


 それでもサフィーは大剣を構える。

 勝算があるわけではない。リリィの従魔としてのプライドが逃げてはならないと、彼女を縛ってしまっているのだ。


「待てよ! チビ共の前に俺が相手だ!」


 神桜麗月が動く前にオウキが吠える。

 そんなオウキを神桜麗月は一瞥するだけ。遊び相手として認識していないようだった。


「おい!」

「余に構ってほしいのであれば、まずはそれを抜いてみせろ」

「──ッ! 言われなくても──」

「無論、不可能だが」


 たとえ相手が神でも、今ここで戦わなければならないという本能がオウキを動かす。だがしかし、妖刀はそれに応えてくれない。


 妖刀剛羅・百鬼桜を構えるが、いつもなら簡単に抜けるのに、どれだけ力を入れても、一向に妖刀が鞘から抜ける気配がない。

 

「ぐっ……。なんで、抜けねぇ……。どうしちまったんだよ、百鬼桜ッ……!!」

「妖刀は余が生み出した子。我が子が母に刃を向けるなど、あってはならぬ」

「ちっ、くしょう……。だったら、妖刀なしで戦うだけだ!!」


 抜刀を諦め、オウキは走り出す。

 これが愚策であることは、オウキも承知の上。デオンザールのように処理されて終わるのが明白だ。

 

 それでも大和の将軍として、そして『憤怒の魔王』として、黙って見ているだけというわけにはいかない。


 ユニークスキルが最大限の効果を発揮するには、まだ感情が足りず、また余計な感情も入り混じっている。

 純粋で全身が燃え滾るほどの怒りが湧いてきていない以上、オウキはユニークスキル、妖刀がない状態で戦わなければならない。

 

「うおおおおおおおおお!!」

「学習しないな。貴様もあの男と同じように──」


 オウキを返り討ちにしようとする神桜麗月だが、完全に振り返る前に動きが止まった。

 何らかの魔術によって硬直したわけではない。周囲の変化に気づいたからだ。


(余の供物が減っている……?)


 正確な数までは把握していないが、確実に気絶した者たちが周囲から減ってる。

 

 サフィー(こども)たちは動いていない。

 デオンザール(あの巨人)も依然倒れたまま。


 ──最初に蹴り飛ばしたリリィ(おんな)の魔力が移動している。


 目視では姿を確認できない。しかし、気絶した者たちは、まるで神隠しに遭ったかのように次々に消えていく。

 

「あの娘の仕業か。まあいい。見えないのであれば、自らから出てきてもらうまで──【万召雷鞭(バンショウライベン)】」


 神桜麗月の周りに無数の雷が生まれる。

 その雷は、一般的なものとは異なる。

 雷とは天より降るもの。しかし、この雷の動きは、まるで鞭のよう。神桜麗月の意思で自在に動く。


「クソがッ!」


 オウキは攻撃を中断し、地を強く蹴って後方へ回避する。

 しかし、雷の鞭は全方位に放たれ、避けても避けても迫ってくる。加えて、雷の鞭が地面に叩きつけられるたびに、雷が弾けて周囲に被害を及ぼしていた。


「…………」


 リリィはスキルで姿を隠し、気絶した者たちを『聖魔女の楽園』へ送っているものの、全てというわけではない。まだ数は残っている。

 被弾しないように心がけても、気絶している彼らは避けようがない。巻き込まれないよう回避するのは、かなり厳しい話。


「そこか」


 何もない空間に神桜麗月を手を伸ばし、何かを掴んだ。

 硬い感触を肌で感じると同時にリリィが姿を現す。神桜麗月が掴んだのは、姿を消したリリィが振るう杖だった。


「貴様、術士──いや、現代では魔道士と呼ぶのだったか。貴様は魔道士なのだろう? だが、余の知るソレは皆、影や物に隠れ、離れた場所で術を使う者たちだ」

「師匠に近接戦も出来るようになれと言われただけで、その認識は今の時代も強く根付いていますよ」 


 神桜麗月と対峙した時は、まだ恐れやそれによる身体の硬直があったが、今は少しずつだが普段通りに戻ってきた。


 リリィが攻撃を仕掛け、それを神桜麗月が反応したことにより、無数の雷の鞭は消滅する。

 自ら消したのか、何か条件があって消えたのか定かではないが、厄介な雷の鞭が消えたことで被害も抑えることができる。


(デオンザール、無事ですか?)

(あ、ああ……。強烈なの食らっちまったけどな)


 念話にてデオンザールの無事を確認し、リリィは安堵する。


(今動ける従魔たち全員に連絡します。大至急、私のもとへ来て、気を失っている人たちの救助を頼みたいです。詳しいことはデオンザールたちに聞いてください)


 杖を掴む神桜麗月の手を振り解き、一度距離を取ったリリィは念話を使って従魔たちに指示を出す。


(救助って……アレはどうするんだよ)

(……私が少しでも多く時間を稼ぎます。ですが、あまり期待はしないでください)

(一人でか!? いくらリリィ嬢でも、それは無謀だ!)


 一人で相手をすることが無謀なことくらいリリィだって理解している。

 しかし、今は救助が最優先。

 気絶した者たちが戦闘に巻き込まれないよう、リリィは神桜麗月を上空へ誘導しようと考えている。そうなると、飛行できる者が時間稼ぎをしなければならない。


 現状、飛行可能な従魔は、タルト、グラシャラボラス、フォルネウス、アモン、マナフィールの5名。マナフィールの分裂体も考えれば、人数は更に増える。


 しかし、全員で神桜麗月と戦って全滅するくらいなら、可能な限り多くの人員を救助に充て、速やかに終わらせて一時撤退するのが最善とリリィは判断した。

 

(心配しなくても、これ以上は危険と判断したら『聖魔女の楽園』に戻ります。それまでに、みんなで救助を──)

(で、でもよぉ……)

(──ッ。これは命令です!!)


 未だかつて、リリィは従魔たちに強い口調で命令したことはない。しかし、今はそうせざるを得ないほどの状況なのだ。


 デオンザールは命令と言い放ったリリィに対し、異議申し立てをやめた。デオンザールも戦闘より救助を優先すべきなのはわかっている。

 

(……命令なら仕方ねぇ。俺たちは一秒でも早く救助を終わらせる。だから、リリィ嬢は決して無理するなよ)

(はい。みんな、お願いしますね)


 念話を切り、デオンザールたちが動くより先にリリィは『浮遊魔術』を使い、神桜麗月を上から見下ろす。


 攻撃は仕掛けない。このまま何もせず見下ろすだけ。

 

 上空へ誘導して時間を稼ぐと言ったが、相手が乗ってこなければ意味がない。しかし、リリィは神桜麗月なら、この挑発に乗ってくると踏んでいた。


「……神である余を上から見下ろすか……。あまり図に乗るなよ、小娘ッ……!」


 神桜麗月の圧が更に増大するが、リリィは怖気づかない。ここで精神が敗北してしまっては、時間稼ぎ以前の問題だ。


「貴様の考えていることは容易に想像がつく。……この場で気を失っている供物は、ほんの一握り程度。いいだろう、余に一人で挑もうとする、その度胸と無謀さに敬意を表し、敢えて乗ってやる」


 すぐさま冷静になって神桜麗月も浮遊し、それを確認したリリィは地上に被害が及ばないよう更に高度を上げる。


「これだけ離れたなら──」


 地上にいるデオンザールたちが豆粒に見えるほど上昇した。

 対する神桜麗月は、リリィに攻撃を仕掛けず、彼女より少し高い位置で止まる。余程見下ろされるのが癪に障ったのだろう。


(相手は邪神ではありませんが、神様との戦いがこうも早く現実になるとは……。()()が完成していれば、少しは余裕が出来ると思うんですが……)


 最近リリィは空いた時間を使い、新しい魔術の術式構築に励んでいる。

 利便性を考慮して、固有魔術のような条件付きの強力な魔術にはしなかったが、試作の段階で固有魔術に匹敵すると言っても過言ではないものになっていた。


 その魔術は、八割ほど完成しており、あと数日もあれば完璧に仕上げることができた。あと数日あれば……。


「そうだ、貴様に一つ聞きたいことがある。あの奇妙な霧はなんだ?」

「……私にもわかりません。突然現れたものなので」 

 

 神桜麗月は島民を自分の供物と言っていた。

 島民を島外へ逃がさないように、神桜麗月が作り出したものとリリィは一瞬考えたが、霧は神桜麗月が現れる前から存在していた。何より、神桜麗月自身、あの霧については何も知らない様子である。


「ふむ。嘘を吐いているわけではないな。まあいい。余にとっては都合のいいものみたいだからな。では、始めるとしよう」


 天高く上げた神桜麗月の手の先に、巨大隕石と言わんばかりの氷塊が姿を現す。

 

「【雹禍ノ裁(ヒョウカノサバキ)】」


 神桜麗月が腕を振り下ろし、巨大な氷塊が墜ちる。

 リリィに向かってきているが、高速で堕ちてきているわけではない。横へ回避すれば衝突は回避できる。


 だが、ここで回避すれば、あの氷塊は何処に墜ちる?


 答えは地上。リリィは無事でも、今も救助活動をしているデオンザールたちに被害が及ぶ。

 神桜麗月は、それを理解した上で、この技を選んだ。複数あるようで、実際リリィが選べる選択は一つだけ。


(アレは、ここで今消滅させなければいけないッ!!)

 

 属性の相性で言えば、氷に最も有効な手は炎。

 問題は、神が使う魔術に人間の魔術が通用するのか。

 また、巨大な氷塊は凝縮された魔力の塊と言ってもいい。生半可な魔術では、属性の相性など関係ないだろう。


 炎属性の魔術で失敗する可能性が僅かでもあるのであれば、地上にいる者たちに被害が及ばぬように一撃で、氷塊を消滅させるまで。


「【崩天聖魔滅焔龍砲ドラグマナ・ディ・カタストロフ】」


 リリィは『崩天魔』と『幻武創』──二本の神杖がそれぞれ持つ「フォース」を使用し、ステータスを上昇させ、自身が使える最高火力の魔術の一つを放った。


 実戦で使用したのは、これで二度目。

 初めて使ったのは、シャルルフォーグ学院での一件だが、今回は神杖を二本装備していることにより、威力は更に跳ね上がっている。

 

「なかなかやるではないか」 


 高密度の魔力の砲撃は巨大な氷塊を飲み込み、魔術に付与されていた『物質破壊』のスキルにより、跡形もなく消滅する。


 ひとまず氷塊が地上に墜ちずに済んだ。

 しかし、スキルでステータスを上昇させたとしても、リリィが放った魔術はそう何度も連発して撃てるものではない。撃っても、あと一発。確実にダメージが入る時だけ。


 対して、あの氷塊を神桜麗月は魔道士が最初に覚える初級魔術みたいに、簡単に撃つことができるだろう。


 後手に回れば、無駄に多く魔力を消費することになり、それは必然的に稼げる時間の長さにも繋がる。 

 

「今度はこちらからです!!」


 リリィは『幻武創』を振り、それによって生まれた魔力の剣を神桜麗月へ放つ。

 何も勝つ必要はない。神桜麗月に地上へ被害が及ぶレベルの魔術を使わさせなければ、今はそれでいい。


「ふむ。先のもそうだったが、これも実に良い術だ。余も数多くの術士を見てきた。貴様のような術士は稀有な存在よ」


 リリィを称賛しつつ、神桜麗月は向かってくる剣を魔力を纏わせた手で撃ち落とし破壊する。

 それを見てリリィに動揺はない。相手は神なのだ。ありとあらゆる魔術は通用しないという前提で魔術を行使している。


 破壊されても構わずリリィは次々に魔力の剣を作り、一定の距離を保ちながら神桜麗月へ放ち続けた。

 

 そのまま神桜麗月に魔術を行使する時間を与えないよう、絶え間なく魔術で攻め続けるリリィ。


 次々に迫る魔術の対処で神桜麗月から攻撃を仕掛けてくることはないが、防戦一方というわけではない。神桜麗月からすれば、これは子供の遊びに等しい。


「さて。このまま遊び続けてもいいが、貴様は術を放ち続けるだけで、つまらんだろう。そろそろ余の方から仕掛けるとしよう」


 一瞬だ。笑みを見せた神桜麗月がリリィの前から姿を消す。

 相手の魔力を一切感じ取れない以上、次の神桜麗月の攻撃を見て行動に移すのでは遅い。故にリリィは直感に任せた対処をしなければならない。


 リリィはその場で身体を捻り、その勢いを利用して『崩天魔』で薙ぎ払う。

 

 姿を消したのであれば、次に現れるのは背後の可能性が高い。安易な考えだが、瞬時にリリィはそう判断し、賭けに出た──いや、次の瞬間には攻撃が届いているかもしれないため、そうせざるを得なかった。

 

「──ッ」


 視線の先に神桜麗月の姿はない。ただ、背後に何かしらの気配があることだけはわかる。


「────」 


 神桜麗月はリリィとの距離を詰めたのに対し、リリィは自分から敵に背中を見せた。


 最も高いであろう可能性に賭けて敗けた人間のがら空きの背中。

 当然リリィは背後にいる自分に気づいてはいるだろう。だが、振り向くよりも先に攻撃が届く。


(これで仕舞いか、それとも──) 

 

 リリィの背中を貫こうとする神桜麗月の手刀。このまま貫き、心臓を抉り出してしまえば、人間のリリィは簡単に死ぬ。この状況から打開できる何かがあるのか。 

 

「……フッ、そうか。これが貴様の狙いか」


 ──神桜麗月の手刀は下から急上昇してきた何かに弾かれる。


 リリィは賭けに出た。──そして、その賭けが失敗に終わるパターンも想定していた。

 故に、攻撃が空振りに終わった瞬間、即座に『幻武創』を手放し、練習していた杖の遠隔操作で加速させ、神桜麗月の攻撃を弾くことにした。

 

 手刀を強く弾いたことで神桜麗月の体勢は僅かに崩れる。生まれた時間は、一秒にも満たない。

 

 しかし、背後を取られた時点で、リリィは魔術発動の準備を終えていた。あとは発動させるだけ。一瞬でも時間を作れたら、それで十分だ。


「【崩天聖魔滅焔龍砲ドラグマナ・ディ・カタストロフ】」


 再び身体を捻って方向を変え、神桜麗月の胴体に渾身の魔術をゼロ距離で叩きこむ。

 この魔術に付与されている効果がある以上、距離など関係ない話ではあるが、この魔術をゼロ距離で食らって生き延びることなんて不可能。


 だが、魔術には効いたが、生物としての次元が違う神本人にも同じことが言えるとは限らないし、何だったら期待はまったくしていない。


 確実に魔術は命中した。それでも胸の中にある、ざわつきが鎮まることはない。


「……余の障壁に亀裂が入るなど、いつ振りだろうか」


 リリィの魔術を食らっても、神の障壁に小指程度の亀裂が入っただけで、神桜麗月の身体は無傷だった。


 今のリリィが扱える最高火力の魔術は【崩天聖魔滅焔龍砲ドラグマナ・ディ・カタストロフ】だ。これがまったく通用しないのであれば、神桜麗月にダメージを与えることは不可能と言っても過言ではない。


 まだリリィには固有魔術が残っているが、使えば魔力を消費し切るまで魔力が回復しない。

 魔力切れの後、杖に溜めた魔力で回復しようにも、回復するまでは完全な無防備。そこを突かれたら、リリィは回復する前に致命傷を負うことになる。


 それ以前に、固有魔術の効果も神相手に通用するかわからないし、通用したとしても効果に大凡の予測がつけば対策される。そうなると魔力を無駄に消費することになるため、無暗に使えない。


「…………」


 今は時間稼ぎだけでいいが、その後のことを考えると他に有効な手段がない限り、完全に詰んでいるだろう。

 

「おそらくだが、今のが貴様の最も威力の高い術なのだろう。それが余に通用しないとわかった今、貴様は──」


 絶望するだろうか。そう問いかけるよりも先に答えは出ていた。

 リリィの目は死んでいなかった。心も折れていない。力強く、真っ直ぐ、その瞳で神桜麗月を見つめ、戦う意思を見せている。


「いいぞ! そう来なくてはなッ!」


 歓喜に心が満たされる神桜麗月。喜びに笑みを浮かべた瞬間、逃げ場を無くすようにリリィの周囲には魔法陣が現れる。


「こ、これは……」

「余も少しばかり本気を出してやろう」


 魔術が放たれる前に『聖魔女の楽園』へ逃げる? いや、そんな猶予はない。


「加減はしてやるが、死にたくなければ防御に徹しろ──【滅式(メツシキ)黒天桜閃牙(コクテンオウセンガ)】」


 膨大な魔力が黒い光となり、全方位からリリィに向けられて発射される。

 瞬時に「これは今までとは比にならない」と判断したリリィは神桜麗月の言う通り、ほぼ全ての魔力を防御に回す。


「ぐっ……」 


 神桜麗月の放った魔術が爆ぜる。リリィを囲む魔法陣は、彼女を閉じ込める結界としても機能しているため、密室で大爆発を食らうようなもの。


 魔術の発動が終わり、リリィを囲む魔法陣が消える。

 爆発で生じた煙が晴れ、リリィは姿を見せるが、意識は朦朧とし、呼吸をするだけでも精一杯の様子だった。

 杖に溜めていた魔力も使った。辛うじて浮遊を維持できているリリィに戦う力は残っていない。


「……はぁ…………はぁ……」

「さすがに戦いを続ける力は、もうあるまい」

 

 十分な時間は稼げただろう。浮遊を解除して、落ちながら『聖魔女の楽園』へ逃げ込めば──そう思った時には、神桜麗月の手はリリィの首を掴んでいた。


「がはっ」

「貴様は優秀だ。殺すのは惜しい。余の配下になる気はないか?」


 リリィの細い首など簡単に折れる。うっかり、へし折らないように加減して神桜麗月はリリィに問う。無論、これが無意味な質問だということは神桜麗月も理解している。


 神桜麗月に問われたリリィは力を振り絞り、ゆっくりと右腕を動かして『崩天魔』を神の身体に優しく当て──


「……お断り、しま、す……」

「そうか。なら、余のために働く従順な駒として、貴様を迎え入れるとしよう」

 

 リリィの首を掴む神桜麗月の右手が黒く染まり侵食していく。神桜麗月はリリィの精神世界に入り込み、内側からの支配を始める。

第六章後半戦は長くなりそう……な予感。

頑張って執筆しますので、サブタイの手抜き感には目を瞑ってください……。


明日はカドコミ&ニコニコ漫画でコミカライズ第3話が更新されます。

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