海上調査
少し修正しました
神桜島を囲む濃霧。その調査のために、私たちは流門へやってきました。
オウキさんと今回は五剣のゴンジュウロウさんとヒナノさんが同行してます。彼らは先に港の方へ行き、詳しい事情を漁師さんたちに聞きに行きました。
私は一度別行動を取り、流門で人気のない路地裏へ。
そこで『聖魔女の楽園』への扉を開き、マナフィールを呼んで彼女に扉を作ってもらいます。
「問題なく扉を作れました! 大和に戻りたい時は、私に言っていただければ『聖魔女の楽園』を経由して戻れますよ!」
流門へ出発する前に、マナフィールには同じように大和の人気のない場所と城の中に扉を作ってもらいました。でも、両方の街から少し外れた場所にも扉を作ってもらってます。
緊急時や許可を得てる場合を除き、基本的には街の外に作った扉を使うように決めました。
もし、他の街中で出入りしているところを見られて、入門審査を受けていないことが発覚したら面倒ごとになることも考えられるので。
「では、ミューファスを呼んできてもらえますか?」
マナフィールに頼み、そう時間も経たずして──
『よっ、と。いやぁ、制限はあるけど、街の行き来がこうも簡単に出来るなんて便利だねぇ』
「ミューファスも──というより、異界人はやろうと思えば、出来るんじゃないんですか?」
『あれもリリィっちのと同じで、いろいろ制限があるんよ。それに今は普通に無理だし』
あの後、ミューファスから話を聞きました。
濃霧の話を聞き、ミューファスも一度異界へ繋がる扉を開こうとしたそうです。
何度か見たことある、何もない空間がいきなりピキッと割れて崩れるアレです。
しかし、異界への扉は作ることすら出来なかった。神桜島を囲む濃霧が関係していると判断していいでしょう。
『船に乗るんでしょ? あーし、海は何度か見たことあるけど、船に乗ったことないから楽しみ!』
「遊びに行くわけじゃないんですからね」
『わーかってるって。けどさ、真面目になり過ぎたって疲れるだけっしょ。気楽に行こうぜ、気楽に』
この人、今の自分の状況をわかっているんですかね……。下手をすれば、一生自分のいた世界に帰れないかもしれないのに……。
話は変わりますが、今回私とミューファス以外のメンバーはタルトだけです。
既にオウキさんたちがいますし、調査なので船に乗って現場を見に行くようですが、大人数で行くと船に乗れない可能性が出てきます。
だから、今回は少人数で。タルトは私に抱っこされるか、私の隣を飛ぶので問題はありません。
その代わり、私はバエルに指示を出しておきました。
あくまでも可能性の一つに過ぎませんが、濃霧の原因が海上にあるとは限りません。
原因の一つとして挙がっていた魔術もしくは魔道具によるもの。それらしき魔法陣や魔道具が島内に存在しないか探してもらうように頼んでいます。
もちろん、そんなものは存在しないかもしれません。ただ、確実に、とも言い切れない。
無駄に終わる可能性はありますが、バエルは嫌な顔せず快く引き受けてくれました。まあ、バエルが私の頼みを断る方が珍しいというか、あり得ないというか。
やり方はバエルに一任してます。
さすがに範囲が広すぎるので、一人では無理。幸いにも人手は十分すぎるくらい足りているので、きっと『聖魔女の楽園』の各軍を使うことでしょう。
『おっ、あれじゃない?』
目を離したら寄り道しそうなミューファスを連れながら、しばらく歩いて港へと向かう私たち。
港へ到着すると、オウキさんたちが漁師さんたちと話をしている姿が見えました。
「おう、リリィ」
「すみません、遅くなりました」
「そんなに待ってねぇから大丈夫だ。んじゃあ、早速行くか」
「オウキ様、どうかお気を付けて」
用意してもらった船は、大きな帆が張っている海賊船っぽい立派な船です。このタイプの船は初めて乗りますね。
船に乗り込み、流門を出発して少し経ちましたが、今のところ、これといって異常はなし。順調に濃霧が発生している場所へ向かえてます。
海の魔物が船を襲うことも考えられますが、オウキさんが乗っているから襲ってこないのかも。弱い魔物なら海中でも『魔王』の存在感に圧倒されているでしょうから。
ただ、移動に関しては問題ないのですが、それ以外で一つ。
「大丈夫ですか?」
『ぉ……大丈夫……じゃないかも……うっぷ……』
出発前はあれだけ元気だったミューファスが船酔いで撃沈しています。濃霧が発生している場所は、もう少し先とのこと。
船に乗るのは初めてとミューファスは言ってましたが、あまりに船酔いが酷いのか吐いちゃってます。
辛そうなのは一目瞭然。あれを見て放置というわけにはいきませんので、背中を摩って【異次元収納箱】にある水とポーションを渡しました。
「どうぞ。まずは水で口をゆすいで、そのあとポーションを飲んでください」
『さ、サンキュー……ッ!?』
ポーションを飲む前のミューファスの顔はげっそりしてましたが、飲んだ後はいつもの通り顔に戻りました。
『なにこれ……。なんか元気でるし、辛くない……』
「酔い止め薬です。あったの忘れてました」
これまたバエルが『聖魔女の楽園』の特産品の一つになるものとして、いろいろな薬を作ってたみたいで。
基本、私は従魔のやりたいことは好きにやらせているので、特産品を作ることは別にいいです。
でも、うちは他国と貿易しているわけではないので、いったい、いつ、どこで、誰に売るのやら。まあ、いずれどこかの国と貿易するのも面白そうですが。
ただ、バエルにしては珍しく、このポーションは欠陥品みたいで、完成はまだ先になるとのことで……。
ミューファスを実験体にしたわけではありませんよ。効果はご覧の通りです。悪い副作用があるわけでもない。
『もぅ、そういうのは早く出してよぉ~』
「実はこれ、軽めの症状だと飲んでも効果が発揮しないんですよ。それこそ、酔って吐くくらいじゃないと」
状況によっては非常に役立つポーションですが、バエルが目指しているものとは程遠いそうなので、このポーションは欠陥品というわけです。
バエルが目指しているものは、あらゆる怪我や病を治すポーション──エリクサーと呼ばれるものです。
エリクサーは、製造が難しいだけあって、一本がとんでもない額ですが、その額に見合う効果はあります。
それを量産……。バエルならそのうちやり遂げそうな気がしますが、何も考えずにバラまけば、いろいろ大変なことになりますよね……。
……まあ、好きにやらせているとはいえ、何事も最後は私の了承を得なければ、売買はしないはずなので、その時考えることにしましょう。
『そーいうことなら、しょーがないか。とりま、助かったよ。ありがと』
それから元気になったミューファスの話し相手をしていると、ようやく目的地が見えてきました。
「オウキさま、見えてきやした。あれです」
同乗していた船員さんの一人が指を指します。
まだ少し距離はありますが、目視で濃霧を確認できました。当然のことですが、先はまったく見えません。
「オウキさま、どうするの?」
「そりゃあ、行くに決まってるだろ。なぁ、大将」
「そのために来たわけだしな。全員、念のため周囲の警戒は怠るなよ! 今回も何も起こらないとは限らねぇからな!」
「あっ、霧の中を進む前に、一応目印みたいなものを用意した方が戻ってきてしまった時、わかりやすいと思います」
「ふむ、確かにな。何かあるか?」
船員さんが船にあった浮き輪を持ってきたので、それを目印として海に投げ、私含め、戦える者は武器を手に取り、船は濃霧のなかへ入っていきます。
今まで快晴で視界は良好でしたが、濃霧の影響で1メートル先も見えません。
試しに魔術で風を起こし、濃霧を吹き飛ばそうと前方に放ちましたが、これがまったくの意味なし。
魔術が通った道の霧が晴れる、もしくは晴れてもすぐに元通りになると踏んでいました。
しかし、実際は私の魔術で霧が晴れることなく、虚しくも濃霧のなかで消えていきました。
一応魔術が無効化されている感じも、あの霧が身体に悪影響を及ぼしていることもなさそう。ステータスを見ても特に異常はないです。
「っと、霧を抜けたか」
だいたい5分くらい濃霧のなかを進んでいたと思います。
途中で舵を切ることなく、真っ直ぐ進んでいたので、何事もなければ、目印として投げた浮き輪は見当たらないはず。
「オウキさま、あそこ」
しかし、ヒナノさんが指差す場所に浮き輪がありました。
報告通り、真っ直ぐ進んだにもかかわらず、戻ってきてしまったので、報告に間違いはないようです。
「話に聞いた通りだな。これ、外から来る奴はどうなんだ?」
「それは調べたくても調べられないじゃん」
「んなこと、俺だってわかってる。言ってみただけだ」
「霧の外側から、こっちに来れるかどうかは何日か経てばわかる。俺たちは、霧の内側から試せることを片っ端から試すしかねぇ。船長! もう何回か霧の中に突っ込めるか?」
「了解です!!」
その後、何度か濃霧のなかへ入っていきましたが、結果は言うまでもなく。
戻ってくる度に霧の向こう側には行けないという現実を叩きつけられ、船員さんたちの次第に言葉数が少なくなっていってます。
「リリィ、お前はどう思う?」
「そうですね……。霧は遥か上空にまで伸びて壁のようになっている。どこまで続いているか確認する価値はありますが、もし仮に霧を超えられたとしても──」
「根本的なものは何も解決してない、か」
「それでも行けるかどうか確認してきますね、タルト」
私はタルトに頼んで元の大きさになってもらい、彼女の背に乗せてもらいます。
そのまま霧に入らないように上昇し、船が豆粒になるくらい高所まで来ました。しかし、霧はまだまだ高く続いています。
かなりの高所に来たせいで空気が薄く、これ以上高く飛ぶのは危険と判断した私は、タルトにゆっくり下降してもらって船に戻りました。
『おっ、帰ってきた。リリィっち、おかえり。どうだった?』
「超えるのは無理ですね。思った以上に霧が伸びてます」
「大将、これは本格的に打つ手なしじゃねぇか?」
解決の糸口になるものが全くありませんし、ゴンジュウロウさんの言葉に同意したくはないですが……。
「一つ、試したいことがあるんですがいいですか?」
「おう。試せることは試した方がいい」
少し休憩してから私はもう一度タルトに頼んで背中に乗ります。
あとは、風圧の対策として、障壁を展開しておいて。準備はこれくらいでいいでしょう。
『リリィっち、あーしも乗っていい?』
特にやることがなく、暇だったのでしょう。ミューファスが私に聞いてきました。
タルトは別に乗せても構わない様子ですが、これからやることは、それなりに危険というか、一歩間違えれば海にドボンです。
「振り落とされても自己責任でいいなら」
『オッケー、オッケー』
ミューファスは私の後ろに座り、私の腰に両手を回してギュッと抱き締めます。
「タルト、私が合図します。それを聞いたら、あなたが出せる最高速度で霧の中に突っ込んでください」
実は、ちょっと緊張してます。
タルトの背中には何度も乗っていますが、彼女の最高速度は体験したことがありません。普段でも十分速いですが、私に気を遣って速度を落としているみたいですし。
今回、私が乗る必要はないかもしれませんが、一人で行かせたタルトに何かあっては困りますから。
深呼吸して気持ちを落ち着かせ、私も振り落とされないようにタルトにしっかり掴まります。
「タルト!」
「ガルゥッ!!」
私の合図でタルトは一気に加速します。
「──ッ!!」
これがタルトの最高速度……。
未だかつて体験したことない凄まじい速度です。振り落とされないように掴まるので精一杯。こんな速度、自分では出せません。
少しでも気を抜いたら振り落とされそう……。辛うじて呼吸は出来ますが、障壁がなかったら無理ですね。
そして、瞬く間に視界が晴れました。速過ぎて一瞬です。
『めっっっっっちゃ、速かったんですけど! 景色見る余裕なかったし!』
見る余裕があっても霧の中なので、代り映えのない景色ですけどね。
さて、霧を抜けたわけですが、上空から下を見てみると、見覚えのある船があります。
ひとまず検証は終わったので、オウキさんたちのところへ戻ります。
「とんでもねぇ速度で霧に突っ込んだと思ったら、とんでもねぇ速度で出てきたが、あれがお前のやりたかったことか?」
「船での移動はゆっくりだったので、凄まじい速度で行ったらどうなるのかなと思いまして。結果は予想通りでしたけど」
あの霧を出している魔物がいるのなら、探して討伐すれば問題は無事解決なんですが、周囲にそれらしき気配はなく……。
「とりあえず今試したいことは、これで終わりですかね」
『ねぇ、あの島とは別に島ってないの? もし、この霧が魔道具のせいで出来たものなら、そういう場所に魔道具がありそうじゃない?』
「あるにはあるが、行けるのは大和の領海にある島だけだ。霧禍と炎衆の領海にある島には無断で入ることは出来ねぇ」
神桜島は大きく三つの国に分かれてます。
大和、霧禍、そして炎衆。
島の領土は、この三大国でざっくり三分割されていて、同様に空、海も三分割されているそうです。
故に、たとえば大和に属する街の船が、他二国の領海に許可なく侵入し、それがバレたら攻撃されて船を沈められても文句は言えないと。
また、今回はオウキさんが乗船していることも問題。
大和の将軍が船に乗って、他二国の領海に許可なく侵入したものなら、最悪戦争に発展する恐れがあるそうです。
それを避けるためには、霧禍と炎衆の許可が必須。
許可を取るのは、他二国に借りを作ってしまうことに繋がるようですが、今回は事情が事情ですからね。
霧禍と炎衆もこの事態を良しとしないはずですから、協力関係を結べることでしょう。他二国との連絡は大和に戻ってからでないと無理だそうですが。
「とりあえず、近くの島にも寄りながら戻るとするか」
ですが、流門に戻るまで何も得られるものはなく。強いて言えば、あの濃霧は報告通りのものであることがわかったくらい。
幸いにも、漁ができないというわけではないので、原因が判明し対処、もしくは霧が自然消滅するまで近づかないようにとオウキさんは流門の漁師さんたちに命じ、一時大和へ帰還することに。
今まではタルトに乗っての移動でしたが、今回は楽ちんです。
オウキさんたちと一緒に私も『聖魔女の楽園』に戻り、マナフィールに頼んで、大和から少し離れた場所に作った扉を開いてもらうだけ。
「ん? 外か。城の中にも例の扉ってのは作ったんだろ? 俺はてっきり城の中に出るもんだと」
「私もそれでいいかなと思いましたが、出発する時、街の門を通ったじゃないですか」
実はオウキさんが、外に出るならついでに街の様子を見ると言って、大和の外には徒歩で向かってました。
割と街の様子は見に行ってるみたいですが、オウキさんが大和の将軍である以上、注目されるのは避けられません。おかげで予定より少し時間が押しました。
まあ、それは別にいいんです。大した問題じゃないですし。私が心配しているのは他にあります。
「門を通らずに城内に戻ったら、門番さんたちは、いつになっても戻ってこないオウキさんたちを心配するのではないかと思ったので」
「なるほど。確かにそうだな」
先程の濃霧について、他に何か出来ることはないか話しつつ大和へ向かう私たち。
出発の際に通った門が見え、門番さんたちが出迎えてくれましたが、あまりにも戻ってくるのが早かったのか驚いた様子を見せます。
「お、オウキ様! もうお帰りになられたのですか!?」
「噂の濃霧は、どうなりましたか……?」
「悪いが、まだ何も解決してねぇ。ひとまず城に戻って、霧禍と炎衆に連絡して情報収集ってところだ」
「左様ですか……」
「リリィはどうする? 同席するか?」
霧禍と炎衆の将軍たちとの会議は、通信用の魔道具を用いてするそうです。なので、離れていても話はできます。
ここは私も同席したいところ。
しかし、オウキさんの許しがあるとはいえ、国のトップ同士の会議に私なんかが参加していいのかどうか……。
オウキさんだけなら少々不安なところもありますが、おそらくツバキも同席するでしょう。となれば、私は後で情報を共有してもらえればいい。
「いえ、少しやらないといけないことがあるので『聖魔女の楽園』に戻ろうと思います」
「そうか。じゃあ、またあとでな」
「はい。また後ほど」
オウキさんに別れを告げ、私は『聖魔女の楽園』へ戻りました。
──とある洞窟の中。
そこは多くの魔物が蔓延っている洞窟。
だが、今は気味が悪いほど静寂。魔物の気配はなく、代わりに酷く濃い血の匂いが充満していた。
「もう、このくらいで十分じゃない?」
「じゃあ、全部回収して。私、疲れたから」
「えぇ……俺一人で? クインも手伝ってよ」
「やだ」
「大好きなじいじに言いつけるよ?」
「……ッ」
リリィがゴルディームのカジノで出会った男──クアトールの言葉に言い返すことができず、クインは渋々死体となった魔物を集める。





