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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第六章 混血の姫と六妖刀編

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試練の翌日

「えぇ、こちらは──」

『あーしの名前はミューファス・アースガロン! こことは別の世界から来たんだけど、訳あってしばらくこっちにいるんで! ヨロシク!』


 あれから大和へ戻り、ミューファスのことを話すために、オウキさんのもとへ行きました。 

 異界関連の重要な話なので、オウキさん以外にツバキ、そして五剣の方々も同席することになったんですが──


「………………」


 全力で披露した渾身の芸が受けなかったかのような、とんでもない静寂が場を支配しています。

 この場にいる人たちは、異界人が何の目的で、こちらの世界にやってくるのか知っています。


 だからですね。詳しい説明をする前に、ミューファスが自分は異界人だとはっきり言ったせいで殺気が物凄いんですよ。

 ミューファスが真隣にいるため、彼らが向けている殺気がよくわかります。全然耐えられる殺気ですが、巻き添えを食らってます。

 

「お前ら、殺気出し過ぎだって。ちょっと落ち着けよ」


 私が誤解を解こうとした時、アカツキさんが他の五剣の方たちを宥めました。五剣の中で唯一、アカツキさんだけがミューファスに殺気を向けていません。


「おい、アカツキ! 大将の話だと、こいつは大将の首を狙ってるんだろ!? 人数では圧倒的有利だ。妙な動きをする前に、こっちから──」

「だーから落ち着けって、ゴンジュウロウ。ミカゲもヒナノも、エンガクも。お前ら全員頭に血昇り過ぎ。得物も仕舞え」


 そう冷静にアカツキさんは、他の五剣の方たちに言います。


「リリィ殿が連れてきて自分から正体を明かしたってことは、少なくとも今は敵対の意思はないってことだろ?」

『訂正させてもらうなら、今はじゃなくて、ずっとだよ。あーしに、そこの『魔王』さんと戦う気はないよん』

「すみません。先に私の方から説明しようとしたんですが……」


 ミューファスが暴走して自己紹介を始めてしまったことを、アカツキさんは察してくれた様子でした。


『メンゴメンゴ。次から気をつけるから許して? リリィっち』


 私がミューファスのことを、ムッと軽く睨んだら、彼女は自分の顔の前に両手を合わせて謝罪してきました。


「それによぉ。仮にそこの嬢ちゃんに敵対の意思がある、もしくは気が変わったとしても──うちの殿だぞ?」

『だぁから、あーしには──』

「おいおい。その言い方だと、俺のことは心配する必要ねぇってか? アカツキ」


 ここまで黙ってアカツキさんの話を聞いていたオウキさんが彼に問います。


「そりゃあ、まあ。俺の中では殿が最強なんで。同じ妖刀持ちの霧禍と炎衆の将軍にも負けないと思ってますし」

「ハッハッハ! 嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか! アカツキ! お前の言う通り、俺は神桜島で最強の男だか──」

「あ、でも、奥方様には負け越してるか……」


 あらら……。一つ前の言葉で終わっていれば、完璧だったんですけど。

 ミカゲさんたちも「馬鹿、今のは余計だろ!」など、アカツキさんの上げて落とすような言葉に小声で怒っていました。


「た、確かに俺はツバキに負け越してる……。だが、夜の戦いとなれば話は違うぞ! そっちは俺の方が圧勝──」


 そして、気づくとオウキさんは襖に刺さり、そのまま放置されることになりました。めでたし、めでたし。


 ……えっと、何が起きたかというとですね。

 オウキさんがその……夫婦のアレの話をしようとした瞬間、ツバキが尻尾で叩いて、オウキさんを吹っ飛ばして黙らせました。 


 私の耳が正常であれば、あのフワフワな尻尾で叩いたとは思えない、かなり鈍い音が聞こえたんですが……。


「ねぇねぇ、リリィさま。夜の戦いってなに~? アヤメちゃんのお母さん、夜もアヤメちゃんのお父さんと勝負してるの?」


 やはり来ましたか。隣で大人しく座っていたサフィーからの質問。


 サフィーは戦闘狂、とまでは言いませんが、既に片足を踏み入れていると言っても過言ではありません。

 戦いという言葉を耳にしたら聞いてくるのではないかと、オウキさんが口を滑らせた瞬間に予想は出来ました。

 

 私だって、さすがにそこまで無知ではありません。経験はなくとも、どういうことをするのかくらい知っています。

 ただ、サフィーは子供。いずれ、そういうことは教えなければいけないですが、まだちょっと早い気が……。もう少し大人になってからでも……。


 だから、この手の質問をどう返すべきか悩みます。


「ええっと、ですね……」

「リリィさまもわからない?」

『もしかしてリリィっち、こういう系の話ってニガテなん? 顔赤いよ?』

「ソ、ソンナコトナイデスヨ!?」


 指摘されて自分の顔を触ってみましたが、確かに普段よりも顔が熱い。そんな私を見て、ミューファスはニヤニヤしてます。 


『まあ、リリィっちってピュアな感じだからなぁ~』

「ミューさんは知ってるの?」

『そりゃあ知ってるよ。夜の戦いっていうのはねぇ。男のチ──』

 

 その先は言わせまいと私はミューファスの口を押さえます。

 いつの間に“ミューさん”と呼ぶ仲になったのかは一旦放置して。このままだとミューファスが、はっきり全部教えてしまいそう。


『むぐぐ……』

「この話はサフィーがもう少し大人になってから教えますので。それまで我慢できますか?」

「うーん……。わかった。リリィさまがそういうなら我慢する」


 ふぅ、ひとまず乗り切りました。

 

 吹っ飛ばされたオウキさんは未だ起き上がってきませんが、あのままにしておいていいのでしょうか。

 オウキさんを見た後、ツバキと目が合いましたが、ニコリと笑みを見せるだけ。あのまま放置しても構わないという意味でしょう。


「ミューファスはん、って言うたか? 昨日はうちの娘たちが世話になったみたいで。それに関しては、おおきに」

『たまたま居合わせただけだから、気にしなくていいよ』


 ツバキは深々と頭を下げます。しかし、頭を上げたツバキはミューファスを見定めるような目つきで見ていました。


「とはいえ、ミカゲから昨日の件について聞いた。どうやら霧禍の連中と一悶着あったみたいやなぁ」

『先に手を出してきたのは向こうだよ。少なくとも、あの時あいつらはあーしを殺す気で来てた。仮に殺しちゃっても、文句を言われる筋合いはなくない?』

「そらそうやな。まあ、正直その話はどうでもええんや。さっきアカツキも言うとったし、リリィはんからも聞かれて、何度もしつこいと思うから、これで最後。『憤怒の魔王』の妻として、改めてうちから聞く」


 急にツバキの雰囲気が変わりました。

 ツバキから放たれる重圧。殺気とは違いますが、圧で言えば、先程のアカツキさん以外の五剣の方たち全員の殺気を軽く凌駕しています。

 

 五剣の方たちは……アカツキさん以外は若干委縮してますね。こうしてみると、五剣の中でもアカツキさんだけが別格な感じがします。

 

「異界人っちゅうのは『勇者』と『魔王』の命を狙うてるらしいが、あんたは本当に、うちのオウキを殺そうとは思てへんのやな?」

『リリィっちの話だと、どう頑張ってもあーしらは『勇者』と『魔王』を殺せないみたいじゃん? 最初から戦う気なんてないのに、そんなの聞いたら元々ないやる気が更にダウン。だから、適当に時間潰して無理だったって報告するよ』

「そうか。なら、帰るまで大和(ここ)に居てもええよ」


 今までの圧が嘘みたいに消え、ツバキは微笑みながらそう言いました。


「つ、ツバキ様、よろしいのですか?」

「うちもミューファスはんに敵意がないことくらい最初からわかってる。ただ、一応本人から直接言質は取っとかんとなぁ。ちなみにミューファスはんは、リリィはんのところで生活するん?」

「はい。私から出した条件も快諾してくれましたし、約束を破らない限りは客人として食事と寝床を提供します」

『こっちにいる間、夜はリリィっちとお泊りなんだ』

「リリィはんと一緒? そら、バエルが止めそうな話やなぁ……」


 ええ。ここへ来る前に従魔たちに話しましたが、ツバキの言う通り、実際バエルに止められましたよ。夜までリリィ様自ら、監視する必要はありませんってね。

 

「何でもかんでも従魔たちに任せるのは、主としてどうかと思うので。まあ、何かあれば、きっと深夜でもバエル辺りが飛んでくるので」

「ふふっ、容易に想像つくわ」


 ひとまずミューファスの件はこれで終わり。アカツキさん以外の五剣の方々は納得してない部分もあるかもしれませんが、ツバキが決めたのであれば、これ以上文句や意見は出ないでしょう。


「さてと。オウキ」

「イテテ……。久々に効いたぜぇ……」

「さっきの話について説教は後でするけど、アンタそろそろ出なあかんのちゃうん?」

「──っと、そうだった」

「オウキさん、このあと何か用事があるんですか?」


 私が聞くと、オウキさんは起き上がって元居た場所に戻り、ツバキに打たれた頬を手で(さす)りながら、今朝オウキさんの耳に入った報告のことについて話してくれました。


「流門って港町、覚えてるか?」

「はい。船を降りた場所がそこですから」

「そこの漁師共が今日も朝から漁をするために船を出したんだが、途中で急に濃い霧が出てきたみたいでよぉ。漁師共が船ごと、それに飲まれたんだと」


 船ごと飲まれたって、それって一大事なのでは……。


「だ、大丈夫なんですか!? 行方不明者が出たり……?」

「それが誰一人欠けることなく帰ってきたらしい。ちなみに、船は直進してたが、霧が晴れたら漁港の方に戻ってきてたんだと」


 つまり、私たちは神桜島から島外の街に行けないということ?


 ただの霧なら、そんなことは起こらないはず。

 特殊な海域で稀にそんなことが起こるのであれば、事前にゴルディームでそういった話が聞けてもいいはず。


「過去に同じ現象が起きたことは?」

「早朝に濃霧が発生するのは割とある話だが、時間が経てば消える。だが、どうやら今回は消えずに今も残り続けてるみたいだ。こうして俺に報告してきたってことは、漁師共も初めての経験だろうな」


 同じ現象ではなく、似たような現象が起きたことがあるか聞いてみましたが、過去に一度も起きたことがないと。

 

 未曽有の異常気象とも考えられますが、それ以外にあるとすれば、何者かが使用した魔道具、もしくは海中に生息する魔物の仕業。


「発生した濃霧が魔道具によるものだった場合、真っ先に思いつくのは、使用した人は島から誰も出したくないってことになりますよね」

「魔物が霧を出してるなら、討伐すればいいだけだから楽なんだけどな。……そういえば、この前連れてってもらった『聖魔女の楽園』から別の街に行くことはできないのか?」

「すみません。今は出来ないんです」


 私も『聖魔女の楽園』を経由して別の街に自由に行き来が出来れば良いなと思ったことは何度もあります。

 

 しかし『聖魔女の楽園』は、現状だと私と従魔たちが扉を作れますが、作った扉の座標は固定されます。座標の移動は出来ないので、作った扉でしか出入りできません。


 解決策を挙げるなら、多くの従魔と契約を結び、各街に待機させることですかね。それが実現できるなら、いろいろな街に行き放題です。

  

 でも、私の従魔になるというのは、私が思っている以上に『聖魔女の楽園』で暮らす魔物たちにとって名誉なことのようで、実力が伴ってなければ、私の従魔になる資格がないと思っているみたいです。

 

 まあ、私の従魔たちは規格外ばかりですからね。

 あれを基準にしちゃうと、大抵の魔物は従魔になれたとしても、その先やっていけるのか不安になりますよね。


 だから、一部例外を除き、私もおいそれと従魔契約を交わさないようにしたんです。はぁ……従魔が増えれば『聖魔女の楽園』から色々な街に行けるの──


「……あっ」

 

 神桜島へ来てから時間も経ち、他の従魔たちも神桜島を出入りして扉の座標は上書きされてしまってます。しかし、あの子だけは、あれ以降『聖魔女の楽園』から出ていないような気が……。


「少し時間いいですか?」

「ん? ああ」 


 私は『聖魔女の楽園』の扉を作り、念話で従魔のマナフィールを呼び出します。

 この子は以前シャルルフォーグの一件で従魔契約を結んだゴースト系の魔物。身体を分裂させて人命救助に貢献してくれました。


「お待たせしました、リリィ様!! 何か私に用事ですか?」

「実は聞きたいことがあって、マナフィールってシャルルフォーグの一件以降、『聖魔女の楽園』の外に出ましたか?」

「シャルルフォーグ……ああ! ちょっと前にあったアレですね! えっと、あれ以降は……たまに一人でシャルルフォーグの街を見に行ったくらいです!」


 ということは、マナフィールが最後に『聖魔女の楽園』の扉を作った場所はシャルルフォーグになるはず。


「呼び出しておいて申し訳ないですが、今から『聖魔女の楽園』に戻って、シャルルフォーグに行けるか試してもらえますか?」

「リリィ様の頼みなら喜んで!」


 お願いを聞いてきいてくれたマナフィールは『聖魔女の楽園』に戻っていきます。

 行って帰ってくるだけなので、扉は閉ざさずに待っていると、しょんぼりした顔でマナフィールが戻ってきました。


「……すみません、リリィ様。扉は作れたんですけど、なぜかシャルルフォーグには行けませんでした……」

「そうですか……」

「学院の前がダメだったので、大きな噴水がある広場ならと試してもダメで……。役立たずでごめんなさい……」

「マナフィールは役立たずじゃないですよ。実は今、神桜島という島にいるんですが──」


 ん? ちょっと待ってください。

 今、マナフィールは何て言いました?

 私の聞き間違いじゃなければ──


「扉は一人一つしか作れないはずですが、マナフィールは扉を複数作れるんですか?」

「えっ、はい。作れますよ」

「シャルルフォーグ以外の場所にも行けたり?」

「私は他の街で扉を作ったことないのでわかりませんが、多分出来ると思いますよ? というか、てっきりリリィ様たちは出来るものかと」


 衝撃的事実……! もっと早くに知っていれば、たくさん寄り道も出来たのに……。


 マナフィールは悪くありません。聞かなかった私が悪いですから。マナフィールだって出来るだろうから私たちに話さなかった。


 どういう裏技でそれを可能にしたのかマナフィールに聞いてみると、現状『聖魔女の楽園』でマナフィールが唯一出来る、分裂体が関係しているみたいです。


 以前マナフィールはシャルルフォーグの一件で人命救助のために分裂体を用いてシャルルフォーグ内を回っていました。


 住民を避難させるために多くの場所で扉を作っていたみたいですが、事が終わり、分裂体を戻しても扉は問題なく各地に繋げることができたと。 


 そのことから考えるに、マナフィールと彼女の分裂体は『聖魔女の楽園』では別物と判定されているのかもしれません。


 たとえば、分裂体1と分裂体2が別々の場所で扉を作ったとして。

 その後、本体と合流してマナフィールは元に戻る。

 元に戻った彼女の中には分裂体1と2が作った扉の情報がある。その情報を使って、マナフィールは出る場所が違う扉を作れる。


 あくまでも推測なので、思いっきり的外れな可能性もありますけどね。他にも聞きたいことはありますが、それは後にしましょう。

 

「すみません、急いでいるのに……」

「気にすんな。それよりどうする? リリィもついてくるか? 魔術が関わってるかもしれねぇから、俺としては、そういったのに強そうなお前についてきてほしいが」

「わかりました。ご一緒させてください。ミューファスはどうします? 行かないなら『聖魔女の楽園』で留守番ですが」

『モチ、行くに決まってっしょ!』

「ちなみに、ミューファスの仕業、なんてことはないですよね?」


 正直なところ、もうミューファスを疑う必要はないでしょうが、オウキさんの逃げ場を失くすとも捉えることが出来るので念のためです。


『リリィっち、ま~だ、あーしのこと疑ってんの? さすがにショックなんですけど。あーし泣いちゃうよ?』

「そ、そういうわけではないですが……」

『あはは、冗談冗談。そんな話聞いたら、嫌でも疑っちゃいたくなるよねぇ。でも、あーしじゃないんだよなぁ、これが。何なら、あーしも困ってるっていうか? ゲートが作れないっていうか?』


 そ、それってつまり、どう考えても、そういうことですよね。もしかしてと思ってましたが── 


『つまりぃ、あーしも自分の世界に帰れなくなっちった!』

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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