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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第六章 混血の姫と六妖刀編

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ミューファス・アスガーロン

 妖刀の試練は予想外の出来事に仕切り直しという形に終わり、各国の将軍と挑戦者たちは国に戻り、私たちも一度大和へ。

 ただ、戻っても、まだ日は昇っておらず、アヤメたちの疲れもあるだろうと、ダンジョン内で起きた詳しい話は休んでからということに。


 私は『聖魔女の楽園』に戻って休むことにしました。

 部屋は用意されていたので、大和で休むことも考えました。

 しかし、敵対の意思はないと言っていたはいえ、異界人ミューファスを大和に連れて行くには、不安があります。


 ですので、彼女を『聖魔女の楽園』へ招待しています。

 ここなら逃げ場はないし、監視もできます。まあ、監視されているのは承知の上で楽しんでいるようですが。


(リリィ様)


 おっと、グラからの念話です。


(どうかしましたか? グラ)

(その、監視対象の異界人が朝食を終えたところなんですが、お風呂はないのかと聞いてきまして……。今はリリィ様が入っているので、どうしたらいいでしょうか……?)


 ダンジョンから戻って、すぐに寝てしまったので、現在私は朝風呂に入っています。

 ゆっくりお湯に浸かりながら、異界人からどうやって情報を引き出そうか考えていましたが、お風呂に入りたいというなら、ちょうどいいかも。


(では、温泉に案内してください)

(よろしいのですか?)

(一応警戒は続けますが、ここまで不審な動きは見せていませんし、今になって何かしてくることはないはずです)

(……わかりました。それでは失礼します)


 異界関係の話はオウキさんたちも聞いてもらった方がいいですが、個人的に聞きたい話もあります。

 個人的な話なので後回しでも構いませんが、話せる機会があるのであれば、裸の付き合いというのも兼ねて今のうちに聞いておきましょう。


 それから少しして──


『うひょー! デッカイ温泉だぁ!!』


 異界人ミューファスが温泉にやってきました。

 そして、彼女と一緒にやってきたのは──


「リリィさま~、私たちも一緒に温泉入る~!」

「お、お邪魔します、です……」


 サフィーとアヤメです。もしかしたら、グラの代わりに私の護衛兼ミューファスの監視役で来たのかも。


 アヤメですが、ダンジョンから帰還した時にサフィーとお泊り会をしたいと、オウキさんとツバキに頼んで『聖魔女の楽園』に来ています。

 

 本来であれば、私が責任をもって一緒にいるべきなのでしょうが、サフィーはグラと一緒に住んでいるので、流れで彼女に任せる形になってしまいました。


 とはいっても、グラからの報告によると、二人も帰ってきてすぐに寝てしまったようなので、特に世話といった世話はしてないとか。さすがにダンジョンから帰って夜更かしする元気まではなかったみたいです。



 そういえば、アヤメが私たちの旅に同行することになりましたし、遅くても神桜島を発つ前までには、彼女の保護者役を決めないといけませんね。


 既に『聖魔女の楽園』内にアヤメや、異国の技術等を学びに来る大和の人たちの住む家は出来ていますので、住む場所は問題なし。


 ただ、住む場所はあっても、アヤメ一人で住まわせるのは寂しいでしょうし、私としても何とかしたいところ。

 

 グラは、きっと頼めば引き受けてくれるでしょうし、サフィーも喜ぶでしょうけど、二人の面倒をみるのは大変。


 個人的には、グラとは別で、師匠としてアヤメの特訓に付き合える人がいいと思っています。

 サフィーとは違って、既にアヤメは戦闘技術が身についているため、一から戦い方を教える必要はなく、実戦訓練から始めていい。


 実は引き受けてくれるかはともかく、暇そうにしていて、尚且つ、同性で実力もある候補が一人います。今度彼女に聞いてみることにしましょう。

 

『おっとなり、しっつれー』


 いろいろ考え事をしている間に身体を洗い終えたミューファスが私の隣にやってきました。


『ふぅ、気持ちいぃ……。いやぁ、最初連れてこられた時は驚いたけど、いいところだねぇ~。朝ごはんは美味しいし、温泉はあるし』

「………………」

『ん? あっ、もしかしてメガネかけてないのに見えてるのかって思ってる? あれ伊達メガネだから。ファッションだよ、ファッション』


 別に気になってミューファスの顔を見ていたわけじゃないんですが。メガネのこともどうでもいいですし。


「改めて自己紹介を。私の名前はリリィ・オーランドです」

『あーしは、ミューファス・アスガーロン。あーしのことは、さんとかつけずに普通にミューファスって呼んで』

「では、ミューファスに聞きますが、あのダンジョンに現れたアレについて、何か知ってることはありませんか?」


 まずは軽めの一発。

 いきなり異界人の情報を引き出すのは難しいでしょう。だから、彼女にも襲い掛かってきたアレについて聞きます。

 

『知らな、くはない……のかな?』

「はっきりとしない答え方ですね」

『あーしが見たことあるやつとは違う個体だったからね。アレは人族を改造した生物だよ』


 人族を改造した生物……。

 過去に訪れたテルフレアで色々あった時に、デオンザールが改造人間とやらと戦ったと報告を受けたような。

 もし、私の前にそのような非人道的な行為をする人が現れたら、特大超火力の魔術を問答無用でぶっ放しますね。 

 

『気に病むことはないよ。アレはああなったら、もう救う術がない。強いて言うなら、さっさと楽にしてやるくらいさ』

「……見たことあると言ってましたが、他に何処で見たことがあるんですか?」

『えっと、仲間……っていうのほど親密じゃないし、あーしの上司の友達……的な? そいつが人間を改造してるところを、こっそり見たことがあるの。でも、話したのは数回しかないし、そもそもあーし、あの人ニガテ』

「その人って、どんな──ッ」


 言い切る前にミューファスが私の口に自分の人差し指を当ててきました。


『ひみつぅ~。さっきからリリィっちばっか質問して、フェアじゃないからね。聞きたいことがあるなら、あーしの質問にも答えてもらわないと』


 流れで異界人の情報を引き出せると思いましたが、一筋縄ではいきませんね。

 でも、ミューファスの言い分に反論する余地はありません。私だって彼女と同じ立場なら、同じことを言うでしょう。

 

「わかりました。ただ、あなたの求めるものを答えられるかは別ですからね」

『オッケー、オッケー。じゃあ──』


 ミューファスの質問が『勇者』や『魔王』のユニークスキルについてのものであれば、答えるつもりはありません。

 個人の情報を勝手に話すわけにはいきませんし、だいたい全ての『勇者』や『魔王』のユニークスキルを把握してません。会ったことない『勇者』や『魔王』も当然いますから。

  

『リリィっちって、普段どんな風に肌の手入れしてんの?』

「…………ふぇ?」


 いったいどんな質問が来るのか身構えていたが故に、あまりに予想外な質問で変な声が出てしまいました。


『だ~か~ら、ス・キ・ン・ケ・ア! 触らなくても一目見ただけで、つるつるスベスベだってわかるもん!』

 

 聞き間違いではなかったようです。

 質問相手は別世界の人なんですよ? そんな質問します? 普通、こちらの世界の情報を聞いてきません?


「別に、これといって特別なことは……。ほぼ毎日ここの温泉に浸かってるくらい、ですかね?」

『なるほど。この温泉には美容効果があると』 


 実際どうなのか知りませんけどね。ただの温泉かもしれませんし。

 でも、バエルのことだから気を利かせて、そういった効果がある温泉にしてるかも。あとで聞いてみることにします。


「質問は以上ですか?」

『あ、うん。次はリリィっちの番』


 先程の続き──あわよくば異界人側の戦力……を聞き出すのは厳しいですよね。

 聞けば答えてくれるかもしれませんが、逆に質問されたら、こちら側も答えなければ対等ではない。


 となると、質問ではないですが、一応これは彼女にも話しておくべき内容を話しますか。


「エスメラルダという人を知っていますか?」

『えっ、逆にリリィっちが、ルダさんのこと知ってることに驚きなんですけど』

「前に一度会ったことがありまして。その時に彼女が私に話したことなんですが──」

 

 私はミューファスに、アドルたちと行ったダンジョンでエスメラルダと話した内容を話しました。


『ふーん。あーしたちは、リリィっちたちの世界の『勇者』と『魔王』を殺せと命じられているけど、実はそれは無意味な話、ねぇ……』


 話し終えると、ミューファスは黙ってしまいました。

 話しておいてあれですが、正直信じてもらえるとは思っていません。嘘だと疑われても、頭の片隅に入れておいてもらえればいいんです。


『やっっっぱ、そっかぁ……』

「わ、私の話を信じれくれるんですか?」

『いやぁ、あーしも少し前から何となく、そーかなぁ、って思ってたんだよね』


 まさか信じてもらえるとは……。そして、ミューファスは自分がそう思うようになった理由を話してくれました。


『あーしの仲間で『魔王』を殺しに行った奴らが何人かいるんだけどさ、そいつら全員ボコボコにやられて帰ってきたんだよ。それを見て、殺せという割には実力差があり過ぎるんじゃねって思ったわけ』

「きっとそれはミューファス以外も思ってますよね」

『たぶん? でも、諦めることはないよ』

「……なぜ?」

『理由は人それぞれ。拾われた恩を返すため。ただ単に強い奴と戦うため。あとは……ありがちな復讐とか。ちなみに、あーしは生きるために力を貰ったから一応従ってるだけ』

 

 エスメラルダ及び彼女の仲間たちは、それらを利用して何かを企んでいる。


 弟のユリウスも彼らの標的である『勇者』です。

 姉としては、弟が命を狙われている状況には心配で、異界人には迷惑してますが、利用されている異界人が少しだけ……本当に少しだけ可哀そうにも思えます。


「そういえば、ミューファスはあの時、自分にはその気はないと言ってましたよね」

『相手が『勇者』なら、ちょこっと手を出してみよっかなってなるけど──言ったっしょ? 『魔王』と戦ってどうなるかは、あいつらを見て良く知ってる。みんなのやられようを見ると、ねぇ?』


 勝算のない戦いはやらない主義ということですか。賢明な判断だと思います。


「なら、これからどうするんですか?」

『元々、テキトーに時間潰して戻る予定だったから、もうしばらくはこっちにいるかな。ルダさんたちも、あーしが勝てないってわかってるなら、手ぶらで帰っても文句はないだろうし。はぁ、気が楽ぅ~~』

 

 両腕をグッと伸ばしながらミューファスは言います。


「…………」 


 黙って見ていると、そのままずるーっとお湯に沈んでいきました……。お湯がブクブクと泡立ってますし、すぐに上がってきますよね?


『ぶはぁ!! そうだ、リリィっちにお願いがあるんだけど』

「お願いですか?」

『そう! お願い!!』


 勢いよく上がってきたせいで水しぶきが私の顔面に命中しましたが、そんなこと気にもせず、ミューファスは両手を合わせて言います。


『あっちに戻るまで、ここに居させてほしいんだけどダメかなぁ? お互い悪くない話だと思うんだけどなぁ』


 お願いと言った時点で、予想はしてましたよ。


 確かに、お互いにとって悪くない話でしょう。

 ミューファスは異界へ戻るまで不自由なく生活できる拠点が欲しい。こちらは彼女の行動を監視できる。


「条件がいくつかあります」

『条件次第ってわけね。条件っていうのは?』

「まず、ここに住んでいる子たち、外では襲い掛かってきた者以外には危害を加えないこと」

『そりゃもちろん。世話になるわけだし、変なことはしないと約束するよん。というか、ここで暴れたとしても、バケモンレベルに強いやつ多すぎて全力出しても、負けんのがオチだから』


 これは、そう答えが返ってくるとわかっていました。大事なのは、これ以降の条件です。


「次に、争う気はないと言いましたが、私はまだあなたを完全に信用したわけではありません。ですので、監視をつけます。外へ出る時は、基本的に私が。私が監視できない時は、私の従魔たちに任せます」

『リリィっち以外が監視する場合も、一緒に行動する感じ?』


 さすがに私がずっと側で監視することはできません。

 私が監視できない時は、従魔たちにお願いするつもりですが、人によって合う合わないがありますよね。お互い気まずい時間を過ごすのは辛いでしょうし──


「そこは譲歩してもいいです。気になるようなら、少し離れた場所で監視させます」

『オッケー。話し相手が欲しい時は側に居てもらおっかな。希望は、なるべく女の子で!!』


 ミューファス側から希望が出ましたが、一応2つ目の条件もクリア。

 あとで従魔たちに話しておきましょう。勝手に決めてしまいましたが、私の従魔たちなら多分引き受けてくれるはずです。断られたら、その時考えます。


「最後に、これは無理なら無理と断ってくれてもいいですが、異界について教えてください」

『大雑把すぎない? 具体的には?』

「そうですね……そちらの言語とか、こちらの世界との違いとか、ですかね。これまで出会った異界人は、こうして話ができる人たちではなかったですから」


 異界の話を聞ける絶好の機会を逃すわけにはいきません。少しでも異界の情報を持っていた方が、後々役に立つことがあるかもしれないので。


『あーし、仲間の中でもバカな方だから期待しないでよ?』

「些細なことでも構いませんよ。ただ、一方的にそちらの世界の情報を聞くのも対等ではないですし、こちらの世界で知りたいことがあれば、答えられる範囲で答えます」

『ん~にゃ、聞いても忘れるから別にいいよ。正直そこまで興味ないし』


 こちらの世界のことより、私の肌の手入れの仕方を聞いてくるくらいですからね。興味がないというのも頷けます。


「では、あとで部屋に案内します」

『? 今朝まで使ってた場所とは別の部屋?』

「私のために建ててくれた別荘があるので、監視も兼ねて今日から私もそこで休みます」


 少し前に私専用の小さめの別荘を建てたとバエルから聞きました。

 いつ使うのか、正直要らないようなと思っていましたが、まさかこうも早く使う時が来るとは。ただ、異界人と二人で使うなんて言ったら、従魔たちに反対されそう。


『えー! リリィっちと二人きりってこと!?』

「二人きりかはわかりませんが……嫌ですか?」

『んなわけ! 逆にテンション上がってきた! せっかくだし、夜更かしして恋バナとかしようぜ!!』

「私、夜は眠くなったら、すぐ寝ますよ」

『ちぇ~、つまんないの』


 とりあえずミューファスが『聖魔女の楽園』に滞在することは、後で従魔たちに伝えるとして。

 長い間、お湯に浸かったことです。そろそろ上がるとしましょう。


『おっ、リリィっち上がるの?』

「これ以上は、のぼせそうなので」

『あーしはもう少し入ってるかな。ちびっ子たちのことは、あーしがちゃんと見てるから』


 サフィーとアヤメも十分強い。それに何かあっても、ミューファスが温泉に来てから、ずっとグラの気配が近くにあるので大丈夫でしょう。


「っと、リリィじゃねぇか」


 脱衣所に戻ると、汗だくのシルファさんがいました。

 鍛冶には筋肉も必要だからトレーニングをしてると聞いているので、掻いた汗を流すために来たのでしょう。

 

「シルファさん、こんにちは」

「おう。そういや、異界人を連れてきてるとか聞いたが」

「はい。訳あってしばらく滞在することになりまして」


 シルファさんが生まれ育ったシャルルフォーグでも異界人関係で色々ありましたからね。ミューファスのことは、よく思っていないかもしれません。 


「まあ、ここのトップはリリィだからな。リリィが決めたならオレは口出ししないが……」

「今温泉に入ってますが、変なことはしないように釘は刺したので。それでも何かあったら私に言ってください」

「わかった。ああ、それと。お前の三本目の杖の件だが、あらかた材料は揃ったから、そろそろ造り始めようと思う。お前とデオンザールの魔力が必要だから、今度工房の方に来てくれ」


 いよいよ三本目の杖が……。完成が待ち遠しいです。

 ちなみに、四本目の杖──ペディストルをモチーフにした杖のデザインは既に完成してます。五本目の杖──アヤメをモチーフとした杖のデザインは考え中です。

 



 さてと、ミューファスが上がってくる前に色々準備とかしておかないと。


 従魔たちに連絡して、別荘は私用だったら寝具が一つだけかもしれないから足りないなら追加してもらって。

 無関係というわけではないので、ミューファスのことは、オウキさんたちにも話しておかなければいけません。


 昨日に引き続き、今日も忙しい一日になりそうです。 

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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