選定の儀
「……参りました。今日も私の負けです」
現在、私はミカゲさんとの模擬戦に勝利したところです。
ミカゲさんとは、あれから何度も話をした甲斐もあって、今ではかなり打ち解けてる感じ。
ちなみに、今日までどう過ごしていたかというと、最初の2,3日はゆっくり大和の城下町を見て回ったり、ツバキから神桜島の歴史とかを教えてもらってました。
その次の日くらいからアカツキさんに模擬戦をしようと頼まれたんですよね。
約束してましたし、私も忘れてはいませんでした。すぐに申し込まなかったのは、きっと私がまだ大和に来たばかりだったからでしょう。
それからはアカツキさん──というか、オウキさんや他の五剣の皆さんとも一日に数回模擬戦をすることに。
アカツキさんとミカゲさん以外の五剣についてですが、既に挨拶は済んでいます。
オウキさんやデオンザールほどではないものの、五剣で一番体格のいい“ゴンジュウロウ”さん。
性格的にデオンザールと気が合ったのか、私の知らない間に仲良くなってオウキさんと一緒にお酒を飲んでるみたいです。
戦闘の方は体格に相応しい大きな刀を使って豪快に戦う方でした。まあ、見た目からそうだろうなぁとは思っていましたけど。
次に五剣で年長の“エンガク”さん。
オウキさんには“エン爺”と呼ばれていて、見た目はご老人ですが、侮ってはいけません。歳を重ねているが故に、実戦経験も豊富。
簡単には壊れない私の何重にも張った障壁が、いとも簡単に斬られましたし。あれはおそらくスキルによるものだと思いますね。
最後は“ヒナノ”さんという私と同じ年で、活発で元気な女性。私の知り合いで言うと、カリアに似た感じでしたね。
五剣の『職業』は『侍』というものですが、ヒナノさんは唯一『忍者』という『職業』だそうです。隠密とか情報収集を得意としてるとか。
そこにアカツキさんとミカゲさんが入って、大和の将軍オウキさんに仕える最強の集団が五剣となります。
一応ステータス値の差もあって、模擬戦は五剣相手には全戦全勝。
しかし、仮に同程度のステータス値だった場合、戦績は高くて勝率六~七割といったところでしょうね。
ちなみに、オウキさんとの模擬戦は、5回戦って1回しか勝てませんでした。遠距離攻撃がある私の方が分があると思ったんですが、さすがは『魔王』と言ったところ。
模擬戦に関してはここまでにして。
普段はあと何戦か模擬戦を頼まれるんですが、今日はこれでおしまい。
というのも、今日の夜は満月。
そう。アヤメが妖刀に挑戦する日です。今日でアヤメが妖刀を手に入れられるかどうか決まります。
数回しかアヤメが修行しているところを見ていませんが、この日のために毎日頑張ってきたのだと伝わってきました。叶うならアヤメの手に妖刀が渡ってほしいものです。
「そういえば、妖刀を手にする資格がない人も付き添いで一緒にダンジョンに入れるって聞きましたが、誰が行くか決まってるんですか?」
模擬戦を終え、汗を流すために温泉へ向かう道中でミカゲさんに聞きました。
「まだ決まってませんが、城を発つ前には決めるはずです」
「確か2,3人でしたよね……」
一緒に行ってみたい気はあります。でも、私がダンジョンに同行したら試練にならない可能性が高いですよね……。
妖刀があるダンジョンに生息する魔物がどんなタイプがわかりませんが、力の差を理解できる魔物なら襲い掛かってこようとはしないでしょうし。
「おそらく姫の付き添いは五剣の中からジャンケンか、くじ引きで決まります。姫の勇姿を間近で見るためにも、この戦いだけは絶対に負けられません」
今の時点でかなり気合が入っているミカゲさん。絶対に負けたくない強い意志が隣からひしひしと感じます。
もしかしたら、妖刀の試練に挑むアヤメより気合が入っているかもしれません。
それから夜も更け。
「ミカゲ、エンガク、今日はよろしくお願いしますです」
「お任せください! 姫に襲い掛かる魔物は私が全て斬り伏せます!」
「ミカゲや。あくまでもこれは姫の試練なんじゃから、ワシらが出しゃばっては姫のためにならんぞ?」
私は妖刀“轟獣・桜嵐牙”があるダンジョンの前にやってきました。ダンジョンは洞窟系で、入り口は金属製の扉があり、固く閉ざされています。
そして、私の隣にはサフィーもいます。普段なら寝ている時間ですが、今回はアヤメの見送りをしたいということで、特別に夜更かしを許可しました。
私も普段なら、この時間になると眠気が限界に達しますが、今日はお昼寝をしたので、まだまだ大丈夫です。
話は変わってアヤメの付き添いですが、くじ引きの結果、ミカゲさんとエンガクさんに決まりました。
出発前にアカツキさんに話を聞きましたが、くじ引きの時のミカゲさんは、これまでにない気合の入りようだったと。自分が当たりを引かなくて安心したとも言ってましたね。
ですので、他の五剣は城で待機。
あとはタルトやバエル、ペディストル、他には『聖魔女の楽園』にいる悪魔たちに、城で待機するようにお願いしてます。
何故、城で待機してもらうように頼んだかと言うと、アヤメを見送るためにオウキさんとツバキも一緒に来ているから。
可能性は、ほぼ無いと言っていいでしょうが、国のトップが不在ということに乗じて何かしらの事件が起こるかもしれないのでね。
まあ、タルトたちに加え、他の五剣もいるので、たとえ何かあっても大丈夫でしょう。それより現地で気になることが──
「あの、オウキさん。アヤメ以外にも妖刀に挑戦する人たちがいますが、大人だけの集団もいますよね」
話では妖刀の試練に挑戦できる資格を持つのは7歳の子供。
アヤメ以外にも、大人の都合で妖刀の試練に挑戦するであろう子供が数名いますが、明らかに妖刀目当てで来ている大人の集団もいました。
「冒険者のようだが、あの装備を見るに島の外から来た奴だな。妖刀からの条件の話を聞いてないか、聞いた上で嘘だと判断した奴らだろう。まあ、ああいう資格のない奴らは最初で落とされる」
問答無用で落とされて、何も問題が起きなければいいんですが……多分起きますよね。
妖刀目当てで来たのに、試練に挑戦すら出来ずに帰されるんですから。妖刀からの条件だから、どうしようもないことですけど。
「リリィさま、アヤメちゃん大丈夫かなぁ?」
「緊張している様子は見られませんし、ミカゲさんやエンガクさんもついてます。アヤメなら大丈夫ですよ」
「そうだぜ。今日のために頑張ってたからな。妖刀はアヤメが手に入れる」
「キヒヒッ……。いいえ、妖刀“轟獣・桜嵐牙”は霧禍のものよ……」
ゆらゆらと私たちの方に向かってくる黒髪の女性。
暗い印象で見える肌は白く、若干の猫背。真夜中に突然遭遇したら、思わず飛んで逃げ出しそうな容姿です。
視界を遮るほど伸びた前髪の隙間から見える赤い瞳が更に怖さをかき立てています……。
「お、オウキさん、この方は……?」
「霧禍の将軍の“呪々丸”だ。女の将軍は過去を遡っても片手で数えられるくらい珍しいぞ」
ということは、この人もオウキさんと同じ妖刀の持ち主。
霧禍にある妖刀は“呪宝・怨魂桜”でしたよね。こう言うのは失礼かもしれませんが、彼女の雰囲気と妖刀の名前から相性バッチリですよね。
「呪々丸、お前んとこも挑戦するんだな」
「……キヒヒッ、当然でしょ? 今日は本気で取りに行くわ。そのために霧禍で最も有望な子供を連れてきたんだから」
「まあ、いい結果を聞くことはできないと思うがな。俺の娘が妖刀を手に入れるわけだし」
「……キヒヒッ。と、ところで、今日はあの女狐は来てないの? 来てないなら──」
「ちょっと、うちの旦那に色目使うんはやめてもらえへんか?」
アヤメたちのところに行ってたツバキでしたが、気づけば呪々丸さんの背後に立っていました。
ツバキを見るなり、呪々丸さんは苦虫を嚙み潰したよう顔をして睨みつけます。なんかこの二人、因縁か何かありそう……。
「……ツバキィィ……!」
「あんたがいると、こっちまで陰気くさくなるから、さっさとどっか行ってくれへん?」
「……そっちこそ、獣臭くて鼻が曲がるから、とっとと国に帰ってくれない?」
口喧嘩はバエルとペディストルで散々見てきて慣れていたつもりですが、あの二人の口喧嘩はまだまだ優しいものだったのだなと。
バチバチに睨み合って口喧嘩している二人の仲裁に入るのは無理な気がします。オウキさんだって、止めずに目を逸らしていますし。
「オウキさん。あれ放っておいていいんですか? 止めた方が……」
一応小声で聞きましたが──
「馬鹿言うなよ。俺は前に止めに入って酷い目に遭ってんだ。大和の将軍で『憤怒の魔王』であっても、無理なものはある!」
と、いい顔で返されました。いったいどんな目に遭ったのか……。
「心配しなくても、流石に今ここでツバキたちが本気でやり合うことはない──と、俺は信じたい。それより、ついでだから教えといてやる」
オウキさんの視線の先には、着物を着た藍色髪の男性がいました。
物静かな雰囲気があり、若干近寄りがたい感じがします。
他には、戦いで負った傷なのか、左目は眼帯で隠されていて、腰には一本の刀が。
オウキさんが教えると言って、大方予想はついていましたが、あの人の腰に携えてある刀からは圧倒的な存在感を放っています。
「あれが炎衆の将軍の“炎羅”だ。つっても、炎衆は昔から将軍になった奴が“炎羅”の名を名乗ることになってるから、多分あいつの本当の名前は別にある。聞いたことないから知らないが。あとは……何考えてるかわからないやつだな」
「三大国の将軍が全員集合ですか……」
「こんなの普段じゃ、なかなか見られない光景だぜ。──っと、そろそろ始まるみたいだな。来るぞ」
薄らとかかっていた雲が晴れ、煌々と照る満月の光が地上に差し、ダンジョンの入り口には、猛々しく燃える大きな炎が現れます。
その炎は次第に形を変え、獰猛な獅子の顔のようなものに。
『ボ──じゃなかった。オレ様は妖刀“轟獣・桜嵐牙”。今回こそ、オレ様の相棒が決まるといいが……数がいつもより多いな。まあいい。早速だが、まずは数を絞らせてもらう』
妖刀って話せるんですねぇ──なんて、思っていると、炎の獅子の口が大きく開き、大気が震えるほどの咆哮が放たれます。
この咆哮、魔力が乗せられてますね。
圧倒的な強者が放つプレッシャーのようなもの。慣れていなかったら、腰を抜かしてしまうかもしれませんね。
あっ、言うまでもなく、私は平気です。
というか、少し懐かしく感じました。オルフェノク地下大迷宮で生活し始めた時は、魔物と距離が離れてても怖くて腰を抜かすことが多かったですから。
ここに集まった人たちの大半が、この咆哮で腰を抜かしています。
もちろん、妖刀の試練に挑戦できる人は子供ですので、子供もいますが、これは流石に酷ですね。腰を抜かすどころか、号泣してる子も……。
いやでも、これを食らって平然としているくらいでないと、妖刀の所有者には相応しくないのでしょう。
咆哮が収まり、これに耐えた子が妖刀の試練に挑戦できる子。いったい何人耐えきったのか──
『ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ──今回は4人か。かなりの粒ぞろいだし、オレ様が出した条件も満たしている。これは本当に今日でオレ様の相棒が決まるかもな。じゃあ、腰抜かしてるやつと4人の付き添い以外は帰っていいぞ』
一人はアヤメ。オウキさんとツバキは当然と言わんばかりの顔をしてますが、これで第一関門は突破です。
あとの二人は、霧禍と炎衆の将軍の隣にいる子供。今回は本気で取りに来ているらしいので、これも想定内でしょう。
最後の一人は……周囲を確認しても、今の咆哮を食らって立っている子供はいません。妖刀さんの数え間違いってことはないでしょうし……。
すると、私の袖がクイクイッと引っ張られて──
「リリィさま、今のすごかったね! グワァァァって! デオンザールさまのいびきより大きかったよ!」
そんなまさかと、何度周囲を確認しても他に立っている子供はいない。ということは、もしかして……。
「サフィーが4人目……?」
確かにサフィーが、あの程度の咆哮で腰を抜かすわけないですね。毎日、誰に修行をつけてもらっているんだって話ですし。
それと一つわかったことが。
魔物の年齢は、ステータスに表示される場合と、そうでない場合があります。理由は私にもさっぱりです。
サフィーが実はフェンリルという話が出た後に、彼女と話をしたのですが、当時のサフィーは気づいた時には見覚えのない森にいて、その後は運悪く奴隷商に捕まったと。
ある程度、肉体は成長してた状態でも、サフィーは自分の年齢がわからなかったようで、私も当時のサフィーを4~5歳だと仮定し、本当の誕生日もわからないため、私のもとに来た日を誕生日としました。
しかし、今回妖刀のおかげでサフィーの年齢が7歳と確定し、誕生日もある程度絞ることができましたが、これはどうしましょう……。
今日、サフィーはアヤメの見送りのために来ただけ。自分も資格があるなら挑戦したいと言い出せば、アヤメのライバルになってしまいます。
私としては、この日のために頑張ってきたアヤメを応援したいので、サフィーには我慢してほしいものですが──
「納得いかねぇ!! 俺は妖刀の話を聞いて、わざわざ海を渡って来たんだぞ!? それをちょっと驚いたくらいで!」
腰を抜かした冒険者の一人が立ち上がって抗議し、周りの冒険者も「そうだそうだ」と便乗し始めました。
やはりこうなりましたか。こうなることは容易に想像できました。でも、いくら抗議しようと結果は変わりません。
『遠くから来ようが、オレ様が認めなければ、オレ様を手にする資格はない。ここではオレ様がルールだ』
「──ッ、そのガキどもには資格があるっていうのかよ!?」
『そうだ。そもそも、オレ様を手にする資格があるのは、歳が7つの子供だけ。お前や便乗する奴らの知能や精神が7つの子供であっても、見た目が大人である以上、当然資格はない』
おぉ……。妖刀さん、なかなかに煽りますね。
抗議していた冒険者たちは、めちゃくちゃ怒ってますよ。
「だったら、力尽くで──」
「まあまあ。せっかく妖刀が忠告してくれてんだから、素直に聞いておいた方がいいぜ? それでも納得できないなら、試しに持ってみるか? こいつも協力してくれるみたいだし」
「な、何だ、テメェ……!」
隣にいたオウキさんが冒険者の前に行き、肩をポンポンと叩いて話しかけます。冒険者はオウキさんの体格を見て、半歩下がりました。
オウキさんは【異次元収納箱】から一本の大太刀を取り出します。あれがオウキさんの妖刀“剛天・百鬼桜”ですか。
「ほれ」
「なっ──ッ!?」
オウキさんが妖刀を冒険者に渡した途端、あまりの重量に耐えられなかったのか、冒険者は妖刀を落としてしまいます。
それをオウキさんは軽々持ち上げ、自分の肩にかけました。
「めちゃくちゃ重かっただろ? でも、俺はまったく重くない。筋力とかの問題じゃないぜ。あれを見てわかると思うが、妖刀は俺たちと同じで生きてんだ。だから、自分が認めない奴には使わせない」
「…………ッ」
「お前さんが力尽くで妖刀を手に入れても、向こうが認めてくれなきゃ使えないし、どんだけ駄々をこねても、アイツが認めることはない。だから、素直に言うこと聞いて帰りな」
それでようやく納得したのか、抗議していた冒険者は帰っていきました。
妖刀さんに資格なしと判断された人たちも、この場から去り、残ったのは三大国の子供とその関係者、あとは私たちだけとなりました。
『……はぁ、うるさいのが帰って、ようやく試練を始められるな。それでは──』
「ちょっと待って!」
妖刀さんの話を遮ったのは、隣にいたサフィーでした。
「私、試練? っていうのやらない!」
『何だと……!?』
「私にはシルファが造ってくれた剣あるから別にいらない。それに、シルファが造ってくれた剣の方が凄いし、カッコイイもん」
これは……サフィーは別に煽ってるわけではないですね。ただ自分の本心を言っただけ。
でも、この言い方は妖刀さんからすれば、煽ってる以外に聞こえないかも……。
『……オレ様より凄くて、カッコイイだと……? 妖刀でもない、ただの剣が……?』
「うん!」
「ぷっ……! 妖刀に真っ向から喧嘩を売るなんてな。リリィ、こいつは大物になる──いや、フェンリルの子供だったら既に大物か!」
オウキさんは笑ってますが、私は心配ですよ。
『……いいだろう。そこまで言うなら、オレ様に見せてみろ!』
すると、サフィーの足元に魔法陣が浮かび上がり、煌々と光り出します。
これは間違いなく転移の魔法陣。このままだとサフィーは別の何処かに飛ばされてしまう。
「サフィー!」
私が叫び、サフィーの手を掴んだと同時に魔法陣が起動。次に視界に映った景色は石造りの大部屋でした。
そして、部屋の奥には怪しい人影。
大部屋の壁にある蠟燭に一本ずつ火が灯され、露になる影の正体。
小柄な体格に、オレンジの髪。右手に握られているのは一本の刀。
顔の上半分が面で覆われて、素顔はわかりませんが、子供であることは間違いないです。





