あの日語られた未来の話
いただいた昼食はオウキさんの言うように、神桜島でしか食べられないようなものばかり。
ジャンルでいうと和食だそうです。和食は普段食べているものと比べて優しい味付けが多く、個人的には好みでしたね。
中でも穀物を炊いて主食として食べることには驚きました。こちらではパンよりも、そちらの方が主流みたいです。
白くて艶のある白米も甘みがあって美味しかったですが、いろいろな具が入った炊き込みご飯なるものも美味でした。白米はおかずと共に。炊き込みご飯は単品でもいけちゃいますね。
あとは、箸という二本の細い飲食用の棒。
あれは人によっては、なかなかの強敵。慣れないと扱いが難しいです。
バエル、ペディストルは器用で、私も何とか使えましたが、デオンザールやサフィーは苦戦してましたね。
ちなみに、箸が苦手な人用にスプーンやフォークも用意されていたので、昼食を食べられなかったなんてことはなかったですよ。
そういえば、バエルがアヤメのために、調理場の方で和食の作り方を学んでいたそうです。
バエルが覚えてしまえば『聖魔女の楽園』の料理人たちに伝授できるので、お願いすれば、いつでも和食が食べられますね。
となると、和食には白米がかかせないと思うので、『聖魔女の楽園』でも白米を生産できるようにしないと。
まあ、アヤメのためと和食の作り方を学んだバエルが、それを考えてないわけないので、私が言う必要はないでしょう。
昼食が終わると、場所は『聖魔女の楽園』へ移ります。
ツバキが合流した今、バエルたちがゴルディームで出会ったもう一人の私のことを話してもらわなければ。
それなら別に場所を変えなくても良かったですが、ツバキがバエルから『聖魔女の楽園』について話を聞いて、どんなものか見てみたいとのことで、それも兼ねての場所移動です。
現地に案内した時は、ツバキは口をポカンとしてましたね。
とはいえ、そうなるのが普通でしょう。目の前に現れた門を通ったら、大国までとはいかないものの、なかなかに立派な街が広がっているんですから。
こちらの詳しい案内は、バエルが後日することに。
まあ、私も同行するんですけどね。
一応バエルから報告は受けていますが、まだ行ったことない場所や施設が増えているとのことなので、ついでに案内してもらいます。
と、そろそろ本題に入りましょう。
会議室へ移動して、バエルとペディストルから、あの日もう一人の私が語った内容を話してもらいます。
「では、お願いします」
「まず、リリィには話したけど、僕とバエルはゴルディームでもう一人のリリィと会った」
これに反応を見せたのは、デオンザールとツバキ。
この場には、もう一人の私に仕えていた従魔しかいないので、反応を見せるとしたら、一人を除き、この二人しかいません。
ここへ連れてくるまで、ツバキには話してなかったので、当然の反応。
デオンザールは話したら、いろいろ問い詰められるだろうからと今日まで黙ることにしたそうです。
ちなみにタルトですが、もちろん彼女も同席してます。
しかし、デオンザールたちと違って、これといった反応は見せません。おやつに用意したクッキーをパクパク食べてます。
バエルたちのことは覚えてなくても、もしかしたらもう一人の私のことは……と微かな希望を持っていましたが、やはり駄目みたいです。
「あっちのリリィ嬢に会ったって、なんで教えてくれなかったんだ!?」
「あなたに話せば、しつこく聞いてくるでしょう? 私とペディストルで、リリィ様を含め、話すのはツバキと合流した時にと決めていました」
「そ、そうか……」
「あっちのリリィはんは元気やった?」
ツバキが聞くと、ペディストルは少し答えづらそうな表情を見せ、バエルと目を合わせた後に話し始めます。
「元気だったかって聞かれると、元気だったかな。昔と何も変わってなかったし」
「そうですね。しかし、もしかすると、あちらのリリィ様は、もう長く生きられないかもしれません」
「どういうことだよ」
そして、バエルたちはゴルディームでもう一人の私と話した内容を私たちにも教えてくれました。
その内容は、作り話ではないかと思うもので、信じてほしいと言われても難しいものでした。
「あっちのリリィ嬢は未来から来て……」
「そう遠くないうちに邪神やらいうんが降臨する……」
「そして、その邪神がこの星のほぼ全ての命を奪う、ですか……」
それを阻止するため、もう一人の私は未来から来たのかと思いきや、阻止することは出来ないと。
未来の私は『禁忌魔術』を使い、未来から過去へ──そして、定期的に『禁忌魔術』でスキルを強化して数年先の未来を視ているのだとか。
その代償が、先程バエルが言った「もう長くは生きられない」という発言に繋がるようです。
「…………」
しかし、『禁忌魔術』ですか……。
シャルルフォーグ学院に居た時に、合同授業でセルマーク君が使った魔術。あれも“禁忌の魔術”と呼ばれていましたね。
許可を貰ってシャルルフォーグ学院で調べたことはありますが、使ってみたいとは思いませんでした。
でも、みんなの未来を守れる可能性があるなら──そう考えると、私は手を出してしまうかもしれません。未来の私がそうだったのだから。
「現状、勝ち目はないっぽいけど、幸いにも時間はある。あっちのリリィも邪神が降臨するまでに、いろいろ準備とか策を考えているみたいだし」
私たちにも大きく関わる問題です。可能なら力を貸したいところですが、連絡が取れない以上、手伝いはできない。
となると、私たちが現状できることは──
「この話を『勇者』や『魔王』たちに情報を共有し、邪神が降臨するまで時間が許す限り、強くならないと駄目ですね」
「そう。まあ、どれだけ頑張っても無意味ってこともあるかもだけど」
「おいおい、そんなやる気が下がるようなこと言うなよ」
「仕方ないだろ、相手が相手なんだから」
確かに、相手が神様なんて、いくら強くなっても勝てるかどうか……。かといって、最初から諦めるわけにはいかないです。
「神、かぁ……」
「ツバキ? どうかしたんですか?」
「いや、今の話にはまったく関係あれへんけど、前に島の中央にある桜には神様が眠ってるって言うたやん?」
「ああ、そういえば言ってましたね。確か、妖刀を生み出した神様だとか」
「そうそう。で、その神様のための祭りが近々開かれるから、そろそろ本腰を入れて準備をせなな思ただけや」
どうやら、その祭りというのは年に一度行われるようで、今年は約3週間後だそうです。
運が良かったですね。滞在期間は決まりました。最低でも祭りが終わるまでは、大和にいることにします。それまでは神桜島の歴史を調べるのもいいですね。
「──っと、話が脱線してもうたな。邪神のこと以外に何かリリィはんは言うとった?」
「ええ。タルト殿のことと、あとはこれのことを──」
私が預けていた『聖魔女の手記』をバエルが出します。ツバキには見せていなかったからでしょう。
「それで、タルトのこととは?」
「タルトの前に、あっちのリリィが体験した過去について話した方がいいんじゃない?」
ペディストルは、未来の私と話した内容を教えてくれました。
まず『聖魔女の手記』に書かれている内容。
完全一致ではないものの、大体は未来の私も書かれている内容と同じ行動をしている。
しかし、最初の部分はまったく違うと。未来の私はオルフェノク地下大迷宮には行ったことないらしいです。
最初の部分が違うことから、アドルたちとの関係も良好。17歳まで一緒に旅を続けていたみたい。
しかし、とあるダンジョンの大規模な転移系トラップで、みんなと離れ離れに。転移後で最も近場の街はアルファモンスだった。
そこからはしばらくは『聖魔女の手記』に書かれてある通り。
アルファモンスでエルトリアさんと出会ってますし、異界人襲撃でダンジョン攻略が中止になって、テルフレアにも行ってる。
ですが、その後、私の知らない内容が来ます。
もう一人の私は、テルフレアで星天の龍峰という場所に『勇者』がいる情報を得た。
一緒に旅をしている時には、既にアドルは『勇者』になっていたので、その星天の龍峰にいるのはアドルかもしれないと思った。
情報を手にしたもう一人の私は、すぐに星天の龍峰へ向かったそうですが、星天の龍峰にいた『勇者』はアドルではなく別の『勇者』。
残念ながらアドルとは再会できなかったですが、最終的には各地を巡って幼馴染全員と再会できたそうです。
……話を聞く感じだと、ゼペットが異界側に行ってしまったのは、未来の私が知らない展開なのでしょう。
そして、次に驚きの情報が。
今、話に出てきた星天の龍峰についてですが、タルトとはオルフェノク地下大迷宮ではなく、そこで会うはずだったそうなんです。
未来の私からすれば、これは想定外の出来事──
「未来の私は過去へ戻っても定期的に未来を視ていたんですよね。それなら、私がオルフェノク地下大迷宮にいることや、タルトのことに気づかなかったというのは変じゃないですか?」
「確かに変やなぁ……」
「無論、あちらのリリィ様も『未来視』で未来を定期的に確認していたと話していました。ですが、何度視ても、視えていたのはアドル一行と旅をする光景。そのため、リリィ様は自分の知る過去の通りに進んでいるものだと思っていたそうです」
でも、実際は違っていた。
これはバエルの憶測ですが、第三者が関わっており、私の身に起きていたことを未来の私に知られたくなかった。
だから、もう一人の私もアドルたちと同じように、何かしらの術をかけられていたのではないかと。
まだ私がアドルたちと一緒に冒険していた時、アドルたちは謎の女性の声に従い、オルフェノク地下大迷宮へ行くことを決めた。
そして、本来タルトとは星天の龍峰という場所で出会うはずだった。しかし、実際はオルフェノク地下大迷宮へ場所が変わっていた。
これが“ただの偶然”と考えるのは、ちょっと無理があります……。意図はわかりませんが、バエルの憶測は間違ってないかも。
確たる証拠がないので、まだ断言できませんが、アドルたちと未来の私に催眠術らしきものをかけたのは同一人物の可能性が、かなり高いと考えていい。
「…………」
ちなみに、タルトの弱体化と記憶喪失も、その第三者のせいだと。
でも、タルトの弱体化は、おそらくですが私のため……ですよね?
他の従魔たちの話を聞く限りでは、タルトはもう一人の私の従魔の中で一番強いみたいですし、本来の力のタルトが相手では、いくら私がオルフェノク地下大迷宮で強くなったとしても敵わないから。
……わからない。謎の第三者は何をしたいのか、さっぱりわかりません。
「……なんか、ここ最近は考えることが多すぎて、いい加減頭が爆発しそうです……」
「少し休憩を入れましょうか。デオンザールもあのザマですので」
デオンザールは途中から離脱してようで、テーブルに、もたれかかって寝ちゃってます。
「デオンザールが、ああなるのは最初からわかってたし、いびき掻いて邪魔しなかっただけマシでしょ」
「そうですね。では、タルト殿が用意していたお菓子を食べ尽くしそうなので、私は追加のお菓子と飲み物のおかわりを用意してきます」
そう言ってバエルは部屋から退出します。
「はぁ……」
私もデオンザールみたいに、だらーんとテーブルにもたれかかります。溜め息も出ちゃいましたよ。
未来の話とか、邪神とか、謎の第三者のこととか。
先程も言いましたが、考えることが多すぎて頭が爆発しそう。
これが終わったら、城内を案内してもらおうと思いましたが、その前に温泉に入って、少しゆっくりしましょうかね。
「そうや、リリィはん。なんべんも悪いんやけど、リリィはんに頼みたいことがあるんや」
「いえ、私とツバキの仲ですし、まったく気にしなくていいですけど、頼みたいことというのは?」
「無理やったら無理でええんやけど、うちにいる子たちを何人かここに移住させることってできるか?」
おっと、これはまた予想外なお願い……。
うちにいる子たちというのは、大和に住む人たちのことでいいんですよね。そういう系の頼みが来るとは思っていませんでした。
「移住ですか? 場所は有り余ってますので、百人単位で来ても受け入れることは可能ですが、そんな頼みをするほど、大和はギリギリなんですか?」
「いや、うちもまだまだ余裕はあるよ。住まわせてほしいのは、異国の技術とかに興味がある子たちや」
なるほど。それはこちらとしてもありがたいかも。
異国の技術を学ぶために、島を出たとしても、すぐに良い環境に巡り合えるかはわからない。
しかし、うちなら衣食住の保証はできますし、自分で言うのもあれかもしれませんが、各分野の職人が十分揃っているため、技術を学ぶには最高の環境です。
そして、大和の人たちが異国の技術などを学べるということは、その逆も然り。大和の建築物や料理等を学ぶなら、独学より現地の人から学んだ方がいい。
つまり、双方に利益があるということです。
「わかりました。正確な人数はまだ決まってないんですよね?」
「そうやな、ここに来て思い付いたことやし。でも、興味がある子は少なからずいる。城内にもいたし、ゼロ人ってことはあらへんやろ」
「では、希望者を募って後日教えてください。1か月くらいは滞在するので、ゆっくり決めて大丈夫とも伝えてもらえたら」
移住を希望しても家族がいる人たちとかは即決とはいかないでしょうし、1か月くらい時間があれば十分でしょう。
そんなやり取りをした三日後。
大和から『聖魔女の楽園』に移住を希望する人が、40人ほど集まりました。
大半は独り身の方で、ツバキ曰く、これは即決組だから、まだ増えることも考えられるだろうと。
和風の住居がいいという要望が出る可能性を考慮して、ひとまず簡易的な住居を建てたので、住む場所は問題なし。
あとは仕事の振り分けとかですが、これはバエルが各々の適性を見て振り分けたそうです。相変わらず優秀な従魔がいると苦労しませんねぇ。





