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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第六章 混血の姫と六妖刀編

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スキルの書を求めて

「悪いが、うちの店にはねぇな」

 

 最初に訪れた店にはなく、他の店に行ってもなくて。

 人通りの少ない場所に構える店なら珍しいものがあるかもと思って、裏路地を探検している時に偶然見つけたここで5店舗目。

  

 思ったよりも、スキルの書を取り扱う店は多いんだなということは置いといて。


 入り組んだ裏路地にあった怪しさ満載の店ですが、こういう場所にもないとなると、私が欲しているスキルは存在しないのかもと考えてしまいますね。


 ちなみに、どういうスキルが欲しかったのかというと、自分の魔力を物などに蓄積させるスキル──名前があるとすれば『魔力蓄積』ですかね。

 もう一つは別の物に蓄えた自分の魔力を自身に戻すスキル──『魔力還元』とでもしておきましょう。


 私の固有魔術は、受けたダメージの反射と即時全回復の効果があり、一度使うと魔力を全て使い切らないと魔力が回復しないという欠点があります。


 魔術を主軸として戦う者からすれば致命的。ですが、だからこそ、利点と欠点のつり合いが取れているとも言える。

 しかし、いつか長時間固有魔術を使わないと勝てない敵が出るかもしれない。


 そこで魔力を蓄積するスキルを獲得して、杖とかに私の魔力を溜めさせて、予備の魔力として使おうと考えていたのですが、実現させるのは難しいようです。

 私自身の魔力が空になっても、杖に溜めていた魔力で回復したり、他にもいろいろ妄想が膨らんでいたんですけどね。


「そうですか……」

「ただ、ある場所は知ってる」

「ほ、本当ですか!?」


 諦めて帰ろうとしましたが、まさかの嬉しい情報です。

 しかし、それをタダで教えてくれる雰囲気ではない様子。

 向こうも商売しているわけですから、それに見合う対価を支払わなければならない、というわけですね。


「では、魔術系のスキルで珍しいものってありますか?」


 と、思わずこんなことを言ってしまいましたが、珍しいものがあれば、当然高値で売ってきますよね。個数も指定してませんし。

 たくさん持ってこられたらどうしましょう……。おそらく、お金の方は大丈夫だと思いますが、今の発言は失敗です。


 ですが、今の発言を取り消そうとしても、時すでに遅し。

 おじいさんは椅子から立ち上がると店の棚の方へ向かい、本を数冊持って戻ってきます。


「要望に応えられるのは、この辺だな」

「どんなスキルですか……?」

「『変身魔術』、『罠魔術』、『反射魔術』」


 ほう。どれも私が持っていないスキルですね。

 変身と罠は普通に興味があります。使い道もありそうですし。

 反射の方は……固有魔術の効果の一つとしてありますが、スキルそのものは所持していない。手軽に使える点を考えれば、あっていいかも。


「お値段の方は?」

「3つで金貨7枚」


 ここに来るまでに訪れた店で大体の相場は見てきましたが、スキルの書が3つで金貨7枚は破格の値段です。

 珍しいものと言ったのもあり、最低でも1つ金貨6~7枚が私の予想でしたから。

 人によっては金貨7枚は、かなりの大金です。しかし、私は貯金には、かなりの余裕があるので金貨7枚なら、まったく問題ないですね。 


「わかりました。買います」

「毎度あり」


 金貨7枚を渡して、おじいさんからスキルの書を受け取り、それらを【異次元収納箱(アイテムボックス)】に入れようとしましたが──


「あれ? 一冊多い……」


 購入したスキルの書の他に、古く汚れたスキルの書がありました。


「それはオマケだ。おそらく魔術スキルだろうが、なんて書いてあるかわからんから詳細もわからん」


 そんな詳細不明なものを渡されても困るんですが……。きっと売り物にもならないからって私に押し付けてますよね。


 呪われたスキルみたいなものだったら嫌ですし、返したいところですが、私は表紙に書いてある擦れた文字を見て止めました。


「あの、本当にタダで貰ってもいいんですか?」

「ああ。構わねぇ」


 だったら、ありがたく貰っておきましょう。

 おじいさんには内緒にしますが、このスキルの書は私が探していたスキルよりも希少価値のあるものです。それをタダで貰えるなんて運がいいですね。


「では、失礼します」

「ちょっと待ちな」


 ドアノブに手をかけようとした寸前でおじいさんに呼び止められます。

 もしかして、オマケで渡したスキルの書が希少なものだと見抜かれたとか……。でも、これはもう私の物ですから、返せと言われる筋合いはないですよね?


「な、何でしょう……?」

「大事なことを忘れてるぞ」

「大事なこと……あっ!」


 私としたことが、新しい4つの魔術スキルを獲得して試そうと考えていたあまり、本来の目的だったスキルの在処を聞かずに出て行くところでした。


「嬢ちゃんの欲しがってたスキルは、街中央にあるカジノの景品にあったはずだ。まあ、景品は定期的に入れ替わるし、誰かが交換した可能性もあり得るから、今もあるかわからないがな」


 なるほど。カジノですか。

 どちらにせよ、人生経験としてカジノには一度行ってみようと考えていましたし、今晩辺りに誰か連れて行ってみることにしましょう。


「カジノですね。教えていただいありがとうございます」


 おじいさんに感謝を言って、私は店を後にします。

 そして、来た道を戻り、再び大通りに出ると──


「リリィ様!」


 たまたまバエルと出会うことができました。隣には『聖魔女の楽園』に残っていたはずのペディストルもいますね。


「二人が一緒なんて珍しいですね」

「ちょっといろいろあってね」

「いろいろ、ですか?」

「実は、さっきもう一人の君と会った」

「……えっ?」


 私はその言葉を聞き、呆然とします。

 確かに今、ペディストルはもう一人のリリィと言いましたよね。二人一緒ということは、バエルも会ったということでいいんですよね。


「混乱するのも無理ないよ」

「も、もう一人の私とは何を話したんですか?」


 そう問うと、バエルとペディストルは目を合わせた後──


「その話はツバキと会ってからにしよう。どうせ彼女にも話さなきゃいけないことだし、立ち話で終わるような内容じゃないからね」

「わ、わかりました……」


 今すぐに聞きたいですが、もう一人の私を聞いた上で二人がそう判断したのであれば、素直に従いましょう。私に話してツバキにも話すとなると二度手間にもなりますしね。


「ところでリリィ様、お目当てのスキルは手に入りましたか?」


 欲しいスキルの件はバエルに相談していました。そもそも、スキルの書を取り扱う店がゴルディームにあると知ったのも、バエルから聞いたわけですし。


「残念ながら。でも、持っていない魔術系のスキルを4つ手に入れることができましたよ」

「そうでしたか。まだ日が暮れるまで時間がありますし、私もお手伝いします」

「いえ、欲しいスキルの書がある場所はわかっているんです。さっき行った店の方に聞いたんですが、確実にあると保証はできませんが、中央にあるカジノの景品にあるかもしれないと」

「カジノの景品ですか」

「それで、この後そのカジノに行ってみようと」

「でしたら、私もお供いたします。景品となれば、チップを稼がなければいけませんし」


 そうですよね。もし欲しいスキルの書があったとしても、景品と換えるものがなければ手に入れることはできない。

 私はギャンブルの知識が、ほとんどないので、景品と換えるのに必要なチップを稼げるか怪しい。でも、バエルが一緒なら何とかなりそう。


「わかりました。では、一緒に行きましょう」


 




 それから日も暮れ。

 カジノ前まで来たわけですが、夜だというのに、あちこちでライトがキラキラと光り輝いて、少し眩しいくらいです。

 それに、カジノ周辺にいる人たちも大半がしっかりとした服装です。冒険者と思われる人もチラホラいますが、若干浮いてるように見えてしまいます。


 で、私はというと、普段のローブではなく、パーティドレスに着替えています。

 私はいつもの服装で良いと思ったんですけどね。カジノに行く準備をしていると、用意されていたパーティドレスに着替えさせられて……。

 パーティードレスを着る機会はなかったので、結構違和感がありますよ。まあ、おかげで初めてのカジノでも場の空気には溶け込めそうですが。


 さてと。オシャレもして準備も出来たことですし、早速カジノの方に──


「ねえ、バエル。ここは一つ勝負しない?」


 行こうと思ったのですが、面白そうだし、人数は多い方がいいだろうとついてきたペディストルがバエルに言います。

 ちなみに、ここにいるメンバーは私、バエル、ペディストルと先程のメンバー。この場にはいませんが、シルファさんとか他にもカジノに興味がある人たちは既に入場しているらしいです。


「……勝負、ですか」

「ただ稼ぐってだけじゃあ面白くないだろ? 目当ての景品は事前調査であるってわかったし、先に景品をゲットできた方が勝ち」

「くだらない。そのような勝負に付き合うつもりは──」

「なに、僕に負けるのが怖いの? ああ、そうか。リリィに自分が勝負に負けた姿なんて見せたくないか」


 ああ、また始まった……。

 毎度恒例、バエルとペディストルの喧嘩。

 基本的にバエルはこういう安い挑発には乗らないタイプなのですが──


「それなら仕方ない。この勝負は無しってことにしてあげ──」

「いいでしょう。仕方ないので、あなたのくだらない勝負に付き合ってあげます」


 相手がペディストルだと、どうしても挑発に乗ってしまうんですよね。もちろん、その逆も同じですが。

 お互いライバル視しているようなところがありますし、安い挑発だろうと逃げたら負けと思っているのかもしれません。


 まあ、今回は主に二人の力が必要ですから、私から何か言うことはしません。


「じゃあルールを決めよう。といっても、単純なものだ。軍資金は金貨3枚。やるゲームは何でもいい。とにかく稼いで先に景品をゲットできた方の勝ち」

「わかりました。それで構いません」

「あの、軍資金が尽きたらとか、そういう細かいルールは決めなくていいんですか?」


 そう私が聞くと、


「あはは、大丈夫大丈夫。駆け引きアリのゲームなら、よっぽど運が悪くない限り、負けないから」


 と、爽やかな笑顔でペディストルが答えます。

 心理戦とか頭を使うゲームで、二人が負けるイメージが湧かないですね。


 もし、私が二人とそういった類のゲームをやったとしたら、バエルは手加減してくれるでしょうけど、本気で来るように頼んだら普通に負ける気がしますし、ペディストルは容赦なくボコボコにしてきそうです。


「それじゃあ、荒らさない程度に稼ぎに行こうか」


 自信満々のペディストルの後に続き、私とバエルもカジノ場へ入場します。


 カジノ場の中は外観以上に煌びやかな場所です。

 中に入ったら早速ペディストルは別行動で何処かへ行ってしまい、バエルは私のことを気にしていましたが、一人でも問題ないと伝え、バエルもチップを稼ぎに行きました。


「さて、私はどのゲームで稼ぎましょうか……」

「お客様、当カジノは初めてでしょうか?」


 少し歩きながらカジノ内を見て回っていると、従業員らしき人に声をかけられました。灰色の髪で右目が隠れている私と同い年くらいの男性です。


「はい。でも、どうして初めて来たとわかったんですか?」

「お客様のような綺麗な方でしたら、一度見かけたら忘れるはずないので」


 客を褒めるための常套句だとは思いますが、それでもそう言われて嬉しくない女性は居ないでしょう。

 端正な顔立ちの青年ですから、今の言葉で堕ちる女性もいるかもしれませんね。私はそこまでチョロくないですが。


「ありがとうございます。ところで、カジノ自体初めてなんですが、初心者でも遊びやすいゲームってありますか?」

「でしたら、ルーレットは如何でしょう? ポーカーやブラックジャックなどと違って、数字や色を当てるだけの運任せのゲームですので、比較的遊びやすいと思いますよ」


 ルーレットですか。それなら私でも運次第で稼げるかも。


「では、ルーレットをやってみようと思います」

「レートは如何なさいますか? レートによって遊技場が異なりますので」


 ルーレットは他のゲームと違って運任せな分、勝てる確率も低いですよね。

 実は私もバエルとペディストルの勝負にこっそり参戦しようと考えていて、そうなると高いレートで勝負した方が勝った時のリターンも大きい。


「ひとまず一番高いレートの場所に案内してもらえますか?」

「かしこまりました」


 初心者なのに一番高いレートを選択して、止めてくるかなと思いましたが、従業員さんは顔色一つ変えずに私を案内してくれます。

 まあ、カジノ側からすれば、初心者で高いレートに行く客なんて良い金づるにしか見えませんか。


 従業員さんと話をしつつ、一番高いレートのルーレットがある場所へ案内してもらう途中で──


「ま、待て! 何をするんだ!! 俺は何もやってない!!」


 と、騒いでいる冒険者らしき男性を見かけます。その男性を黒い服を着た方たちが囲み、ガッチリと拘束して何処かへ連れて行ってしまいました。


「あの、あれって……」

「ああ、たまに魔術やスキル、魔道具等を使ってイカサマをしようとする方がいるんですよ」


 このカジノのゲーム場にある椅子やテーブルは不正を感知する術式が組み込まれているようで、不正を感知したら、あんな風に従業員さんたちにバレて連れて行かれると。


 また、ゲーム場にいなくても、魔術やスキル、魔道具を使ってしまうと同じようにバレます。よく見ると、あちこちに撮影機のような魔道具が天井にありますね。


 つまり、第三者による不正も封じられているわけです。

 そして、誤作動が起きたことは今までで一度もなく、連れて行かれた人は確実に不正を行っていた。

 賭け事の場であるからこそ、徹底した警備体制。これくらいはやって然るべきことでしょう。


「着きました。こちらが当カジノで最もレートが高いルーレット場です」

「あちらの方って……」


 ルーレットを回したり、カードを配ったりする人をディーラーと呼ぶんですよね。

 案内してもらったルーレット場のディーラーなのですが、驚くことに私をここまで案内してくれた従業員さんとそっくりなんです。

 大きく違う点といえば、性別が女性であることと、髪で隠れているのが左目というところ。


「彼女は私の双子の妹です。妹は少々無愛想と言いますか……それが好みというお客様もいるようですが……」


 従業員さんの視線の先を見てみると、何やらディーラーさんと貴族と思われる、肥満体型の男性が話をしています。

 

「ムーナちゃぁん、今日こそは僕と一緒に食事に行ってくれるかぁい? 僕オススメの店に連れてってあげるよん」

「はぁ……。何度も言ってますよね。他のお客様の迷惑なので、賭けないならさっさと何処かへ行ってください」

「んん~~、その冷たい態度も最高! よし、じゃあ黒の11に30枚ベッドだ。これで当たったら食事に付き合ってくれるかい?」

「嫌です」


 何だか、ディーラーさんが可哀そうですね……。

 しつこいようなら出禁にすればいいのに。

 と、思いましたが、従業員さんが聞いた話では「鬱陶しいけど一番金を落としてくれる客だし、標的は自分だけだから」と我慢しているらしいです。その言葉も、あの男性を喜ばせるものになりそうですね。


「同じテーブルで遊技することになってしまいますが、何か揉め事等が起きた場合は私共が瞬時に駆け付けますので」


 どうやら今遊べる高レートのルーレットがあそこしかないみたいですし、何も起こらないことを祈りましょうか。


 その後、私はルーレット台へ行き、金貨1枚とチップ10枚を交換してもらって、台に書かれている数字と睨めっこします。


 従業員さんに教えてもらいましたが、ルーレットは賭ける場所によって配当は異なり、最小で2倍、最大で36倍の配当。

 最大配当の36倍は、先程肥満体型の男性がやった一点賭け。

 一点賭けは、一つの数字を的中させないといけないため、余程運が良くない限り無理でしょう。ちなみに、先程の男性の結果は言うまでもなく外れです。


 実は密かにバエルたちの勝負に参戦しようかなと思っていますが、さすがに今はそんな無謀なことはしません。同じルールでやるなら、使っていいのは金貨3枚だけですし。


 初ルーレットですので、ここは一番配当の倍率が低い2倍で行きましょうか。

 数字の前半か後半、奇数か偶数、赤か黒のどれかを当てたら賭けたチップが倍になって戻ってくるので、今回は黒にチップ1枚を賭けます。


「──ふんッ」


 賭けたチップが少ないのが原因なのか、隣に座っている肥満体型の男性に鼻で笑われましたが、気にしないでいきましょう。


 ディーラーさんがルーレットを回し、回転方向とは逆にボールを投げ入れます。

 今はまだ追加で賭けたり、置いたチップの場所を変更できるようですが、今回は追加も変更も無しでいきます。

 そして、一定時間が経過すると賭ける時間が終了。

 カラコロと転がるボールは最終的に黒の24番に入りました。


 初カジノの初勝負は勝つことができましたね。勝ったのはチップたった1枚だけですが。


 ちなみに、肥満体型の男性はまた一点賭け。

 結果は言うまでもないでしょう。36分の1なんてそう簡単に引けるわけありません。

 だというのに、何度も一点賭けが出来るのは、財力があってのことでしょう。

 大量のチップが男性の手元にありますが、おそらくあれは勝って得たものではなく、金貨を何枚も換金して得たもの。さすがは貴族というだけありますね。


 さて、そろそろ次のゲームが始まるようです。

 肥満体型の男性のような無謀な賭けはせず、楽しみながらチップを増やしていきましょう。




 

 それから少しして。

 

「おお! また当たったぞ!!」


 いつの間にか、たくさんのギャラリーが私の遊んでいるルーレットを囲んでいます。そして──


「おめでとうございます」


 と、私の前にたくさんのチップが置かれます。

 ルーレットで遊んで気づけば、チップの山が出来ていました。

 全部で200枚くらいですかね。ただ、チップにも種類があって、それぞれ金額も違い、最初に受け取ったチップで換算すると、おそらく1200枚くらいはあると思います。


 金貨1枚で10枚に交換したチップが、今では約1200枚。私もまさかこんなことになるとは……。

 

 最初は普通に低い配当に賭けていたんですけどね。

 地道に勝っていって、もう少し高い配当にも賭けてみて。

 もちろん外れることもありましたが、何だかんだでチップも増えていき。

 ふと「一回くらい私も一点賭けやってみようかなぁ」と軽い気持ちで20枚くらい賭けてみたら、なんと運よく当たってしまい。


 そこから、あと何回かだけやろうと決めて遊んでいたら、次第にギャラリーも集まってきて今に至ります。

 

 ギャラリーが多くて止めるに止められなかったですが、さすがにこれ以上、人を集めてしまうとカジノ側に迷惑をかけそうですし、チップは十分稼げたと思うので、ここらが止め時ですかね。


 そう思って席を立とうとした時──


「貴様! イカサマしているだろ!!」


 と、私に向かって大声で叫ぶ人が。

 その人とは私の隣にいた肥満体型の男性です。

 

「イカサマなんてしてないです。変な言いがかりは止めてください。だいたい魔術やスキル、魔道具を使った場合、不正を感知するじゃないですか」

「──ッ」


 自分がかなり負けているからといって、私に八つ当たりするのは止めてほしいです。

 というか、あなたがそんなに負けているのは、ほとんど一点賭けをしていたからじゃないですか。

 一発当てたところをディーラーさんに見せたかったからかわかりませんが、完全に自業自得ですよ。


「こちらのお客さまはイカサマなどしておりません」

「む、ムーナちゃん……」

「ただ運が良かったという話。一点賭けを当てたのも運が良かったから。0を除いた36分の1を的中させる確率は、かなり低いですが、当たらないわけではない」

「くっ……」

「それより、私に対しての言動等は目をつぶっていましたが、他のお客さまに迷惑をかけるようなら警備員を呼んで出禁にしますよ?」


 鋭い目つきでディーラーさんが言います。

 それに怖気づいたのか、男性は「ヒエー」と情けない声を上げ、走ってその場から去ってしまいました。

 テーブルにチップを残したままですけど、いいんですかね。まあ、あとで気づいて戻ってくるでしょうし、私が心配することではないですか。



 その後、私もルーレットを止め、ひとまずバエルたちの様子でも見に行こうかなとカジノ内を歩き回ります。

 そして、バエルを見つけましたが、バエルの前にもたくさんのチップが積まれていますね。やっているゲームはブラックジャック……でしたか。


「ブラックジャックです」

「ま、またかよ……」

「さっきも大量のチップを賭けて当ててたよな。まるで来る手札がわかっていたように……」

「でも、従業員が来ないってことは、イカサマしてるってわけじゃないよな……」


 どうやらバエルは暴れているようですね。

 なんて考えていると、バエルが私に気づき、ちょうどゲームが終わったのか、チップを回収してこちらに向かってきます。


「リリィ様、どうかなさいましたか?」

「いえ、様子を見に来ただけです。かなり勝ったみたいですね」

「はい。景品と交換する分のチップは稼げました。ただ、うまく立ち回りましたが、そろそろカジノ側に止められそうでしたので、ここで止めにします」


 なるほど。言い方から必勝法的なものがあるようですが、それが不正に繋がるものでないのなら、深くは追及しないでおきましょう。

 

「ところで、リリィ様は何かゲームをやりましたか?」

「一番高いレートのルーレットをやりました。運だけで、金貨1枚からチップ1200枚くらいまで増やしましたよ」

「おお! さすがはリリィ様! リリィ様は幸運の女神も味方に……いや、リリィ様が幸運の女神で──」


 なんかバエルがいろいろ言い始めましたが、気にせずに今度はペディストルを探しに行きます。

 

「ん、また僕の勝ち」

「クソ……」

「強すぎだろ……」


 似たような光景をさっきも見ました。

 ペディストルはポーカーで遊んでいました。彼もバエルと同様に暴れているようです。チップの山を見れば、それがわかります。


「あれ、リリィにバエルじゃん」

「ペディストルも勝っているみたいですね」

「まあね。もうちょっとかかるから待っててよ」

「では、勝負は私の勝ちのようですね」

「フッ。はい、リリィ」


 ペディストルはゲームをしながら、2冊の本を渡してくれました。


「君が欲しいって言ってたスキルの書だ」

「景品を交換した上で、まだこんなにチップが……?」

「言っただろ? よっぽど運が悪くない限り、負けないって。ということで、今回の勝負は僕の勝ちだ。残念だったね、バエル」


 勝ち誇った顔のペディストルに対し、バエルは物凄く悔しそうな表情をしていました。

 勝負自体もそうですが、おそらく私の前で負けてしまった方がショックの割合が高いでしょうね。


 とりあえず、ペディストルのおかげで欲しかったスキルの書が手に入りましたし、バエルを慰めるために一緒にカジノを回ることにしましょう。











 ある宿の一室。


「はぁ……ようやくあのクソデブから解放されるわ」

「ははは。ホント、大変だったみたいだね」


 他人事のように笑う男に、女は苛立ちを隠せない。


「というか、別にあそこで働かなくてもよかったでしょ」

「まあまあ、お前の好きなウーノじいちゃんから頼み事なんだから仕方ないだろ? 神桜島に行く前にリリィ・オーランドを見られてよかったじゃん。凄かったよね、イカサマなしの純粋な運だけであんなに勝つなんて」


 男が女を宥めていると──


「クアトール、クイン」


 二人の前に黒いシルクハットを被った老人──テルフレアにてアルゴギガースの復活に協力したウーノが現れる。


「じいじ」

「クイン、どうやらいろいろと苦労したようだな」

「気にしなくていいよ。今日まで我慢してきたし。それよりどうしたの?」

「大した用事ではない。お前たちが神桜島へ向かう前に、顔を見に来ただけだ。お前たちなら任せた仕事も無事にやり遂げられるだろう。頑張りなさい」

「じゃあ、終わったらご褒美ちょうだい」

「ああ。ちゃんと用意しておく」


 そう言ってウーノは二人の前から消えた。


「それじゃあ、ここでやるべきことはやったし、神桜島に行くとするか」

「その前に最後の一仕事をやってくるわ」


 ギュッとグローブを嵌めるクインを見て、クアトールは彼女の一仕事の内容を理解した。


「……あまり騒ぎは起こすなよ?」

「関係ないでしょ? あのクソデブを殺したところで、私はもうこの街にいないんだから。それに、死ぬ前に見る最期の顔が私なんだから、あのクソデブも本望でしょ」

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