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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第六章 混血の姫と六妖刀編

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もう一人のリリィ

作品タイトルを見て、驚いたかもしれませんね。

告知もしてなかったため、知らない人が多数で、そもそも存在自体忘れ去られていると思い、注目してもらおうと一時的に作品名に入れましたが──


この度、奈落の底コミカライズの連載日が決まりました!!

連載日は、明日12月18日(水) カドコミ&ニコニコ漫画にて連載が始まります!!(前回の更新で告知したつもりが書き忘れてた……)


WEB版が始まってから(かなり四年寄りの)早三年、いよいよリリィたちの冒険が漫画でも読むことができます!!

 もう一人のリリィとバエルは、近くの喫茶店に入る。


 再会できると思っていなかったが故に、バエルは最初、彼女が本当にかつて自分が仕えていた主か疑っていた。

 だが、どれだけ思考を巡らせても、魂が目の前にいる彼女は本物だと告げている。彼女は自分が知るもう一人のリリィで間違いない。 


 予期せぬ再会に、かつてないほどの喜びを感じるバエル。

 しかし、同時にバエルには、なぜ今もう一人のリリィが自分の前に現れたのかという疑問が生じていた。それに──


「本当に久しぶりですね。みんなも元気ですか?」

「ツバキとティルフィーはまだ合流できていませんが、それ以外は皆変わりありません」

「それはよかった。この街に来たということは、次はツバキですね。ティルフィーが自分が最後だと知ったら怒りそうですが……」


 かつて共に旅をした仲間のことを懐かしみ、微笑むもう一人のリリィ。彼女が見せたその微笑みは、昔と変わらないものだった。


「せっかくです。他の従魔たちにも、お会いになりますか?」

「いえ、みんなに会いたいのは山々ですが、会ってしまうと別れが辛くなってしまうので……。バエルとも本当は姿を見るだけにして、声をかけるつもりはなかったんですが、身体が勝手に動いてしまって……」

「別れが辛いと仰るのであれば、これからはまた共に旅を──」

「それはできません。私にはやらなければいけないことがあるので」


 もう一人のリリィは食い気味に否定する。

 ただ、その否定は心からの拒絶ではなく、理由あってのものだった。でなければ、彼女は切なそうな表情をバエルに見せていない。


「本当は全ての従魔が再び揃った時、彼女も含め、あなたたちに話すつもりでしたが、バエルには今話しておきます」

「ちょっと待ってよ。面白そうだから僕も混ぜてほしいな。当然、僕にも聞く権利はあるだろ?」


 喫茶店のテラス席で話す二人の前に現れた死の最上級精霊(おとこ)。その精霊は声をかけるなり、同じテーブルの椅子に座った。


「疲れるからとリリィ様のお誘いを断って『聖魔女の楽園』に残っていたのでは?」

「結局やることなくて暇だったからね。でも、おかげで思いもよらない人物と出会うができた。久し振りだね、リリィ」

「久し振りですね、ペディストル。あなたも元気そうで何よりです。ところで……『聖魔女の楽園』というのは?」


 何も知らないもう一人のリリィはバエルから『聖魔女の楽園』とそれが出来た経緯を話した。

 

「ど、どうやらバエルは相変わらずのようですね……」


 と、『聖魔女の楽園』やそれ以外の話も聞いたもう一人のリリィは苦笑いを浮かべて言った。今も昔も、バエルはバエルなのだろう。


「そんなことより。さっきの続きだ」

「そうでしたね。まず先に私のことについて話します。これから話すことは信じられないかもしれませんが、全て事実です。それを伝えた上で言いますが──」


 そして、もう一人のリリィの口から予想を遥かに超える発言が飛び出る。


「私はこの時代より後──つまり、未来から来ました」


 自分は未来から来たと言われ、信じることができるだろうか。

 誰しもが戸惑う発言だろう。これはあまりにも荒唐無稽な話だ。

 もう一人のリリィも事実だと言ったが、正直バエルたちがすんなりと飲み込んでくれるとは思っていない。しかし──


「リリィ様がそう仰るのであれば信じましょう」


 バエルは信じることにした。非現実的な発言だとしても、これまで仕えてきた彼女の言葉を疑う気は微塵もなかった。


「えぇ……。もう少し疑うとかさぁ」

「リリィ様の言葉ですから」

「はぁ……。君のリリィに対する絶対的な信頼は変わらずだね」


 バエルの言葉を聞くなり呆れて溜め息がでるペディストル。


「僕はバエルと違って「未来から来た」なんて言われても簡単に信じることは出来ないけど、とりあえず話を続けよう。君が未来から来たとして。その理由を教えてくれるかい?」

「……今からそう遠くないうちに、存在する生命の大半が死に絶え、この世界は滅んでしまいます。大地は荒れ果て、緑豊かな自然も消え、一日分の食料すら簡単には手に入らない過酷な環境。私はそれをこの目で見ています」


 もう一人のリリィはそう説明するも、相も変わらず話の中身は滅茶苦茶なものだった。


「……具体的には、どういった経緯で世界が滅びるんだい?」


 理解に苦しみ、苦笑いを浮かべながらペディストルが問う。


「二人は神を信じますか?」

「なんだい、急に……。まるで宗教の勧誘みたいだけど。もしかして、僕たちを変な宗教に勧誘するつもり?」


 そう茶化すペディストルだったが、もう一人のリリィの表情は真剣なままで話を続けた。


「神は実在します。そして、神の中で最も凶悪で邪悪な神──邪神が全ての元凶。その邪神は、自分にとって邪魔な神を全て殺して下界に降臨し、ただ自分の欲を満たすためだけに、下界で暮らすほぼ全ての命を亡き者にした」

「それを未然に防ぐために、リリィ様は過去へ戻り、未来を変えようと?」

「いいえ。残念ながら現状だと邪神は確実に下界に降臨します」


 もう一人のリリィの瞳からは、絶対に起こるという確信が見て取れた。だが、それに対しペディストルが反論する。


「そんなのわからないじゃないか。未来なんていうのは不確定なものだ。何かしらのきっかけで変わることだってある」

「…………」

「だというのに、君は断言した。そこまで言い切れる根拠は?」

「……『未来視』というスキルは二人も知ってますよね」


 少し先という制限はあるものの、未来を視ることができる珍しいスキル。リリィの父──クレイ・オーランドも所持しているスキルだ。

 

 もう一人のリリィの口から『未来視』の名が出た時、二人の脳裏には未来予知のようなものが過るが、あのスキルには、少し先という制限がある。遠い先の未来は見られない。

 

 しかし、もう一人のリリィは、確実と断言した。 


「『未来視』は普通に使えば、最長で10秒くらい先の未来を事前に知ることが可能なスキルです。しかし、とある魔術を合わせれば、数年先の未来を見ることが可能なんです」

「とある魔術……まさか、アレかい……?」


 もう一人のリリィの言う魔術は、ペディストルだけでなく、バエルにも心当たりがあった。

 

「お察しの通りです。とある魔術とは──『禁忌魔術』。魔術スキルの中で最も危険で、使用を禁じられている魔術です」


 その言葉が出た時、二人は納得した。

 禁忌と呼ばれるものは、例外なく破ると破った本人に一生解くことができない呪いが科せられる。要は常識の範疇を大きく超えたが故のペナルティだ。


 そして、もう一人のリリィもそのペナルティを受けている。バエルもペディストルもそれに気付いていた。

  

 共に旅をしている時は、まだペナルティが与えられていなかったのだろう。バエルたちは圧倒的な強さを持つリリィを知っている。

 だがしかし、まるであの強さが嘘だったかのように、今はかなり弱体化しているのだ。ステータス値は下手をすると駆け出しの冒険者よりも低い。


 また、もう一人のリリィの場合、弱体化はステータス値の減少ではなく、正確にはステータスの最大値の減少だ。

 各ステータスの最大値が徐々に減少するということは、いずれは生命力の数値もゼロになる。

 無論、減少が1で止まる可能性も否定できないが、禁忌を破った者の末路を考えると、あまり期待していいものではない。


 だが、もう一人のリリィは微塵も後悔していない。それを重々承知した上で『禁忌魔術』を使ったのだから。


「私もペディストルと同意見で、もしかしたら未来は変わるかもしれないと思っていました。ですが、あなたたちと別れてからも定期的に『未来視』に『禁忌魔術』を付与して確認していますが、未来が変わったことはありません」


 ちなみに、もう一人のリリィが未来から過去へ戻る際も『禁忌魔術』を使用している。

 彼女は『禁忌魔術』を『時空間魔術』に付与させることで、未来から過去への移動を可能にしたのだ。


「なるほどね。それなら断言できるのも納得はできる。ただ、定期的に、ってことは、今日までかなりの回数『禁忌魔術』を使ったわけだろ? 身体の方は大丈夫なのかい?」


 大丈夫ではないことくらい、ペディストルは承知の上だ。そして、この質問に彼女がどう答えるのかも、ある程度予想がついている。


「心配してくれるんですか?」

「そりゃあ、まあ。無関係ではないからね」

「あはは……。身体への影響は、まあ出ています。身体の成長が止まったり、お腹が減らなくなったり、レベルが上がらなくなったり、突然全身に激痛が走ることも」

「…………」

「でも、私は私の意思で過去へ来ました。みんなの未来を守れるのなら、禁忌に手を出すことも覚悟の上でしたし、それによって身体が蝕まれようと後悔はこれっぽっちもしていません」


 笑みを見せて、もう一人のリリィは二人に話す。

 それは平気とはいえないだろうと、ペディストルは言葉が出かけたが、リリィなら絶対にそう答える。今仕えているリリィも彼女と同じ立場なら同じことを言うに違いない。


「君も変わらないね。そういう自分よりも他人を優先するところ」

「しかし、このまま行くと邪神とやらが降臨するわけですよね。我々に邪神を討つことが可能なのでしょうか……」

「えっと……そこはほら、あなたたち以外にも『勇者』や『魔王』だっているわけですし、過去の私だって、全盛期の私くらい強くなれることは未来の私が保証します。それに、世界の危機となれば多くの人が立ち上がるはずです。みんなで協力すれば、きっと何とかなります!」


 急にデオンザールが言いそうな根拠のない自信だなと、ペディストルは呆れながらもう一人のリリィを見る。

 要は現状だと邪神が降臨しても負ける未来しかないということだと、彼女の発言でバエルたちは理解した。


 だが、現状負ける未来しかないとしても、起こり得る未来を知ると知らないとでは大きな差がある。


「ちなみに、タイムリミットは?」

「もうすぐで3年を切ります。ですが、これはあくまで目安。早まることも、遅くなることも十分にあり得ます」


 およそ3年というのは長いようで短い。それまでに邪神を討てるほどの力をつけなければならないと考えると短すぎるだろう。


「まあ、いきなりドカーンと強くなれるわけないしね。まずはリリィと『勇者』、それと『魔王』に話を共有するところから始めるべきか。ちょうど『憤怒の魔王』とやらにも会えそうだし」


 一息つき、注文していた飲み物を飲むペディストル。

 そして、彼は同じ従魔であるタルトを話題に出すが、これが大きな謎を生むことになる。

 

「そうだ。タルトのことで聞きたいことがあったんだけどさ」

「タルトのことで? 何でしょう?」

「彼女、僕たちのことまったく覚えていないんだよ。それに、彼女本来の基礎ステータス値も僕が知ってるものと比べて、かなり低い。何か意味があってのことなのかなと思って──」


 従魔の中で最後までもう一人のリリィと一緒にいたのはタルトだ。だから、タルトの記憶喪失やステータスに関しての理由は他の従魔にもわからない。

 故に、最後まで一緒にいた彼女に聞いたわけだが、当の本人はキョトンとした顔で話を聞いていた。この表情を見るに──


「ど、どういうことですか……?」


 もう一人のリリィもバエルたちと同じでタルトの身に起きた現象のことはわからなかった。

  

「いやいや、どういうことって君がやったんじゃ──」

「私はそんなことしてません! 私は“()()()()()”で待つようにタルトへ命じただけで、それ以外は何も──」

「お待ちください。リリィ様、今なんと?」


 聞き覚えのない単語が出てきた。

 聞き間違いではないことは確かだ。しかし、それをわかった上でバエルはもう一人のリリィに聞いた。


「えっ、タルトには星天(せいてん)龍峰(りゅうほう)で待つように命じて……」

「タルト殿がいたのは、オルフェノク地下大迷宮というダンジョンです」


 それを聞いてもう一人のリリィは言葉を失った。

 オルフェノク地下大迷宮の存在は、もう一人のリリィも知っている。故郷のリーロンと同じ大陸にあるダンジョンで、自分も挑戦したことがあるからだ。


 しかし、タルトをオルフェノク地下大迷宮でリリィを待つように命じたという記憶はない。にもかかわらず、タルトがそこにいたというのはどういうことなのか。


「……タルトは何番目に、この時代の私と会いましたか?」

「一番最初ですね。その次に私、デオンザール、そしてペディストルです」

「………………」

「リリィ様?」

「……私の想定では、タルトはデオンザールの後に出会うはずでした……」


 この時代のリリィがタルトやバエルたちと出会えたことは偶然ではない。

 未来から過去へやってきたリリィには、自分が今後どのような冒険をするのか既に知っている。

 それを活かし、念のため、もう一人のリリィは『禁忌魔術』を付与した『未来視』で確認し、各地に従魔たちを待機させた。


「この時代の私の旅について教えてもらっていいですか?」 

「それでしたら、こちらを読んだ方が早いかと」


 バエルは「一部異なる点があるようですが、概ねは書かれている通りです」と前置きをして、リリィから預かっていた『聖魔女の手記』を、もう一人のリリィの前に出す。


「これは……」


 ペラペラとページを捲って『聖魔女の手記』に目を通すもう一人のリリィ。

 なぜ、以前訪れたダンジョンの最下層にそれが落ちていたのかは置いておくとして。

 もう一人のリリィが未来から来たというのであれば、この手記の存在も納得は出来る。これは彼女が記録した手記なのだろう。

 

 ──と、彼女に『聖魔女の手記』を見せるまでバエルは思っていた。

 

 しかし、もう一人のリリィの様子から見るに『聖魔女の手記』は彼女が書いたものではないことがわかる。持ち主であれば、もっと別の反応を見せるはずだ。

 

「ありがとうございます」


 内容を全て読み終えたもう一人のリリィはパタンと閉じてバエルに『聖魔女の手記』を返す。


「本題に入る前に言っておきますが、これは私が書いたものではありません。でも、この時代の私が書いたものでもないんですよね……」


 結局『聖魔女の手記』は誰が書いたものなのか謎のままだ。

 もう一人のリリィのものでもないのなら誰が書いたものなのか。それを考えても答えは出ないため、本題に入ることにした。


「それに書かれていた内容は、私の過去と完全に一致しているわけではないですが、先程もペディストルが言ったように未来は不確定ですので、多少の違いはあって当然でしょう。でも……」

「でも?」

「最初に書かれている内容だけ、まったく違います。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして、もう一人のリリィはバエルたちに自身の過去について話すことにした。


「12歳になった私はアドルたちと共に昔からの夢だった冒険者になって様々な場所へ冒険に出ました」

「そこは、あっちのリリィと変わらないよね。確か、それから3年後にアドルたちとオルフェノク地下大迷宮へ行って、彼らは魔物から逃げるためにリリィを囮にした。それから更に3年間、リリィはオルフェノク地下大迷宮の最下層で生活することになる」


 ペディストルの話を聞いて、もう一人のリリィは自分の右手を顎に当てて考える素振りを見せる。


「その時点で違いますね。17歳になるまで私はアドルたちと旅をしてて、とあるダンジョンを攻略しようとした時に大規模な転移系のトラップに引っかかり、私たちは離れ離れになったんです」


 しかも、その離れ離れというのはダンジョン内ではなく、ダンジョンの外。リリィは気づいたら見知らぬ場所にいたのだ。


「転移した場所から最も近かった街がアルファモンス。そこで『色欲の魔王』のエルトリアさんと出会います。それで、一緒にダンジョン攻略をしようと誘われて」

 

 断ろうとも考えたが、アドルたちの居場所を探すにも、一人では力不足。一人でも戦える力をつけるために、もう一人のリリィはエルトリアの誘いを了承した。


「エルトリアさんのもとで修業を終えた後はテルフレアに行き、そこで星天の龍峰に『勇者』がいるという話を聞きます。アドルは『勇者』に目覚めていたので、もしかしたらと」

「で、そこにアドルはいたの?」

「いえ、星天の龍峰にいたのはアドルではなく、ユニークスキル『慈悲』を持つ『勇者』でした。でも、それから各地を巡って、最終的には全員と再会できましたよ。みんな、その時の私と同じ気持ちで、驚くくらい強くなっていました」


 その巡った場所のいくつかが、従魔たちを待機させていた場所に繋がる。

 星天の龍峰にタルトを待機させたのも、いずれアドルを探しに、この時代のリリィが必ずやってくると確信していたから。


 ちなみに、もう一人のリリィは、今後リリィたちの身に起こることも知っていたわけだが、あえて何もしなかった。

 何度も未来を見たが、最終的に全員と合流する未来は変わらず、転移先で各々力をつけ、転移に巻き込まれるよりも格段に強くなるからである。


 そのことを説明した後、もう一人のリリィは自身が感じた不可解な点について触れる。

 

「ただ、変なんですよ」

「変、ですか?」

「この時代の私は15歳の頃にオルフェノク地下大迷宮の最下層まで落ち、そこから3年ほど生活していたわけですよね?」

「ええ、そうです」

「その頃も私は『禁忌魔術』を付与した『未来視』を使用していました。でも、私が見ていたのは何事もなくアドルたちと旅を続けている光景です。それ以降も私が体験してきた光景が、ほとんどでした。だから、私は大きな変化はなく、概ね私の知る過去通りに進んでいるものだと……」


 この時代のリリィの身に起きていた出来事は、もう一人のリリィにとって完全に予想していないこと。


 見ていた未来と、実際に起きたことの違い。

 そして、タルトに待機を命じていた場所の違い。

 それ以外のことは、多少違っても納得できるが、この二つに関しては謎であり、無視することはできない。


「……これは私の憶測になりますが……」


 全員がこの謎について考え、少しの間、沈黙の時間が続くなか、バエルがこれまでの話からを立てた憶測を語るために口を開いた。


「リリィ様がオルフェノク地下大迷宮の最下層で生活することになったのは、アドル一行が原因です。しかし、リリィ様の話では、アドル一行は何者かに催眠術のようなものをかけられ、操られていた可能性が高いと」

「誰かに操られていた……」

「その何者かというのが、あなた様だとリリィ様は考えておられました」


 リリィに強くなってもらうため。そして、早い段階で強力な相棒──タルトと合流するために。


「でも、君の話を聞く限り、君はアドルたちを操っていた人物ではない。むしろ──」

「私にも何らかの術がかけられていた……?」


 過去を遡っても、まったく身に覚えがないが、アドルたちと同じように、術をかけた者と接触した記憶を消されているのなら……。

 

「体験した過去と現在に違いがあっても気付かせないために、催眠術か何かで、君が『未来視』で見た光景通りのことが起きていると信じ込むようにした……」

「先程も言ったように憶測ですので、本当にそうであるとは限りませんが」


 二人の話を聞いて、もう一人のリリィは再び自分の顎に右手を当てた。


 仮にこの憶測が正しかったとする。だが、その意図がわからない。


 もしもその誰かというのが、邪神の手先だったとして。

 邪神だろうと、神は神。人知を超えた存在であるなら、自分と違ってノーリスクで未来を見ることが可能と考えられなくもない。

 未来を確認し、いずれリリィが脅威になると知って排除しようと、その誰かに命じてアドルたちをオルフェノク地下大迷宮へ向かうように誘導した。

 

 しかし、その誰かはリリィが過酷な環境でも生き延びることがわかっていたかのように、タルトを元々居た場所から移動させ、もう一人のリリィの想定よりも、かなり早い段階で合流させた。


「………………」


 わからない。思考を巡らせても答えが出てこない。


「……はぁ、駄目ですね」


 考えてもわからないし、答えも出なくて思わず大きな溜め息が出るもう一人のリリィ。


「謎は多いですが、順調に従魔たちと会えていることには変わりませんし、とりあえず良しとするしかないですね」

「まあ、そうだね」

「……では、名残惜しいですが、私はそろそろ行きます」


 もう一人のリリィはテーブルに金を置いて席から立ち会がる。


「もう行くのかい? もう少しゆっくりしていけばいいのに」

「そうしたいですが、いろいろ準備とかやらないといけないことがあるので」

「リリィ様、いずれまた会えますでしょうか?」

「時期が来れば必ず。二人と話せて元気が出ました。今後ともこの時代の私のこと、よろしくお願いしますね。それでは」


 もう一人のリリィはバエルたちに別れを告げて行ってしまった。

 追いかけたい気持ちはあったが、ここで呼び止めては彼女に迷惑がかかるし、用事があるなら邪魔になってしまうだろう。


 そう考えたバエルは、ただただずっともう一人のリリィの姿が見えなくなるまで立ち尽くすだけだった。


「行っちゃったね。あのダンジョンで遭遇した小さいリリィのこととか、他にも聞きたいことがあったけど仕方ないか。バエルはこの後どうするの?」

「当然リリィ様と合流しますが」

「そっか。なら、暇だし僕も一緒に行こ」

「暇だというなら、最初からリリィ様の護衛に──」

「いやいや。リリィに護衛なんていらないでしょ。タルトもいるし。だいたい、君はリリィに対して過保護で──」


 などと言い争いをしながらも、二人は喫茶店を後にし、リリィがいるであろう店に向かうのであった。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
― 新着の感想 ―
これタルトが大した説明なく序列No.1なのも理由あるのかな。 タルトほんとはオスとか?
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