聖魔女の手記
ここまで書き続け、この第六章で本作品も後半戦に入りました。(まあ完結まで、まだまだ道は長いですが……)
期間が空いたので、冒頭で前章の内容をざっくりとまとめてます。
約一年という期間でしたが、シャルルフォーグ学院での教師生活が終わり、弟のユリウスと共に故郷へ。
そこで私は家族と再会し、幼馴染のアドルたちとも再会。私からの提案で彼らとも和解し、少しずつですが昔のような関係に戻り始めます。
そして、私はアドルたちが現在挑戦しているダンジョンの話を聞き、私も挑んでみることに。
すると、予想だにしない、まさかの出会いが。
エルトリアさんと同じ『魔王』──『暴食の魔王』ゼルドラドさん。そして、第四の従魔──死の最上級精霊ペディストルと出会います。
そして、もう一人。
順調に進むダンジョン攻略でしたが、異界からの来訪者──エスメラルダにより、私たちや他の冒険者が彼女のゲームに巻き込まれます。
各地での戦闘が繰り広げられるなか、私はエスメラルダが連れてきた黒いローブの敵の一人と交戦。
初めて人を殺した私は敵が着けていた仮面が気になり、それを外すと、そこには幼い頃の私の顔があった。
その後はアドルとゼルドラドさんと合流したものの、私は固有魔術の代償で魔力切れを起こして気を失い、目覚めた時には全てが終わっていた。エスメラルダには逃げられ、ゼペットがアドルたちのもとから去ってしまった。
それから少しして、夜が更けても眠れなかった私はペディストルの能力で最下層へ。そこで私は『聖魔女の手記』というものを見つけたのでした──。
外と同じようにダンジョン内でも太陽が昇り、朝の身支度と朝食を済ませた私は、昨日ゼルドラドさんから話がしたいと言われたので会議室へと向かいます。
一緒に朝食を取っていたゼルドラドさんと従者のメイリアさんは、私が会議室に到着した時には既に席に座っていました。私よりも早く着いていたバエルが、お茶やら色々準備をしてます。
「来たか」
「お待たせしてすみません。それで、話とは?」
「昨日の戦いで現れた奴らのことだ」
それについては、私も昨晩色々考えていました。
気になることは黒いローブだけではありませんが、おかげで寝不足です。まあ、寝不足は眠れないと夜更かししたのが原因でしょうけど。
「まずは、我が仕留めた奴を見てもらいたいのだが、ここに出してもいいか?」
「ええ、構いません」
ゼルドラドさんがテーブルの上に出したのは、エスメラルダが連れてきた黒いローブの一人でした。
その黒いローブは私が殺した敵と同じ仮面を着けており、ゼルドラドさんがそれを外すと、私は言葉を失いました。そして、私の後ろで待機していたバエルも──。
「こいつは少し幼いが、貴様の後ろにいる従魔と瓜二つとは思わないか?」
仮面を外した黒いローブのそれは、銀髪が黒髪になっていたり、顔は少し幼い感じがありますが、ゼルドラドさんの言うように、バエルとそっくりでした。
「こいつから感じ取れた魔力は、貴様の従魔の魔力と同じとまではいかないが、かなり似ている。バエルだったか。一応聞くが、貴様はこいつのことを知ってるか?」
ゼルドラドさんはバエルに聞きますが、反応から察するに、答えはわかりきっているでしょう。だから、一応とつけた。
「いいえ。ですので、私も驚いています」
「本当に謎ですよね。黒ローブの中には、私と同じ顔をした敵もいましたし」
「そうなのか?」
ゼルドラドさんには伝えていませんでしたが、ちょうど話題が出たので、私が倒した黒いローブのことについても話しました。
この場にいる全員で黒いローブについて考えるも、謎は深まるばかり。
前々から、もう一人の私なんて存在が出ていますが、私が殺した私──自分で言って変な感じですが──は、彼女のことではないでしょう。
バエルやデオンザール曰く、もう一人の私は今の私以上に強いようですし。あんな簡単に殺せないはず。
それに、途切れ途切れで全てをはっきり聞き取ることはできませんでしたが、彼女が最期に言った言葉も気になります。
結局。運命。失敗。そして最後に、もっと生きていたかった。
必死になって私に向かってきたのも、生きるため。
彼女の未来を潰したのは私ですが、あの時覚悟を決めたんです。だから、後悔なんてしない。
「とりあえず、こいつは我が持っていても邪魔なだけだ。貴様らに渡しておいた方がいいだろう」
「そうですね。バエルに任せてもいいですか?」
「お任せください。何かわかり次第、リリィ様にご連絡致します」
黒いローブの件は、バエルに任せるとして。
話したいことは終わったようなので、あっさりお開きになるのかなと思いきや、もう少し話は続くようです。
内容は、今後についてのことでした。
バエルが用意した紅茶をゼルドラドさんが一口飲んで絶賛し、メイリアさんにも勧めてから話が始まります。
「話したいことも、すぐ終わってしまったが──貴様はこの後どうするんだ? ダンジョン攻略を続けるのか?」
「今回の件で一度地上に戻らなければならないとアドルたちが言ってましたし、ペディストルの能力で最下層も見てきたので、このダンジョンの攻略はおしまいですかね」
昨晩はしっかり探索をしたわけではないので、残りの階層もゆっくり探索したいところですが、やるべきことがあるので、今回のダンジョン攻略はこれで終了です。
「そうか。次はどこへ行くか決まってるのか?」
「はい。大和という場所へ行こうと」
大和という場所は、この大陸の東にある海に囲まれた島国にあります。
もちろん行ったことはありませんが、以前シャルルフォーグ学院で教師生活を送っていた時、調べ物をした際に地図で見たことがありました。
私が大和へ行くと答えると、ゼルドラドさんは少し驚いた表情を見せます。私、そんな驚くようなこと言いましたかね?
「貴様は『魔王』がいる場所に行かないと死ぬ病にでも侵されているのか? まったく、貴様ほど複数の『魔王』に出会った人族はいないだろうな」
この世に『魔王』は七人しか存在しないのに、私は『色欲』と『暴食』の『魔王』に出会っている。
そして、ゼルドラドさんの言い方的に、大和にも『魔王』が存在する。そうなると、私は三人の『魔王』と出会ったことになる。確かに、私ほど複数の『魔王』に出会った人族はいないかも。
まあ、それは『魔王』だけに言えることではなく、同じ数存在する『勇者』も半数以上は出会っていますね。
今一度考えてみると、私って、かなり凄い人たちと出会っているんですね。何だったら、従魔にも最上級悪魔など、とんでもない子たちがいますし。
「大和には『魔王』がいるんですか?」
「『憤怒の魔王』──割と最近『魔王』になった“鬼人”で、名は“オウキ”という。名もない自分を拾ってくれた人族に、王になる鬼という意味で、名付けられたとか言ってたな」
「オウキさん、ですか……。『憤怒』と聞くと、怖いイメージがありますね」
怒らせたら命がないとか、些細なことで怒るとか。
会えるかはわかりませんが、これまでの経験から大和に着いたら『憤怒の魔王』にも会うことになりそう……。
何だか今から不安になってきました……。こちらが発言等を気をつけていても、向こうの受け取り方次第で機嫌が悪くなったり。
「そうでもないぞ。そうだな……貴様の身近にいるやつで例えると、貴様の従魔に巨人の男がいるだろ? 『憤怒の魔王』もあんな感じだ」
あ、それを聞いて安心しました。
デオンザールは頼りになる優しい人ですからね。
ユニークスキルが原因でそう呼ばれるようになっただけで、普通に優しい人なのでしょう。だから、変に恐れる必要はない。失礼のないように気をつけることには変わりありませんが。
「しかし、大和の名が出たのは予想外だったな。あの島国は他の国では見られないものが数多くあるが──ただの観光目的で行くわけではないよな」
ゼルドラドさんは察しがいいですね。
いや、ここから大分離れている大和へ行くとなると、そう考えるのが自然ですか。現に目的があって大和へ行きますし。
ゼルドラドさんは訳を聞きたそうにしていたので、私は昨晩ダンジョンの最下層で手に入れた『聖魔女の手記』をテーブルの上に出します。
「これはまた、随分と古く汚れた手帳だな」
「先程ダンジョンの最下層を見てきたと言いましたよね。これはそこで見つけたものです」
「ほう。で、この手帳が貴様が大和へ行く理由に繋がるのか?」
「はい。まず初めに伝えておくと、この手帳に書かれている内容は私が書いたもの……みたいです」
ゼルドラドさんの反応は予想していた通り。首を傾げ、「何を言っているんだコイツは」みたいな感じで私を見ています。
「せっかくです。中を見ながら話しましょう」
私は『聖魔女の手記』の表紙を捲ります。
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気が付くと、私は小さな小屋の中にあるボロボロのベッドの上にいました。
最初は夢と思ったけど、これは現実。おそらくここはオルフェノク地下大迷宮の下層、もしかしたら最下層かもしれません。
私はアドルたちを生かすための囮になった。
幼馴染たちに見捨てられ、魔物に追われて、ものすごく深い穴に落ちたはずなのに、どうして生きているの?
こんな思いをするくらいなら死んだ方がよかった。
そもそも最後に一緒に冒険したいなんて言わなければ、こんなことにはなっていなかった。どうして私はあんなこと言ったの?
こんな場所に人なんていない。私一人だけ。
帰りたい。お母さんやお父さんに会いたい。ユリウスやマリーに会いたい……。
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「書いてあることは事実です。私は昔、三年ほどオルフェノク地下大迷宮というダンジョンの最下層で生活していました。どの魔物もレベルが高く、最初の頃なんて地獄のようでしたね」
「よくそんな環境で生き延びることができたな」
「いろいろと運がよかっただけですよ」
魔物同士の争いで負けた魔物の残骸のおかげで食料を確保できたり、奇跡的に戦術が上手くハマって地下生活で初めて魔物を倒せたりと、本当に運が良かったから、こうして今を生きているわけです。
「しかし、貴様は「書かれている内容は自分が書いたものみたい」と言ったな。その言い方だと──」
「はい。筆跡は私の物で間違いないですし、書かれている内容も事実。ですが、私はこんなものを書いた覚えがない」
だから、この手帳の存在が謎なんです。
「リリィ様。そちら、拝見してもよろしいでしょうか」
バエルには『聖魔女の手記』のことを話をしましたが、現物は見せていなかったので、彼に『聖魔女の手記』を渡します。バエルなら私の書いた文字など見ただけでわかるでしょう。
「確かに、これはリリィ様が書いた文字ですね……」
「しかし、書いた覚えがないんだろ?」
「そうなんです。それが、この手帳の一つ目の謎。そして、二つ目が書かれている内容のほとんどが、今日まで私が体験してきたことと一致しています」
手帳の中を読んだ時は驚きを通り越して、気味が悪いと思いましたね。
私が書いたものではないのに、オルフェノク地下大迷宮での生活のこと、タルトとの出会いやアドルたちとの再会。もちろんそれ以降のことも。
まるで、私の隣でずっと見て来たかのように、私が体験したことが日記として書かれていたんです。本当に不思議で気味が悪いです。
「手帳には、このダンジョンに訪れたことも書いてあって、次に向かう場所も書かれていました」
私は、それについて書いてある部分を見せます。
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ダンジョン攻略は終わり、アドルたちやゼルドラドさんたちと別れ、私たちは五人目の従魔ツバキに会うため、次の目的地を大和に決めました。
久し振りの船の移動。アルファモンスへ向かう時は、クラーケンの襲撃に遭いましたが、今回は魔物の襲撃に遭わず無事に到着できて良かったです。
大和は今まで訪れた街とは違い、建物や服装、料理など見たことないものがたくさんあり、まるで別の世界に来たみたいでした。
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ツバキとの出会いは意外にも早く、大和に到着した日の夜でした。
彼女は大和から少し離れた山の奥で暮らしていたようですが、私の魔力を感知して大和へ来たそうです。
バエルが言うには、ツバキは従魔の中で魔力を感知する能力が最も高いらしいです。
ツバキは九尾という珍しい種族で、その種族名の通り、尻尾が九本生えていました。今日は無理でしたが、今度モフモフするつもりです。
これで残りの従魔はティルフィーだけ。
みんなが言うには、彼女とは決して二人きりになるなということですが、どういう意味なんでしょう? とりあえず今はティルフィーと会うのが楽しみです。
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「信じられないかもしれませんが、タルトやバエル、デオンザール、ペディストル、それ以外に二人。彼らは本来、もう一人の私と従魔契約を交わした子たちなんです」
「? 貴様以外に、もう一人貴様がいるのか? あの黒いローブのやつとは別の……?」
ゼルドラドさんは自分でも何を言っているのかわからないようです。私だってバエルから聞かされた時は似たような反応をしていました。
「らしいです。ややこしいので、もう一人の私をオーランドと呼びますが、オーランドは従魔たちに私の力になってほしいと命じました。従魔たちは各地で待っていて、今回大和へ行くことを決めたのも、ツバキに会うためです」
昨日『聖魔女の手記』を読んだ時、私はオーランドのことが頭に浮かびましたが、内容から考えるに、これは彼女が書いたものではないでしょう。
となると、いったい誰が──という話になりますが、書かれている内容だと私以外にあり得ないんですよね。何度も言うように、書いたのは私じゃないんですけど……。
「あの、一つ気になったのですが……」
ゼルドラドさんの隣に座っていたメイリアさんが手を挙げて私に聞いてきました。
「なんでしょう?」
「リリィさんの過去と次の目的地が書かれた日記ですが、未来のことが書かれているなら、このページ以降のことも書かれているんですか? もし書かれているなら、今後起こる出来事がわかるのかなと気になったので」
「それは我も気になるな」
メイリアさんの質問。私も『聖魔女の手記』を読んで、大和のことが書かれているページまで来た時、同じ疑問を持ちました。
その質問にも答えますが、説明するよりも先に見せた方がいいと思ったので、私は更にページを捲ります。
「これは……」
「何も書かれていないな……」
そう。大和へ到着した後のことは何も書かれていませんでした。最後までページを捲っても、真っ白なまま。これが意味するものは──
「ふむ……。もしこれが本当に貴様の未来を予知した日記だとすれば、続きがないとなると……大和へ行き、ツバキとやらに会った後、何らかの理由で死ぬ。故に続きが書かれていない」
昨晩考えた結果、私もゼルドラドさんと同じ推測に至りました。
「ッ!? だ、だったら、大和へ行かない方がいいのでは──」
「日記の内容とリリィ・オーランドの実体験に寸分の狂いがなければな」
ゼルドラドさんは『聖魔女の手記』を手に取り、ペラペラと捲りながら話を続けます。
「リリィ・オーランド、さっき貴様は言ったな。書かれている内容のほとんどが、今日まで体験してきたことと一致している、と」
「はい」
「つまり、内容と貴様の実体験には、異なる点があるわけだ」
「そうなんです。大体は今日まで日記の内容と同じ行動を取っているんですが、私の知らない話などが一部あって……。たとえば──ここ」
ゼルドラドさんから『聖魔女の手記』を返してもらい、私はあるページの一部分を指で刺します。
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『獣神の塔』も残すは最上階のみになりましたが、攻略続きの毎日だったため、リフレッシュも兼ねて、今日はエルトリアさんたちとゆっくり街を見て回りました。
エルトリアさんには、ロザリーさん以外にレティスさんとバルトさんという姉弟の従者もいて、エルトリアさんが二人を誘い──
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「エルトリアさんたちと買い物に行ったのは間違いないですが、私がレティスさんと初めて会ったのは買い物の時ではないですし、バルトさんという方には、そもそも会ったことがありません」
他にも私が行ったことない街のことが書かれていたり、逆に私が従魔契約をしたサフィーやマナフィールのことは書かれていなかったり。
読めば読むほど謎は深まるばかり……。ただ、これだけは言えます。
「謎だらけの手記ですが、ゼルドラドさんの言う通り、内容と私の実体験や現状には異なる点が多々あるので、大和へ行っても死ぬとは限らない。まあ、いつも以上に気を引き締めていくつもりですが」
「そうした方がいい。一応貴様のことは、あとで我の方からオウキに話しておくとしよう。我やエルトリアと知り合いなら、奴も力になってくれるはずだ」
「それは助かりますね。ありがとうございます」
と、こんな感じでゼルドラドさんとの話は終わり、十分に身体を休めた私たちは上の階層でレベル上げをしていたサフィーたちと合流し、ダンジョンから帰還したのでした。
それから三日後。私はシュナーベルを出発します。
見送りにはアドルたちが。
ちなみに、ゼルドラドさんはエスメラルダとの戦いで力の差を感じたため、次の修行場所を探すと早々に出発してしまいました。
「見送り、ありがとうございます」
「ああ……」
アドルはあの日から元気がありません。
いえ、アドルだけではありません。カリアもクオリアもシャルさんも。ゼペットがいなくなったことに動揺を隠せない様子。
だからこそ、言うべき言葉があります。
「アドル。あの日、冒険者になる前にした話を覚えていますか?」
私たちがまだ子供だった頃。幼馴染のみんなで交わした約束。
「……ああ。みんなで一緒に色々な場所を巡ろうって」
「私にはやることがあるので、みんなと離れ離れになりますが──いつか! 必ず! 絶対に! もう一度みんなで冒険をしましょう! アドルにカリア、クオリアにゼペット、みんなで! もちろんシャルさんも」
「わ、私もいいんですか?」
「当たり前じゃないですか。シャルさんも一緒じゃないと。だから、みんなと一緒に冒険するために、ゼペットは必ず連れ戻しましょう!」
私だってゼペットがいなくなってショックを受けています。
でも、だからといって、過ぎてしまったことは、どうやっても変わらない。辛かろうが何だろうが、いつかは前を向かなければ。
いつまでも下を向いたままではいけないと思って言いましたが──
「そうだな。みんなで一緒に冒険しようにも、ゼペットがいないと始まらないからな。あいつは必ず俺が連れ戻す」
「アドル、違うでしょ? 私たちで、だよ」
「ゼペットのやつ、勝手にいなくなって……。次会ったら、ぶん殴ってでも連れて帰るわ!」
「クオリアさん、気持ちはわかりますが、殴るのはちょっと……」
どうやらもう心配は不要ですね。アドルたちのやる気に満ちた目を見ればわかります。
「リリィ、その……いろいろありがとな」
「幼馴染なんですから気にしなくていいですよ」
「お前には頼もしい仲間がたくさんいるから心配はいらないと思うが、気をつけて旅を続けろよ」
「アドルたちも。また必ず会いましょう」
私はアドルたちに別れを告げ、次の目的地である大和へ向かうために、シュナーベルを出発しました。





