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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
幕間 皇帝と勇者と魔王と

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追憶 『強欲』との出会い

 気づけば酒場の閉店時間になっていた。

 閉店時間が近付くにつれて客も少なくなっていたが、シャーリーンたちは最後まで店で酒を飲んでいた。


 最後までということは、かなりの量の酒を飲んでいたわけだが、所持スキルや自身の体質も関係しているのだろう。

 シャーリーンは酒に強かった。初めて飲んでみた時も、少し不味いなと思うくらいで、大して酔っぱらったりはしなかった。


 それからも酒を飲む機会はあったが、黒歴史になるような酷い醜態を周囲に晒したことはない。晒したところで、長居はしないから数日経てば忘れられるだろうが。


 ただ、シャーリーンは問題なくとも、同じペースで飲んでいた女魔道士は酷い有様だ。今の彼女はヒーラーに肩を借りなければ立てない状態になっている。


「うぅ……気持ち悪い……」

「あとで『治癒魔術』をかけてあげますから。だから、宿に着くまでは、シャーリーンさんに張り合って飲むペースを考えなかったこと、私が止めても聞く耳をもたなかったことを反省してください」

「だって、シャーリーンに負けたくなかったんだもん……」


 自業自得以外の言葉が見つからない。

 泥酔状態でも『治癒魔術』をかければ、多少は楽になる。しかし、ここで甘やかしては「『治癒魔術』をかけてもらえるから大丈夫」と女魔道士が同じ過ちを繰り返すかもしれない。

 故にヒーラーは罰として、宿に着くまでは女魔道士に『治癒魔術』をかけないと決めたのだ。


「それじゃあ、私たちは宿に戻りますね」

「私もついていこうか? 一人だと大変でしょ、それ」


 シャーリーンはぐったりしている女魔道士を指差す。


「いえ、宿まで割と近いですし、シャーリーンさんが借りている宿は反対方向ですよね。帰りが遅くなっちゃいますし、お気持ちだけで十分ですよ」

「そう。なら夜も遅いし、気をつけて」

「はい。シャーリーンさんも。では、また明日冒険者ギルドで」


 そんなやり取りをしてシャーリーンは彼女たちを見送った。


「…………」


 外を歩いている人は、ほとんどいない。

 ついさっきまで、彼女たちと楽しく話して、酒場も客が騒いでいて。だけど、今は嘘みたいに静かだ。


 次第に遠くなっていく二人の背中を見て、珍しくシャーリーンは寂しさを感じる。

 だが、明日──厳密には、もう日を跨いでいるが──になれば、パーティー加入の話やらで会うことになるだろう。

 

「明日が楽しみなんて、私も変わったわね……」


 魔物への強い憎しみが消えたわけではない。今だって、この世から全ての魔物を消し去りたいほど憎い。

 しかし、半年前と比べたら、充実した幸せな日々を送っていると言えるだろう。

 誰かを好きになったり、友人と酒を飲んだり。半年前の自分は、こんな風になっているなんて考えてもいなかった。


「…………」


 もし、これからもこんな幸せな日々が続いて、魔物に対する憎しみが消えてしまったら。シャーリーンは一瞬、そんなことを考えてしまった。

 

「……帰るか」


 ポツリと呟いて、宿へ向かおうとした時──


「あれ。何度も私に熱い視線を向けてきてた子じゃん」


 酒場の扉が開く音が耳に入り、振り返るとそこには紅蓮髪の女が立っていた。

 紅蓮髪の女──カルナ・ヴァーミリオンもまた、シャーリーンたちと同様に閉店時間まで酒場で酒を飲みまくっていた。


 カルナのことは、正直気になってはいた。

 周りに迷惑にならない程度に男冒険者たちとバカ騒ぎしていたのも理由にあるが、他とは違う異質なオーラを感じる。

 だから、女魔道士たちと酒を飲んでいる時も、気づかれないようカルナに視線を向けることが多かった。カルナの言い方だと全てバレていたようだが。

 

「一緒にいた、お友達は?」 

「……帰ったわ」

「そっか。じゃあ、こうして会ったのも何かの縁ってことで、私に付き合ってくれない? この時間でも、やってる店を知ってるから」

 

 いきなり何を言ってんだ、コイツは。

 シャーリーンがそんなことを思っていることなど知らずに、飲み足りないカルナは彼女を誘う。


 半年で変わったとはいえ、基本的にシャーリーンは友人でもない他人には関心がない。

 しかし、カルナのことは不思議と気になった。

 コイツは他とは何か違う。直感的にそう思ったが、なぜ初対面とも言える人物と二人きりで酒を飲まなければならないのか。


「何で私があなたと酒を飲まないといけないのよ」

「え~、いいじゃん。一緒に飲もうよぉ」

「飲みたいなら一人で飲んでなさい」


 カルナの誘いを冷たく断ってシャーリーンは自分の宿へと戻るのだった。






 朝日が昇ると同時に目を覚まし、身支度等を済ませたシャーリーンは冒険者ギルドへ向かう。


 冒険者ギルドの朝は騒がしい。

 入ってすぐに依頼書が張り出されている掲示板に群がっている冒険者たちが目に入った。


 依頼書の中には、簡単な依頼の割に報酬金が高い依頼もある。まあ、その逆も混じっていることがあるが。そういう依頼は冒険者の中で“ハズレ”と呼ばれ、残り続けることが多い。


 シャーリーンは掲示板の方を一瞥して椅子に座る。

 昨晩のうちに決めていた集合時間よりも、少し早く来てしまった。


 話し相手がいれば、フィードルたちが来るまでの時間つぶしになるが、残念ながら話し相手になりそうな冒険者はいない。

 というか、そもそもシャーリーンはフィードルたち以外で仲のいい冒険者がいないのだ。


 特にやることもなく、人間観察をするように冒険者ギルドにいる冒険者たちを眺めているシャーリーン。

 すると、ある人物と目が合った。

 咄嗟に目を逸らすシャーリーンだったが、目が合った人物はシャーリーンのもとへとやってきた。


「やあ、昨日の。今日も私のことを見ていたの?」


 カルナが笑みを見せてシャーリーンに聞く。

 昨日、酒場で飲んでいたメンバーは全員見たことのある冒険者だったことを考えると、彼女も同じ冒険者。であれば、ギルドでばったり会うのも不思議ではない。

 

「……たまたま視界に入っただけ」

「そっか。昨日と同じ質問になるけど、お友達は?」

「早く来ちゃったから、待っているだけ。それより──」


 シャーリーンはカルナの手元に持つ筒状に丸められた紙を見る。おそらく依頼書だが、複数枚あるように見えた。


「ああ、これ? 誰もやらない余り物よ」


 そう言って、カルナは自然な流れでシャーリーンの対面に座り、6枚の依頼書をテーブルに並べる。

 何も言わず自然な流れで椅子に座ったことはさておき。

 ざっと並べられた依頼書を見るが、報酬金の額には見合わない依頼内容。確かに誰もやりたがらない余り物(ハズレ)だった。


 こういう依頼は、報酬金を追加して実力のある冒険者にギルド側から頼むこともあるが、6枚の依頼書に書かれた目的地はバラバラ。一つだけならまだしも、まとめて6個も受けるなど馬鹿なのか。


「噂を聞いて、仕事の息抜きも兼ねてこの街に来たんだけど、なんかギルドが困ってたみたいだから、旅行で来たついでに助けてあげようかなって。依頼書が出てるってことは、誰かが必要としているってことだしね」

「あっそ。でも、付き合ってくれる冒険者はいるの? さすがに一人でその数は無理でしょ?」

「なに、心配してくれてるの? もしかして手伝ってくれたり?」

「んなわけないでしょ」


 昨晩と同じようにシャーリーンは冷たくカルナを突き放す。自分の意思で引き受けた他人のハズレ依頼を何故手伝わなければならないのか。


 対するカルナは、予想通りの返答だと。首を縦に振ることはないだろうと思っていたから、カルナは断られたことに、まったくショックを受けていない。


「だよね~。でも、ダンジョンの場所とか確認したけど、このくらいなら私一人で問題ないよ。今行けば……夕方には余裕で帰ってこれるかな。今日も飲むって約束したし、頑張らないと」


 この量を一人、しかも半日ほどで?

 冗談かと思いきや、目の前にいる紅蓮髪の女は本気で言っているようだった。


「……職員がよく許可出したわね。私の時は単独は危険だから、パーティーを組めって言ってきたから」

「まあ、いろいろあるのさ。それじゃあ、お友達も来たみたいだし、私もそろそろ行くかな。今度はゆっくり話をしましょ」


 椅子から立ち上がり、カルナは冒険者ギルドから去った。

 そして、すぐにフィードルたちがシャーリーンのもとへやってきたのだが、カルナと話をしていたのが彼らの視界に入っていたようだ。


「おはよう、シャーリーン」

「おはよう、フィードル」

「ねえ、シャーリーン。さっきそこで、すれ違った人と話してたみたいだけど、確か……昨日酒場にいた客全員に酒を一杯振舞ってた人よね。何の話をしてたの?」

「別に大した話はしてないわ──そういえば……」


 今更ながら、あることに気づいた。

 二度、話をしているが、お互いに名乗っていないため、名前を知らない。一応『鑑定』で相手のステータスを見ることもできるが、さすがに他人の個人情報を許可なく見るのは非常識だろうと実行しなかった。


 しかし、その判断が結果的にシャーリーンを不愉快にさせずに済んだ。


 そもそもの話、カルナは鑑定妨害をしていることから、彼女のステータスを見ることはできないのだが、仮に見ることができた場合、シャーリーンはカルナが『魔王』であることを知ってしまう。

 魔物を憎み、魔族まで嫌うシャーリーンにとって『魔王』なんて悪でしかない。絶対に関わりたくない相手になるだろう。


「そういえば?」

「いや、何でもないわ。そんなことより、パーティー加入の件なんだけど……」

「もちろん歓迎するさ! こっちから誘ってたし、断る理由もない。一応何度も一緒に依頼を受けてたけど、改めてよろしく頼むよ」

「こちらこそ、よろしく頼むわ」


 その後、シャーリーンたちはレベル上げや連携の再確認等をするために、簡単な依頼を受け、ダンジョンへ向けて出発。

 日が落ちる前には街へ帰還し、今日はフィードルたち男冒険者も一緒に昨日の酒場へと向かったわけだが──


(……ッ! アイツ……)


 出発は自分たちよりも早かったが、受けた依頼の数は6つで目的地はバラバラ。

 それなのに既に酒場にはカルナがおり、昨日とほとんど同じメンバーで酒を飲んでいた。


 数も数だ。今朝はああ言っていたが、数日にわけて終わらせることにしたのかもしれない。

 だが、何となく、それはないと感じた。おそらく宣言通り、全ての依頼を終わらせて夕方に帰ってきたのだろう。


 この瞬間、シャーリーンは薄々気づき始めた。

 確証はないが、あれは人間──人族ではない。しかも、普通ではない化け物クラスの異種族。


 目的地がバラバラの依頼を6つも受け、それら全てを一日で終わらせるなんて、基本的に他の種族より能力が劣っている人族には、ほぼ百パーセント無理だろうから。




 以降、シャーリーンはカルナに近付くことなく、4日が経過し、その期間でカルナについての情報を集めていた。

 冒険者の話で、予想通りカルナは人族ではないことが判明。自分は元人族で、今は妖魔族だと酒の席で言ってたらしい。


 稀に、何らかの理由で人族から魔族へ種族が変わる現象があるというのは聞いたことあるが、過去のことなど、どうでもいい。今は魔族の括りに入る種族なのだから忌み嫌う対象だ。

 だからと言って、問題を起こすわけにはいかないが。前と違ってパーティーを組んでいるのだから、問題を起こせばメンバーに迷惑をかけてしまう。

 

 それに、もう少しでカルナと会うことはなくなる。

 今後についてフィードルたちと話し合った結果、3日後に別の街へ向かうことが決まったのだ。


 今滞在している街にも、人族以外の種族は少なからずいる。次に向かう街でも、それは変わらないだろう。それでも、目が合えば話しかけにきたり、後ろから声をかけてくるよりかはマシだ。

 


 ──あと3日の辛抱。しかし、初めてできた仲間と共に過ごす最高の生活。その終わりはゆっくりと、だが確実に迫っていた。





 その知らせが彼女たちの耳に入ったのは、別の街へ向かうことが決まった翌日のこと。

 活動資金は十分あるが、多いことに越したことはないため、いつものように冒険者ギルドで依頼を受けようと向かうシャーリーンたち。


 しかしその道中、普段よりも多くの冒険者とすれ違う。しかも、すれ違うのは実力のある冒険者で、我先にと急いでいるように見えた。

 

 街に魔物の大群が向かってきていて、それを迎撃するために冒険者たちが急いでいるのか。

 一瞬そう考えたが、街の住民たちは特に慌てふためく様子を見せていない。緊急事態であれば、もっと騒然としているはずだ。


「おう、フィードルたちじゃねぇか。お前たちは、新しく発見されたダンジョンに行かないのか?」

 

 次にすれ違う冒険者を捕まえて話を聞こうと思っていたところ、シャーリーンたちにスキンヘッドで強面の冒険者が声をかけた。


「新しく発見されたダンジョン?」

「その様子だと知らないみたいだな」

「これから冒険者ギルドへ行こうと思っていたからね。で、その新しく発見されたダンジョンって?」


 スキンヘッドの冒険者曰く、以前シャーリーンたちが向かったラムス迷宮の深層で、別のダンジョンへ続く隠しルートが見つかったと。


 名前も“アブール地下都市遺跡”と完全に別物のダンジョンらしい。ダンジョン同士が繋がっていることは、ないわけではないが、かなり珍しいことである。

 

 冒険者たちは、新しく発見されたダンジョンを攻略するために朝から張り切っていたのだと納得がいった。

 まだ誰も手をつけていないダンジョンだから宝はあるだろうし、未確認の魔物がいれば、素材は高値で売れる可能性が高い。早い段階なら情報だって金になるだろう。

 

「っつーわけで、俺たちも新ダンジョンに乗り込んで一稼ぎしようと考えてな。それじゃあ、他の奴らに宝を取られるかもしれねぇし、行くわ。お前らも来るなら早めに来た方がいいぞ」 


 そう言って、スキンヘッドの冒険者は仲間を連れて街の外へと向かった。


「どうするんだ、フィードル。アブール地下都市遺跡とやらに行くのか?」

「隠しルートはラムス迷宮の深層にあるって言ってたよな。ラムス迷宮は深層まで問題なく行けるけど、アブール地下都市遺跡の情報は少ないから──」

「どのみち、冒険者ギルドに行ったら、現地調査や情報収集も兼ねて向かうように頼まれるさ」

「そうね。フィードルは『勇者』様だから頼られるのも無理ないわ」

「新ダンジョンの調査となると一日では終わりませんよね。あと少しでこの街を発つわけですし、最後の仕事になりそうですね」

「シャーリーンはどう?」


 フィードルがシャーリーンに問う。

 シャーリーンの本音を言うなら、もう少し情報を得てから挑みたいところではある。

 彼女たちは余裕だが、ラムス迷宮は簡単に攻略できるダンジョンではない。その深層から続く新ダンジョンなのだ。ラムス迷宮と比べると魔物のレベルが上がっている可能性はある。


 だが、フィードルの言う通り、冒険者ギルドに行けば調査を頼まれること間違いなしだろう。

 無論、未知の場所を調査・探索するということは、普段よりも命を失う可能性が高いということ。

 命あっての冒険者なのだから、断ることだってできるし、それを責める権利は冒険者ギルドや他の冒険者にはない。


 考えた末にシャーリーンが出した答えは──


「行くのは構わないけど、ダンジョンに関しての情報が少ない以上、当然リスクはあるわ。少しでも危険だと感じたら引き返す方向で考えた方がいいわね」


 こうしてアブール地下都市遺跡への挑戦が決まった。

 一応、直行せずに冒険者ギルドに向かったが、フィードルの予想は的中した。


 ラムス迷宮の深層へ行ける実力者に声をかけていたようで、フィードルたちも到着して早々、ギルド側からアブール地下都市遺跡の調査を頼まれる。

 調査依頼を引き受けたシャーリーンたちは準備を済ませ、アブール地下都市遺跡に向かうため、まずはラムス迷宮の深層を目指す。

 


 ──この日のことは、皇帝となった今でも忘れないし、何度も何度も後悔している。あの時、自分だけでも否定的な意見を出していれば、あんな惨劇が起こらずに済んだのかもしれない。



 現地であるアブール地下都市遺跡には難なく到着した。

 隠しルートを抜けた先に広がっていた景色は、確認できる建物の雰囲気から、大昔から存在していたのだろうと感じさせる遺跡だった。


「さて。上か下、どっちに行くか」


 ダンジョンの造りは吹き抜けになっており、天井と底のどちらでも行ける形で道が存在している。どちらを目指すか悩みどころである。


 上に向かって進めば、位置関係から考えて、今回進んできたルートとは別のラムス迷宮に繋がるルートが見つかるかもしれない。


 下に向かって進むなら、例外も存在するが、全てのダンジョンは下の階層へ行けば魔物が強くなる傾向があるため、より警戒を強めていく必要がある。


 情報が少ないため、アブール地下都市遺跡が例外に当てはまるかもしれない。深度によって魔物の強さが変化するかも調査の項目の一つとして入れるべきだろう。


 調査が順調に進めば、両方行くつもりだが、ひとまずはどちらに進むかフィードルはパーティーメンバーに意見を聞こうとする──と、その時。


「ん? なに、あれ? 何か落ちてきてない?」


 女魔道士が指を指した場所に全員が視線を向けた。

 彼女の言う通り、確かに何かが底へ向かって落ちてきている。


 最初は上に向かった冒険者が足を滑らせたのかと思った。

 だがしかし、よく見てみると足を滑らせて落ちたにしては、慌てふためく様子は見られないし、何より落下というより、ゆっくり降りてきている感じだ。


 そして、それはシャーリーンたちの前で止まった。


「おお、やっぱり『勇者』君たちだ。君たちもギルドに頼まれて、このダンジョンに来た感じ?」


 上空から降りてきたのは、フィードルたちと同様にアブール地下都市遺跡の調査を頼まれたカルナだった。

 

「えっと、カルナさん……でしたっけ?」


 カルナのことは冒険者ギルドでも話に出ることがあるため、フィードルは彼女の名前は知っていた。


「君たちもってことは、あなたも調査依頼を?」

「私の場合、調査はついでかな。本当はそろそろ国に帰ろうかなって思ってたんだけど、新ダンジョンが見つかったって聞いたら、冒険者たるもの挑戦するしかないでしょ?」


 フィードルと話していたカルナは、ふと一瞬だけシャーリーンを見た。

 何かと縁がある彼女とも話をしようと思っていたが、何だか睨まれている。

 嫌われている雰囲気はあったが、数日前より酷くなっているなぁ……とカルナは苦笑いを見せた。


「ところで、君たちはどっちに行くの?」

「それを今決めようとしていて……。上はどうでした?」

「うーん、私が探索した限りでは、これといって目ぼしいものはなかったかな。より詳しい調査は他の冒険者が探索してくれるだろうし、私は下に行くけど……よかったら一緒に行く?」

「いいんじゃない? どうせ行き先は同じなんだし」


 一人を除き、パーティーメンバーはカルナと行動することに賛成した。

 シャーリーンはカルナと行動する方向で話が進み、不満を抱いていたが、それを口には出さなかった。

 無事に調査を終えるために、彼女の力を利用する。そう割り切って、シャーリーンは渋々賛成した。


「じゃあ、お願いします」

「うん。それじゃあ、早速行こうか」


 そして、フィードルたちはカルナと共にアブール地下都市遺跡の底へと向かうのだった。












 アブール地下都市遺跡の底から更に奥へと続く道を抜けた先。

 そこへ繋がる道もそうだが、特にその空間には血の匂いが充満しており、死体となった魔物や冒険者が散乱していた。

 目を覆いたくなるような光景を前に、当事者と思われる緑髪の女は不満そうな表情を浮かべている。


「期待はしてなかったけど、これじゃあ準備運動にもならないなぁ」

「うぅ……」


 呻き声を聞き、緑髪の女は視線だけを下に向ける。

 地べたに這いつくばる冒険者は左腕と右足を失っていた。大量の出血で意識は朦朧としているし、まともに立てる状態ではないため、逃げることも不可能だ。


「ん、こりゃ驚いた。頭つるつるのおじさん、まだ生きてたんだ」

「……ッ……」

「でも、その様子じゃ、おじさんと遊んだところで私が楽しめそうにないし、逃げたきゃ逃げていいよ?」


 出来たら、そうしている。それが出来ないから、こうして地べたに這いつくばることしかできないのだ。

 仲間も失い、このまま放置されたところで魔物のエサになるだけ。フィードルたちにアブール地下都市遺跡のことを教えたスキンヘッドの冒険者は死を覚悟した。


「もう……殺してく──」

「いやいや。せっかくなら頑張ろうよ。仲間は私に殺されちゃったけど、あの道を抜けたら他の冒険者がいるかもしれない。ヒーラーがいたら手足が治るかも。だからほら、希望を持って頑張って!」


 スキンヘッドの冒険者にとどめを刺すつもりがない緑髪の女。

 戦ったところで楽しむことはできない。だから、わずかな希望を抱き、気力を振り絞って逃げようとする姿を見て楽しむことにした。


 スキンヘッドの冒険者は失った足の代わりに剣を杖のように地に刺し、途中何度も転びながらも、ゆっくりと進み始める。そんな彼の後ろを、緑髪の女はついていく。


 屈辱だった。仲間を殺した敵に背を向けて逃げる。悔しくて自然と涙が流れた。


「片腕と片足がないから仕方ないと言えば仕方ないけど、もう少しペースを上げてないと道を抜ける前に死んじゃうよ?」


 左腕と右足を奪った張本人が急かすように言う。

 視界が霞んでいても、わずかな希望に縋って進み続ける。


「はぁ……はぁ……」


 どのくらい歩いたのかわからない。

 時間の感覚がわからなくなりながらも、スキンヘッドの冒険者は道を抜け、広い空間へと出る。


 そして、霞んだ視界に一組の冒険者パーティーが入った。

 そのパーティーのことは、よく知っている。ヒーラーもいるから、頼めば失った手足を治してもらえるだろう。早く助けを求めなければ──


「お前ら! 早くここから逃げ──」

「はい、お疲れさん」


 スキンヘッドの冒険者は、自分の命よりも他人の命を選んだ。

 咄嗟に出た最期の言葉だった。結局、自分は殺される運命だと悟っていたからか、助けを求めなかったことに悔いはなかった。

 後ろから自分の身体を貫く真っ赤な手を見て、スキンヘッドの冒険者は息を引き取った。


 その光景に冒険者パーティーは言葉を失っていたが、緑髪の女は何事もなかったかのように、血で濡れた手を振り、声をかけた。


「はじめまして。私は竜人族(ドラゴニュート)のエスメラルダ・ヴァン・バルトハルト。実は用事があって、このダンジョンに来たんだけど──『節制の勇者』のフィードルに『輪廻転生(リィンカーネーション)』のシャーリーン。そして『強欲の魔王』のカルナで間違いないよね?」

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