ゲーム終了(第五章エピローグ)
もしかしたら後日加筆修正するかもしれませんが、内容の大きな変更はないということを事前に伝えておきます。
「……はぁ…はぁ……ぐっ!」
胸を押さえて苦しむゼペットの姿を横目で見てから、エスメラルダはリリィたちに視線を移した。
「聞いての通り、これにてゲームは終了。これ以上は彼の身体が持たなそうだし、私も十分楽しんだから帰るわ。ほら行くわよ、ゼペット君。私が肩を貸してあげるなんて滅多にないんだから。心から感謝しなさい」
エスメラルダは善意で肩を貸そうと、ゼペットの腕を自身の肩に回そうとしたが、彼は力を振り絞って彼女の手を振り払った。
「……まだ、僕は、戦える……」
そんな状態でないことは、一目瞭然だ。
フラフラで立っているのもやっとだというのに、どこに戦える力があるというのか。
言うことを聞かないゼペットにエスメラルダは一瞬苛立ちを覚えるが、今は充実した戦いが出来て気分がいい。エスメラルダはゼペットを優しく諭すことにした。
「この状況を考えなさい。今の君はアドル・ロッゾと互角に戦える力を持っているけど、合流したリリィちゃんたちは、それ以上の力を持っているわ」
「…………」
「そして、リリィちゃんの従魔や君の元仲間たちもここへ向かってきている。私ならともかく、満身創痍の君が戦うには分が悪い。元々このゲームが終わったら帰るつもりだったんだし、ここは撤退よ」
「……わかっ、た……」
その言葉と共にゼペットは意識を失った。
倒れかけるゼペットを片手で受け止め、ため息を吐いてエスメラルダは担ぐように右肩に乗せる。
「よっと。じゃあ、またどこかで──今度はゲームなんかじゃない、本気の勝負をしましょう。ゼル、次会う時までにはもう少し強くなってなさいよ。じゃないと、ゼルの大事な従者をゼルの目の前で殺すから」
「待て! 黙って逃がすと──」
「リリィちゃんは──リリィちゃんも限界のようね。まあ、終盤はかなり辛そうにしていたから、しっかり休むのよ」
ゼルドラドは、エスメラルダを逃がすまいと地面を強く蹴って距離を詰めようとするが、その直前で視界に地面へ倒れるリリィの姿が入った。
既にリリィの魔力は空っぽ。一滴も残っていない。
加えて、二本の杖の身体強化系スキルも解除されており、その反動がリリィの身体を襲い、身動き一つ取ることができなかった。
「リリィ・オーランド!!」
ゼルドラドが声をかけても反応がなかったが、確認してみると眠りについているだけで、命に別状はなかった。
安堵の息が漏れ、すぐに視線をエスメラルダへ向けるゼルドラド。だがしかし、既にエスメラルダの姿は何処にもなかった。
「逃げられたか……」
「ゼペット……」
こうしてエスメラルダが始めたゲームは幕を閉じた。
──『暴食の魔王』は復讐を果たすことはできず、『忍耐の勇者』は共に過ごした大切な幼馴染と別れるいう結果を残して。
※
瞼を開けると、そこには見覚えのある天井がありました。
身体を起こし、周囲を見渡します。
「ここは……私の部屋?」
私がいたのは『聖魔女の楽園』にある自室。そこにあるベッドで眠っていたようです。
戦っている最中にエスメラルダが急に逃げ、それを追いかけた。追いついたらアドルと合流することにもなって、ゲーム終了の知らせを聞いた──そこまでは覚えています。
その後は……おそらく固有魔術のデメリットで魔力は完全に底を尽き、二本の杖の身体強化系スキルの反動もあって倒れた。
咄嗟の判断で固有魔術をペディストル──他者への付与も可能にしましたが、二人分の消費魔力を負担するのは、正直きつかったですね……。
固有魔術に関して改良の余地はまだまだありますが、今回はゲーム終了まで、よく持たせることができたと自分を褒めていいでしょう。
「──さてと」
魔力はまだ全快していませんが、戦いは終わったので膨大な魔力を使うことはないはず。
スキルの反動も若干身体は重い気がしますが、まったく動けないというわけではない。万全の状態に戻るまで、あと少しと言ったところでしょう。
(バエル、聞こえますか?)
一先ず、誰かに連絡しようと考えた私は、念話を使用してバエルに声をかけます。
彼のことだから、倒れた私を付きっ切りで看病しているのだろうと思っていましたが、この場にはいませんでした。
(リリィ様! お目覚めになられたのですね! 体調の方はいかがでしょうか。ペディストルからリリィ様が突然倒れたと聞いて──)
あはは……どうやらかなり心配させてしまったようです。
バエルに大丈夫であることを伝えると、安堵している様子が声でわかります。
それから少し話を聞くと、どうやらバエルは、ちょうど私の部屋を出ていたようで、看病は付きっ切りでしてくれていたようです。
そして、私が眠っていたのは2時間くらいで、ゼルドラドさんやアドルたちも今は『聖魔女の楽園』で休んでいると。
バエルの報告では、生存者のなかに重傷者はいないみたいなので、一度全員を集めて話すことにした方が良さそうですね。
そのことを伝えると、バエルがすぐにアドルたちを集めるために動いてくれました。
今回の件の報告会は『聖魔女の楽園』にある会議室で行います。
バエルに頼んでから20分ほどでアドルたち、ゼルドラドさんとメイリアさん、グランドラムさんに私の従魔たちが会議室に集合。
ゼペットとマルベリーさんの姿はありませんが……事情はペディストルから話を聞いているので、このまま報告会を始めます。
「まずは……」
しかし、言うまでもなく会議室内の空気は重い。
特にアドルたちは下を俯いたまま。
もちろん私もペディストルからの報告でショックを受けていますが、だからといって、このまま下を向いていても事実が変わるわけではない。時間がかかっても、受け止めなければいけないのです。
「──いいか?」
どうにか頑張って進行しようと考えていると、席に座っているグランドラムさんがゆっくりと手を挙げます。
「ど、どうぞ」
「うむ。いろいろと話すべきことがあるのだろうが、ゼペット・ルルランがマルベリーを殺害した件について、先に現時点での私の考えを言っておく」
グランドラムさんの言葉を聞き、アドルたちは顔を上げますが、表情は依然として暗いまま。
「今回の件、マルベリーには悪いが、彼女は「ダンジョンの攻略中に不慮の事故に遭い、死亡した」と報告した方がいいと考えている。ゼペット・ルルランも同様にだ」
「……ああ、そういうこと。他にも多くの死亡者が出ているのは事実。嘘の報告が少し混ざっていてもバレやしないか。でもさ、王都の騎士団──しかも、その団長様が忠誠を誓っている国に虚偽の報告をしていいの?」
壁に背を預けて話を聞いていたペディストルがグランドラムさんに問います。
周囲からの信頼もあって騎士団の団長という立場についただろうグランドラムさんが、国に虚偽の報告をし、それがバレたら当然問題になるでしょう。
「無論、全責任は私が負う。それに、仮にもし事実を報告したとしても『勇者』パーティーの中から殺人犯が出たのだ。その話が広まってしまえば、それが原因で彼らの評判に傷がつき、シュナーベルが住みづらい場所になってしまうことだって考えられる。……後者は特に避けたいところだろう……」
「『勇者』なんてどこでも特別扱いだろうし、普段から気に食わないって思っている奴らは、ここぞとばかりに難癖付けて責めてきそうだしね。殺したのは、この場にいない彼なのに」
さすがの僕も同情するよ、と言って肩を竦めるペディストル。
「虚偽の報告をする理由はもう一つある。ここへ来る前にバエル殿から異界とやらの侵略者に『勇者』は狙われていると聞いた。こことは別の世界があるなど、あまりにも非現実的な話だったが、それ故に嘘ではないのだろうと感じた」
嘘を吐くにしても、もっとマシな嘘がありますしね。
今回の件はグランドラムさんも大きく関わっていますし、説明した方が報告会も円滑に進むだろうと、私が眠っている間にバエルが伝えたようです。
「であれば、自身の身を護るために更に力をつけなければならない。ゼペット・ルルランがマルベリーを殺害した件で周囲に責められ続け、精神的に参ってしまえば、それどころではないからな」
「だったら最初からゼペットも死んだことにして、『勇者』たちが受ける精神的ストレスを少しでも減らそうと。団長様の考えは、よくわかった。自分がリスクを負うことになっても『勇者』たちのことを考慮した実に素晴らしい考えだ。それじゃあ、それを聞いた上で僕からも一つ」
ペディストルは壁から離れ、どこへ向かったのかと言うと座っているアドルの後ろ。アドルはなぜ自分の後ろに立たれたのかわからない様子です。
「こんなこと言うと君の覚悟を台無しにしちゃうかもしれないけど、君がリスクを負ってまで虚偽の報告をする必要はないよ」
「……と言うと?」
「シュナーベルだっけ? そこの国王や……今後も活動拠点として利用するなら冒険者ギルドのギルドマスターとかも呼んで、まとめて事の経緯を説明する。その後に国王に箝口令を敷いてもらえばいい。アドルのためとなれば、国王も簡単に動いてくれるさ」
常に忙しいイメージがある王様の時間をいただくなど、不可能と言ってもいい話ですが、それはあくまでも一般人での話。アドルであれば話は別です。
アドルは『勇者』で、国の戦力としての価値はもちろんのこと、他にも様々な理由で絶対に手放したくないはず。活動拠点を別の場所に移すなんて話になったら何が何でも引き留めにかかるでしょう。
ただ、もしかしたら「シュナーベルの王様は『勇者』に無関心」という可能性もゼロではないので、一応アドルに質問してみます。
「アドルはシュナーベルの王様と話をしたことは?」
「まあ、この『職業』だしな。城に呼ばれることは多いし、当然話すこともあるけど……世間話とか、ボードゲームの相手とか、内容は大した内容じゃないことの方が多いぞ」
さっきまで常に忙しいイメージがあると思っていましたが、アドルの話を聞いて「意外とそうでもないのでは?」と思う私でした。
「あとは……王女様の相手とかか」
「王女様、ですか」
話が逸れ始めていますが、少し興味があったので話を続けることに。
王女様の話が出ると、アドルは少し苦労しているように見えました。
「色々と支援してもらっている身だし、幸いにもレベル上げにもってこいのダンジョンが割と近くにあるから、国王陛下の方には拠点を変えるつもりはないって何度も伝えているんだが──」
「──だが?」
「何というかその……国王陛下は心配性なのか、俺と王女様とくっつけて定住させようとしているのが見え見えで……。王女様も何か乗り気だし……」
「は、はぁ……」
「俺なんて『勇者』に選ばれてなければ、ただの平民だぞ。貴族ならまだしも、ただの平民が国の王女となんて釣り合うわけがない。けど、相手は王族だから無視して避けるわけにもいかなくて……」
ただの勘違いなんじゃないですか?
と言いそうになりましたが、アドルの顔を見ると本当に苦労している様子。
クオリアたちにも聞いてみると、どうやら端から見ても、その王女様は満更でもない感じ。アドルの言ったことは間違いないみたいです。
アドルの苦労は今後も絶えないのでしょう。
この話については後々詳しく聞くとして。
そういう話が出るということは、やはりシュナーベルの王様も『勇者』を手放したくないということ。箝口令の話は心配する必要なさそうですね。
その後の報告会は特筆すべきことはなく、あっさり終了。
まあ、今回の報告会は、ゼペットたちをどうするかについて話し合う必要があると思って開いたようなもの。メインの議題が片付けば、あとは気になったことを話すくらいで終わります。
そして、ダンジョン攻略についてですが、騎士団はほぼ壊滅状態。報告もしなければならないため、一度シュナーベルへ帰還することに。
ペディストルの分身体の能力があるので、彼にお願いして私を第1階層に送ってもらえば、すぐに地上へ戻ることは可能ですが、全員疲労が溜まっているということで、今日一日は『聖魔女の楽園』でゆっくり休むことになりました。
しかし、こうして改めて考えてみると、ダンジョン内でも『聖魔女の楽園』を行き来できるなんて、便利を通り越してズルいのではないかと思いますね。
魔物が襲い掛かってくることはない安全地帯。暖かくて美味しい食事に、身体の汚れと疲れを流せる温泉。フカフカのベッドがあるため、ゴツゴツした硬い地面で寝る必要はなし。
やっぱりズルいなぁ、と思いつつ、疲れた身体を癒すために会議室を出て温泉へ向かおうとした時──
「リリィ・オーランド。明日、エスメラルダが引き連れてきた黒いローブを纏った連中について話がしたい」
ゼルドラドさんに声をかけられました。
エスメラルダが用意した黒いローブの敵。
4人のうち、一人は私が殺し、その人物は幼少期の私と同じ顔をしていた。
調べれば得られる情報があるかもと死体は回収していますが、ゼルドラドさんも何か気になることがあったのでしょうか。
「明日でいいんですか? 私は別に今でも──」
「激しい戦闘で疲れもまだ取れていないだろう。しっかり疲れを取ってからで構わない」
「わかりました。お気遣いありがとうございます。では、今日はここに泊まるということでいいですね?」
「そう、だな。悪いが世話になる」
「いえいえ。バエル、ゼルドラドさんたちの案内をお願いします」
「かしこまりました。それではこちらへ」
バエルにゼルドラドさんたちのことを任せて私は温泉へ向かうことにします。
それから夜も更け、時刻は夜中の0時を過ぎた頃。
普段なら布団の中にいる時間。今日は特に疲れたのですぐに寝られると思っていましたが、不思議と眼が冴えていて眠気は一切ありません。
眠くなるまで空でも眺めていましょうかね。
部屋の窓から外に出て、魔術で屋根まで行き、腰を下ろして満天の星空を眺めながら今日──まあ、厳密には、もう昨日ですが──のことを思い出していると、どうやら精霊さんがやってきたようです。
「リリィ、眠れないのかい?」
「はい。だから、眠くなるまで星でも眺めてようと。ペディストルも眠れないんですか?」
「まあ、そんなところかな」
そう言ってペディストルは私の隣に座ります。
こうして二人きりになるのは初めてですね。
黙って星を眺め続けるのも気まずいので、何か話題でも出した方がいいかなと考えていると、ペディストルが口を開きました。
「タルト、バエル、デオンザール。そして、僕で四人目。残りの従魔は“ツバキ”と“ティルフィー”か。ツバキは大丈夫だろうけど、ティルフィーの方は最後だったら文句言いそうだなぁ」
「残りの従魔の名前はツバキとティルフィーと言うんですか?」
「ん、バエルから聞いてないの?」
「会ってからのお楽しみということで詳しいことは……」
そう答えるとペディストルは申し訳なさそうにしていました。
「あぁ……それは何か悪いことしたなぁ……。でも、名前くらいは別にいいよね」
「その人たちってどんな感じの人たちなんですか? 簡単に説明してくれると嬉しいです」
「リリィがいいなら。ツバキは面倒見がいい母親……みたいな感じかな。僕は鬱陶しいって思うことが多いけど。ティルフィーは……すごく苦労すると思うから頑張って」
「そ、それは手が付けられないという意味で?」
もしそうならどうしようと思って聞きましたが、私の問いにペディストルは首を横に振ります。どうやら別の意味で苦労するらしいです。
「会ってみればわかる。まあ、僕から一つ忠告するなら、絶対に二人きりにならないほうがいい。特に二人だけで温泉なんて行った日には、間違いなく彼女暴走するから、必ず他に誰か連れていくんだよ」
な、なるほど……。
ペディストルの言葉でティルフィーがどんな人物なのか大体察することができました。確かに、会ったら苦労しそうな気がします。
でも、話を聞くに、残りの従魔は二人とも女性。もう一人の私の従魔はタルト以外、全員男性だったので、同性の従魔が増えるのは少し嬉しいです。
残る従魔たちの話を終えた後は、精霊界のこととか、ペディストルのことについてなど、私が眠くなるまでペディストルにはお喋りに付き合ってもらっていましたが、残念ながらまだまだ眠気はやってきません。
星空を眺め続けるのにも飽きてきたので、少し散歩でもしようかなとペディストルに言ったところ──
「だったら、ダンジョンの最下層にでも行ってみる? 前にもチラッと言ったように、これといって目ぼしいものはないけど」
と、言われました。
ペディストルの分身体は、まだ最下層に残しているとのこと。ほとんど何もない場所と聞いていたので、一人でずっと待機させているのは可哀そうに思えます……。
自分の足で最下層を目指したいところですが、それだと時間がかかりますし、残りの従魔も私のことを待っていることでしょう。
彼女たちに早く会いに行くためにも、今回はペディストルの力で最下層に行くことにします。
ペディストルにお願いしてダンジョンへと向かい、彼の能力で最下層に送ってもらいます。
最下層で待っていたのは、分身体のペディストル。
部屋の構造は遺跡のような石造りの円形のかなり広い一室で、部屋の中央に台座のようなものがありますが、これは地上へ戻るための転移魔法陣を起動するものらしいです。
「どう? 最下層は本体の言った通り、何もないでしょ?」
「そうですね。気になるものは特に──」
「次は上の階層に送ってあげるかい? こんな場所なんかよりも、そっちの方がいいと──って、どうかしたのかい?」
「あれ、なんですかね?」
私が指差す方向を見るペディストル。
そこには何か、手帳のようなものが落ちていました。
近づいて手に取ってみましたが、かなり古そうな手帳です。
「……こんなの、さっきまでなかった……」
「……ですよね。あんなわかりやすい場所に落ちていて気付かないなんてことないでしょうし……。表紙には何も書かれていませんし、とりあえず『鑑定』してみます」
そして、この手帳のタイトルがわかった途端、私は言葉を失いました。
なぜなら『鑑定』の結果には、こう書かれていたのだから。
──タイトル 『聖魔女の手記』 著者 リリィ・オーランド
エピローグ時にある恒例の少し長くなるあとがき。
これにて第五章──そして、物語全体の前半が終了となります。
作者の事情で休むことも多く、ここまで来るのに時間がかかりました……。
一応皆さまに伝えておくと、既に完結までの流れはできています。
また、完結まで書き切ると決めているため、失踪することはありませんので、ご安心ください。
更新が止まった時は「また体調不良か」とか「またスランプになったのか」って思っていただければなと。
次章は一本幕間を挟んでからスタートする予定です。
幕間と第六章は現在準備中ですので、もうしばらくお待ちください。
今後とも本作品と作者を応援していただければ幸いです。
書籍版も第1巻~第4巻まで発売しておりますので、興味がある方は是非!(さりげなく宣伝)





