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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第五章 幼馴染再会編

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聖魔女の『固有魔術』と『第二の神杖』

作者の体調不良、精神的不調、スランプなど色々と重なり、更新が遅くなってしまいました。3カ月もお待たせして申し訳ございません。

まだ本調子とまではいきませんが、ひとまず第五章は最後まで書き終えたので、今日、明日、明後日と更新していこうと思います。

 リリィは【異次元収納箱(アイテムボックス)】から一本の杖を取り出す。


 それは『黒龍神杖・崩天魔』に続く、リリィが考案した第二の杖。

 その名も『銀魔神杖・幻武創』。

 第一の杖『崩天魔』がタルトをモチーフにした杖ならば、この第二の杖『幻武創』はバエルをモチーフにした杖。

 この『幻武創』には以下の能力がある。


───────────────

 名前 『銀魔神杖・幻武創』(第一形態)

 権能・ステータス魔力+20,000

    ステータス攻撃力+10,000 

    ステータス精神力+10,000   

   ・『幻魔武具召喚』  

   ・『悪魔ノ邪気(デモンフォース)

───────────────


 リリィは自身の専属杖職人であるシルファの造る杖が、常識外れの性能を持つことは理解している。故に、この性能を見た時は然程驚かなかった。


 ただ、これだけの性能を持つ『幻武創』は『崩天魔』制作の時よりも、かなり苦労している。

 というのも『崩天魔』は、かつて折れてしまった『宵闇の魔道神杖』をベースに造られているが、今回の『幻武創』は一から造ることもあり、より多くの入手困難かつ希少で上質な素材が必要だったからだ。


 だが、その苦労もあって、一般的の杖とは桁違いの3つのステータス補正に加え、更に強力な2つのスキルが『幻武創』には備わっている。


 まずは『幻魔武具召喚』から。

 このスキルは文字通り、武具を召喚するスキル。


 この『幻武創』には希少な素材だけではなく、制作の際にバエルの魔力も多く使われている。

 バエルが武器や依り代の制作を得意としていることから、それが関係して、このスキルが発現したのだとシルファは推測しているが、真実はどうかわからない。


 次に『悪魔ノ邪気(デモンフォース)』についてだが、これは『崩天魔』にある『龍ノ闘気(ドラゴンフォース)』のように身体強化系のスキルである。

 この二つのスキルを同時に使えば、自分より格上の敵を相手だったとしても、勝てる可能性は上がるだろう。

 

 無論、リリィもそれを考え、格上の敵と遭遇したことを想定して、同時に使ったことがある。

 結果的には、同時発動は問題なかったが、解除した時が数時間は動けなくなるほど身体への反動が凄かった。


 それをわかった上で、現在リリィはこの二つのスキルを同時に使用している。

 エスメラルダの強さは尋常ではない。勝つためにはスキル解除後の反動など、考えている場合ではないのだ。


「フフッ、新しく出した杖も良い杖ね。それが私の『時空間魔術』を攻略するリリィちゃんの秘策かしら」

「…………」


 エスメラルダの言葉を無視するリリィ。

 返事の代わりと言ってはあれだが、リリィは『幻武創』の先端を囲むように短剣を六本召喚し、そのままエスメラルダの方へ杖を振って飛ばした。


「もうっ、無視は酷くない?」


 迫る短剣を回避した後、不敵な笑みを浮かべながらエスメラルダはリリィに接近するために駆け出す。

 しかし、リリィが召喚した短剣は直線的な動きから軌道を変え、再びエスメラルダへと向かった。


「──ッ!?」

「【超爆発(エクスプロード)】!!」


 エスメラルダは回避したはずの短剣が背後から迫ってくるのに気づき、自動で追尾するように術式が組み込まれているのだと瞬時に判断して、回避ではなく撃ち落とす方向に切り替えようとする。


 だがしかし、短剣はリリィの詠唱と共にエスメラルダの目前で爆発を起こした。

 それにより、エスメラルダの視界は爆発によって生まれた煙で一時的に遮られることになる。 

 

(……リリィちゃんもこれで私を倒せるなんて思っちゃいないだろうし──)

 

 このまま黙って出てくるのを待つリリィとゼルドラドではないだろうとエスメラルダは考える。

 彼女の考えは正しく、リリィが煙のなかに突っ込んできた。

 その光景にエスメラルダは少しだけ驚いた表情を見せる。


(てっきり突っ込んでくるのは、ゼルだと思っていたけど……。そういえば、リリィちゃんは、そっちタイプの魔道士だったか。よかった、近接戦に持ち込まれたら慌てて何も出来ない子じゃなくて)


 表情は一瞬で驚きから喜びに変わった。

 そんな様子など一切気にせず、リリィは右手に持つ『幻武創』の先端に剣の刀身を召喚し、杖を逆袈裟に斬り上げる。


 自身の身体に刀身が届くまでの僅かな時間。エスメラルダの脳裏には先程の爆発の光景がよぎった。

 この距離で爆発させたらリリィも巻き込まれる。ダメージを与えるなら威力も相当なものでなければならない。

 ただ、ある程度リリィの情報をエスメラルダは持っている。

 高等な『治癒魔術』も扱えることから、自傷覚悟で爆発に巻き込まれようが、あまり関係ないことではあるだろう。


 そして、僅かな時間で思考を巡らせた結果、エスメラルダは後方へ軽く跳ぶという選択をする。

 賭けに出たわけではない。正直爆発しようが、爆発せずに終わろうが、どちらでもよかった。


 エスメラルダが後方へ回避したことにより、リリィの斬撃は爆発せずに虚空を斬るだけに終わる。

 そして、杖を振り切った僅かな隙を見逃さず、エスメラルダはすぐさま攻撃に転じた。


「えい!」


 可愛らしい掛け声とは裏腹に強烈な蹴りが『聖魔女』に迫る。

 時止めの対策があるようなことを言っていたとはいえ、実際にこの目で確認しない限りはわからない。もしかしたら(ブラフ)の可能性もある。


 だが、本当にリリィに『時空間魔術』の時止めは効いていない様子だった。


 蹴りを放つ際に、エスメラルダは『時空間魔術』を使った。

 しかし、周りは静止しているにもかかわらず、リリィの瞳はエスメラルダの動きを捉え、敵の蹴りを防ごうと防御の姿勢を取ろうとしていた。

 

(……時間が停止した世界でも動けているということは、本当にリリィちゃんも効かないみたいね。いいねぇ、そう来なくっちゃ!)


 本気ではないとはいえ、一般の冒険者が彼女の蹴りを受け止めようものなら、まず間違いなく骨はひしゃげた音を立て、ただの蹴りなのに肉が引きちぎられる。

 だが、リリィは迫り来る蹴りを防いだ──その威力と衝撃で後方へと飛ばされはしたが。もちろん腕は問題なくくっついている。


「……()っ」

 

 短く声が漏れたのは強烈な蹴りを受けたリリィではない。

 蹴りを放ったエスメラルダだった。

 突如感じた痛みがどこから来たものなのか。

 エスメラルダは痛みを感じる場所へと視線を移す。


(……これはいったいどういうこと……?)


 その光景に疑問が生じた。

 酷く腫れている様子はなかったが、それでも左腕には身に覚えがない赤い痣が出来ていたのだ。  

 リリィがエスメラルダの攻撃を防いだ瞬間にカウンターで攻撃を仕掛けたと考えるが──


(いや、リリィちゃんは私の蹴りを防ぐことしかしていない)

 

 カウンターを仕掛ける暇などなかった。

 完全に防御に徹していた。

 ではなぜ、自分が攻撃を受けたのか。

 自身の身に起きたことが気になって、エスメラルダは追撃をやめ、その間にゼルドラドはリリィと合流する。


「大丈夫か?」

「はい、無傷なので大丈夫です」


 左腕が無事であることを見せるリリィ。

 ゼルドラドから見ても疑問に思うことだらけだった。


 かつて姉と呼んでいた相手の蹴りを何度も受けてきたからわかる。

 たとえ障壁を展開していても完全にダメージを抑えることはできない。ゼルドラドでも無傷で済ませることは、一度だってできなかった。


 だがしかし、実際にリリィの左腕は無傷。

 そして、リリィが受けるはずだっただろうダメージが、なぜかエスメラルダに入っている。しかも場所は同じ左腕だ。


「……自身が受けたダメージを相手に返す魔術……?」


 ポツリと出た言葉を聞き、リリィは首を縦に振り、エスメラルダに聞こえない程度の小声で口を開く。


「正確に言うと“ダメージを返せるのは受けた場所にだけ”です。私の固有魔術の効果の一つで、これは必中なので回避は絶対に不可能です」


 この固有魔術は未完成で名前はない。

 まあ、そこはどうでもいいことだろう。

 リリィの身体は不可視の障壁で守られており、この障壁は『魔力障壁』と同じ役割を果たす。

 余談だがこの時、リリィが持っているスキルの『多重障壁自動発動』は無効化されている。

 

 現時点でのこの障壁には──


“受けたダメージを相手の同じ箇所に返す”

“即座に傷を完治させる”

“自身の身体に悪影響を与える魔術(状態異常など)を無効”


 ──といった効果がある。エスメラルダの時止めも、リリィの身体に悪影響を与える判定となったため、通用しなかった。


 また、相手に返すダメージに関しては物理の他に魔術にも切り替えることが可能。相手が苦手な属性を見抜いて魔術によるカウンターを入れることも出来る。


 そして、リリィが言ったように、相手に返すダメージは必中。

 仮にどんなに遠く離れていても、リリィが一度でも目視で敵を捕捉していれば回避は不可能となる。

 逆にリリィが敵を目視で捕捉していない場合で、遠方から攻撃を受けても必中効果は発動しないが、そもそも敵がいる前でしか使わないため、あまり気にすることでもない。


 リリィから大まかな説明を受けたゼルドラドは驚きのあまり言葉が出なかった。

 固有魔術についてはゼルドラドも知っているし、何だったら自分も固有魔術を会得している。

 だからこそ、自分よりも遥かに歳下な少女の固有魔術には驚愕した。


(こいつの固有魔術は、我や他の『魔王』の固有魔術に匹敵するほどの──いや、もしかしたら……。だが、それ以前に──)


 これほどの固有魔術であれば、思い付いたとしても、たかが十数年しか生きていない小娘が、ここまで仕上げられる代物ではない。

 それを可能にしたのは──魔術に対する熱意や、センス、あとはちょっとした閃きなどか。


「……なるほどな。エルトリアが貴様に興味を持つ理由が何となくわかった。我も貴様がこの先、どこまで強くなるのか興味が出たし、楽しみが増えた。是非とも一度手合わせしたいものだ」

「ぜ、ゼルドラドさん?」


 緊迫した状況にもかかわらず、笑みを浮かべるゼルドラドを少し困惑した表情で見るリリィ。

 だが、ゼルドラドの表情はすぐに真剣なものへと戻った。


「リリィ・オーランド。我も固有魔術を習得しているからこそ知っている。それほどの固有魔術であれば、欠点も大きいはずだ。その状態はあとどれくらい維持できる?」


 そう。リリィが戦える時間は限られている。

 固有魔術は術者が一から作る奥義とも言える魔術。故に自分にとって都合のいい効果だけを組み込まれると思われがちだが、実際はそうではない。

 都合のいい効果を組み込めば組み込むほど、つり合いを取るように、自身への都合の悪い効果も組み込まないといけないのだ。

 

 リリィの場合、固有魔術発動後に消費した魔力は、体内に残る魔力を全て消費しないと回復しない。これは途中で固有魔術を解除しても継続する。


 魔道士だろうと何だろうと魔力切れは致命的。

 戦闘中に体内の魔力が空になれば、疲労感がどっと押し寄せて動きが鈍る。特に魔道士なら攻撃も防御も、ある程度回復するまでできない。


 だが、リリィにとって致命的なデメリットだからこそ、三つの効果とつり合いが取れているとも言える。


 ゼルドラドの言葉に頷き、固有魔術のデメリットも簡潔に説明した上でリリィは言葉を続けた。


「この状態でも魔力は少しずつ消費しますし、当然ダメージを返すのも。だからといって、節約しようにも、いつ『時空間魔術』を使われるかわからないため、解除もできない……」


 エスメラルダが『時空間魔術』を使う際に何かしらの動作を見せてくれたら、リリィも固有魔術の発動の切り替えができるのだが、残念ながら現状ではわからない。

 下手に解除して時止めの餌食になるわけにもいかないため、リリィは常に固有魔術を発動──魔力を消費し続けないといけないのだ。


「スキルでステータス値が一時的に上昇していますが、最後まで持つかどうか……」

「そうか」

「何とか頑張ってみますが、決着がつかなければ、私はしばらく使い物になりません。その際は全力で撤退します。邪魔だったら適当に遠くへ投げ飛ばしてください。着地は自分で何とかします」


 可能性はゼロではないことから、その時が来たらそうしてもらった方が断然いいと思うリリィだったが──


「いや、もうしばらくその状態を維持して、本当に通用しないと思わせることができれば、解除して魔力を節約できるだろう。奴を時間までに倒しきれるかと問われたら、自信を持って首を縦に振ることはできない。だから、できるだけ長く協力してほしい」

「わ、私もあの人に聞きたいことが山ほどあるので、協力は惜しみませんが……」


 解除中に『時空間魔術』を使われたらどうするのか問おうとしたが、提案してきたゼルドラドがそれを考えていないわけない。


「固有魔術を解除している間に時を止めてきたら、我が全力で貴様を守る。まあ、その時は『時空間魔術』が通用するとバレるが……今考えても仕方ないことだ。その時に考えるとしよう」


 勝手に話が進んでいるが、ここでゆっくり話し合って他の案を出す時間も、いよいよなくなってきた。

 無駄な魔力消費を抑えられるのは、リリィにとって悪くない話。むしろ、無駄に消費するはずだった魔力を他の攻撃に回せるため、この提案はありがたい。

 問題はそれによって増えるゼルドラドの負担だが、当然承知の上だろう。


「わかりました。ゼルドラドさんがいいのであれば、それでいきましょう」


 話を終えて二人はそれぞれ構える。

 エスメラルダは先程の現象について考えている様子だったが、向けられている二人の視線に気づいた。


「頭で考える必要もないか。考えてもわからないなら、もう一回試せばいいだけだもんね」


 弾丸のようにエスメラルダは再び一直線に駆ける。

 反応してゼルドラドも動くが、今は『暴食の魔王(おとうと)』よりもリリィが優先。適当に数撃、撃ち合った後で崩壊しかけた建物へ蹴り飛ばし、一言残してエスメラルダは目的の場所へと向かう。


「ゼルってば、一応『魔王』なのに、今のところリリィちゃんの方が活躍していて情けないわよ~」

「──チッ! 本気で来てない分、余計に腹が立つ!」


 体勢を立て直し、急ぎ向かおうとするゼルドラド。

 その時には既にエスメラルダがリリィの眼前に迫っていた。


 迫るエスメラルダにリリィは『崩天魔』を迎撃しようとする。

 それに対し、エスメラルダは右腕を振って自身に向けられた杖を弾き、左手の指を閉じ揃え、そのままリリィの右肩へと向かわせる。

 

「「──ぐっ!!」」 

 

 同時に声を漏らす両者。

 リリィが傷付けば、エスメラルダも傷付く。

 二人の右肩からは血飛沫が舞い、鮮血が流れる。


 回避はできなくもなかったが、リリィはエスメラルダの攻撃を避けなかった。その行動が最も強烈なダメージを与えられるから。


 右肩が貫かれ、全身を駆け巡る激痛でリリィの表情は歪み、呼吸が荒くなるが、オルフェノク地下大迷宮での生活で似たようなことを何度も経験している。

 久し振りの強烈なダメージで額からも汗が出るが、あとで治せばいいだけの話。泣き喚いて戦意を喪失するほどではない。

 

「大丈夫? 血、いっぱい出ているけど」

「……それは、お互い様ですよ……」

「打撃と違って、貫通したままだと、与えたダメージや傷は同じように返ってきても、すぐに治らないようね。フフッ、こうなることはさっきので予想がついていたけど、めちゃくちゃ厄介」

「一応これでも治せるには治せますけど、このままだとあなたの左手が貫通したまま治すことになってしまうので──」


 両手に持つ杖を一度【異次元収納箱(アイテムボックス)】に戻し、リリィの左手はエスメラルダの左腕を力強く掴み、それを引き抜く。

 貫かれた右肩の穴は既に塞ぎ始め、リリィは空いている右手をエスメラルダの胴体に当てる。


「おそらく今以上に痛いですよ。【逢魔(オウマ)魔境天(マキョウテン)】!」


 それは、あの日──『魔闘法』を習得し、エルトリアの従者ロザリーとの勝負で偶然にも使えた『魔闘法』の奥義。

 想像を超える威力に恐れたリリィは「どうやっても勝てそうにない相手に遭遇したら使用する」と決めていた。

 正直、手加減なしのゼロ距離で撃ち込んだところで、エスメラルダを瀕死に追い込むことはできない。だが、確実にダメージは入る。

 

「がっ……!!」


 リリィの右手に集まる光と闇はエスメラルダの腹部に撃ち込まれる。

 どうにか耐えてその場に留まるが、内部から破裂したような衝撃と痛みが全身へ巡り、胃から口へ何かが上がってくる。


(リリィちゃん、こういう技も使えるのね……。さすがに効くわ……)


 口の中は鉄の味でいっぱいだった。

 このまま地面に吐き捨てても良かったが、どうせなら利用しようと、エスメラルダは口内の血をリリィの瞳に目掛けて吐き飛ばす。

 

「うっ……!」

「ごめんね。ちょっと汚いけど、リリィちゃんもさっきやったように、視界を潰すのも戦術の一つだから許してちょうだい!」


 物体が眼前にまで迫ると眼球を保護しようと反射で瞼を閉じる。

 ローブの袖か何かで防げればよかったが、エスメラルダもまた、ほぼゼロ距離で血を吐き飛ばしたため、間に合わずにリリィは反射で瞼を閉じた。


 一瞬とはいえ、エスメラルダからすれば、絶好の攻撃チャンス。何もなければリリィに攻撃を仕掛けている。

 しかし、エスメラルダは攻撃せずにリリィから離れる選択をした。現在のリリィの状態であれば、当然の選択だろう。


(リリィちゃんを攻撃するとダメージが返ってくるアレ……。魔術なのは間違いないだろうけど、世間一般の魔術で障壁、カウンター、治癒の効果が同時に発動している魔術なんて、私の知る限りでは存在しない)


 自分の肩に手を当て、傷を治しつつ、エスメラルダは考える。

 

(──となると、固有魔術の可能性が高いかな。まあ、何にせよ、リリィちゃんに強烈な一撃をお返ししようにも、結果的に無かったことにされて、私にダメージが返ってくるだけ。それなのに、リリィちゃんは普通に攻撃してくる。うーん、やっぱり厄介)


 そう思う割には嬉しそうにしているエスメラルダ。

 とりあえずリリィは放置または適当に対処するとして。

 そろそろ蹴り飛ばした弟がやってくる頃だろう。


「エスメラルダァッ!!」

「フフッ! ゼルは私を殺したい気持ちでいっぱいみたいだけど、お姉ちゃんはこうして昔のようにゼルと遊べてすっごく嬉しいなぁ!!」

 

 小柄。故に速い。

 しかし、繰り出される蹴りは決して軽くない。

 

 頭蓋を一撃で粉砕できるだろう蹴り。

 そして、蹴りを放つゼルドラドの右足は龍の鱗を持ち、指先からは鋭い爪が伸びていた。


 そんな憎しみの籠った可愛い弟の一撃を、エスメラルダは避けずに左腕で受け止める。

 この時のエスメラルダの左腕はゼルドラドと同様に、龍の鱗で覆われていて、それでダメージを軽減させた。


「今のはいい蹴りね。私も『部分龍化』を使わなかったら危なかったかも」

「チッ……」

「でもさぁ、ゼル。本気で私を殺したいなら『部分龍化』はどうかと思うな。『龍化』までとは言わないけど、せめて『半龍化』は使いなさいよ」


 笑みを浮かべてアドバイスをしてくるエスメラルダに対し、奥歯を噛みしめるゼルドラド。

 いつまでも舐められていることに怒りが頂点を超えそうになる──というより、既にゼルドラドはかつてないほどに怒りと憎しみの炎で燃えている。

 

「そうか……ならば望み通り使ってやる!」

「まあ、私はゼルたちを殺しちゃいそうだから使わないけど。遊ぶくらいなら『部分龍化』で十分だし」


 ゼルドラドの変化は右足だけでなく、他の部分にも現れ始める。

 右足と同じように両腕と左足は変化し、腰からは龍の尾が生え、頭部からは二本の角が姿を現す。


 半人半龍となったゼルドラドは攻撃を再開する。

 威力も動きも先程より格段に上がっているが──


「よーし! ゼルが『半龍化』を使ってくれたことだし、お姉ちゃんもちょっとだけ真面目にやろうかな」


 エスメラルダは何も変わっていないのに、呼吸が乱れることもなく、余裕綽綽の表情でゼルドラドの動きについてきている。

 

「ほらほら、もっと頑張れ~」


 全力の拳も、蹴りも、ここまで積み重ねてきた全てを無駄だったと突きつけるように笑いながら軽々と防がれる。

 嫌でも思い知らされる。これが自分と奴の差なのか、と。

 だが、それでも折れてはいけない。復讐を果たすまで折れてはいけないのだ。


「ゼルドラドさん!」

「おっ、リリィちゃん戻ってきた。リリィちゃんは私にダメージを与えられるチャンスだぞ~。なんたって私からはリリィちゃんに攻撃できないからね! 頑張れ頑張れ! アハハハ!」


 激しい攻防が続くなか、顔にかけられたエスメラルダの血を拭ったリリィも攻撃に参加する。


 ──しかし、それでも状況は大して変わらない。


 固有魔術発動中のリリィと半人半龍状態のゼルドラド。

 数的にも二対一と有利な状況なのに、エスメラルダは本気を出すことなく、楽しそうに応戦している姿は、正真正銘の化物だと思い知らされる。 


「ゼル。今ゼルが考えていることを当ててあげようか? 二人でも勝てる未来が見えない。まだ大好きなお姉ちゃんを超えることはできない」

「──ッ! うるさい! 黙れ!!」


 考えるな。考えてはいけない。

 そう思うほど、顔に出ていたのか、エスメラルダに考えていることを言い当てられ、ゼルドラドは動揺を見せてしまう。

 その反応を愛おしく感じたエスメラルダはニタリと笑う。

 一瞬動きが止まったゼルドラドの顔を鷲掴むと、エスメラルダはそのまま地面へ叩きつけた。


「私との差を埋めたいなら私以上に強くなる努力しないと。追い抜きたいならもっとね。でも残念。ゼルが成長するように私も成長するから差が埋まること──ましてや追い抜くことなんて絶対にない。まあ、ゼルが固有魔術を使えば、まだわからないかもだけど」

「──ッ!? なぜ我の固有魔術のことを──」

「ゼルドラドさん!」


 もう一度ゼルドラドを地面に叩きつけようとするが、その前にリリィの魔術が飛んできたため、エスメラルダはゼルドラドをリリィに向けて勢いよく放り投げた。

 既に衝突は免れない距離。リリィは『暴食の魔王』を身体で受け止めることにしたが、予想以上の勢いを殺しきれずに、ゼルドラド共々建物まで吹っ飛ばされてしまった。


「なるほど。直接攻撃するのは駄目だけど、ゼルを使っての攻撃はダメージが返ってこないと」


 エスメラルダはゆっくりとリリィたちとの距離を詰める。


「で、話の続きだけど、お姉ちゃんはゼルの固有魔術を見たことないけど、どんなものかは知っているわ。そして、その固有魔術は使いたくても使えないのよね。それを使えば、リリィちゃんやゼルの従者、その他大勢に迷惑をかけることになる。私とゼルの一騎打ちならそんなこと考えなくて良かったの──」


 言葉を止めると同時に、エスメラルダは歩みを止めた。

 そして、何かの気配を察知したのか、彼女の視線はそれまでリリィたちに向いていたが、近くの建物の屋根の方へと向く。


 それに倣うよう、リリィもエスメラルダの視線の方を見ると、そこには死の最上級精霊──ペディストルが高みの見物と言わんばかりに戦いを眺めていた。

明日は午後8時に更新します。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
― 新着の感想 ―
[一言] 復帰していただき嬉しいです 書籍版の続きを読みたいけどなろう版も休止中、もしかしたら完結まで読めないの?と戦々恐々でしたから 万全に回復してからでも…と個人的には思いますが色々あるでしょうか…
[一言] 前進し続けるためには、時には大きな力が必要です。よくできた。
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