表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第五章 幼馴染再会編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

158/190

ゼルドラドとエスメラルダ

 ゲーム開始の宣言から15分が経過しようとしている。


 それぞれの場所で戦闘が繰り広げられているなか、ゼルドラドの従者であるメイリアもまた、戦闘中だった。

 相手は魔物でもなく、エスメラルダが用意した追加の敵でもない。

 強制的に参加することになった冒険者の一人だ。

 

「お前を殺せば、俺は──」


 この者は既に仲間だった冒険者を二人殺している。

 元々は四人一組のパーティーだった。

 しかし、ゲーム開始から少しして彼らを襲撃する者が現れた。

 無論、エスメラルダが追加した四人のうちの一人である。

 リリィの前に現れた敵と同様に、パーティーの一人を殺害し、残りのメンバーをあえて残して姿を消した。


 違ったのは、そのパーティーの一人──メイリアを殺そうとしている冒険者が混乱と恐怖で自分の仲間を殺したということ。

 その時の記憶は鮮明には覚えていない。

 だが、終わって自分がやったということはわかる。

 後悔や絶望に心が折れそうだったが、この冒険者は自分が犯した罪を正当化し、それから逃れることにした。


 あの状況なら仕方ない。

 自分だって生き残りたいのだ。

 油断していたあいつらが悪い。


 そして、仲間二人を殺した冒険者は偶然メイリアを見つけ、背後から攻撃を仕掛けたのだった。

 

 奇襲をかけられたメイリアだったが、こうして今も冒険者の相手をしていることからわかるように、問題なく防いだ。

 まあ、奇襲と言っても殺気は丸出しだったのだ。

 そのうえ、彼女はゼルドラドの従者。

 ゼルドラドの従者に相応しい存在であり続けるために鍛錬は怠らなかったし、より高みを目指すために『強欲の魔王』から直々に指導も受けている。

 そんな彼女が平凡の冒険者に後れを取るわけがない。


 ──取るわけがないのだが、回避に専念しているメイリアは目の前にある問題に頭を悩ませていた。


(説得は……大人しく聞いてくれるわけないから、やっても無意味。あの様子だと参加者を二人殺して、あとは私を殺せばこのゲームから解放される、と言ったところですか……)


 やろうと思えば簡単に殺せるが、エスメラルダのゲームに巻き込まれ、挙句の果てに殺されるのは少し可哀そうと考えるメイリア。

 と、同時に、仕掛けてきたのは向こうだし、仲間、もしくは他の参加者を殺したのだから殺されても文句は言えないだろうとも考える。

 

(──無意味な殺生をしてまでクリアするつもりはないですし、ここは適当に無力化して終わらせた方がいいですね)


 メイリアは迫り来る冒険者の剣を自前の剣で軽々と弾き飛ばす。

 冒険者の剣は宙で数回転し、地面に突き刺さった。

 思わず後ろに倒れる冒険者。

 すぐに立ち上がって剣を取りに行こうとしたが、メイリアの剣先が自分の喉に触れるギリギリのところにまで迫っていた。


「相手が悪かったですね。これで終わりです」

「……くっ」

「さて。一応殺しはしませんが、ここで逃がせば他の参加者を殺しに行きそうですし、拘束して時間まで見つからなさそうなところに──」


 メイリアは言葉を止める。

 背後に気配を感じたからだ。

 振り返ると少し遠くの方で何者かが立っている。

 それは黒いローブを纏っていた。

 素顔は仮面によって隠させているせいでわからない。

 体格は細身ではあるが、長身で男性の肉付きに近い。


「黒いローブ……」

「あ、あいつだ……。あいつが……」


 未だに倒れている冒険者は震えた声で言う。

 あれがエスメラルダが追加した四人のうちの一人。

 それならこの異質な感じにも納得できた。

 

 こうして現れた以上、戦闘は避けられないだろう。

 勝算があるかと問われれば、微妙なところではある。

 勝てると判断するには情報が少ない。


 油断せず剣を構えるメイリア。

 同時に黒ローブは地を蹴って彼女に迫る。

 

 接触まで一秒もかからなかった。


 黒いローブは紫紺色をした刀身を振り下ろし、メイリアはそれを自身の剣で受け止める。

 重い──が、押し潰されるほどではない。

 とはいえ、このまま拮抗した状態が続けば余計な疲労が蓄積する。

 メイリアは受け止めている敵の剣を自分の剣の刀身で滑らし、それによって生まれたわずかな隙を逃すまいと黒いローブの顔面目掛けて蹴りを放った。


「ハァッ!!」

 

 しかし、彼女の一撃は虚空を蹴るだけに終わる。

 黒いローブはメイリアの蹴りを上体を逸らして回避。

 敵でなければ、その優れた反射神経を素晴らしいと賞賛する。

 ──が、この状況でのそれは、単純に厄介なものでしかない。


 虚空を蹴ったことによって、今度はメイリアの方に大きな隙が生まれる。

 当然黒いローブもまた、その隙を見逃すまいと攻撃に転じるが、すぐさまメイリアは体勢を立て直して距離を取った。

 そして、メイリアは一呼吸挟み、状況を整理する。


(まあ、躱されるのは想定内と言えば想定内。驚く必要はまったくない。自分に自信はあっても向こうの実力は未知数だから慢心はしちゃ駄目。ここは本気で確実に仕留めに行くべき)


 メイリアは剣を構え直す。

 後ろで倒れている冒険者には自力で避難してもらうとして、今度はこちらから仕掛けようと考えるメイリア。

 だがしかし、彼女が一歩踏み出そうとした次の瞬間、上空から何やら小さな影がメイリアたちのいる場所へと墜落した。


「な、何が……」

 

 突然のことに更に警戒を強めるメイリアだったが、その姿を見てすぐに誰が来たのかわかった。


「ぜ、ゼルドラド坊ちゃん!?」

「ふぅ、ようやく出られた。メイリア、無事のようで何よりだ」

 

 上空から落ちてきたようだが、ゼルドラドは無傷。

 何者かの攻撃でここへ飛ばされたわけではないとメイリアは安堵した。


「今まで何処に? ここへ転送されてすぐに『魔力感知』で探しても見つかりませんでしたし……。範囲外にいるとも考えましたが……」

「ここに飛ばされて早々に結界内に閉じ込められていたのだ。時間で解除されるようだったが、それをじっと待つわけにはいかなかったからな。少し手こずったが、力ずくで抜け出してきた。それよりもあいつをどうにかした方がいいだろう」


 ゼルドラドは黒いローブの方へ目を向ける。

 だが、ゼルドラドはそれを見て少し首を傾げた。


(……あいつから感じる魔力。我は最近、あの魔力をどこかで感じたことがあるような……)


 過去を思い出してみても、今の時点ではどこで感じたのか思い出せそうにない。

 ゆっくり思い出す時間もなさそうと、ゼルドラドは黒いローブへ右手の平を向け、ぐっと握って閉じる。


 それは、一瞬の出来事だった。


 一口で獲物を喰らうように、大きく口の空いた金色の竜頭が黒いローブの足元に現れ、そのまま標的を喰らうと姿を消した。


「さ、さすがです、ゼルドラド坊ちゃん……」

「この程度、褒められるほどのことでもない」

「敵は胃袋のなかですか?」

「異界とやらの者だし、希少なスキルがあれば消化して獲得を試みようとしたが、少しあの黒いローブについて気になることがあったからな。ゆっくり確認する時間はないから、とりあえず消化はせずに胃袋のなかに入れておくことにした」


 ゼルドラドのユニークスキル『暴食』の能力の一つに、対象を食らった際、その対象を消化して所持しているスキルを確率で獲得することができる能力がある。

 ただし、希少なスキルほど獲得できる確率は低くなり、一度に獲得できるスキルは最大で3つまでとなっているため、欲しいスキルを確実に獲得できるというわけではない。


 ゼルドラドは一拍置き、軽く息を吐いてから再び口を開く。


「メイリア、貴様はそこの男を連れてここから離れろ」

「ど、どうしてですか? 合流したのだから一緒に行動した方が良いと思いますが」

「すぐに戦闘が始まるからだ。今回ばかりは次元が違う。因縁もあるしな」

「……私では足手まといということですね。かしこまりました」


 他に何も言わなかったメイリアだったが、彼女は悔しそうな表情を浮かべていた。


「それと、男」

「は、はいっ!!」


 見た目が子供だろうと逆らってはいけない。

 冒険者はそう直感して素直に返事をした。


「メイリアは我の大切な従者だ。到底無理な話ではあるが、メイリアに傷一つでもつけてみろ? その時は貴様だけでなく、貴様の家族、友人、恋人──その全てを我が喰らう」


 今まで遭遇してきたどんな魔物よりも恐ろしい存在を目にしている。

 鋭い目つきで睨まれた冒険者は漏らさないようにするだけで精いっぱいだった。

 そんな冒険者にゼルドラドは更に追い打ちをかける。


「今言ったことは脅しでないからな」


 冒険者は声が出なかったが、何もせずに黙るわけにはいかないと、必死に頭を縦に動かしてメイリアに危害を加えないことを示した。


 そして、次の瞬間にそれはやってきた。


 突如近くに現れた禍々しい気配。

 ゼルドラドは平然としていたが、他二人は違った。

 メイリアは額に数滴汗が。

 冒険者に至っては大量の汗だけではなく、身を震わし、ひどく怯えている様子を見せていた。


「おい、さっさと出てこい!」


 ゼルドラドに声をかけられると禍々しい気配の持ち主──エスメラルダが建物同士の間から彼らの前に姿を現す。

 第4階層の安全地帯の街で感じた時とは比べ物にならないくらい、より凶悪で、より邪悪な気配がエスメラルダから放たれていた。


『そこそこ硬めの結界だったから、出るのにもう少し時間がかかったと思ったけど、意外と早く結界から出られたのね。成長はしているみたいで嬉しいわ。背丈は相変わらずみたいだけど』

「貴様に褒められたところで何も嬉しくない。ところで、異界の言葉を理解できるようにスキルを使っているみたいだが、()()()()()()()()()()()()()()()()。こっちの言語で話せ」


 臆することなく堂々と話すゼルドラド。

 エスメラルダは自分の喉を触り、何度か発声する。

 それは紛れもなく、この世界の言葉だった。


「あ、あー、これでいいかな。可愛い可愛いゼルの頼みだから仕方なくこっちの言語で話してあ・げ・る」

「ゼルドラド坊ちゃん、あの女とお知り合いですか?」


 まるで昔から面識があるような素振りを見せるエスメラルダを見て気になったため、メイリアはゼルドラドに問うことにした。


「そういえば、私がゼルたちの前に現れた時、何も言わなかったわね。私はてっきり私たちの関係を言うのかと思ったわ」

「あの場で言えば余計な混乱を与えるだけでメリットは何一つない」

「確かに。でも、ここまできたら隠す必要もないんじゃない? というわけで、ゼルの従者のためにも改めて自己紹介でもしましょうか」


 そして、不気味に笑う緑髪の女性の口が再び開いた時、そこから耳を疑う言葉が出た。


「私の名前は、エスメラルダ・ヴァン・バルトハルト」 

「…………え? その家名って……」 


 大きく目を見開き、自分の主の顔を見るメイリア。

 驚くのも無理ない。

 彼女の瞳に映る『暴食の魔王』──ゼルドラド・ヴァン・バルトハルトは表情を変えないまま、同じ家名を名乗る女性を見つめていた。

 メイリアは一瞬疑ったが、見つめるだけで何も言わないゼルドラドからエスメラルダの言ったことは真実だと断言できる。


「ええ。察しの通り、ゼルと私は血の繋がった姉弟。いつも弟が世話になっているわね。大変でしょ? この子の世話をするの」

「本当に、あの女がゼルドラド坊ちゃんの姉……」


 あからさまに動揺を見せる自分の従者を一瞥し、ゼルドラドは姉と名乗る人物を睨み付けながら、ようやく口を開いた。


「過去の話だ。己が強くなるためだけに、我以外の里の者を殺した貴様のことを姉と呼ぶつもりはない」

「そんなこと言われるとお姉ちゃん、泣いちゃうわ」


 両手を顔に持ってきて泣き真似をするエスメラルダをゼルドラドは不愉快に思う。


「まあ、本当に泣いたりはしないけど。というか、強くなるためって言うなら、ゼルも同じじゃない? 同胞を食べて強くなったんでしょ?」

「……ああ、そうだ。辛うじて息があった者もいたが、当時の我では『治癒魔術』を使ったところで無意味だった。何もできない弱い自分を憎み、恨んだ。それを見て(みな)が我に多くの力と想いを託してくれたのだ。貴様を殺すためにな!!」


 怒りが表情に現れているゼルドラドに対し、エスメラルダは心を躍らせていた。


「ふーん。じゃあ、いつも私に負けて泣きべそかいていたゼルが、この数百年でどのくらい強くなったか見せてみなさいよ!」


 エスメラルダが動く。

 一時も目を離していなかったにもかかわらず、気づけばエスメラルダは姿を消していた。

 そして、次に姿を現した時にはゼルドラドの顔寸前まで拳が迫っていた。


 接触までコンマ数秒もない世界。

 だがしかし、こうなることを最初から予知していたかのようにゼルドラドは最小限の動きで回避し、そのままカウンターを入れようと『暴食の魔王』の拳がエスメラルダの顔へ向かう。


「おっと危ない」

 

 微塵もそう思っていない様子で、迫り来る拳をエスメラルダは受け止める。


「まあ、これくらいは出来て当然か。それじゃあ次、行くわよ」


 そして、ゼルドラドの腹部にエスメラルダの蹴りが直撃する。

 この時、ゼルドラドはエスメラルダの次の攻撃動作を見て、顔面へ迫る攻撃を防ごうとしていた。


 メイリアから見えた景色は、ひと時も目を離していなかったにもかかわらず、気づいた時には吹っ飛ばされていたゼルドラドの姿。


 あの時もそうだった。

 リリィと話をするために場所を移動した時。

 あの時も気づけばエスメラルダは気づけばリリィの前に立っていた。

 そして、その光景はあの場にいた誰もが理解できなかった──いや、ゼルドラドだけは何か思い当たることがあるような表情をしていたかもしれない。


「大丈夫。私が鍛えてあげたんだもの。ゼルがあの程度の攻撃で動けなくなるなんて心配は不要よ。ほら」


 メイリアたちとの距離は、ほんの数メートル。

 実際は距離など、エスメラルダには関係ない話だろうが、それでもこの距離であればメイリアたちを殺すのも容易。

 それによりゼルドラドの怒りを買うこともできるだろう。

 だが、目の前にいる緑髪の女性は、そうするつもりはない様子を見せる。

 そして、自分たちは眼中にないということも。


 エスメラルダはゼルドラドに夢中だ。

 すぐ近くにいるメイリアのことなど一切見ていない。

 だからといって、隙だらけに見えるエスメラルダに攻撃を仕掛けるほどメイリアも馬鹿ではない。返り討ちにされるのが、本能で理解していた。


 エスメラルダの言う通り、頬に殴られたような跡が残っているが、ゼルドラドはゆっくりと立ち上がり、因縁の相手のもとへと向かう。


「やはり貴様の魔術──『時空間魔術』は知っていても非常に厄介だな」


 世界には多くの種類の魔術が存在する。

 よくある炎や水などの一般的に知られている魔術の他に、世界中を探しても扱えるのは数人しかいない特殊な魔術もある。

 そして、エスメラルダが持つ『時空間魔術』もまた、特殊な魔術の一つだ。


 この『時空間魔術』は、時間と空間を操る魔術。

 ゼルドラドの顔面に蹴りを入れられたのも、時を止め、その間に移動して攻撃を仕掛け、当たる直前で術を解除したから。


「まあね。私の『時空間魔術』を対策しない限り、ゼルに勝ち目はないけど、私を殺すつもりなんだから無策ってわけでもないでしょ?」


 時を止められてしまっては、どうしようもないだろう。

 だがしかし、知ったところで優位に立てるわけではないが、決してゼルドラドが圧倒的不利というわけでもない。


 エスメラルダが所持している攻撃系魔術スキルは『時空間魔術』のみ。

 それ以外の魔術スキルは回復系の『治癒魔術』を所持しているが、他属性の攻撃系魔術スキルは所持していない──というより、ありとあらゆる手段で何度も試したが、獲得することはできなかったのだ。


 理由は不明だが、『時空間魔術』があまりにも強すぎるから、バランスを取るために他の攻撃系魔術スキルを獲得できないのだろうと、エスメラルダは自己完結している。


 そして、エスメラルダが扱う『時空間魔術』には、時を止められる時間に上限がある。

 上限を超えると自動的に静止した世界は動き出し、また、上限関係なく、次の発動までにインターバルがあるため、即座に発動することはできない。 


 最後に『時空間魔術』の影響を受けない方法に、魔道具を用いた方法が一応存在する。

 非常に希少であり、入手は極めて困難な魔道具だが、ゼルドラドはエスメラルダとの戦いに備え、時止めを無効にする指輪型の魔道具を入手していた。


 ちなみに、その魔道具があればエスメラルダに蹴り飛ばされることはなかっただろう。

 しかし、転送先が自身を閉じ込める結界内だったこと。

 それを破壊するのに専念し、破壊後にメイリアのもとへ駆け付けて、すぐにエスメラルダと戦闘が始まったことも重なって装備し忘れていた。


(我としたことが……。今回ばかりはエルトリアや他の『魔王』たちに馬鹿にされ、笑われても仕方ないことだな)


 無論、今はしっかり装備している。

 蹴り飛ばされた場所で装備したため、エスメラルダはまだ気づいていないが、気づくのも時間の問題だろう。


「焦らずともすぐにわかる」


 深く呼吸し、狙いを定める。

 姿勢を低くし、両足に力を込める。

 その後、溜めた力を爆発させるが如く、大地を強く蹴り、目で追い切れないほどの速さでエスメラルダに接近。

 速度の乗った拳をエスメラルダは両腕を交差して防ぐが、耐えきれずに殴り飛ばされる。

 しかし、彼女の表情は苦痛で歪んでいるわけではなく、今の一撃に成長を感じているのか、その顔には笑みが窺えた。

 

 透かさずゼルドラドは追撃を仕掛ける。

 両手を合わせるように叩くと同時に、体勢を立て直したエスメラルダを挟み込むように2つの黄金の竜頭が現れた。

 そして、衝突と同時に爆ぜる。

 普通なら今ので終わりだろうが、この程度で倒せる相手ではないことをゼルドラドはよく知っている。


「いつまでそこにいるつもりだ。巻き込みたくないから早く行け」


 瞬く間に起こる出来事に言葉を失っていたメイリアだったが、ゼルドラドに言われると、すぐに冒険者を連れてこの場から去った。

 

「さて」


 拳を構え直すと同時にゼルドラドの真横が歪み、空間が割れる。

 そこからエスメラルダがニタリと喜びの笑みを浮かべながら現れ、拳を振るおうとする。

 ゼルドラドの反応し、焦りなど一切見せずに対応する。


「いいわ! もっとお姉ちゃんにゼルの成長を見せて!!」


 第三者の割り込む隙など微塵もないほど、激しい拳と拳、蹴りと蹴りの応酬が繰り広げられる。


 ゼルドラドは時折予想だにしていない場所から来る攻撃に舌打ちし、エスメラルダは弟の成長に歓喜し、攻撃の手を緩めない──むしろ速度を上げている。 

 そして、こうしている間にエスメラルダは気づく。

 

「ねぇ、ゼル? お姉ちゃんの時止めがゼルに通じなくなっちゃったんだけど?」


 繰り広げられる応酬の激しさは収まらないまま、エスメラルダはゼルドラドに問う。

 何度も時を止め、ゼルドラドの動きを止めようとしたが、周囲の時は止まってもゼルドラドの動きは止まらなかった。

 理由は必ずあるが、素直に答えてくれるわけないだろうと考えたエスメラルダはゼルドラドをよく観察する。

 視線を右手の方に向けると、少し前にはなかったものが指にはまっていた。

 

「あら、素敵な指輪ね。いつの間につけたの?」


 蹴り飛ばした時にはつけていなかった指輪の存在にエスメラルダは気づいたが、だからといって、ゼルドラドが焦るわけでもない。


「最初からつけていたぞ」

「嘘はよくないなぁ。ゼルのことは最初からちゃんと見ていたのよ? その指輪、私に蹴り飛ばされた後につけたんでしょ。オシャレでつけたとは考えにくいし、何か別の理由がある。そうねぇ、時止めを無効化する魔道具かしら。そんな魔道具があるって聞いたことある気がするし」


 反応は見せなかったが、ゼルドラドの違いはそれだけなため、ほぼほぼ間違いないとエスメラルダは考える。


「まあ、時止めを無効にしたからって、私に勝てるわけじゃないけどね! 魔術無しの勝負でも私の146勝0敗3引き分けで、私が圧倒的に勝っているんだから」

「なら、今日貴様に初めて黒星をつけてやる」


 これは稽古ではなく、殺し合い。

 相手はそう思っていなくても、ゼルドラドはエスメラルダを殺すつもりでいる。


 それは一対一でなければならない──というわけではない。

 可能なら復讐は自分の手で果たしたいが、エスメラルダを殺せるなら他の者の手を借りてもいい。


「……あら、私たち姉弟の戦いに乱入してくる子がいるみたいね。本当はこうなることもわかっていたけど」


 エスメラルダは一度ゼルドラドから距離を取る。

 その距離を詰めることも出来たが、ゼルドラドはそれをしなかった。

 そして、二人の間に割り込むように空から降ってきた人間──リリィ・オーランドがエスメラルダに問う。


「エスメラルダ、あなたに聞きたいことがあります」

「リリィ・オーランドか……?」


 気配で誰かはわかっていた。

 だが、気のせいかもしれないが、ゼルドラドは今までのリリィの雰囲気が少し違うような気がした。


「フフッ。リリィちゃん、そんな怖い顔をしないで。可愛いお顔が台無しよ」


 ふざけるように言うエスメラルダだったが、リリィは真剣だった。

 それを見てエスメラルダは深く息を吐き、口を開く。


「リリィちゃんの口から言わなくてもわかるわ。聞きたいことっていうのは、リリィちゃんが殺したアレについてでしょ」

「……幼少の頃の私と同じ顔でした。アレはいったい何なんですか!? どうして私と同じ顔をしているんですか!?」

「悪いけど教えられないわ。どうしてもって言うなら、私を倒して聞き出すことね」

「そうですか。わかりました。ゼルドラドさん、私も一緒に戦います」

 

 戦う気満々のリリィは援軍として正直ありがたい。

 だが、エスメラルダと戦うには、まず『時空間魔術』をどうにかしないと話にならないが、ゼルドラドの指輪は残念ながら一つしかないため、リリィに貸すことはできない。


 ゼルドラドはリリィの横に立ち、エスメラルダのことと自分が知っている能力について手短に説明をする。

 姉であることは言おうか迷ったが、隠したところでエスメラルダが言うかもしれないことを考慮して伝えたところ、リリィはあまり驚いた様子を見せなかった。

 それよりも今はこれから始まる戦いに集中している。


「なるほど。だからエスメラルダがこちら側の世界の言語で話していたと。もう少し詳しく話を聞きたいところですが、そんな時間はなさそうなので後にしますね」

「あ、ああ。しかし、どうする? こうして来てくれたのはありがたいが、奴の『時空間魔術』がある以上、貴様はまともに戦え──」

「それについては問題ありません」


 リリィは自信あり気に言い切った。

 リリィは『聖魔女』になってから、強力な魔術を多数使えるようになった。

 その中には奥の手とも呼べるほどの威力を持つ魔術も存在するが、真の奥の手は他にある。


 それは未だに完成しておらず、多くの改良の余地がある魔術。

 だがしかし、発動自体は可能な魔術だ。

 エスメラルダと戦うには、それを使うしかない。


 リリィの真の奥の手。

 その正体とは、独自の術式と誰にも真似できない発想で生み出す、術者本人以外には使用不可とされている魔術。


 ──名を『固有魔術』という。

(『固有魔術』……。決して忘れていたわけではありません。使う場面がなかなか無かっただけです……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★書籍版公式ページはこちら!! 書籍、電子書籍と共に12月9日発売予定!

奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
― 新着の感想 ―
[一言] 更新が止まって早ひと月。活動報告を見ても特に更新がなく、以前何度か体調を崩されていたようなので今回もそうなのかなと心配です。自分もここ最近になって回復しましたが、2年程ずっと体調を崩しており…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ