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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第五章 幼馴染再会編

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事情聴取

 グランドラムさんたちを連れて安全地帯にある街の宿へ。

 下の階層に行くにつれて訪れる冒険者の数も減ります。

 それにより営業しているお店は少なくなっているみたいですが、宿は最も必要とされる施設のため、普通に営業しています。


 負傷者は全部で5人。

 何があったのか詳しい話を聞こうにも、負傷者の怪我を治さないと始まりません。

 ギリギリ一部屋に全員入らなかったので、部屋を二つ用意してもらいます。

 一つの部屋にはグランドラムさんとマルベリーさんを。もう一つに残りの騎士たちを寝かせ、そちらの治療はシャルさんが立候補したので任せました。 

 私はグランドラムさんとマルベリーさんの治療を行います。


 人数も少ないため、治療はそこまで時間がかからず終了。

 今は全員疲労が蓄積しているのもあって眠っています。

 話を聞きたいことろですが、たたき起こして聞くわけにもいきませんし、目が覚めるまで待つ以外なさそうです。

 

「うっ……」


 別の部屋にいる騎士たちの様子でも見に行こうと思っていると、ベッドの上で寝ていたグランドラムさんが目を覚まします。


「ここは……」

「グランドラムさん、大丈夫ですか?」

「貴様は……」


 グランドラムさんは周りを見て状況を少しずつ理解したのか、身体を起こして私に頭を下げてきました。


「貴様ら──いや、君たちのおかげで、こうして生き延びることができたのだろう。心から感謝する」

「そんな、当然のことをしたまでですよ。お身体の方、大丈夫ですか?」

「問題ない。マルベリー以外の騎士たちは?」

「彼らの治療も終わって、今は隣の部屋で休んでいます」

「そうか。本当に感謝している」

「いえ。それよりも、いろいろと聞きたいことがあります。もちろん厳しいようであれば、少し時間を空けてからでも──」

「いや、私なら大丈夫だ」


 グランドラムさんがそう言うので気になることを質問していきます。


「わかりました。では、グランドラムさんたちは、この第4階層にいたんですか?」

「違う。我々は第5階層にいた」


 第5階層。その言葉を聞いただけで、どうしてあんな満身創痍な状態だったのか想像できますね。


「でも、説明会があった日から今日までの時間で第5階層まで行けるとは……」


 ゼルドラドさんだったら『魔王』ですし、メイリアさんを抱えて行けばあるいは、と考えられますが、グランドラムさんを含む騎士のほとんどは人族でしょう。そうなると体力的にも厳しいはずです。


「我々は特別に受付で借りることのできる魔道具とは別の魔道具も所持している。それを使うと予め設定していた場所へ転移できるのだ」

「なるほど。それで短時間でも第5階層に行けたということですか」


 私が個人的に気になったことを聞きましたが、これはちょっと話の本筋からズレている気がしますので戻します。


「第5階層でグランドラムさんたちに何が起きたのか、可能な限りでいいので教えてもらっていいですか」

「……あれは本当に突然の出来事だった。私を含めた16名で第5階層の探索を行っていたのだが、我々の前に一人の女が現れたのだ」

「女性、ですか」

「このダンジョン攻略中で見たことない、長い緑髪で黄金色の瞳を持つ女だ。最初は我々に話しかけてきたようだが、使っている言語が異なるのか、内容が理解できなかった」


 もともと異界人の可能性が高いと考えていましたが、グランドラムさんの言葉で、ほぼほぼ確定と考えていいでしょう。

 やはり目的は『勇者』または『魔王』の殺害でしょうか。


「その後、我々が言葉の理解をできていないことに気づいて、我々にもわかるように同じ言語で話し始めた」 

「それでその人はなんて言っていましたか?」

「確か「期待できないけど、ちょっと遊び相手になってよ」と言われた。我々はダンジョン攻略で忙しい身だ。そもそも得体の知れない相手に付き合う義理はなかったが──」

「ん……」


 話の途中でしたが、もう一つのベッドで寝ていたマルベリーさんが目を覚ましたようです。

 ゆっくりと身体を起こし、周りをキョロキョロと見ます。 


「あれ、団、長……? どうして、私、こんなところ、に……」


 そして、徐々にその時の記憶が蘇ってきたのか、マルベリーさんの顔は青褪めていき、呼吸が荒くなり始めました。

 言うまでもなく、放っておけない状態です。


「ああ、ああぁぁぁ……。あああぁぁああ!! 死んだ、みんな死んだ! アンセムもみんな死んだ。みんなみんなみんな──」

「バエル!」

「かしこまりました」


 錯乱しているマルベリーさんをこのままにしておくのは不味いと判断した私はバエルに頼んで『睡眠魔術』で再び眠ってもらいました。

 今ので大方察しましたが、植え付けられたトラウマは消えないし、眠らせたのだって問題を先送りにしただけで解決していない。

 でも、咄嗟に思いついた方法がこれ以外になく、あのままだと話も進まなかったので、仕方ないと考えています。


「手間をかけさせた。すまない」

「ああなって当然のことが起きたのだと理解しています」

「話を続けよう。その女の話に乗るつもりはなかったが、説明会で私とマルベリー以外にもう一人騎士がいたのは覚えているか?」

「はい。ダークエルフの男性ですよね」

「名をアンセムと言う。彼の性格は私もよく知っている。挑発されて頭に来たのだろう。アンセムはその女に挑んだ。しかし、始まって早々、女はアンセムの胸を右手で一突き。心臓を抉り取られ、握り潰された。即死だ。『治癒魔術』で治せる範疇を超えているため、どうしようもできなかった」


 ペディストルの分身体ですら、すぐにやられるのです。

 アンセムさんの強さは説明会の時に何となくわかっています。

 それを知った上でこう言ってしまうのは悪いですが、アンセムさんはペディストル以下の強さです。やられてしまうのも当然と言えてしまいます。


 そして、アンセムさんの仇を討とうと全員でその女性に挑んだそうですが、結果はわかりきったもの。

 全体の半数以上が死亡し、悲惨な状況に撤退な強いられた彼らは、グランドラムさんが持っていた受付で借りられる魔道具を使用して第5階層の安全地帯まで。

 運よく魔道具を持っている人はもう一人いたため、第4階層へ到着後、その人の魔道具を使って第4階層の安全地帯まで来て、今に至ると。


 とりあえず今は無事だったことを喜ぶべきか。

 いや、そうも言っていられないでしょう。

 私の予想が的中しているなら、そう時間も経たずにこの第4階層が次の戦場になります。

 

「グランドラムさんは自分を含めた16人で第5階層を攻略しようとしていたんですよね」

「ああ」

「受付の際に魔道具は何個借りましたか?」

「我々は基本的に四人一組で行動しているから4つ借りた」

「4つ……。それらはその時全て使用可能でしたか? あと、その魔道具はすぐ使える状態の場所にありましたか?」

「魔道具は全て使える状態だった。それと、二つ目の質問だが魔道具を【異次元収納箱(アイテムボックス)】に入れると緊急事態に遭遇した場合、焦りが生じて取り出すのに時間がかかったり、別のものを取り出してしまうケースが何度かあった。それを考慮し、魔道具だけが入った袋を腰につけていた。もちろん落とさないように細心の注意を──あっ……」


 どうやら気づいたようですね。

 あとは向こうの判断次第なので、まだ確定とまでは言えませんが、私の予想はほとんど的中していると考えていいのかもしれません。


「どうしたんだよ、リリィ嬢」

「デオンザール。この場で状況を理解していないのは君だけだ。まったく、おかげであのヤバい奴がすぐ来るかもしれないよ」

「グランドラムさんの判断も今の話を聞いたら、納得はできますし、必ずしも間違っていた判断ではないと思うので、あまり責めないように」

「ど、どういうことなんだよ!?」


 ペディストルに言われてもデオンザールは気づいていないようです。


「グランドラムさんは第5階層からここに来るまでに魔道具を2つ使いました。そして、残り2つは殺害された騎士が持っている、そうですね」

「……そうだ」

「その2つは例の女性の手に渡った可能性が高いと考えられるんですよ」


 グランドラムさんたちは例の女性と戦い、結果的に撤退することになった。

 その際に使ったのは、私も借りている魔道具。

 戦闘が起きた場所と魔道具を使った場所はどちらも安全地帯の外。

 完全に気配を消していたペディストルの分身体を二回も見つけることができるんです。近くにあった気配が急に別の場所に移動したことなんて容易にわかるでしょう。


 移動方法は魔術かそれ以外かの二択。

 まあ、向こうからすればどちらでもよかったと思います。

 感じ取った気配の場所さえ、覚えてしまえば、あとはそこに向かって進めばいいだけですから。

 

 そのまま死体を無視して向かうことも考えられますが、グランドラムさんたちを見て、移動系の魔道具のことが頭の中に思い浮かべば、殺害した騎士が何か持っていないかチェックすることだって考えられます。

 これが【異次元収納箱(アイテムボックス)】に入れていたならまだ良かったですが、魔道具が入った袋を腰につけていたとなると、視界に入って見つけてしまうでしょう。


 見つけても警戒する人なら使わないかもしれませんが、とりあえず使ってみようと考えるなら、グランドラムさんたちが第4階層に戻ってきた時と同じ方法で来ます。


「さて、どうしましょうか……」


 なんて考えている暇はなさそうです。


「……来たね。あいつだ」


 ペディストルが凄く嫌な感じと言うのもわかります。

 邪悪というか、気味が悪いというか。

 何も変わっていないのになぜか呼吸しづらい感じというか。

 とにかく、出来ることなら一緒の空間には居たくない、そんな気配が遠くの方で感じ取れます。


 そして、気配が一瞬消えたと思ったら、すぐに現れました。

 場所は……第4階層にある街の出入口。

 つまり、もう近くにいる。

 このまま息を潜めても見つかるのがわかりきっています。

 であれば、こちらから出向くまで。


 私一人だけで行くことは当然許されるわけもなく、タルトたちやアドルたちと共に再び街の入り口に向かいます。

 到着するとそこにはグランドラムさんの話で聞いた緑髪の長身でスタイルもいい女性が立っていました。

 胸部分から下の布がない、へそが出た露出多めの服で、同じくらいの丈の上着を羽織り、黒いロングパンツの服装です。

 しかし、こうして間近で見ると、より嫌な感じがします。一瞬たりとも油断できません。

 

『あれま。わざわざ出迎えに来てくれるなんて思ってもいなかったから驚いた。しかもこんなに大勢で』

「……あなたが騎士たちを殺した人で合っていますね……」

『騎士? ああ、下の階層にいたやつら。そうよ、私が殺したの。全員大したことなかったわ。特にあのダークエルフ! 自信満々に先陣切ったくせに一発で死ぬんだもん! ダメ、思い出すと笑っちゃう。アハハハハ!』


 女性は口を押えて笑い出します。

 本当に不気味で近づきたくありません。


『はぁぁ~。急に笑い出してごめんね。とりあえず自己紹介でもしておく? 私はエスメラルダ。あなたのことはよく知っているわ。リリィ・オーランドちゃん』

「どうして私の名前を……」

『細かいことはどうでもいいじゃん。それよりさぁ、ここに残りの騎士たちいるでしょ。そいつらも殺したいから連れてきて、お願い』


 両手を合わせて可愛らしくお願いするエスメラルダ。内容はまったく可愛くないですけど。


「お断りします。殺されるのをわかっていて連れてくるわけないですよ」

『それもそっか。なら、連れてこなくていいや』


 意外とあっさり引き下がるんですね。


『さてと。言われていたあの子もちゃんといるし、そろそろ真面目に仕事しようかな──って思ったけど……』

 

 エスメラルダは私たちを見ると笑みを浮かべます。


『やっぱやーめた。ちょっとくらい遊んでも、やることさえやれば怒られないよね。せっかくだから、お姉さんとちょっとしたゲームでもしましょう』

「……ゲーム?」

『そう、ゲーム。ここに来た時にちょうどいい場所を見つけたの。この階層にめちゃくちゃボロボロだけど、大きな街があるのは知っているかしら?』

 

 私は知らなかったのでアドルに聞きました。

 この第4階層の名前は忘却の荒廃王国。

 第3階層の遺跡と同じように、見た目は荒廃と呼ばれているようにボロボロみたいですが、階層の中央には一つの大きな街が存在しているそうです。

 

『そこで勝負しましょ。参加者はこの階層にいる冒険者や騎士たち。ちなみに全員強制参加。時間はそうねぇ、長すぎてもあれだから1時間くらいでいいかな。詳しいルール説明は現地でやるから、サクッと移送を──』

「ちょっと待ってください!」


 勝手に始めようとするエスメラルダを止めます。

 この感じは拒否しても無駄で受け入れるしかない。

 それならこちらからもいくつか言いたいことがあります。

 こういう時は相手がどんなに恐ろしくても臆しちゃ駄目です。強気でいかないと。


「あなたのせいで負傷した人たちがいるんです。治療したとはいえ、まだ彼らは戦える状態ではないですし、あなたの言うゲームには参加させられません。それに、いくら何でも急すぎます。やるにしても準備する時間をください」


 交渉が通じるかは不明です。無理と言われたらそこまで。

 エスメラルダは私の言葉を聞いて考える素振りを見せ、少しして口を開きます。


『うーん、条件次第かな』

「……条件とは何でしょう?」

『この街っぽいところにいる奴らの参加は強制じゃなく任意にしてあげる。ただし、リリィちゃんたちは絶対に参加すること。始めるのも30分後にしてあげるわ。それが無理ならすぐに始める』


 絶対参加は私と従魔たち、ペディストルにアドルたち。そして、ゼルドラドさんとメイリアさん。あとは任意で参加。 

 最大限の譲歩と考えた方がいいでしょう。

 みんなも条件を受け入れたようです。

 まあ、条件を受けようが受けまいが、どちらにせよ参加することには変わらないので、受け入れるしかなかったというのが正しいですが。


「わかりました。その条件でいいです」

『ならスタートは30分後。時間まで私はここにある転移用魔法陣にいるから。逃げられるとは思わないこと。ああ、それと──』


 一度瞬きをしただけで、エスメラルダは私の目の前に立っていました。

 

『待ち時間は暇だからさぁ、リリィちゃん、話し相手になってよ。護衛なしの一対一の話。聞きたいこともあるんじゃない? もちろんゲームが始まるまで一切の危害を加えないことを約束するから』


 一人というのは不安ですが、考えようによっては異界の情報を引き出すチャンスとも捉えることができますか。


「……いいでしょう。タルトたちはついてこないでください」

「し、しかし……リリィ様の身に何かあれば……」

「キュイキュイ!!」

「そうだぜ! リリィ嬢を一人で行かせるなんて」


 タルトたちは心配している表情を見せて私に言います。


「危害は加えないんですよね?」

『ええ。約束を破ったらゲームの話はなし。全員見逃してあげる』


 自分からこの話を持ち掛けてきた。

 それなら約束を破ることは考えにくいでしょう。

 でも、油断はできないので、私は一定の距離を保ちながらエスメラルダと街にある転移用魔法陣へ向かいます。





 転移用魔法陣がある建物内に入った私とエスメラルダ。

 隣に座って会話をするつもりはないので、互いに壁に背を向け、対面した状態で話すことにしました。

 ちょっと距離がありますが、置いてあるものは少なく、声は反響します。喋っても聞こえないということはないでしょう。


『ああ言ったけど警戒されるのは当然か』

「…………」

『さて。30分──まあ、ここに来るまでの時間を引いたら30分もないけど、自由に質問できる時間よ。聞きたいことがあるなら、お姉さんが答えられる範囲で答えてあげる』

「……あなたは『勇者』と『魔王』を殺害しに来たんですか?」


 私が問うとエスメラルダは首を横に振りました。

 

『前にもそんなこと聞かれたなぁ。あの場に『勇者』と『魔王』はいたけど、今日は彼らを殺しに来たわけじゃない。というか、それは私のゴミ弟子たちの仕事。だから、私が彼らを殺す予定は今のところないわ』


 でも、騎士たちはどうでもよかったから殺したそうです。

 そして、雑魚だったけど無様な死に様や、悲鳴とかが聞けて意外と楽しかった、と言っていました。私には共感できない話です。


『そうそう。話が出たついでに、こっちの『勇者』と『魔王』を狙う奴らは7人いるんだけど、リリィちゃんは会ったことあったっけ?』

「ウォルディーグ? とアーデンハイドという人は。あとは、クラウスとシスティーナという名前は聞いたことがあります」


 ウォルディーグという名前はシャルルフォーグ学院の一件でメアリ先生から聞きました。

 あの時の会話の内容からオルフェノク地下大迷宮で会った人物で間違いないですが、今一度確認のために覚えている特徴をエスメラルダに言うと合っているようです。


『一応ウォルディーグとアーデンハイドは7人の中で一番と二番よ。ちなみにクラウスとシスティーナが私のゴミ弟子。元奴隷のカスでザコでゴミだけど、仕方ないからこっちの『勇者』や『魔王』と戦えるくらいまでには鍛えてあげたの』

「そうですか」

『まあ、あいつらは知らないけど、本当は意味のない戦いなんだよねぇ。結局一人も殺せないって決まっているし。計画のために必要なことだから適当な理由をつけて──』

「ま、待ってください。それって、どういうことですか……?」

 

 意味のない戦い?

 なら、その意味のない戦いでロザリーさんは意識不明の状態になって、目が覚めても会話がまともに出来なくなったということ?


 私が問うと今のは言ってはいけないことだったのか、エスメラルダは開いたままの自分の口を右手で押さえます。

 そして、頭を数回掻いた後、開き直ったかのように私の方を見ました。


『忘れさせようにも危害は加えないって約束したし、言っちゃったものは仕方ないか。このことは私たちだけの秘密ってことで、誰にも言わないでくれると嬉しいな。どうせ帰ったらバレて怒られると思うけど』


 それは無理ですね。あとでしっかり情報共有させてもらいます。


「……こちらの『勇者』たちの命を狙う7人とあなたの目的は違うんですよね。教えてください、あなたの目的は何なんですか?」

『ごめんねぇ。それはまだ教えられない。言ったらきついお仕置きを受けることになると思うから。まあ、いずれそのうちわかるよ』


 策なしに挑んだって返り討ちに遭う可能性の方が高いので、力づくで聞き出すのはやめましょう。

 

『他には聞きたいことない?』

「さっき「言われていたあの子もちゃんといる」と言っていましたよね」

『ああ……言ったね』

「……誰なんですか?」

『リリィちゃんじゃないよ。でも、教えない方が面白そうだから誰なのかは言わなーい。まあ、私の仕事はその子を連れて帰ること。これは終わったらリリィちゃんも知ることだから、先に教えておいてあげる』


 いったい誰を連れ帰ろうとしているのか……。

 いや、誰であろうと関係ありません。

 ゲームの参加者は全員私の知り合いです。


「そんなことさせません」

『無理よ。未来は変わらないから』

「まるで未来を知っている言い方ですね」

『知っているというか、最初からそう決まっているのよ』

 

 そういえば、さっきも「結局誰一人殺せないって決まっている」とか言っていましたよね。

 私のお父さんが『未来視』というスキルを所持しているということは、その上位互換のスキルがあってもおかしくない。

 それを所持している人がエスメラルダの仲間にいることも考えられる。


 でも、決まっているという点が引っかかります。

 過去は変えられませんが、未来なんて変えようと思えば変えられます。

 それなのに、なぜエスメラルダは自信を持って「最初からそう決まっている」と言えたのか……。


 その後も何度か気になることを質問しましたが、知りたい情報は適当にはぐらかされて教えてくれなかったり、どうでもいいことをエスメラルダが話し始めたりと、有益な情報と言えるものはあまりなく──


『戻ったら時間になるし、そろそろ行こうか』


 あっという間に時間が経ち、私たちは街の入り口方面まで戻ります。

 戻るとみんなが準備を整え終わって待っていました。


『全員揃っているね。じゃあ改めてルールの説明をしようか』

「待ちなさい!!」


 声の主はマルベリーさんでした。

 説明会の時に見た鎧姿でやってきます。

 でも、表情はあの時と違います。

 復讐心が籠った瞳でエスメラルダを睨んでいました。

 あと、ついでみたいに聞こえてしまいますが、隣には同じく鎧姿のグランドラムさんがいます。


『誰かと思えば、あの時殺し損ねた騎士その1とその2じゃない。武装しているということは参加するってことでいいわね?』

「よくもみんなを……! お前は絶対に私が殺す!!」


 マルベリーさんは鞘から剣を抜き、エスメラルダに向かって走り出します。

 エスメラルダは動く素振りを見せず、易々とマルベリーさんに接近を許します。

 そのまま上段の構えから剣を振り下ろすマルベリーさんでしたが、エスメラルダはそれを右の人差し指と中指で挟んで止めました。


『威勢のいい子は好きよ。壊しがいがある』

「──ッ!!」

『もし出会えたら相手してあげる』


 次の瞬間、マルベリーさんが姿を消しました。

 そして、次々にタルトやアドルたちが姿を消していきます。

 最後に残ったのは私とエスメラルダだけ。


『心配しなくても会場に移送しただけで全員無事よ。今のところはね』


 一応連絡を取れるタルトたちと念話に無事か確認しようとしましたが、その前にエスメラルダが口を開きます。


『リリィちゃん。さっき未来がどうのこうのって話をしたでしょ。本当はね、こうなることも最初から決まっていたの。私の存在を知った上で下の階層に行ったことも、ゲームを始めようとした時にリリィちゃんが止めてくるのも、さっきの女騎士が襲い掛かってくるのも、この状況に至るまでの何もかも全て。……まあ、うっかり口を滑らせちゃった、あれは別だけど……』


 そう言ってエスメラルダは私に右手の平を向けてきました。


『それじゃあまた後で会いましょう』


 私が口を開く前に視界が白く光り輝きます。

 その光が収まった時、私はさっきの街とは別の場所にいることに気づきます。


 そこは廃墟となった城下町でした。

前書きにも書きましたが、『聖魔女』第四巻が一昨日無事に発売されました。

もう買ったよっていう方がいたら嬉しいです。

ただ、電子版はすぐに手に入りますが、単行本は発売日から数日遅れて入荷される地域があるため、まだ購入していない方もいるかもしれませんね。

(私もそういう地域に住んでいるので、欲しい本がなぜ発売日に売っていないのかという気持ちはよくわかります……)

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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