淡々と進む遺跡攻略
いよいよ本作品の書籍版第四巻が明後日発売です!
既刊も含め、よかったら手に取っていただけると嬉しいです!
今朝はいろいろありましたが、アドルとクオリアも戻ってとりあえず再度全員集合しました。
それでも変わらず空気は重いまま。
戻ってきた二人に睨まれてもペディストルは平然としていました。しかも、笑顔で手を振っていたので、余計に煽っているように見えましたね。
言うまでもなく、アドルとクオリアからは性格が悪い精霊という印象を持たれたでしょう。思い当たる節はあるにはあるので、こちらもフォローするのは難しいです……。
と、そんな感じですが、朝ごはんを食べ終えた私たちはダンジョン攻略を再開します。
アドルたちもダンジョン攻略は中止しないようです。
でも、出会わなければ大丈夫だから、というより、ペディストルにあんなことを言われて中止するのも癪だからムキになって続けるって感じがします。
それがダンジョン攻略に影響しなければいいんですけど……。周りが見えなくなって普段はやらない事故を起こすとか。
私たちも一緒に行くので、何かあっても、すぐ対処できるように気をつけた方が良さそうですね。
「で? そいつも一緒に行くのか?」
出発前にアドルに聞かれます。
そいつというのはペディストルです。
街を出て一番大きな遺跡に向かうところですが、そこにはペディストルもしっかりいます。
「ハハッ! ずいぶん嫌われているみたいだね」
まあ、あんなことがあればそう思われるのも当然かと……。
「もちろん僕も一緒に行くさ。僕はリリィが主人に相応しい人物か見極めないといけないからね。ああ、安心しなよ。君たちに迷惑はかけないから」
「……どうだかな」
信じていない様子……。
実は私もちょっとだけ信じられないというか。
本当は信じるべきなのでしょうけど、ここに来るまでに起きた不可解な現象は全てペディストルが原因。
バエルも昨晩の会話でペディストルのことを悪戯好きと言っていました。
主人に相応しいか見極めるための試練。
的なことと称して何かしらの邪魔をしてくる可能性はゼロではない気がします。疑い過ぎと考えたいところですが。
それからしばらく歩いて目的地に到着。
こうして間近で見ると、より一層大きいなと感じます。
確か遺跡は四つの階層に分けられているんですよね。
となると、今回もまた時間がかかりそうな気がします。
早速遺跡の中に侵入します。
外観は石レンガで造られていたので、何となく想像できていましたが、中も同じように石レンガで造られていますね。
中はデオンザールも余裕で歩けるほど広くて、結構明るいです。
こういう場所って進めば進むほど外の光が入らなくなって、いずれ光源が必要になることが多いですが、壁に光る苔のようなものが生えていたり、発光している鉱石のようなものがあります。これらのおかげで光源には困りません。
トラップに注意しつつ、通路を慎重に進んでいく私たち。
トラップが作動するスイッチからは微量ですが、魔力を感じるので、注意深く探っていれば事前に知ることは可能です。
私も位置はある程度把握できていますし、アドルたちも各々で気づき、教え合ってトラップを避けています。
でも、本当に微量なので全部気づくのは難しいでしょう。
たまたま踏んでいなかっただけで、多分私も何個かは見逃していると思います。
まあ、誰も気づいていないトラップを踏みそうになったらバエルが教えてくれると思うので、そこまで神経質になる必要はないでしょうね。
だからといって、バエルを頼り過ぎるのも駄目ですが。
トラップの位置は定期的に変わっても下の階層に続く階段は変わらないとのことなので、道案内は何回も来ているアドルたちに任せています。
ただ、道案内を任せて私たちは彼らの後ろについていくだけというのも何だか申し訳ない。
ですので、魔物の索敵を私たちが引き受けています。
これぞ、いい役割分担でしょう。
トラップが多い分、遺跡内での余計な戦闘は避けているため、順調に進んでいます。この調子で行けば──。
するとその時。
私の真横でピュンという音がしたのに気づき、聞こえた方を見ると、そこから一本の矢が私の頭部に目掛けて発射されていました。
反射でも間に合わない距離でしたが、矢は私の魔力障壁で弾かれて鏃が砕け、地面に転がります。何もなかったら頭に突き刺さって死んでいましたよ。
一応防御面はしっかりしていたので、こうして冷静でいられています。
「だ、大丈夫か!?」
「ええ。魔力障壁のおかげで」
でも、後ろから見ていましたが、私たちの前を歩いていたアドルたちが誤ってスイッチを踏んだ感じはありません。
私もその感覚はなかった。
そうなると私の後ろにいる人たちですが……。
タルトは空を飛んでいるから、まずあり得ない。
バエルがスイッチを踏んでしまったというのも考えにくいですね。
身体の大きいデオンザールなら、と考えましたが、彼もかなり気をつけているみたいですし、トラップに引っかかったような感覚はなかったと。
じゃあ──。
もう、一人しかいないなと思っていると、ペディストルが手を上げました。
「ごめん、僕だ。足元にあったレンガがスイッチになってトラップが作動したみたい。でも、リリィは無事だったんだから許してよ」
ペディストルが踏んだ場所から私がいる場所は少し離れている。
普通に考えれば、スイッチを踏んだ人の真横から矢が発射されると思いますが、実際は私の真横で発射された。
なんというか、どこから発射されて誰に当たるのか最初からわかっていたみたいですね。
「無事だったからって……それで済む問題じゃないだろ」
「被害者は君じゃないんだ。君には関係ないことだろ」
「──ッ!? 今回はたまたま無事で済んだが、次も同じとは限らないんだぞ! お前の不注意で今度は全員が巻き込まれることも──」
「アドル、落ち着いて」
またしても喧嘩が始まりそうだったので仲裁に入ります。
ペディストルと会ってからの私って、主に喧嘩を止めることしかしていないような……。
「私は大丈夫ですから。それと、あまり大きな声を出し続けると魔物に気づかれてしまうので、なるべく声量は抑えてください」
「あ、ああ。悪かった……」
「ペディストルも。私だけならまだしも、今はアドルたちがいるので、わざとトラップに引っかかるのは止めてください」
「どうして、わざとだと思うんだい?」
「みんな、微かな魔力を感じ取ってスイッチの場所をある程度把握しているんです。それなのにあなたほどの実力者が気づかないなんておかしい話でしょう?」
ただの憶測でしたが、ペディストルの表情を見るに間違ってはいないようです。
「わかったよ。確かに出発前に迷惑をかけないと言った。今回は約束を守ることにしよう」
「そうしてください」
「じゃあ、お詫びにここからは僕が道案内するよ」
そう言ってペディストルはアドルたちよりも前に行きます。
「運が良ければ最短で最下層にある転移用魔法陣の場所に行ける。君たち、早く下の階層に行きたいんだろう? それなら僕についてきた方がいいと思うよ」
アドルたちは互いに顔を見合わせます。
本心はきっとペディストルなんか頼りたくない。
主にアドルとクオリアだと思いますが。
でも、もしペディストルの言っていることが事実なら?
魔物以外にも脅威がある第3階層。
さっさと抜けられるならそれに越したことはない。
「……信用していいのか?」
「それは君たち次第だ。どうする?」
「……わかった。案内を頼む」
再びみんなと顔を見合わせた後にアドルが言います。
そして、ここからはペディストルを先頭に遺跡内を進むことになります。
ペディストルは淡々と進んでいきます。
魔物がいないルートを選んでいるのか、魔物と遭遇しませんね。アドルたちは警戒を怠っていませんが。
それからしばらくペディストルの案内で遺跡内を進み。
「着いた。ここだよ」
結局魔物との戦闘がないまま、目的地に到着したようです。
案内された場所は何もない部屋。
道中でも似たような部屋は何度か見かけましたが、ここはそれとは別の部屋なのでしょうか。
「運が良ければ一発だけど……」
ペディストルが部屋に入って何かを探し始めます。
「おっ、あった。ラッキー」
そう言ってペディストルは壁にある石レンガを一つ押した瞬間、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がりました。
「こ、これは……?」
「次の転移用魔法陣の場所に出る──まあ、直通ルートみたいなものだよ。場所は各階層に3カ所と決まっていて、他のトラップ同様、定期的に場所が変わる。今回は一発で引き当てたし、運が良かった。これを使えば第3階層はクリアだ」
「こんなものがあるなんて知らなかった……」
アドルたちは驚きの表情を見せます。
「君たち冒険者はトラップを避けて進むからね。そして、トラップは危険なものしかないと決めつけている人も多いはずだ。もちろんそれは正しい。けど、中にはこういった楽に階層を突破できるものも存在する」
「ペディストルはどうやってこれを知ったんですか?」
アドルたちも知りたい情報を私が代表して聞きます。私もすごく気になるので。
「分身体だよ。適当に遺跡を探検させていたのさ。で、ただ探検して魔物と戦うのもつまらないし、あえてトラップに引っかかりまくった」
「そして、偶然これを見つけたと」
「その通り。分身体が何度も使って検証したけど、必ず転移用魔法陣がある部屋に出る。まあ、信じるかは君たち次第だけどね。ただ、もたもたしていると魔法陣が他の場所に移動するから、決断は早い方がいいよ」
「それならまずは私から行きますね」
ペディストルが何と言おうと、おそらくアドルたちは彼のことを信用しきれないと思います。
であれば、私が先行して、安全を確認した後に念話を使ってタルトたちに連絡する方向で行くのがいいでしょう。
私は魔法陣に乗ります。
すると周囲が光り出し、次の瞬間にはアドルたちが見当たりませんでした。
他にあるのは第1階層で見た転移用魔法陣と同じもの。
魔物の気配も近くにはない。
問題なさそうなのでバエルに念話で連絡します。
その後、すぐにアドルたちもやってきました。
「本当に転移用魔法陣の場所に着いた……」
「だから言っただろ? これで少しは信用を得られたかな?」
「…………」
ちょっとくらいは信用してもいいとアドルは思っているでしょうけど、嫌いなことには変わりないと思いますね。
それはペディストルにも伝わっているようです。
「うん。どうやらまだ嫌われているようだ。好かれたいと思っていないから嫌われていても構わないけど」
「で、では、次の階層に行きましょう」
「その前に一つ、悪い知らせだ」
全員ペディストルのことを見ます。
「例のヤバい奴だけど、とうとう第5階層に来た。この感じはちゃんと転移用魔法陣で上の階層に来たみたいだね」
「それは本当なのか!?」
「ここで嘘を吐く理由がないだろ? 悪いけど第5階層にいる奴らは諦めた方がいい。どのみち間に合わない」
「まだ間に合うだろ。お前の分身体が声をかければ──」
「残念。たった今、第5階層にいる分身体が潰された。完全に気配消していたのに、またすぐに気づかれた……。二回もやられるなんて自信失くすなぁ……」
がっかりしているペディストルの額からは数粒ですが汗が流れています。
一瞬足元がふらついていましたし、呼吸も少し荒くなっていて辛そうです。
「だ、大丈夫ですか!?」
「別にいいかなって思って言わなかったけど、分身体もノーリスクで出せるわけじゃないんだ。分身体がやられたら受けたダメージの一部が本体にくる。少し休めば回復するから大丈夫だよ」
「それならやられる前に戻せば良かったんじゃないのか?」
「そのつもりだったけどね。戻す暇もなくやられた」
ペディストルは呼吸を整えて言葉を続けます。
「あとまだ期待しているみたいだから言っておく。君が何度言おうが下の階層にいる冒険者たちを助けるつもりはない。というか、考えてみなよ。仮に僕が困っている奴は絶対助ける心優しい精霊で、分身体が無事でも、危険を知らせてそいつらは信じると思うか? 急に現れた知らない奴の言葉を」
「そ、そんなのわからないじゃないか」
アドルが言うとペディストルは鼻で笑いました。
「君たちみたいなパーティーで、もし一人でも素直に忠告を聞かない奴がいれば、そいつは無視して進み続ける。そして、そいつを放っておけなくて残りもついていく。特に下の階層にいる奴らなんて自分の力に自信のある奴らばかりだ。全てとは言わないが、そういう奴ほどプライドが高く、命に関わる忠告を聞かない。君たちだって、僕と初対面だったら忠告を無視して進んでいたんじゃないのかい?」
否定はできないのか、アドルたちは黙ったままでした。
私も何と言えばいいのかわからず、とりあえずは魔物がいる場所で言い争いをしている意味はないので、転移用魔法陣を起動させて第4階層へと向かうことにしました。
第4階層──忘却の荒廃王国。
そこに到着したはいいものの、場の空気は今朝と変わらず。むしろ悪くなっている気がします。
安全地帯とはいえ、ダンジョンの中だから緊張感はあっていいのですが、これはあまりにもピリピリし過ぎているといいますか……。
「なあ、何か芸でもして場を和ませるか? 最近できた渾身のやつがあるんだが」
「冷たい目で見られるのが落ちですよ」
なんてやり取りをバエルとデオンザールがしています。
デオンザールの渾身の芸というのをちょっと見てみたい気もしますが、この状況だとバエルの言う通りの結果になりそうなので止めておきましょう。
自信満々に披露した結果が、まったく受けなかったというのはデオンザールが可哀そうですし。
さて、この後の予定ですが。
第3階層は呆気なく終わり、疲労もほとんどないので、休憩は挟まずに第5階層へと向かうことになりました。
私としてはペディストルを少し休ませたいところではありましたが、本人が「そこまで重症ではない」と言うので、進みながら回復してもらうことに。
そして、第4階層の街の出入口に向かう私たち。
すると、後ろから声をかけられました。
「おっ? その後ろ姿はリリィ・オーランドではないか?」
振り返るとそこにはゼルドラドさんと前に少しだけ話をした付き添いと思われる銀髪の女性がいました。
「おおっ! やっぱりそうだ!」
「ゼルドラドさん。ゼルドラドさんもこの階層に来ていたんですね」
「リリィの知り合いなのか?」
「こちら『暴食の魔王』のゼルドラドさんです」
「うむ。ゼルドラド・ヴァン・バルトハルトだ。リリィの知り合いなら我の知り合いだな。今後ともよろしく頼む」
「ま、『魔王』って……」
驚きと混乱が混じって当然の反応を見せるアドルたち。
私が慣れてしまっただけで、これが普通の反応ですよね。
ゼルドラドさんにもアドルたちのことを紹介しておきます。
「ほう。貴様は『勇者』なのか」
「ど、どうも……」
「うむ。まだまだ伸びしろはあるな。貴様はもっと強くなれるぞ。これからも修行に励むがいい」
ゼルドラドさんはアドルの肩をポンと叩いて、そう言葉を送りました。
身長差があってギリギリ手が届いた感じはありますが、口に出して言うことではないでしょう。
「そうだ。我の隣にいるのは従者のメイリアだ」
「メイリア・オルコットと言います。リリィさん、でしたか?」
「はい、何でしょうか」
「ゼルドラド坊ちゃんから聞きました。この度は申し訳ございませんでした」
「おい、坊ちゃんは止めろと何度言えば──」
ギリッと睨まれたゼルドラドさんは視線を逸らしました。
あの『魔王』も目を逸らすほどの眼光……。メイリアさんもただものではないでしょう。
「もしかして、シュナーベルの件ですか?」
「はい。夜分遅くに坊ちゃんがリリィさんのお部屋に突撃したと。どうやら私が寝ている隙に部屋を抜け出してしまって……」
「あれは気にしなくていいですよ。私も話ができて楽しかったですし」
「な? だから言っただろ? リリィ・オーランドは夜に部屋を訪れても気にしていないと」
「夜遅くに女性に部屋に突撃するのが問題なんです! 坊ちゃんは少し反省してください!」
従者に叱られる『魔王』。
こんな光景は滅多に見られないでしょうね。
「ところで、リリィ・オーランド」
あっ、話を無理矢理変えてきましたね。
「貴様らもダンジョンを攻略しに来たということは、目的地は一緒なのだ。我らも貴様らと一緒に行ってもいいか? バラバラで行くよりいいだろう?」
私は構いませんが、アドルたちはどうでしょう。
「いいんじゃないか。正直いきなりのことで、まだちょっと疑っているが、本当に『魔王』なら心強いし」
「だそうなので、一緒に行きましょう」
「うむ。そう言ってもらえると思っていたぞ。では、早速第5階層に向けて出発──」
──しようとした時、私たちの前に突然満身創痍の集団が現れます。
これはどこかから転移してきた感じです。
方法は……ダンジョンに入る前に受付から借りた魔道具を使ったと考えていいでしょう。
いったい何があったのか声をかけようとした時、集団の中にいる人で見たことのある顔がいました。
「グランドラムさん……?」
説明会の時にいた、あのグランドラムさんです。
他には冒険者たちに人気だったマルベリーさん。
しかし、騎士さんは他にもいましたが、同じく説明会の場にいたダークエルフの騎士さんの姿は見当たりません。
「うっ……」
いろいろと聞きたいことはありますが、それらは一先ず後回し。
今やるべきことはグランドラムさんたちの手当てです。
次々回辺りから本格的に第五章のメインパートが始まる予定です。





