攻略中止!?
いつもより2時間遅れですが、今日中に書き終わったので更新します。
「リリィ様、おはようございます」
バエルの声で目が覚めます。
本当はほぼ同時に目が覚めたんですけどね。
昨晩はペディストルと勝負をするために出かけていましたが、ちゃんと約束通りに帰ってきたようです。
「おはようございます。ペディストルは?」
「僕ならここだよ」
ペディストルは部屋の窓際にいました。
おそらく決着がつかずに、そのまま来たんだと思いますが、見た感じだと二人とも怪我はしていないようです。
「バエル。今回の勝負は時間内に決着がつかなかったし、引き分けにしておいてあげるよ。あのまま続けていたら僕の勝ちだったけどね」
「フッ。弱体化している私を相手に最後まで互角の勝負をしてしたのは何処の誰ですか?」
「すぐに終わらせるのも君に悪いなと思って手加減してやったんだよ」
「奇遇ですね。私もですよ」
「はいはい。朝から喧嘩は駄目ですよ」
またしても口論が始まりそうだったので、魔術で着替えを済ませつつ、二人に注意をします。
バエルは私の言うことを聞きますが、ペディストルも何だかんだで私が注意したらやめるんですよね。
反抗してこないのはありがたいです。これで反抗してきたら、それがきっかけでまた面倒なことになるでしょうし。
私の準備も終わりましたし、寝ているタルト起こして。
デオンザールも寝ていますね。
普段はまだ寝ている時間のはずです。
とはいえ、起こさないと出発できないので、何とかして起こしましょう。
「デオンザール。もう朝ですよ」
「ぐがぁぁぁぁぁぁ」
駄目です。
私が声をかけても、いびきをかいて寝ています。
しかし、結構大きめのいびきですが、自分でもよく気にせずに寝られたなと思います。
ちょっとした音でも気になって眠れない人もいますからね。デオンザールと一緒の部屋で寝ることになったら、まず寝られないでしょう。
と、そんなことよりも。
まだ出発まで時間はありますが、この様子だといつまで経っても起きなさそう。
それはさすがに困ります。
次の手段を考えていると、ペディストルがデオンザールの前に立ちます。
「そんな風に声をかけても無駄無駄。こういう奴を起こすには、これで十分さ」
ペディストルはデオンザールの頭上に大きな水の球体を作り出します。
そして、間を置かずに水球が破裂。
当然のことながら、破裂した水球がザパァとデオンザールの顔面に直撃します。
「な、何だぁ!?」
飛び上がるように起きるデオンザール。
一応起きましたね。あれで起きない方が無理でしょうけど。
「って、びしょ濡れじゃねぇか」
「君が起きないのが悪いんだ。さっさと起きればこんなことにならずに済んだのに」
「ぺ、ペディストル!? なんでお前がここに……」
「おいおい……。君のことはずっと脳筋馬鹿だと思っていたけど、記憶力も終わっているのかい……?」
ペディストルは呆れた目でデオンザールを見ます。
「脳筋馬鹿は否定しないが、記憶力は終わっていないぞ! そういえば昨日の夜に合流したんだよな。お前がここにいる理由もちゃんと覚えているぜ」
「ならよかった。もう一回説明するのは面倒だったからね。まあ、頭下げて頼まれてもしないけど」
ペディストルはああ言いましたが、多分デオンザールなら「教えてくれないなら別にいいや」とか最終的に言いそう。
「よし! そんじゃあ今日もダンジョン攻略に行こうか!」
「なぜ一番遅く起きたあなたが仕切っているのですか?」
目を覚ましたデオンザールが身体を軽く動かした後に言いましたが、バエルから冷静に指摘されました。
「ハッハッハ! 細かいことは気にすんな!」
デオンザールは笑いながら言います。
全員起きたことですし、宿から出ましょうか。
っと、その前に。
「ペディストル」
「何だい? デオンザールを起こした件なら礼は要らないよ。どうしてもって言うなら感謝してくれてもいいけどね」
「感謝はしていますよ。でも、出発する前にアレ、何とかしてくださいね?」
私が指を差す方をペディストルは見ます。
そこはデオンザールは寝ていた場所。
デオンザールを起こすために水球を作り出して破裂させた。
被害を受けたデオンザールはびしょ濡れですが、それ以外にも周りに水が飛び散ったり、小さな水溜りが出来たりしています。
宿を出るのにこのままというわけにはいかないでしょう。掃除する人に余計な仕事を与えてしまうことになりますから。
ペディストルの後片付けが終わり、私たちは部屋を出ます。
事前に聞いた話だと、この階層にある飲食店は昼以降なら必ず開いていますが、朝は日によって変わるらしく、開いていないこともそれなりにあるとか。
しかし、ここの宿は二階が部屋で、一階は食事も提供しているようなので、開いているかもわからないお店を探す必要はなし。
朝ごはんを食べた後はアドルたちと合流して第4階層に向けて出発の予定。
昨日のうちに集合時間を決めていましたが、それまでまだ時間があります。
集合前に朝ごはんを済ませてしまおうと思っていると、アドルたちが席に座っているのが視界に入りました。まあ、同じ宿ですし、居てもおかしくないですね。
「皆さん、おはようございます」
私はアドルたちのもとに行って挨拶をします。
「おっはよう、リリィ! 昨日はよく寝れた?」
「相変わらずカリアは朝から元気ですね。ぐっすり眠れたので体調の方は問題なしです」
「それならよかった。寝不足だとダンジョン攻略に支障が出るからね。あっ、今から朝ごはんなんだけど、リリィたちも一緒にどう?」
「では、お言葉に甘えて」
私は余っていた席に座ります。
朝ごはんですが、タルトとデオンザールは街の外に行き、魔物を狩って食べるため、一度別れることになりました。
こうなった理由は、大食いのタルトと巨体のデオンザールでは食材を全て食い尽くしてしまうかもしれないから。地上と違ってここはダンジョンの中ですので、食材の仕入れも大変でしょう。
個人的には一緒に食べたいところでしたが、お店に迷惑をかけるわけにはいかないので、二人は自分たちで朝ごはんを調達することになったわけです。
メニューは日替わりで決まっているので、それを注文して来るのを待ちます。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
シャルさんが私に対して聞いてきます。
「ええ、別に構いませんよ」
「あちらにいる方なんですが、昨日は見なかった方だなと思って……。リリィさんと一緒にいたので、お知り合い、なんですよね?」
ああ、ペディストルのことですか。
ペディストルは別の席に座って窓から外を見ています。
この先も一緒に来るみたいですし、アドルたちに紹介した方がいいですね。
私はこっちに来るようにペディストルを呼びます。
「彼の名前はペディストル。精霊族の中でも最上級精霊と呼ばれる存在で、私の従魔……になる予定です」
彼の性格から言ってもまったく気にしないでしょうけど、死の最上級精霊と紹介すると悪いイメージを持たれそうなので、アドルたちには最上級精霊としかいいません。
「リリィ、こいつらは?」
アドルたちを一瞥してペディストルは私に問います。
ペディストルにもアドルたちのことを紹介しておきました。
そして、アドルが『勇者』だということも伝えると、ペディストルは少し驚いた表情を見せます。
「へぇ、君が『勇者』の一人なんだ。なんというか、もっと強そうなイメージを思っていたから期待して損したって感じ」
またそうやって挑発するようなことを言って……。
笑顔で言うから尚更挑発しているように感じます。
そういうのは思っていても口に出さないようにしてほしいですよ。
私のことを認めてくれて従魔になったとしても、今みたいに挑発するような発言をして意味なく敵を作ることが予想できます。
挑発は止めなさいと注意しても、ペディストルだと無理でしょうから、やるにしても相手を選ぶように、と後で注意しましょう。
「ちょっと! 初対面相手に失礼じゃ──」
「クオリア! いいんだ」
私が口を開く前にバン、と机を叩いて席を立つクオリア。彼女が怒るのも無理ありません。
しかし、挑発された当の本人であるアドルが怒っているクオリアを止めました。
「ペディストル、って言ったか。俺は自分でも『勇者』の中では一番弱いと思っている。だからお前の言っていることは多分正しい」
「…………」
「けど、お前が俺のことをどう思おうと、俺には関係ない話だ。雑魚でも最弱でも、好きに評価すればいい」
ペディストルは面白くなさそうな顔をしていました。
クオリアみたいな反応を期待していたのでしょう。
でも、アドルはあんなことを言われたにもかかわらず冷静だった。そして『勇者』の中でも一番弱いことを自覚している。
この勝負はアドルの勝ちみたいですね。
そんなことを考えていると私の後ろから手を叩く音が聞こえます。
私の後ろにいるのはバエルです。バエルがアドルに拍手を送っていました。
「よく言いました。『勇者』の中でも最弱と思うことは悪いことではありません。弱いと自覚しているなら、より強くなろうと思いますからね。ですから、こんな悪態しかつけない哀れな精霊の発言など気にしなくていいのです」
「バエルさん……」
「それに、下の階層に行けば、必然的に強力な魔物と戦うことになります。そこで実戦経験を積み、並行してレベル上げも──」
「あっ! そういえば!」
何か思い出したかのようにペディストルは声を出します。
それによりバエルの話は遮られます。
「何ですか、急に」
「僕としたことが、昨日は君との勝負で熱くなっていたから、すっかり伝えるの忘れていたよ」
「何を忘れていたんですか?」
「君たち、これからもダンジョン攻略を続けるんだよね?」
当然そのつもりで来ていますし。
全員に続ける意思があることを聞いた後でペディストルは口を開きます。
「正直に言う。今は引き返して地上に戻った方がいい」
「なんであんたにそんなこと言われなきゃ──」
「まだ死にたくはないだろう?」
ペディストルのことは気に入らないのでしょう。
クオリアがペディストルに突っかかりましたが、ペディストルは普段より少しだけ低い声色で彼女を黙らせます。
「どういうことですか?」
代表して私がペディストルに聞きます。
「昨日の会話に少し出ていたけど、分身体がどうのこうのって話していたのは覚えているかい?」
「はい。確か分身体のところには一瞬で移動できるとか」
「さすが、よく話を聞いているね」
「その分身体がどうかしたんですか?」
「実を言うと、僕の分身体は第1階層から第7階層まで各階層に置いてある。その分身体から色々とその場の情報を送ってもらえるんだけど──」
「ちょ、ちょっと待て!」
今度はアドルがペディストルの話を遮ります。
「今わかっているのは第5階層までだ。このダンジョンは第7階層まで存在しているのか?」
「君たち冒険者は知らない情報だろうね。ついでだから教えてあげる。一応第7階層にも分身体を配置させているが、魔物は出現しないし、ほとんど何もない一室だ。だから、このダンジョンは第6階層を突破すれば実質攻略完了になるわけ」
個人的には何階層まであるのかという楽しみがあったため、言ってほしくなかったですが、言われてしまったものは仕方ないですね。
「話が脱線したから戻そう。僕は分身体からその階層の情報を貰っている。そして、ついこの間、第6階層に配置していた分身体がやられた」
「……それは本当ですか?」
信じられないのかバエルはいつも以上に真剣な表情でペディストルに問います。
「本当だよ。第6階層に生息する魔物は全階層の中で一番強いけど、僕の分身体が負けるほど強くはない。でも、万が一のことも考えて、他の分身体よりも強力なものにしていた。それがやられたんだ。しかも完全に気配を消していたのに。この意味、わかるだろう?」
精霊族でも最上級精霊のペディストル。
しかも、ペディストルは精霊王とまで呼ばれている実力者。
つまり、分身体のペディストルを倒したのは、それ以上の実力を持っているということになる?
「あなたの分身体を倒した者の容姿とかはわかりますか?」
「『魔力感知』で人型ってわかったこと以外は残念ながら。向こうの気配に気づいてすぐにやられたからね。けど、凄く嫌な感じだった。あれは相当ヤバい。言葉が通じれば交渉次第で見逃してくれるかもしれないけど、期待せずに出会ったら死を覚悟した方がいいかもね」
これは真面目に一時撤退を考えた方がいい案件では……。
ペディストルが真剣な表情でここまで言うんです。
私なら大丈夫、なんて考えるのは止めましょう。
ペディストルから他に情報がないか聞いてみると、分身体を倒した相手というのは転移用魔法陣なしで急に第6階層に現れたとか。
急に現れた……。
以前エルトリアさんたちとアルファモンスでダンジョン攻略をしていた時に、『魔神の塔』で異界人が突然現れたという話を聞いています。
ペディストルの分身体を倒したのは異界人……?
となると、狙いはアドル、もしくは『暴食の魔王』のゼルドラドさん?
一応標的がこのダンジョンに二人もいるため、その可能性は大いにありますね。
しかし、それならなぜ本人の前に現れなかったのかが気になります。単に場所を間違えたとも考えられますが……。
「とにかく、このまま進めば確実にそいつと出会う。死にたくないなら地上に戻った方がいい。それでも進むって言うなら僕は止めないけどね」
「……そいつは、今も第6階層にいるのか?」
アドルがペディストルに問います。
「第6階層以外に配置している分身体から情報は来ていないから、まだ第6階層にいる。でもわからないよ。向こうは転移用魔法陣を使わずに突然現れたんだ。僕みたいに他の移動手段があると考えていい」
「……第5階層にも冒険者がいる。そいつらが今一番危ない状況だよな」
「僕の分身体を倒した奴が偶然上の階層に続く転移用魔法陣を見つけたら、第5階層にいる冒険者は殺されるかもね。もちろん冒険者側が第6階層に続く転移用魔法陣を見つけても同じ結果になるだろう」
「第5階層には分身体っていうのが、まだいるんだよな。そいつに頼んで第5階層にいる冒険者たちを上の階層に避難させることは──」
「出来るけどやらないよ」
「……は? なんで?」
ペディストルの返答を聞き、それを理解したアドルは短く言葉を漏らしました。
ですが、それに構わずペディストルは言葉を続けます。
「冒険者たちがそいつに殺されようが、僕はどうでもいいんだよ。救ったところで何になる? 僕にメリットはあるのか? そんなものないだろ。この世にいるほとんどの生物は何かしらの理由でいずれ死ぬ。病死、餓死、事故死、他にもいろいろ。第5階層にいる冒険者も運が悪かったで済む話だ」
「メリットの有無の方こそどうでもいいだろ! 救えるかもしれない命を見捨てるなんて──」
アドルは怒りを露にし、席を立ってペディストルの胸ぐらを掴もうとしましたが、その時に私と目が合いました。
そして、ハッとした表情を浮かべて俯きます。
「……いや、これは俺が言えることじゃないな。悪い、少し頭を冷やしてくる。飯が来たら先に食べててくれ」
「ちょっと、アドル!?」
アドルはそのまま宿の外へ出ました。
心配してクオリアがついていったので、私が追いかける必要はないでしょう。
それにしてもペディストルのせいで、朝から空気が重いですよ。カリアもゼペットもシャルさんも黙っちゃったじゃないですか。
チラッとペディストルを見ると、さも自分は悪くないような態度でいます。
「リリィも僕に冒険者たちを助けろって言うのかい?」
「いえ、どうせ言っても無駄だと思うので」
「ハハッ、僕がこんなクソみたいな性格で幻滅した?」
幻滅したかどうかですか……。
「うーん、出会って間もないですが、ペディストルの性格は何となくわかっていたので、こうなることも予想できたかなと」
「そうかい。こんな僕を君は従魔にしたいと思う?」
その質問ならすぐに答えが出ます。
「もう一人の私があなたを従魔にして、力を貸してあげてほしいと頼んだのなら、ペディストルの力は絶対に必要になるんでしょう。まあ、性格に難ありですが、一緒にいるのは嫌というわけではないですし、他のみんなにはない、かなり尖ったタイプで、一人くらいはこういうタイプの人がいてもいいかなと思いますね。私だと出ない考えとかも思いつきそうですし」
考え方は人それぞれ。
ペディストルがアドルに言ったことも間違っていない──いや、これに関しては、おそらく曲がることのない自分自身の考えであって、誰かに正解か間違いか決めてもらう問題ではないでしょう。
というわけで、ペディストルが自分の意思を貫くように、私も自分の意思を貫こうと思います。
救えるかもしれない命は見捨てずに救う。
一番はペディストルの分身体を倒した相手と遭遇しないことですが、もし遭遇してしまったらその時考えます。
思っていたより話が進まなくて自分でも驚いています……。
でも、今回で大体の準備は整ったはず。第五章のメインパートまでもう少しです。
書籍版第四巻の発売まで一週間を切っております。
12月9日(金)発売の『聖魔女』シリーズ第四巻!!
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