第四の従魔
予定通りに更新できた……。
今月最後の更新です。
「やっと着いたぁー!」
第3階層に到着早々、クオリアは両腕を高く上げて喜びの叫びを上げます。
クオリアからすれば最悪の階層でしたからね。そこから解放されたとなれば、大喜びするのも無理ありません。
さて、アドルたちと一緒に行動したことで早くも第3階層へ到着しました。
説明会では第5階層まで行けるようになっていると言っていたので、このペースで行けば、意外とすぐに第5階層へ到達できそう。
まあ、それは今後もアドルたちと行動したらの話ですけどね。
アドルたちが転移用魔法陣の場所を知っているから余計な探索をせずに進めているんですから。
「第3階層にも着いたし、今日はここまでにするか。リリィたちはどうするんだ?」
アドルたちは一つ階層を進んで、一日ほど休む方針でダンジョン攻略を行っているようです。
疲れを持ち越さず、万全な状態で進むためにそうしているとか。
下に行けば行くほど魔物は強くなりますし、疲弊した状態で挑むのは得策ではないので、その方針は間違ってはいませんね。
私はそこまで疲労が溜まっていません。
次の第4階層に続く転移用魔法陣を自分たちだけで探しに行ってもいいですが、本格的に行動するのは明日にしましょう。
目的地は同じですし、これからもアドルたちを頼ります。アドルに聞いても「別に構わないぞ」と言っていました。
「じゃあ、ちょっとだけ街の外を見に行きます」
アドルたちとはここで一度別れて街の外へ向かいます。
安全地帯を抜けた先に広がっていたのは広大な平原。
第3階層は“終末の古代遺跡”と言うそうです。
雰囲気は第1階層に似ています。
階層名にもあるように、あちこちに遺跡の残骸のようなものが確認できます。
そして、遠くの方には大きな街一つ分の遺跡も見えます。さすがにシュナーベルよりは小さいと思いたい。
「あそこに転移用魔法陣がありそうですが……」
「あえて別の場所にある、という風にも考えられますね」
目立っているからこそ、冒険者たちは一番大きな遺跡を目指そうとする。
しかし、実はそれが罠で、転移用魔法陣はそことは別の場所にあって、ただただ無駄に時間を使っただけ。
私はその可能性もゼロではないと考えています。
変に疑っているだけという可能性もありますが。
まあ、どちらにせよ、街に戻ってアドルたちに答えを聞けばいいですね。
現在の時刻はだいたい6時くらいでしょうか。
正確な時間はわかりませんが、ここまで来るのにかかった時間を考えるとそれくらいのはず。空もオレンジ色の割合が多くなっています。
アドルたちにもちょっとだけと言いましたし、長々と探索はせずに近場を少しだけ見て回ってから街へ戻ることにします。
アドルたちとは街の中にある飲食店で合流します。
料理は第3階層に生息する魔物をメインに使っています。
あとは、魔物なんて食べられないと言う人がいるのか、どうやら地上の物資を運んでくる人がいるみたいで、一応地上のものを使った料理もありました。
でも、それらは全て高額。
私はまったく抵抗がないので頼みません。オルフェノク地下大迷宮では魔物を食べて生きていましたし。
「さっき街の外に行ったんですが、一番大きな遺跡があるじゃないですか。あそこに転移用魔法陣があるんですか?」
一緒に夜ごはんを食べている時に聞いてみました。
「ああ。あの遺跡の最下層にある」
アドルから話を聞くに、あの遺跡も地下に階層があるそうで、階層は全部で4つだとか。
巨大なダンジョンの第3階層にある遺跡の中に、更に4つの階層がある。何だかややこしいですね。
その遺跡には魔物だけではなく、トラップの種類も豊富で、しかもそのトラップは定期的に配置が変わるとか。
トラップの場所を把握しても次に来た時には変わっているため、メモをしても無意味だそうです。
そのため、毎回慎重に進まないとトラップに引っかかってしまうことがあると。私たちも十分に気をつけましょう。
そこから食事を続けつつ、ダンジョンについての情報を教えてもらったりして、時間はあっという間に過ぎていきます。
食事を終えた私たちは明日に備えて休むことに。
街にある宿は一軒しかありませんが、木造の結構立派な建物です。見た感じだと20部屋くらいはありそう。
部屋はまだ空きがあったので、私たちの分とアドルたちの分の二部屋を無事に確保できました。
それからすっかり日も暮れ。
空も暗くなり、星がキラキラと輝いています。
昨日はゼルドラドさんがやってきて寝るのが遅くなりましたからね。今日こそはゆっくり寝たいところ。
一応部屋には人数分のベッドはありますが、タルトは私と同じベッドで寝ますし、バエルはそもそも寝る必要がない。デオンザールはベッドのサイズが合わないので使わない。
一つしか使わないならワンランク下の大きさの部屋にすれば良かった──と一瞬思いましたが、人数で考えると、今の部屋がちょうどいいですね。
デオンザールなんて特に身体が大きいですし。ワンランク下の大きさなら、ぎゅうぎゅうになっているかも。
「それじゃあ私は寝るので、朝になったら起こしてください」
「かしこまりました。おやすみなさいませ」
自力で起きられますが、念のためバエルに頼みます。
デオンザールには頼んでも多分無理です。『聖魔女の楽園』ではお昼近くまで寝ていることが多々ありますから。
ベッドに入って、さあ就寝。
「寝るのはもう少し待ってよ」
突如聞き覚えのない声が部屋のなかで聞こえます。
今度は誰ですか、と。
既に侵入されているようですし、警戒を怠らずに周囲を見ていましたが、バエルとデオンザールが戸惑っている様子を見せていました。
「な、なあ、バエル。この声って……」
「……ええ。しかし、なぜ……」
何やら二人はこの声を知っている様子。
二人が知っている……。それってつまり──。
すると、私の前に小さな風が巻き起こり、それが収まると見知らぬ男性が一人立っていました。
耳が隠れるくらいの私と同じ黒髪。
瞳の色は綺麗な翡翠色です。
着ているのは貴族のような服。
マントもあるので、王族っぽい感じにも見えます。
整った顔立ちで気品もあり、穏やかで優しそうな雰囲気の男性ですが、何というか、そう感じてもらえるように演じている風にも見えるような……。
「ど、どちら様でしょうか?」
「どちら様だと思う?」
男性は微笑みながら私に問います。
答えは、バエルとデオンザールの様子を見た時に薄々出ていました。
そして、今はこれ以外の答えは考えてもでてきません。
「タルトたちと同じ、もう一人の私に仕えていた従魔……ですか?」
「正解。僕の名前は“ペディストル”」
「ペディストル……」
「ペディと呼んでくれてもいいよ。僕は精霊族の中でも最上級精霊であり、精霊王の一人でもある。まあ、僕みたいな奴を慕う精霊はほとんどいないし、王なんて肩書は飾りでしかないけどね」
精霊族というと、テルフレアで会ったカリーナさんの従魔も精霊でしたね。
炎の最上級精霊のサラマンダーと、水の最上級精霊のウンディーネです。
しばらく会っていませんが、他の最上級精霊との契約は上手く行っているのでしょうか。
思い出したら久し振りにカリーナさんに会いたくなってきますね。
それで、ペディストルという方は最上級精霊の中でも王と呼ばれていると。
精霊族については前に一度バエルから聞いたことがありましたが、その時から時間も結構経っているので、改めて説明をお願いしました。
「精霊族も我々悪魔族とだいたい同じです。異なる点は受肉の際に、生贄を必要としないことですね。魔力があれば割と簡単に呼び出せます。あとはそれ以外に好みのものを用意すると、より呼びやすくなりますね。リリィ様も今度試してみてはいかがでしょうか。リリィ様でしたら精霊王の一人が応じるかもしれません」
「ちょっとやめてくれよ。僕は他の王から嫌われているんだ。仲良くしろなんて言われても無理だからね」
ペディストルが横から口を挟みます。
ただ、バエルはそれを無視して説明を続けました。
「そして、悪魔族が悪魔界に生息するように、精霊族も精霊界と呼ばれる場所に生息しています。そこにもいくつかの王が存在していて、その一人がペディストルというわけです」
「えっ、僕のことは無視なの?」
そう言う割にはあまりショックを受けていないように見えるペディストル。
精霊族について、私に説明し終えたバエルはペディストルを見て問います。
「ところでペディストル。どうしてあなたがここにいるんですか? 待機を命じられた場所は別の場所のはずですが」
「いやぁ、いくら待っても君たち来ないから暇でさ。そんな時に突然巨大なダンジョンが生まれたって風の便りで聞いてね。暇潰しに来てみたわけさ」
「……それでもし──」
「入れ違いになったらどうするんだ、でしょ?」
バエルが何を言うか先読みしてペディストルは言います。
「心配しなくても、ちゃんと分身体を置いてから来ている。僕が分身体のところに一瞬で移動できるのは君もよく知っているだろ?」
「そうでしたね。その辺もしっかり考えていたのであれば、好き勝手に行動しても問題はないですか。ならこの話は終わりにして。悪戯は楽しかったですか?」
私とデオンザールは何のことだかわかりませんでしたが、バエルとペディストルはわかっているようです。
バエルに問われ、ニヤリと笑うペディストル。
悪そうな顔です。もしかしてこっちが本当のペディストルなのかも。
「ハハッ、何のことだい?」
「私たちがこのダンジョンに来た時、転移場所が上空と、本来着くはずだった場所とは大きくズレていました。しかも魔術が使用できない状態で」
「へぇ、そうなんだ。それは大変だったね」
「そして、第2階層では、私たちの敵ではなかったですが、明らかに度を越えているレベルの魔物が出現しました」
「ふーん、それと僕に何の関係が? 僕が君たちの転移先を第2階層に続く転移用魔法陣の近くにズラしたり、スケルトンドラゴンを呼び出したとでも言うのかい?」
バエルは転移場所について詳しく言っていませんし、明らかに度を越えているレベルの魔物と言っただけで、スケルトンドラゴンの名前は一切出していません。
しかし、ペディストルが襤褸を出したわけではなく、わざと自分から言ったような感じです。
「悪戯好きのあなたはああいう系統の魔物を召喚するのが得意でしょう? そうですよね。死の最上級精霊──ペディストル」
「さすがバエル。そうだよ、全部僕の仕業だ」
ペディストルはバエルを褒めます。
しかし、私はペディストルについて気になります。
この場合の“し”は死ぬの“死”で合っていますよね。
字面からしてかなり危険な精霊に感じます。
何も言わずにバエルの顔を見ると、私に説明してくれます。
「精霊族は生まれた時から属性を持っており、基本的には炎、水、風、土の四属性のようですが、稀にそれ以外の属性を持った精霊も生まれてきます」
「その稀ってやつが僕さ。でも、稀な存在とはいえ、死の最上級精霊なんて知って、近寄りたいと思うかい?」
「だから、自分を慕う精霊はほとんどいない、と……」
「物好きもたまにいたけどね。けど、大半は僕を避けた。そして、遂には不吉な存在と決めつけた精霊王たちは僕を精霊界から追放した。まあ、離れたくない理由とかはなかったから別に良かったけど。自由にのびのびできるし」
「……でも、一人で寂しくなかったですか?」
私が言うとペディストルはポカンとした顔をします。
そして、急に笑い出しました。
「ハハハ! 寂しかった? ほとんど一人だった僕にそんな感情はないよ」
「そ、そうですか……」
「それにしても、君も同じことを言うなんてね」
「えっ?」
「初めて彼女と会った時にも、今と同じことを言われたんだよ。まさか同じことを言われるとは思わなかった」
「そうなんですね」
「あともう一つ言われたことがあったんだけど、君からは何かない?」
寂しかったこと以外で、ですか。
何かありますかね。
思考も似ているみたいですし、考えれば答えが出てきそう。
「……自分を追放した精霊たちに復讐しないのか、とか?」
ペディストルは自分の属性が不吉なものというだけで精霊界を追放されました。
そのことを根に持って、いつか復讐してやろうと──
「でも、属性から考えるに、追放された時点で出来そうな気が……」
「意外だな。大人しそうな顔をしているのに、そんなことを考えているとはね……」
「えっ? あっ、いや、あくまでも答えの一つとして出ただけで、私だったら復讐するとか、そういうのではないですよ?」
慌てて答える私を見てペディストルは笑っています。
「ハハハ。言ったことは同じだけど、彼女はここまで動揺しなかったな。自分を追い出した奴に復讐しないのか。彼女にもそう言われたよ。だから正解だ」
「復讐は、しないんですか?」
まさか自分がこんな言葉を言う日が来るとは。
今までは言われる立場でしたから。
私に問われたペディストルはまた悪い顔をしていました。
「しないよ。勿体ないからね」
「勿体ない?」
「もしかしたら精霊界が窮地に陥る日が来るかもしれないだろ? 精霊界滅亡の危機、とかそういうやつ」
「まあ、世の中、何が起こるかわかりませんし、可能性はゼロと断言できませんね」
「その時に僕が助けてやるのさ。無事に危機を乗り越えた時、僕を追放させた奴らの気分はどうだ? 忌み嫌っていた奴に助けられるなんて最悪だろ? 僕はその時のそいつらの顔が見たいから復讐はしない」
自分の力に自信があるからこそ、その発言ができるのでしょう。しかし、実際に起きたとして、本当にできるのかどうか。
「無様に失敗して恥をかけ──と正直言いたいところですが、ペディストルは、それを可能に出来るくらいの力を持っています」
「バエルがそこまで言うとは……。ステータスを見てみたいですね」
「ペディストル。リリィ様があなたのステータスをご覧になりたいそうです」
「断る」
まさかの拒否。
ペディストルの返答にはバエルの表情も険しくなります。
「……今なんと?」
「聞こえなかったのかい。断ると言ったんだ。ちなみに『鑑定』で確認しようとしても無駄だよ。従魔契約で弱体化している君は僕よりも格下だ。であれば、こちらが妨害すれば当然見ることができないし、弱体化している原因のリリィも見ることはできない」
「……断る理由は?」
だんだんとこの場が緊張感あるものに変わっていきます。
バエルとペディストルの間にはバチバチと火花が散っているみたいです。
「スケルトンドラゴンとの戦いで見せた魔術はいいものだった。これからもまだまだ成長するだろう。けど、僕はまだ彼女を完全に認めたわけじゃない」
「もう一人のリリィ様と約束したのではないですか? こちらのリリィ様と出会った時は力を貸すと」
「ああ約束したね」
「その約束を破るということですか」
バエルから圧が漏れ始め、徐々に空気が重くなり始めていますが、ペディストルは気にしている様子を全く見せません。
「ただの口約束だ。破ったところで何も起きない。でも、安心しなよ。彼女には何度か世話になった。だから、今は力を貸すに値する人物か見極めている最中だ。力を貸すに値する人物だと僕が判断したら従魔契約でも何でも結んであげるよ」
「それまでは従魔契約はしないということですか」
「当然だろ? 全員が全員、君たちみたいにすぐ従魔契約すると思うなよ。僕は自分からわざわざ弱くなる道を選ぶほど馬鹿じゃない。それ以前に従魔契約をしたところで、僕が完全に認めていない以上、失敗するのがわかりきっている」
二人の口論は更に白熱します。
「だいたい君はリリィのことになるといつも周りが見えなくなるんだよ。やり過ぎなことも多々あるし、少しは自重を覚えなよ」
「普段から特に何もしなかったあなたに言われたくありません。あなたこそ、少しはリリィ様のために役に立ったらどうですか?」
「それなら君より強いところを彼女に見せてあげようか? 従魔契約で弱体化している君なんて軽く捻り潰せるよ」
「いいでしょう。弱体化もちょうどいいハンデです。表に出なさい」
バエルがここまで熱くなっているのは初めて見るかも。
なんてことを考えている場合ではなさそう。
これはいい加減止めないと駄目な感じです。
「はい、ストー---ップ」
今にも外に出ていきそうな二人の間に入ります。
「二人とも落ち着いてください」
「も、申し訳ございません……」
「………………」
バエルは謝罪しましたが、ペディストルは何も言いません。
それを見て気に食わなかったのか、バエルはペディストルに詰め寄ろうとしていましたが、放置したら埒が明かないもで止めます。
「ペディストルの言い分は理解できます。むしろ、そう考えて当然だと思います」
「リリィ様……」
「彼女は君より冷静で賢いみたいだね」
「とはいえ、あまりバエルを挑発するような発言はしないように」
「……っ。わかったよ……」
これでどうにか収まったはず。
なんか、今は喧嘩している子供たちの仲裁に入る母親の気分です……。
しかし、私に止められても二人の間には依然として火花が散っています。
「何だよ」
「何ですか」
止めてもどうにもならなさそうな雰囲気。
「ああ、もうっ! わかりました。二人ともそんなに喧嘩したいなら周りに迷惑が掛からない場所でしてきてください。ただし、出発前には帰ってくること!」
そう言うとバエルとペディストルは部屋から出ていきました。
これでようやく眠れます。
ちなみにデオンザールですが、彼は途中からいびきをかいて寝ていました。タルトもバエルたちのことなど気にせずにお休み中です。
これでもしデオンザールが起きていたら……。
きっとさっき以上に大変なことになっていますね。想像したくありません。
バエルたちが帰ってくるまで、私はゆっくり寝ることにしましょう。
第四の従魔──死の最上級精霊ペディストル 本格参戦。
ただ、リリィ(ママ)は、従魔たち(主にバエルとペディストル)のせいでこれから苦労しそうです。
(尚、ペディストルはバエルとの口論で熱くなりすぎて何か忘れている模様……)
次回更新は明々後日12月3日(土)の午後8時までにはしたい。





