ダンジョン攻略開始
書籍版聖魔女の第4巻は12月9日発売。
まだAmazon様等で予約できますので、よろしくお願いいたします。
翌日。
雲一つないすっきりとした青空。
日差しもそこまで強くなく、清々しい風も吹いていて、いいピクニック日和。
ですが、今日はダンジョン攻略へ向かわなければ。
冒険者の血というものが騒いでいるのか、早く行きたくて仕方ありません。
身支度とチェックアウトの手続きを済ませ、シュナーベルにある飲食店で軽く朝食を取り、いざダンジョンへ。
ダンジョンはシュナーベルから北東に十数キロ進んだ場所にあるそうです。
ちなみに、ダンジョンに向かう馬車もあるみたいですが、それは既に出てしまったみたいです。朝食の時に少しだけゆっくりしたせいですね。
あと、現在はダンジョンがある場所に直通で行ける転移用魔法陣を作成しているという情報を耳にしました。ただ、それが完成すれば冒険者ギルドから行けるみたいですが、結構料金がかかるみたいです。
馬車もないし、転移用魔法陣は完成していない。
ここで私はあることを思い出します。
これはまだリーロンに居た時の話。
マリーから貰って魔力充電式二輪駆動の資料を私は一通り読んだので、興味を持ちそうなアモンに渡しました。渡した時は目を輝かせて「面白そうっすね!」と言っていましたよ。
それからしばらく。
改良に改良を重ね、どうやらつい先日完成したみたいです。
話の流れでわかるように、あれです。
その時に「いつでもいいので、使ったら感想をくださいっす」と言っていたので、おそらく【異次元収納箱】に入っているはず。
確認してみると……ありました。
完成品はまだ見ていないので出してみます。
中にあったのは、マリーのものとは色違いの白ベースの魔力充電式二輪駆動。私が白いローブを着ているから、それをイメージして作ったのかな?
黒も良かったですが、白もいいですね。ただ、白は黒と違って汚れが目立つので手入れが大変そう……。
アモンに使用感を求められていますし、ちょうどいいので、今回はこれで向かおうと思います。
動かし方等はマリーのものと変わらない感じ。
実際に走らせてわかった点と言えば、動かすのに必要な魔力が少ないところでしょうか。これなら普通の冒険者でも長距離移動に使えるかも。
そして、安全運転で向かいながら、ダンジョンがある場所に到着。
そこは小さな街のような場所でした。
ダンジョンがあるとは到底思えませんが、場所はここで合っています。
仕入れた情報だとダンジョンは地下にあるみたいです。
街はまだまだ出来たばかりみたいな感じで、建設途中の建物がちらほらと見えます。初期の『聖魔女の楽園』を思い出しますね。
いろいろ見て歩きながら街の中央へ。
多くの冒険者が集うその場所には冒険者ギルドっぽい、他のものより大きめの建物があります。次々に入っていく冒険者を見るに、ダンジョンにはあそこから行けるのでしょう。
早速建物に入って中を観察。
アイテム売り場とか依頼が張っていると思われる掲示板とかがあります。
アイテム売り場には特に用事はないので掲示板の方へ。
見てみると、所々に空きがありますが、魔物の素材の依頼とか、攻略に役立つ情報が記載された紙が貼ってありました。
「あっ! お前は!」
ふむ。掲示板に貼ってある依頼書を見るに、第4階層とか第5階層とか、下の階層に生息する魔物の素材の依頼しか残っていないみたいですね。
あとは誰もやらなさそうな、何十匹も倒してちょっとのお金にしかならないもの。効率の悪さから避けられているのでしょう。
「おい! 無視すんなよ!」
ダンジョンに挑むのだから、ついでに受けるのもいいかも。誰かが欲しいからこうして依頼が出ているわけですし。
特に第4階層以降の依頼は受けられる人も少ないはず。報酬も結構いいし、積極的に受けましょう。
依頼書を改めて見ると、報告までに期限が設けられているため、その日までに戻れば問題なし。
剥がしている痕跡がありますし、受ける依頼書を取ればいいのでしょうか。
やってしまった後で駄目と言われても困るので、近くにいる人に聞いてから剥がす方が安全ですね。
誰かいないかなと周りを見ると、ある冒険者たちと目が合います。
「やっとこっちを見やがったな!」
「誰かと思えば、あの時酒場で会った……」
誰かを呼んでいる声は聞こえていましたが、この様子だと私に声をかけていたようですね。
「あの後大変だったんだぞ!? コゲの味しかしない飯を食わされて!」
「それはご苦労様です。でも、元はと言えば、あなたたちが私の友人を侮辱したのが悪いんですよ」
この人たちの顔を見ると、酒場での出来事を思い出します。
だから、余計な話はしません。必要なことだけ聞きます。
「ところで、ここにある依頼書は取ってもいいんですか?」
「ああ、受けるならな。依頼書を持って受付に行けばいい。だが、そこにある残り物は、下の階層にいる魔物の素材がほとんどだ。死にたくなければやめておけ。先輩からの忠告だ」
「そうですか。忠告ありがとうございます」
冒険者たちにそう言って、適当に依頼書を5枚取ります。
この時の私を見て、後ろで何か言っていましたようですが、気にする必要はないです。
一応全て取ることも考えましたが、残り物とはいえ、他の誰かが受けるかもしれないので、その人のためにも残しておかないと。
依頼書を持って受付へ向かいます。
と、その前にタルトたちを呼び出した方がいいですね。
今回ダンジョンに挑むのは、私を含め8人。
さすがに8人で行動すると周りに迷惑ですし、まとめるのが大変そう。だから、目的地に到着するまで『聖魔女の楽園』で待機してもらっていました。
少し広い場所に移動してタルトたちを呼びます。
ぞろぞろと『聖魔女の楽園』から来るタルトたちは、自然と冒険者たちの注目の的になりますが、本人たちはまったく気にしていない様子。
「ここがダンジョン?」
サフィーがキョロキョロと周りを見て言います。
修行の一環で魔物を狩りに行ったりしているようですが、本格的にダンジョンに挑戦するのは今回が初めてとグラから聞いています。
「まだですよ。これからダンジョンに行きます」
「そうなんだぁ」
「ところで、それは新しい防具ですか?」
サフィーは青と白をベースにした布部分多めのドレスアーマーという防具を着ています。おそらく身軽さを生かすために、可能な限り鎧部分を削ったのでしょう。
名前は『蒼狼のドレスアーマー』と言い、補正数値は防御力と精神力にプラス4,500。そこそこいい性能です。
いや、よくよく考えたら、私の装備の補正数値がおかしいだけで、このドレスアーマーもサフィーの新武器『蒼獣牙』も十分優れた性能ですよね。
「うん! シルファが「ダンジョンに行くなら武器だけじゃなく防具も必要だ」って作ってくれたの! これと『蒼獣牙』でいっぱい頑張って強くなる!」
「やる気があるのはいいことです。でも、グラたちがいるとはいえ、無理をして怪我はしないように。約束ですよ?」
「わかった!」
「リリィ様。ちょうど受付の列が空いたようです。再び混む前に並んだ方がよろしいかと」
バエルに言われ、私はタルトたちを引き連れて受付の方へ向かいました。
どうやら初めてダンジョンに行く場合にも説明があるそうなので、先程取った依頼書と説明会で受け取った許可証を見せた後に受付の方から話を聞きます。
「皆さまは今回初めてダンジョン攻略に向かうということですので、いくつか説明をさせていただきます」
「よろしくお願いします」
受付の方の話をまとめると──
まず転移用魔法陣でダンジョン内に到着すると、今いる冒険者ギルドっぽい建物の中にいる。
建物を出ると小さな街のようなものが広がっているが、そこはダンジョン内でも安全地帯となっていて、魔物が襲撃してくることはない。
そして、魔物は街を中心に半径3キロ以内には出現しない。
以上のことは他の階層も同じであり、帰還または上の階層に戻る場合、同じ建物内にある別の転移用魔法陣を使う。
だいたいこんな感じです。
どうでもいいことかもしれませんが、その街は自分たちで作ったのか聞くと、そうではなく、最初から存在していたみたいです。
当初は知性の高い生物が作ったのかと考えていたようですが、調査してもそれらしい生物は見つからなかったため、今は各階層の冒険者の拠点として活用しているとか。
「それとこちらですが」
見せてくれたのは片手で持てる正方形の魔道具らしきもの。
「たとえば第3階層にいて安全地帯に戻るのが難しいという時に、こちらの魔道具を使えば一瞬で街の入り口に戻ることが可能です」
「それは便利ですね」
「ですが、一度に何度も使えません。一度使用したら次に使えるのは6時間後となります」
つまり、再度使えるようになるまで安全地帯で待機しろということですね。
それでも便利なことには変わりありません。
運悪く強敵に遭遇しても、それを使えば無事に帰ってくることができる。
第2階層以降の話ですが、地上に戻りたい時も安全地帯で6時間待って、転移用魔法陣で上の階層へ。
そこで魔道具を使い、上の階層の安全地帯へ。
それを繰り返せば魔物と遭遇することなく地上へ戻れる。
何十時間も歩いて戻ることを考えたら、この方法を使った方が絶対いい。現に多くの冒険者がこの方法を使っているようです。
「こちらは、希望者のみ無償でお貸ししていますが、数に限りがあるので、一パーティーにつき、一つお貸しすることになっています」
希望者のみ、というのは紛失もしくは故意に破壊した場合、罰として金貨3枚を支払うことになるからだそうです。
ちなみに、魔道具はかなり頑丈で生半可な衝撃では壊れないとか。こういうところにもお金をかけているから、罰金の額が高いのでしょう。
そして、一度失くしたりしたら、再び借りるのに金貨1枚を支払わなければならない。もちろん紛失等の罰金も適用されます。
でも、この説明を受けても大半の人は借りているみたいですし、失くしたり壊さなければいいだけの話で、ダンジョンに挑むなら借りておくべき魔道具ですよね。
「では、二つ貸してもらえますか? 一応同じグループですが、途中で二つのパーティーに別れて行動するので」
「かしこまりました。それではこちらをどうぞ」
受付の方から魔道具を二つ受け取ります。
一つは私が。そして、もう一つをグラに。
素材集め組のリーダーはグラに任命します。
アモン、サフィー、アルゴの中では彼女が一番しっかりしていますからね。魔道具も失くしたり壊したりしないでしょう。
魔道具についてこれが最後ですが、地上へ戻った際には再びダンジョンに挑むつもりでも、一度返却しなければいけないそうです。
その話が出た時に、ちょうど冒険者がダンジョンから帰ってきて、受付の方に魔道具を返却していました。返せなかったり、壊していないか、従業員らしき人がその場でチェックしています。
このチェックを受け、特に何もなかった場合、次回も無償で魔道具を借りることができます。
「説明は以上となります。他に何か聞きたいこと等はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「では、転移用魔法陣はあちらの通路を進んだ先にあります。皆さまの無事を心から祈っております」
そして、私たちはダンジョンへと足を踏み入れるのでした。
蒼穹の植物園。
それがこのダンジョンの第1階層の名前です。
確かに綺麗な青空。ダンジョンに入る前も外はこんな天気だったので、本当にダンジョンに来たのか疑ってしまいそう。
そして、見下ろすと地上には大自然が広がっています。向こうにはお花畑が見えますね。
………………。
なんて、悠長なことを言っている場合ではありません!
私たちは地上を見下ろしています。
現在、私たちがいるのは上空!
今も地上に向かって一直線に落下しています!
転移先は建物内じゃなかったんですか!?
もしかして受付の方が嘘を……いや、その可能性は低い。必要性を感じないですし。
と、とにかく何とかしないと。
私は『浮遊魔術』を使って落下を止めようとします。
しかし、ここで緊急事態が。
「魔術が使えない……?」
シャルルフォーグ学院で異界人が襲撃してきた時と同じ──魔術が使えません。
それなら──
「タルト!」
「キュイ!」
私の指示でタルトは本来のサイズに戻ります。
タルトの背中に乗り、私は何とか地面にぶつからずに済みました。
他の子たちは……。
バエル、アモン、グラは背中から悪魔の翼を出して難を逃れます。サフィーはグラに抱えられているので無事。
アルゴは背中から二本の筒のようなものが出ていて、その先から炎のようなものが噴射されています。あれで落下しないように維持しているのでしょう。
「あれ? デオンザールは?」
人数を確認しても7人しかいません。
まさかと思って下を見ると、デオンザールが落下しているのが確認できました。
デオンザールは、タルトやバエルたち悪魔族と違って翼を持たない。魔術を使えないならなす術なしです。
どうにかしないと。
そう思ってタルトに指示を出そうとしましたが──
「リリィ嬢! 俺のことは気にするな!」
余裕の表情で言うデオンザール。
よくこんな状況なのに余裕でいられますね。
って、そんなこと言われても無視できませんよ!
急いでデオンザールに追い付かないと。
でも、距離がなかなか縮まらない。
タルトにもう少しスピードを出してもらおうとしました。
「グルルル……」
なんか、調子が悪そう……。
ついさっきまでは元気が良かったのに、今は少し辛そうな表情を浮かべています。
結局、追い付くことなくデオンザールは地面に激突。
高所からの落下により土煙が凄いことになっています。
さすがのデオンザールも無事では済まないのでは……。
「ああ、デオンザール。リリィ様のことは私に任せて安らかに眠りなさい」
「勝手に殺すんじゃねぇ!」
バエルが縁起でもないことを言ったと同時に土煙の中からデオンザールの声が聞こえました。
そして、デオンザールは無傷の状態で私たちの前に姿を現します。
「まったく、相変わらず頑丈な身体ですね」
「ハッハッハ! それも自慢できる長所の一つだからな。にしても、聞いた話と違うな」
「ええ。話では建物内に転移すると言っていましたが、実際に私たちが転移した先は上空。安全地帯というものも確認はできましたが、位置がかなりズレている。こういうことが稀にあったとしても説明の際に……」
バエルがいろいろと考察してくれています。
とりあえずそれはバエルに任せて。
私はいつものサイズに戻ったタルトの様子を見ます。
「タルト、大丈夫ですか?」
「キュイ」
うーん。普通に返事をしているし、調子が悪い感じはない。
ってことは、あれはたまたま調子が出なかったということ?
そう考える以外にはなさそうですね。
タルトの様子も確認できましたし、次は魔術が使えるか。
試しに誰もいない方向へ魔術を放ちます。
「【暴風弾丸】」
草が多いところで炎系の魔術は大変危険なので、なるべく被害が出ないように風系の魔術を使いましたが、普通に出ました。
こうして使えるということは、上空は魔術が使えないようになっているとか?
魔術が使えなかったことはバエルたちも気づいていたようで、グラとアモンがもう一度上空へ行って確認しに行ってくれます。
二人を下から見ていましたが、魔術は普通に使えていました。上空でも魔術が使えるということですね。
じゃあ何故あの時だけ使えなかったのか。
私の不調で片づけられる件ではないですよね。
バエルもグラもアモンも同じだったわけですし。
かといって、ここで考えて解決するかと言われたら難しい。
「バエルは何かわかりましたか?」
「……そうですね。転移先がズレただけなら偶然起きた事故、と片づけられるかもしれません。しかし、それ以外に起きたことも加味すると、これら全ては人為的に起きたものなのではないか、と私は考えています」
「まあ、全員無事なんだし、別に今考えなくてもいいんじゃねぇか? もし次、邪魔してきたらぶっ飛ばせばいいだけだしよ」
「これだから脳筋は……。でも、一理ありますか。ここで時間を無駄に使うよりかは次の階層を目指して進んだ方がいいですね」
全員バエルに賛成し、私たちは次の階層を目指すのでした。
ちなみに第1階層は情報通り、私たちに敵う魔物はいません。
そして、運がいいことに第2階層へ続く転移用魔法陣は、転移した場所から然程遠くない場所であっさり見つかります。
第1階層の探索はあっけなく終わりました。
蒼穹の植物園にてリリィたちを観察する者がいた。
その者は彼女のことをよく知っている。
いや、厳密に言うと違う。
知っているのはリリィであり、リリィではない。
(僕のちょっとしたいたずらは無事に切り抜けたか。まあ、そうでないと困る)
そう思いながら、その人物は深く溜め息を吐く。
(にしても、まさかこんなところで会うとは……。僕たちが本来出会う場所はここじゃないし、僕も来ると思っていなかったからなぁ。このダンジョンに来たのも暇だったからだし。完全に想定外。えっと、タルトにバエル、それとデオンザール。他は……知らない奴らだな。ということは、僕は4番目か)
姿を消し、気配を殺し、その者は観察を続ける。
(彼女にはああ言われたが、僕が力を貸すかはあの子次第。今回は特別に転移用魔法陣の近くに落としてあげたんだから、ダンジョン攻略頑張ってよ。僕は彼らとは違って、大したことなかったら、力は貸さないからね)
小さく笑い、その者──もう一人のリリィと従魔契約を結んでいた、第四の従魔はリリィたちの後を追うのであった。
今回で第五章に登場するメインキャラは出揃ったはず。
名前はまだ出ていないキャラが何名かいますが……。
※11月26日(土)追記
諸事情により、次回更新は11月27日(日)の午後8時に変更





