《side『勇者』アドル》 vs煌王龍
クオリア、カリア、ゼペットとは幼少期からの長い付き合いだ。親が仲良かったから自然に仲良くなったとも言えるか。
そういえば付き合いが長い奴はもう一人いるな。
いや、いたというのが正しい。
アイツは間抜けだったな。何をしても全然駄目だ。
間抜けな奴は嫌いだ。足を引っ張って迷惑をかける。
けど、親が仲良くしろって言うんだもんな。仕方なく仲良くしてやった。
それがいつの間にか一緒に冒険者になることに。
クオリアの意見はどちらかと言えば俺側だし、ゼペットも言わないだけでアイツが一緒に来ることに反対してたはずだ。
ただカリアがな。カリアは性格からして人を嫌うなんてことはないと思うから職業がなんであれアイツの同行に賛成した。
って、今更アイツのことを思い出したって時間の無駄だな。
リリィは俺たちのためにこの【オルフェノク地下大迷宮】で死んだんだ。
もしかすると俺たちを恨んで亡霊になって出てくるかもな。
けど弱い奴が悪いだろ?
というか、将来勇者になる奴を自分を犠牲にして救った英雄に仕立て上げたんだ、恨むどころか感謝してほしいぜ。
しかし、冒険を続けて偶然この辺を訪れたからってまさかここに戻ってくるとはな。
力試しと三年前の屈辱を晴らしに全員が賛成した。
三年ぶりに因縁の相手であるオルトロスに遭遇したが一撃で倒せたぜ。
あんなの強くなった俺たちの前では雑魚だよ、雑魚。
そんな俺たちは今190階層のフロアボスに挑む。新しい仲間を加えてな。
シャルはリリィよりも優秀だ。レベルもステータスも高い。治療魔術だってリリィなんかと比べるのも失礼だ。
しかもシャルは俺に憧れを抱いているらしい。顔も可愛いし順調にいけば将来……。
だからパーティーに重要な存在のシャルに俺たちがやったことは隠し通さなければいけない。
まあ、真実を知っているのは俺たちと死人のリリィだけ。俺たちが話さない限りバレることはないし、死人が俺たちの前に現れるなんてことはないだろ?
そんなことよりフロアボスだ。
巨大な鉄扉を開けて部屋に侵入する。
どんなフロアボスが出てくるのかわからない緊張感は俺の気分を最高に上げてくれる。『勇者』となった今、脅威になる敵はいない。
部屋の中央に出現したのは金色に輝く一匹の龍だ。
「クオリア、鑑定だ」
「もうやってるわ。名前は煌王龍ヴァルドラ。レベルは198で、ステータスは当然私たちより高いけど180階層のフロアボスとほぼ同じ。危険そうなスキルもなさそうだし余裕ね」
だろうな。見た目こそ神々しいがそれだけだ。俺たちの前では煌王龍とやらもただの龍でしかない。
「いつものパターンでいくぞ。シャルは俺たちに付与魔術でステータスを強化」
「わかりました!」
「ゼペットは遠距離からの攻撃でダメージを与えろ」
「うん」
「クオリアは高火力の魔術を発動させるために詠唱を。準備が整ったら合図をくれ」
「了解。威力が高すぎて巻き込まれないようにね」
「そのための合図だろうがよ……。その間は俺とカリアで引き付ける」
「オッケー。じゃあ──」
シャルの付与魔術の詠唱が終わり俺たちのステータスが一気に上がる。
持続時間は5分だがその前に煌王龍を倒せばいい。
そして俺とカリアは煌王龍に向かって走り出す。
それを見た煌王龍も俺たちに向かって突進。
回避するまでもないってか?
残念だが俺たち──いや、カリアを甘く見すぎだな。
「ここは私の出番だね!」
意気揚々と俺の前にカリアが入り煌王龍の突進を構えた大楯で防ぐ。
重く鈍い音が空間一帯に響く。
普通ならあんな巨体が迫ってきて受け止めようにも吹き飛ばされるだろう。
しかし、カリアは『聖騎士』の中でも防御力に特化した奴だ。中途半端な攻撃じゃ傷一つつけることは出来ないぜ。
更に魔力を消費し『シールドバッシュ』という技で煌王龍にダメージを与える。
前衛職業が使う技の大半の威力は攻撃力が関係している。
しかし『シールドバッシュ』は防御力の高さが威力に関係する。防御力が高いカリアにはうってつけの技だ。
カリアの攻撃により怯んだ煌王龍に俺が追撃を行う。
顔から胴体に向けて一閃。
勇者になって手に入れた『聖剣エリュンザルド』は全ステータスを5000も上昇させる最強の武器。
しかも相手の防御力を無視して生命力を削れる。この剣で硬い鱗で覆われた肉も斬ることが可能なんだ。
「よし。一気に畳み掛けるぞ!!」
墜落した煌王龍を再び上空へ戻らぬようにゼペットが遠距離から攻撃を当てていく。
ゼペットの攻撃には毒魔術が付与されている。
状態異常に耐性があるとしてもこれだけ食らえば嫌でも毒状態になるだろうよ。
案の定、煌王龍は毒状態になる。
生命力もじわじわと減ってきているな。更に俺とカリアの攻撃を合わせる。
良い感じだ。やっぱり勇者になってからは調子が良い。どんな魔物でも倒せる自信がある。
「アドル! カリア! 詠唱が終わったから離れてッ!」
クオリアの一言で俺たちは煌王龍から距離を取る。
すかさず煌王龍の真上には魔法陣が出現。そこから漆黒の炎が降り注ぎ煌王龍の体を燃やしていく。
この炎には確か呪詛の効果もあったはず。呪詛も毒と同じで継続ダメージが入るからな。煌王龍の生命力はグングン削られてているはずだ。
そして、炎に燃やされ暴れていた煌王龍も生命力が尽き、ドスンと音を立てて地上へ墜落する。
「やったね!! これでこの階層もクリアだ!」
「ああ。だがここのフロアボスも大したことなかったな」
「違うわ、私たちが強すぎるのよ。もう少し苦戦する魔物が現れてほしいものだわ」
「油断は駄目だよ。それにクオリアの魔術もシャルがステータスを強化してくれたから普段以上の火力が出てた」
「何よ、ゼペット。私の魔術が貧弱とでも言うの?」
「まあまあ落ち着いてください。クオリアさんの魔術は素晴らしいものでした。私の付与魔術がなくともフロアボスに致命的なダメージを与えられたはずです」
「ほんとシャルは正しいことを正直に言ってくれるから良い子よねぇ」
クオリアはシャルの頭を撫でる。シャルも嬉しそうな表情をしているな。俺も撫でてやりた──
おっと、それはもう少し関係が進展してからだ。
それよりさっさと水晶に記録して次の階層に行くとしよう。
一度帰還して体を休めるほど疲弊もしていないし問題ないだろう。
一応みんなにも聞いてみたが続行の方向でいくことになった。
「それじゃあ行くぞ」
そう言った瞬間、この部屋に異変が生じた。
言葉で表現するなら空間にヒビが入った感じ。
部屋中央──何もない場所からパキパキと何かの破片が落ちていく。
その中は真っ黒に淀んだ沼のよう。まるで別世界へと繋がっているみたいだ。
そして、そこから俺たちを見つめる者。
体格は子供っぽい。だが黒い靄に包まれているが真っ白な歯が剥き出しになって不気味だ。
ニタリと口角を上げ、ケタケタと笑いながらそいつは身を乗り出してきた。





