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【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第五章 幼馴染再会編

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挑戦前夜

 現在私はシュナーベルにある宿の一室にいます。

 わざわざ部屋を借りずとも『聖魔女の楽園』に行けばいい話ですが、こういう風に宿に泊まって一晩過ごすのも好きなんですよね。

 説明会の後はダンジョンについて情報収集をしたり、作戦会議をしたり、とりあえずやるべきことはやりました。

 あとは明日に備えて寝るだけです。

 その前に外でも見ようと窓際へと向かいます。

 今日は雲一つない夜空。星もキラキラと光り輝いてよく見えます。 

 明日も天気が良かったらいいな。

 そう思いながらベッドに入ろうとしたら──


「────ッッッッ!!??」


 突然、にゅっ、と窓の外から逆さまになった顔がでてきました。

 さすがの私もこれにはびっくり。心臓が飛び出るかと思いましたよ。今も心臓がバクバクしています。

 夜遅くに事件性のある叫び声をあげたら騒ぎになること間違いないなので、咄嗟に手で口を押えて声を漏らさないようにしました。

 自分でもよくこの状況で出来る限り声を押し殺して我慢できたなと褒めたいくらいです。


 で、いったい何が私の部屋を覗きにやってきたのか。

 本当は問答無用で魔術を使用して撃退しようかと思いましたが、それはやめました。部屋を覗きこんでいたのは、一応知っている人だったので。

 とりあえず、このまま無視するわけにもいかないので、窓を開けてあげます。


「夜遅くにすまんな! 貴様とは一度話をしてみたくて来た! だから夜這いとかそういうのではないぞ! 安心するがいい!」

「そ、そうですか。一応夜なので声量は抑えてください」

「おっと、それもそうだな。開けてくれたのだから、中に入っていいということでいいな」


 私の返答など待たずに、その人は部屋に入ります。

 まあ、ここで駄目と言っても、この人は部屋に入ってくるでしょう。


 もしこれが普通の人──急に来て窓から入る人を普通と呼べるか不明ですが──で、偶然バエルがこの場にいたら……。

 まず私の部屋を覗いた時点でアウト。

 部屋に一歩でも踏み入れてしまったら、数分後に自分が生きているか賭けるしかないでしょう。私の前だから加減はすると思いますが、それでも半殺しでは済まないかと……。


 私の部屋にやってきた人物──ゼルドラドさんは部屋をじっくりと見ます。


「ふむ。我が泊まっている部屋と比べると質素ではあるが、これはこれでいいな。次はこういう部屋に泊まることにしよう」

「それで、話というのは?」

「なに、ただの世間話とかだ。明日から例のダンジョンに挑むだろ? そうなっては話せる機会も減ると思ってな。我と話そうではないか」

「まあ、少しくらいならいいですけど。でも、その前に一度自己紹介をしませんか? お互い名前も知らないですし」


 本当は知っているんですけどね。

 そして、それはゼルドラドさんも同じようです。


「我は『鑑定』で見て知っているし、貴様も我の名前くらいなら『鑑定』で見ていると思ったが……あの時は途中で終わってしまったからな。改めて自己紹介するのもいいだろう。聞いて驚け! 我はこの世界に君臨する7人の『魔王』の一人──『暴食』のゼルドラド・ヴァン・バルトハルトだ!」

「どうも。リリィ・オーランドです」


 やはり『魔王』でしたか。

 まさかこんなところで会うとは思いもしませんでした。

 というか、私って『勇者』とか『魔王』に遭遇する率が高くないですか? 身内にも、幼馴染にもいますし。

 ゼルドラドさんが名乗ったので、私も名乗ったわけですが、何やら不服そうな顔をしていますね。


「もう少し驚いた様子を見せたらどうなんだ! 我は『魔王』だぞ!? とっても珍しい存在なのだぞ!?」

「そう言われても……。初めて『魔王』に会ったわけでもないですし……」

「何? いったい誰に会ったというのだ?」

「『色欲の魔王』のエルトリアさんです。前に一緒にダンジョン攻略をしたり、対人戦の経験を増やすために稽古をつけてもらったりしていました」

「あのロリババアか……」


 ……私は何も聞いていない。そういうことにします。

 ゼルドラドさんは【異次元収納箱(アイテムボックス)】から魔道具らしきものを取り出します。私が持っている通信用魔道具に似ていますね。

 魔道具を取り出すとゼルドラドさんはそれを起動させます。

 そして、起動させてから10秒もしないうちに魔道具から声が聞こえました。


『御主が妾に連絡してくるなど珍しいこともあるのじゃな、ゼルドラドよ』


 聞こえたのはエルトリアさんの声です。

 エルトリアさんも忙しいと思って連絡をしていなかったため、久し振りに声を聞きましたが、この声を聞くと不思議と落ち着きます。


「エルトリア! 貴様のせいで我の凄さが薄れたではないか! どう責任を取ってくれる!?」


 ゼルドラドさん、いきなりそんなことを言ってもエルトリアさんは状況を理解できないと思うんですが……。


『な、何じゃ、いきなり……。そんなことを言われても妾にはわからん! ちゃんと順を追って説明しろ!』

「貴様が先にリリィ・オーランドと会ったせいで、我の凄さとか偉大さとかが薄れたんだ! この『魔王』である我が名乗ってもまったく驚かず、しかも「どうも」の一言で片づけられたのだぞ!?」


 今の言葉を聞いてエルトリアさんは一瞬固まります。

 そして、一拍置いてからゼルドラドさんに聞きます。


『ちょっと待て。御主、今なんと……?』

「ん? 我の凄さとか偉大さとか──」

『そこではない。そんなものは心底どうでもよい』


 そう言われてまたしても不満そうな顔をするゼルドラドさん。「心底どうでもいいは言いすぎだろ」とボソッと言ってました。


『リリィ・オーランドと言ったな。リリィに会ったというのか?』

「会ったというか、我のすぐ隣にいるぞ?」

「えっと……こんばんは、エルトリアさん。こんな夜遅くにすみません……」


 私が挨拶をすると魔道具越しでも喜んでいる様子が感じ取れました。


『おおっ! その声は間違いなくリリィじゃ! 話すのは学院の教師をやると言った時以来か? 元気にしているか?』

「はい。めちゃくちゃ元気です」

『そうか! それはよかった。にしても、こうして話すのは久し振りじゃし、声だけでなく、顔を見て話をしたいのう……』


 私もたまにはエルトリアさんの顔を見たい。

 でも、それは難しい話。エルトリアさんにも都合があるでしょう。

 そう考えていましたが、隣にいるゼルドラドさんが「ふむ」と言って何か考えている様子。

 そして、名案が思い付いたのか、自分の手の平にポンっと拳を乗せて言います。


「であれば、我が迎えに行ってやろうか? このまま話し続けるのは仲間外れのように感じるだろ?」

『いや、別にそんなことはないが……』

「そう遠慮するな。どうせ居る場所は貴様の城だろ? 場所は知っているから【魔力門(マナゲート)】を使えばすぐに行ける。少し待て」


 勝手に話が進んでいます。

 ゼルドラドさんって思い立ったらすぐ行動するタイプですよね。私の部屋にも話をしてみたくて来たと言っていましたし。

 私が言葉を発する前にゼルドラドさんが【魔力門(マナゲート)】を使用して、それを通ってこの部屋からいなくなります。


『ほ、本当に来たのか!?』

『すぐに行けると言っただろ。それより早く行くぞ』


 魔道具からそんなやり取りが聞こえます。

 そして、すぐに【魔力門(マナゲート)】からゼルドラドさんが戻ってきます。その隣にはエルトリアさんもいます。

 エルトリアさんは私を見るとニコリと微笑みました。


「こうして会うのはアルファモンスぶりか。久しいな、リリィ。見ないうちに少し大人っぽくなったか?」

「そうですかね? 自分ではそう思わないんですが……」

「自分では意外と気づかんのじゃろう。ところでゼルドラド」


 私と話していた時の優しい目から一変して、エルトリアさんは睨みつけるようにゼルドラドさんを見ます。


「リリィの恰好から推測するに、ここはリリィが借りている部屋で、もう少しで寝るところを御主が突然やってきた。違うか?」

「うむ。さすがはエルトリア。正解だ」

「正解じゃないわ、この馬鹿者!!」


 一応周りに気をつかって声量は抑えていますが、エルトリアさんは怒鳴るとゼルドラドさんの頭部を拳骨で殴ります。

 しかも、その拳は『魔闘法』で強化されている。

 常人なら生きていれば奇跡の拳ですが、ゼルドラドさんは少し痛がるだけで、ほとんど無傷と言ってもいい状態です。


「妾に連絡してきたことは別にいいが、こんな夜遅くに乙女の部屋に押しかけるなど非常識にもほどがあるじゃろうが! それとリリィ!」

「は、はい!」


 急に矛先がこちらに向いたことに驚いた私は、反射でビシッと真っ直ぐ立って返事が口からでました。


「面識があるとはいえ、こんな非常識のアホを部屋に入れる必要はないぞ。こういうのは無視するのが一番じゃ」

「で、でも、部屋に入れないと帰ってくれない感じでしたし……無視したら睡眠を妨害されるかもと思って……」

「そうか。なら悪いのは、このアホじゃな」


 全面的に悪いのはゼルドラドさんという風になりましたが、それでもエルトリアさんにはいろいろ注意を受けました。

 もしゼルドラドさんだったからいいものの、これが悪い人で格上だったら手も足も出なかっただろ、とか。

 まったくもってその通り。

 私にできることは反省しかありませんでした。こんなことが頻繁に起こるとは思いませんが、次からは気をつけましょう。

 

「このアホには後で妾からもう一度……いや、ここにはいないが、こやつには眼鏡をかけた従者がいたな。今回の件を後で伝えておくとしよう。さて、久し振りに会ったことだし、すぐに帰るのも勿体ない。リリィさえよければ、少しお喋りでもせんか?」

「ぜひ。エルトリアさんとのお喋りなら眠くてもします」

「限界が来たら言うのじゃぞ。御主は夜更かしができないタイプじゃからな」


 部屋には一人用の椅子が二脚にテーブルが一個。

 この人数だと椅子が一脚足りないですね。

 どちらか一方の『魔王』を床に座らせるわけにはいきませんし、私が床に座ろうとすると、エルトリアさんが「ゼルドラドには床で十分じゃ」と言うのが容易に想像できます。

 ここは椅子をもう一脚用意するのが、喧嘩にならず穏便に済む方法でしょう。

 確か『聖魔女の楽園』に余った椅子があったはず。

 そこから一脚借りてきて、と。

 これでセッティングは完了。

 エルトリアさんとゼルドラドさんがそれぞれ椅子に座ります。

 

 こうしてみると異様な光景ですよね。

 宿の一室に、あの『魔王』が二人もいる。

 普通に生きていたら、こんな経験は絶対にできないです。

 まあ、私の予想だと、またこんな風に複数の『魔王』たちと話すことがありそうですが。

 二度あることは三度あると言いますし、エルトリアさんたちとの繋がりがあれば、何かの縁で他の『魔王』と会う可能性もあると思いますから。

 

「さてと。妾からすれば、聞きたいことが結構あるのじゃが。まずリリィ。教師の仕事はどうした?」

「一年だけの約束だったので、もうしていません。今はまた冒険者として旅を続けています」

「そうなのか。教師の仕事は御主にとって、いい経験になったか?」

「はい。得られるものがたくさんありました。楽しい一年でしたよ。あっ、あとその街で弟と再会したんですよ」

「ほう。その学院に通っていたのか?」

「いえ、そうではなくてですね」


 エルトリアさんは私の話を興味津々に聞いてくれます。


 シャルルフォーグ学院でユリウスと再会したこと。

 異界人が襲撃してきた大変だったこと。

 教師生活を終えて故郷に帰ったことになったこと。

 そこでアドルたちとも再会して和解したこと。


 私だけ一方的に長々と話すわけにはいかないので、所々省略したところもありますが、正直に言うとまだまだ話足りません。


「かなり充実した毎日を送っているようじゃな。でもそうか、無事に故郷に帰って、幼馴染とも和解できたか。良かったな」

「はい」

「にしても、リリィの弟──ユリウスと言ったか。まさかその者も『勇者』とはな。幼馴染も『勇者』で、学院にも『勇者』が在籍していて、更にはもう一人『勇者』と面識がある。既に半数以上と会っていおるのか。何というか、偶然というより、リリィに引き寄せられているようにも見えるな」

「そう言われると、そうかもって思っちゃいますね。エルトリアさんたちも『魔王』ですし」

「4人の『勇者』と2人の『魔王』に会った者など、世界中を探しても御主くらいかもな」

「おい。二人だけで盛り上がるな。我も話に混ぜろ」


 私とエルトリアさんが楽しく話しているとゼルドラドさんが不満そうに言いました。確かに、楽しくなって仲間外れにしてしまった感はあります……。

 

「そういえば、ゼルドラドさんも例のダンジョンに挑みますが、何か目的とかってあるんですか?」

「うむ。よくぞ聞いてくれた。我がダンジョンに挑む理由。それはな──」

「どうせ、偶然面白そうなダンジョンを見つけたから行ってみようとか、そういう理由じゃろう?」


 自慢するかのように胸を張って理由を語ろうとしていたゼルドラドさん。

 しかし、エルトリアさんが隣から口を出します。

 それを聞いてゼルドラドさんは目を見開いて驚きます。

 

「な、なぜわかった……」

「一緒だと思われたくはないが、御主は妾と同じタイプの『魔王』じゃからな。妾も面白そうなダンジョンがあれば、試しに行ってみる」

「そうか。なら一緒にどうだ? 貴様と我が組めば、どんなダンジョンだろうと簡単に攻略できるぞ」


 というか『魔王』二人がパーティーを組んで攻略出来ないダンジョンなんて、この世に存在するんですかね。

 それに、例のダンジョンにエルトリアさんを誘ったとしても、説明会に参加していない以上はダンジョンに挑戦できないですよね。

 そのことをゼルドラドさんはわかっていないようです。


 この提案にエルトリアさんは一瞬反応を見せましたが、私の顔をチラッと見てから口を開きます。


「悪いな。そのダンジョンについて非常に興味はあるが、パーティーを組んでのダンジョン攻略は先約がおる」

 

 先約……。

 それって、もしかしてアルファモンスにある『神々の塔』攻略のこと?

 私とエルトリアさん、そして、異界人の襲撃によって意識不明になったロザリーさん。

 この三人で攻略しようと約束した『神々の塔』。それまでは他の誰ともパーティーを組むつもりはないということですか。


「あとは、妾にもやることがあるからな。長々と拠点を離れるわけにはいかん」

「ふむ、そういうことなら仕方ないな。無理強いはしない」


 それからも話し続け、気が付けば真夜中を過ぎていました。

 だんだんと睡魔が私を襲い始めています。


「さてと。まだ話したいところではあるが、これ以上はダンジョン攻略に影響するな。リリィも例のダンジョンとやらに挑むのじゃろう? であれば、しっかり睡眠をとらなければならん。今日はもう解散することにしよう」

「うむ。あっという間だったが、楽しい時間だったぞ。ではな、リリィ・オーランド。また明日会えたら会おう。さらばだ!」


 そう言い残しゼルドラドさんは窓から外へ出ていきました。

 急に来ては一番に帰る。好き勝手な方ですね。


「妾も戻るとする。ダンジョン攻略頑張るのじゃぞ」

「あの、帰る前に一ついいですか?」

「何じゃ?」

「ロザリーさんのことです」


 私が聞くとエルトリアさんは少し辛そうな表情をしました。

 ゼルドラドさんとの会話から、ロザリーさんが生きていることはわかります。でも、現在どういう状態なのかはわかりません。

 

「そうじゃな。リリィには話しておこう」

「お願いします」

「結論から言うと、今から3か月前くらいにロザリーは目を覚ました。リリィは教師の仕事で毎日疲れていたじゃろうし、妾も忙しく連絡する時間が取れなかった。伝えるのが遅くなってすまなかったな」

「いえ、遅くなったのは気にしないでください。それよりも、ロザリーさんは目を覚ましたんですね!?」


 エルトリアさんの言葉を聞いて思わず喜ぶ私。

 でも、すぐに別の問題があるのだと気付きます。

 そうでなければ、私が聞いた時にエルトリアさんはあんな表情をしません。

 

「ただ、目を覚ましたのはいいのじゃが、話しかけてもほとんど反応がない。肉体から魂が抜けている、という表現が合っているのじゃろう」

「そんな……」

「とはいえ、意識不明の状態から目を覚ましたのじゃ。この一歩は大きい。今はこれまでの思い出を語ったり、過去に訪れた街に行ったり、わずかでも反応を見せそうなことをやっておる。今日だって、いい土産話ができた。リリィに会ったことを話したら、ロザリーも反応を見せるかもしれん。だから、そんな顔をするでない。大丈夫、ロザリーは絶対に戻ってくる」


 今の私の表情を見て、そう言ったエルトリアさん。 

 エルトリアさんの方が絶対に辛くて大変なはずなのに、心配させないように満面の笑みで私の頭を撫でます。

 そうです。ロザリーさんなら大丈夫。必ず元気になります。ダンジョン攻略の続きだってできます。


「はい。元気なロザリーさんと再会できる日を楽しみに待ちます」

「ああ、妾もじゃ。ではな。気をつけてダンジョン攻略に行ってくるのじゃぞ」


 エルトリアさんは【魔力門(マナゲート)】を使用してこの部屋から去りました。

 

 エルトリアさんも頑張っているんです。

 私だってダンジョン攻略、気合入れて頑張りましょう!

久し振りのエルトリア登場回。

当初は今回でダンジョンに向かう予定でしたが、後々の展開等を考えた結果、ロザリーの現状などあった方がいいなと思ったので書くことにしました。(相変わらず長くなってしまい申し訳ありません……)

次回からはダンジョン攻略が始まります。

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