教師生活の終わり(第四章エピローグ)
あとがきにお知らせがあります。
街に住む者全員の記憶に残るあの日の襲撃。
あの日の出来事が一生記憶に残ることでしょう。
結果を見ればまだ良かった方かもしれません。でも、あくまで結果というだけで、死者も大勢出て、建物の被害もかなり出ていた。
それでも、この街の人たちは乗り越えて前に進んでいます。
死者が蘇ることはありませんが、街の復興やらその他諸々やることがあります。いつまでも立ち止まっている場合ではないんです。
当然私もお手伝いに参加しました。『聖魔女の楽園』にいる子たちも協力してくれましたよ。あの場所にある建物とかは全て彼らが建てたものなので、かなり役に立っていたと思います。
一応私の仕事は教師がメインなので、そちらもやりつつ、時間がある時は復興のお手伝い。
そんな毎日を送っていたら時間はあっという間に半年以上が経過。時間の流れとはおそろしく早いものです。私も一つ年を取って19歳になりましたよ。
と、そんなことはさておき。
私が仕事や復興のお手伝いをしていると同時進行で色々進んでいたことがありました。
まずは異界の魔物について。
ユリウスと戦っていたアーデンハイドという人物に従っていた魔物──ブーデンとラクラス。
この二体は一時『聖魔女の楽園』に連行し、異界の情報を吐き出させました。
ちなみにやったのはバエルです。自分から名乗り出たので、全部任せました。
いろいろ忙しかったこともあって現場に立ち会わなかったので、バエルがどのように情報を吐き出させたのかは知りませんが、全部任せると言いましたし、あえて聞かないことにします。
まあ、普通に拷問とかでしょう。バエルは悪魔族だからそういうのに躊躇がないと思いますし。
最後にその二体を見た時は、酷く疲弊していたように見えましたが、一応会話は出来るので問題ないと笑顔で言われましたね。
その後はユリウスたち神聖帝国騎士団に引き渡しました。
といっても、引き渡したのはマリアオベイルに着いてからなんですけど。
実はお休みをいただいてマリアオベイルに行ったんですよ。
異界の魔物たちを連れて帰還するのはいろいろと大変でしょうし、それなら『聖魔女の楽園』で拘束しておいて現地に着いてから引き渡した方が楽だと判断しましたので。
マリアオベイルまでは距離があったのでタルトに乗って移動。
少し前なら従魔も含めた魔物を強く敵視していたので厳しかった。でも、ルクスのおかげで今はそうでもない。
だから無事に辿り着くことができましたよ。それでも万が一のことを考えて、街から結構離れた場所に降りましたけどね。
到着後は現皇帝がいるお城まで来てほしいとのことで、軽く案内してもらいながらユリウスと共にお城まで向かいました。
で、まさかのお城の中にまで入れてもらいました。
貴族でもありませんし、お城の中に入るなんて初めての経験でしたよ。ユリウスは聖騎士長というだけあって慣れていましたが。
その後、怪しい地下研究施設みたいなところにまで連れられ、そこで異界の魔物を引き渡して終わり。ユリウスが側に居たから良かったものの、一人だったら何かされるのではないかとめちゃくちゃ警戒してましたね。
ただ、どうやら地下にある研究施設は知っている人が少なく、ユリウスですらその存在を知らなかったとか。
神聖帝国騎士団に所属しているユリウスならまだしも、そんなものを私に教えて良かったのかと思いましたが、いいから教えてくれたのでしょう。でなければ、教えないでしょうし。
とりあえずそういうことにしておいて、用事が終わった私は仕事があるユリウスと別れ、マリアオベイルをちょっとだけ観光してから学院に戻りました。
異界の魔物についてはこんなところですね。
ちなみに、こちらで得た異界の情報はまとめてユリウスにも伝えています。だから改めて吐き出させることはしなくていいと思いますが、私の予想だとそれとは別に何か目的があるような気がしますね。
次は『聖魔女の楽園』について。
といっても、そこまで大きな変化はなく、新しく住む仲間と施設が増えただけです。
街のお手伝いに人員を割いていたので、施設の方は後回しになっていましたが、そろそろ完成していると思います。
(リリィ様。報告があるのですが、よろしいでしょうか?)
と、バエルから『念話』がかかってきました。
報告を聞くと、話にあがっていた施設が完成したようです。
完成を楽しみにしていたので、私はその施設へ向かうことにしました。
施設は『聖魔女の楽園』中央から西通りを20分ほど歩いたところにあります。
到着すると、そこには大きな鍛冶場が建っていました。
そう、増えた施設というのは、この鍛冶場なのです。
もともと鍛冶場はあったのですが、今回を機に一新することにしました。
早速内装も見てみようと思った時──
「おーい、リリィ」
と、呼ばれたので声が聞こえた方を見てみると、シルファさんがバエルと一緒にいました。
「シルファさん、こんにちは」
「おう。オレの城が完成したって聞いたからバエルに連れてきてもらったぜ」
オレの城って……。まあ、間違ってはいないんですけど。
「今度からここで仕事することになるんだ。これからもよろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします。でも、本当にいいんですか?」
「あの日、約束しただろ? リリィの専属鍛冶師でも何でもなるって。約束したからには守る」
確かに言っていました。『黒龍神杖・崩天魔』を受け取った際に。
「それに、リリィはもうすぐあの街から旅立つんだろ? なのに、まだ要望の杖は全部完成していない。完成する度にいちいち戻ってくるのも大変だろうし、だったらここで仕事した方が何かと楽だ。あとは……親父に口うるさく言われずに済む」
「? 何をですか?」
「ほら、オレも二十を超えた女だし、いい相手はいないのか、だとか、結婚しないのか、とかうるさいんだよ」
「ああ、なるほど」
何度もしつこく聞かれてストレスが溜まる一方。
その理由も含まれているんですね。
シルファさんのお父さんの気持ちも十分理解できますが、本人からしたら余計なお世話に聞こえるのでしょう。しつこすぎるせいで尚更。
「まあ、しばらく『聖魔女の楽園』で世話になるって決まったから、恋愛とか結婚を考えずに伸び伸びやれるけどな。リリィの杖はもちろんだが、他の奴の装備とかも完璧に手入れしてやるから任せておけ」
「そう言ってもらえると心強いです」
「そうだ。うちの仕事場から何人か連れてきたいんだが、いいか? ここにも鍛冶ができる奴はいるみたいだが、やっぱり本職の奴が多い方がいいかなって」
「確かに、試行錯誤しながら技術を磨くより、アドバイスできる方々がいた方が改善点もすぐにわかる。私は良い提案だと思います」
と、バエルが言いました。
「私もいいとは思いますが、魔物が住む街を受け入れてくれるでしょうか。それに、連れてくる人はもう決めているんですか?」
「オレがしっかり説得するから心配する必要はない。連れてくる奴らについては、親父と相談して決める。けど、多分連れてくる奴らのほとんどはまだまだ修行中の若い奴らかな。一応ベテランも何人か来てくれるか頼むけど」
「わかりました。ちなみに人数は」
「多すぎてもあれだからなぁ……。10人、多くても15人くらいかな」
「では、住む場所も用意しておかないといけませんね」
そう言ってバエルを見ると「それでは私の方から伝えておきます」と言って私たちと別れました。
こちらから指示を出さずとも動いてくれる。相変わらず優秀です。これだからバエルにいろいろ頼っちゃうし、任せていいと思うんですよね。
「オレの部屋もあるんだよな?」
「もちろんありますよ。シルファさん用の一軒家が。鍛冶場の内装を見終わった後に見に行きます? ここから少し歩いたところにありますけど」
「オレの城その2だからな、当然見に行く。それで、家があるなら早いうちに引っ越しを済ませたいから、手伝ってもらえると助かるんだが……」
「いいですよ。【異空間収納箱】があれば一度で済むので、荷物をまとめ終えた時にでも連絡をください」
そして、私はシルファさんと鍛冶場の内装を見に行きました。
シルファさんは「いい仕事ができそうだ」と大変気に入った様子でしたよ。一軒家の方も、自分一人だけが住める場所が出来て最高だと喜んでいました。
建てたのは私ではないですが、シルファさんの喜ぶ姿を見ると私も嬉しくなりましたね。建てた子たちはもっと喜ぶでしょう。
そこから更に月日は流れ。
別れの季節がやってきました。
教師の仕事も残りあとわずか。
期間は一年でしたが、実際はそれよりも少し短かったですね。
受け持っている生徒たちはもうすぐ二年生になります。
きっちり一年となると、中途半端な時期に任期が終わることになる。そうなると次の担任への引継ぎとかが少々大変になるでしょう。
二年生という新しいスタートは途中でいなくなる私よりも新担任と始めた方がいいと思い、教師の仕事は一年生終了までという風に決めました。
そして、今日はメルファストに呼ばれて学院長室に訪れています。
「生徒たちのことや、あの事件にその後の街の復興などの手伝い。リリィ先生には感謝しきれないほどお世話になったね」
「いえ、私もこの街にはお世話になっているんですから気にしないでください。それはそうと、次の担任についてですが」
「それなら大丈夫。私がやることにしたから」
「えっ! でも、学院長の仕事は……」
「全部教科を担当するとなるとさすがに厳しいけど、クラスの担任と実戦訓練くらいなら問題ないよ」
メルファストさんがあの子たちの新担任なら安心ですね。
ただ、実戦訓練の方はメルファストさんしか適任者がいないみたいで。
というのも、私がいろいろ教えたせいで、今のあの子たちは下手したら教師たちよりも強い。嬉しいような申し訳ないような。
私を除いたら次に実力のある教師はメルファストさんだったので、自然と引き受ける形になったとか。
どうやらメルファストさんは、あの日の事件を経て、自分を一から鍛えようと仕事の合間を縫って修行していたみたいです。
「私にとっても彼らとの実戦訓練は、きっといい刺激になる。今から楽しみだよ」
「あまり無理はしないようにしてくださいね」
「ハハハ、そうだね。肝に銘じておくよ」
それからもメルファストさんとは少しお話をしました。
世間話や、次はどこに向かうのかとか。
固有魔術の話も出ました。
結局、固有魔術を使う機会はありませんでしたね。
まあ、考えようによっては、使わなければいけないほどの強敵が現れていないということ。
私が作った固有魔術は強力な分、制限時間もあって使用後はおそらく一時的に行動不可になる本当の奥の手。可能な限り、使用は避けたいところです。
そして、更に数日後。
最上級生たちの卒業式を見届け、私もこの街から旅立つ時が来ました。
教室に来るように言われ、教室の扉を開けると、そこには私の生徒たちが。
なんだか最初に会った時よりも随分と大人っぽくなった気がします。いや、この一年足らずでいろいろなことがあったのです。心身共に成長しましたよね。
「リリィ先生、短い間でしたがお世話になりました」
クラスの代表でカティさんから大きな花束を受け取ります。
「リリィ先生のおかげで人生が変わりました」
「そんな、大袈裟ですよ」
「大袈裟じゃないです。リリィ先生がいなかったずっと弱いままでした。だから本当に感謝しています」
カティさんはそう言いましたが、他にも何か言いたそうな表情をしていました。
でも、それは言ってはいけないことだからと我慢しているように見えます。
しかし、我慢できなかったのかカティさんは俯きながら口を開きます。
「……本当は、リリィ先生と卒業まで一緒にいたかったです」
「カティさん……」
「でも、リリィ先生は……リリィ先生は、教師でいられる時間も決まっていて、私のわがままで引き留めるわけにもいかなくて……」
涙を流しながら震え声でそう言うカティさん。
その様子を見て、次々に涙を流す女子生徒たち。
「おいおい、カティ。笑ってさよならするって決めたじゃねぇか……」
「そういうベルだって涙目だよ……」
「うるせぇ、オーグ。これは、その、あれだ。目にゴミが入って……。というか、お前だって今にも泣きそうじゃないか!」
言い争いをするベル君とオーグ君。
この光景も、しばらく見られないんですよね。
ちなみに、私も我慢していましたが、カティさんたちを見て、今にも泣きそうですよ。
だから私は泣いてしまう前にカティさんを抱き締めました。
「大丈夫ですよ、カティさん。これが一生の別れというわけではありません。必ずまた会えます」
「……はい! 次会う時はもっともっと強くなって、リリィ先生をびっくりさせます。だから楽しみにしていてください!」
「ええ、楽しみにしていますよ」
それから生徒一人一人に励ましの言葉を送ったり、約束をしたり。
「アースリィ君、セルマーク君」
「「はい」」
「家族の縁を切ったとしても、二人は兄弟で、互いに高め合う良いライバルです。日々の努力を怠らず、これからも頑張ってください。二人ならもっと上に行けると断言できますから」
「「はい!!」」
そして、最後に。
「ノエルさん。ノエルさんには──」
「大丈夫です。これから先、私には大きな試練や困難が待ち受けている。だけど、私は挫けたり諦めたりしません。必ず私の中にある力を使いこなして、打ち勝ってみせます!!」
「心配は無用ですか。でも、無茶はしないようにしてくださいね」
「はい。ああそれと、もう一つ」
「なんでしょう?」
「いつか、お義姉さんと呼ぶ日が来ると思うので、覚えておいてくださいッ!!」
「ええっ!?」
思わぬ宣言に驚く私。
周りの生徒たちも驚いている様子。
お義姉さんということは、ユリウスと結婚するということ──ですよね?
確かにノエルさんはユリウスに憧れていてカッコイイとまで言っていました。そういう気があっても何にもおかしくはない。
ノエルさんが義妹、ですか……。
想像してみましたが、悪くないですね。
ただ問題は、ユリウスの方。
ルクスやら他の神聖帝国騎士団曰く、女性からモテてはいるが、そういった話は全くと言っていいほどないとか。
そのユリウスをどう攻略するか。ある意味、難関ダンジョンよりも難しいかも。
「多分、先程言った大きな試練や困難を乗り越えるよりも大変だと思いますよ」
「その方が頑張り甲斐があります」
「そ、そうですか。わかりました。そういうことなら私はノエルさんの恋を応援するだけです」
「はい!! 頑張ります!」
おそらく過去一番に気合の入ったノエルさんの返事だったと思います。
いよいよこの街ともさよならです。
生徒たちに見送られて学院を去ります。
これで最後というわけではありませんが、街中をゆっくり歩きながら進んでいき、街の門に到着するとそこにはユリウスがいました。
今回は鎧ではなく、黒のパンツに白のシャツ。魔物の皮で作られた上着に軽装備といった感じです。
「もういいのか?」
「はい。別れと言っても、ここにはいつでも来られますし」
「そうか。なら行くとするか」
「あっ、そうだ。ノエルさんの件でユリウスに聞きたいことが──」
教師生活も終わり、私は次の目的地へ向かいます。
その場所とは、私の故郷──【リーロン】という村です。
ここからは少し長めのあとがきになります。
今後の更新についても書いていますので、読んでいただけるとありがたいです。
さて、これにて第四章完結となります。
完結まで半年以上かかるとは思っていませんでした。
ちなみに、本日『聖魔女』第三巻の発売日です!
第三巻発売に合わせて第四章完結できるように頑張りました。
第三巻をお手に取っていただけたら嬉しいなと思いつつ、次章についてのお知らせです。
今話の最後にもあったように、次章はリリィが自分の故郷に帰ります。あのパーティーたちとも……。
ですが、第五章開始まで少々お時間をください。
活動報告の方で書いたのですが、見ていない方もいると思いますので、連絡を致します。
実をいうと、ここ1~2か月ほど色々なことがあって精神的に不安定になり、命に関わるほどではなくとも、体調不良で執筆作業に集中できない日が多かったです。
そして、現在も完全回復したとまでは言えません。急に体調不良になる時があります。
そういうわけで、全てにおいて一区切りつきましたので、体調を万全に戻すためにも少しの間、お休みをいただきます。
期間については1~2週間ほど。長くても今月いっぱいの予定です。
お休みしている間も、少しずつ第五章の執筆を進めていくつもりではいますので、しばらくお待ちください。
作者の都合になりますが、ご理解の程、よろしくお願いいたします。
それでは次回の更新でお会いしましょう。





