事件の犯人
突然ですが本日は2本投稿。こちらは1本目です。
今朝の勝負。ユリウスもルクスも良い動きでしたね。流石は『勇者』というべきでしょう。
守りも私が出来る最高のものでしたから攻撃はほとんど通らないと言っても良かったので、少し意地悪だったかなと思いましたが、真剣勝負だったので許してほしいところですね。
まあ、ユリウスに手加減無用と言っておきながら自分が手加減するわけにはいきませんし、手加減するなど彼らとしても不本意でしょう。
さて、生徒たちと合流して朝食を食べ終えたら仕事兼調査の時間です。
今日は学院がお休みですが、学院祭も近付いているということで準備のために登校する生徒もいるみたいです。もちろん私の生徒たちも。
学院に戻り、生徒たちを見送ってからユリウスとルクスを連れて学院長室へと向かいます。
ちなみにですが、話は昨日のうちに終わっているようで神聖帝国騎士団の方々は街の警備隊と共にパトロールをするとか。
話を戻しましょう。
私はユリウスたちと学院長室に向かっているんですが──
「いちいち振り返って確認しなくても大丈夫だよ」
私だって大丈夫だと思いたいですよ。
でも、ルクスは目を離した隙に迷子になるんですから。
学院内で迷子になっても敷地内にいるでしょうからまだ探しやすいですけど、迷子にならないことに越したことはないです。
「姉さんの気持ちもわかる。だからこうしよう」
ユリウスが提案してきたのは私、ルクス、ユリウスの順に一列になって学院長室へ向かおうとのこと。
確かに、これならユリウスが後ろからルクスのことを見張ることが出来て、私は後ろを確認せずに案内できる。
というわけで、ユリウスの提案により無事学院長室へ辿り着いた私たち。
メルファストさんには事前に訪問すると伝えています。いきなりだと居ない可能性もありますからね。それに忙しい時に訪れては迷惑でもあります。
扉をノックし、返事をもらってから学院長室へ入ります。
「おはよう、リリィ先生」
「おはようございます」
「今日は私に話があると聞いているが……その前にそちらのお二人は?」
「初めまして。私は神聖帝国マリアオベイル・神聖帝国騎士団聖騎士長を務めているユリウス・オーランドと申します。いつも姉がお世話になっています」
ユリウスが自己紹介を終えるとメルファストさんは席を立ちあがり、ユリウスへ近づいて握手を求め、ユリウスはその手を握ります。
「そうか、君が若くして聖騎士長の座についたあの……。こうして神聖帝国騎士団の聖騎士長様とお会いできるなんて光栄だよ」
「立場が周りより少し偉いだけであって私などまだまだですよ。すぐ側に常識外れの強さを持った身内がいますしね」
「ハハハ、それは私も共感できるよ。リリィ先生は我が校の教師の中でも頭一つ抜き出ているからね。でも、そのおかげでこちらも助かっている。それで、そちらは?」
「ルクス・エヴァ―テイルです。ユリウス君は僕の上司でリリィは友達ですね」
こうしてみるとルクスよりユリウスの方が大人な対応をしていますね。
ユリウスは聖騎士長という立場で偉い方とも話すことが多いのかもしれませんし、こういう対応の仕方が自然と身についた感じでしょうか。
とりあえず挨拶が終わったので話をするためにソファーに腰を下ろします。
ちなみにメルファストさんはユリウスたちが『勇者』であることを知っていました。まあ、流石に私が連れてくるとは思っていなかったみたいですが。
「リリィ先生の弟さんが聖騎士長で『勇者』だなんてね」
「私も知らなかったのでビックリですよ」
「そうなのかい? 身内なんだから知ってるものだと……」
「まあ、いろいろあるんですよ。それよりも──」
「ああ、そうだね。早速だが本題に入ろうか」
本題というのは禁忌の魔術やワーナー先生が殺害された件のことです。
犯人の捜索はまだ続いているようですが、未だに捕まっておらず、かといって今日まで目立った事件は一つも起きていません。
メルファストさんも頭を悩ませているようですが、私にはこの事件の犯人に思い当たる人物がいるので、それをメルファストさんに伝えます。
伝えた後の反応は案の定信じられないといった様子でした。
その人物の名前は──
「メアリ先生が、一連の騒動の犯人……?」
そう。私が疑っているのはメアリ先生。
本当に、教師の仕事を何も知らなかった私を支えてくれたメアリ先生を疑いたくはないですよ。でもそう考えるようになった理由はいくつかあります。
あくまでも、これは確定ではない、と前置きをして。
まずは強化合宿。
メアリ先生は強化合宿にはついてきませんでした。まあ、メアリ先生にも仕事があるので仕方ないと言えますね。
ただ、メアリ先生はメルファストさんに「自分は何も出来ないので自分のやるべきことをする」みたいなことを言っていたと。
一度疑ってしまうと「自分のやるべきことをする」というのが何かの準備とも考えられちゃうんですよね……。
たとえば私たちがいない間にどういった手段を使ったのかは定かではありませんが、禁忌の魔術を探し出してワーナー先生に渡したり。
次に合同授業。
合同授業は第一演習場で行いましたが、当時メアリ先生はそこにいなかった。
どうやら「今日中に終わらせないといけない仕事がある」と伝言していたみたいですが、メルファストさん曰く「その時のメアリ先生にはそんな仕事を任せた覚えはない」と。
禁忌の魔術の脅威は知っていたから巻き込まれないように避難していた、と考えることも可能だと思います。
そして、シルファさんの証言。
ワーナー先生が殺害された当日、シルファさんは学院方面へ走る黒いローブを着た人物を見たと言っています。
その人物の体格は小柄な男性か私くらいの体格の女性。
メアリ先生はだいたい私と同じくらいの体格です。だから、当てはまると言えば当てはまります。学院方面に走ったのも寮に戻るためと考えられる。
まあ、何度も言うようにこれらは全て確証のない仮定の話。メアリ先生が犯人であるとは断定できません。
そもそも、ユリウスの話でワーナー先生を殺害した人物は異界人と確定していますが、今の仮定が真実だとしたらメアリ先生は異界人ということになります。
しかし、異界人のステータスは上手く読み取れないことは過去の経験で知っていますが、メアリ先生のステータスは普通に読み取ることができます。学院の方でも検査等をしているみたいですし、個人情報はあるでしょう。
メアリ先生は学院の内情は知っている方ですけど異界人ではない、と思いたいのでしょう、私は。
「……なるほど。リリィ先生の言い分は理解した、だが私はどうしてもメアリ先生が犯人だとは思えない。彼女がこの仕事や生徒たちに向ける熱意は本物だ。そんな彼女がワーナー先生を殺害し、更には禁忌の魔術を利用して学院の生徒、そしてこの街の住人まで殺害しようとは……」
「私も別に犯人がいると思いたいです」
「だが、犯人の候補が出たとなれば拘束して話を聞くべきではないのか? 姉さんとメルファスト殿には悪いが俺はそうするべきだと思う」
「僕が会った時は悪そうな人とは思わなかったけど。でも、拘束するほどではないと思うけど話を聞くという点においてはユリウス君と同意見だね。メアリ先生は今日学院には来ていないんですか?」
「メアリ先生は身内に不幸があったから一度実家に戻ると昨日私に……」
本当だったら申し訳ないですけど、それはあまりにもタイミングが……。この状況だと余計に疑ってしまいます。
メアリ先生が異界人であれば標的は間違いなくノエルさん。
しかし、昨日メアリ先生はルクスと遭遇して、そのルクスは自分が『勇者』だと明かした。
異界人からすれば『勇者』2人を始末できる絶好のチャンスですが、逆に標的である『勇者』が2人に増えてしまったとも捉えることができる。実際はユリウスを含めた3人ですけど。
とりあえずメアリ先生がこの場にいない以上、慎重に話を聞こうにもできませんね。帰ってくるのを待つしかありませんが、ここはこちらから動きましょうか。
「そうですか。ではメアリ先生の実家は何処に?」
「もしかして会いに行くのかい?」
「無礼は重々承知していますが、メアリ先生が戻ってくるまで犯人だと疑い続けたくはありません。少しお話しできればいいので」
「そうか……わかった。少し待っててほしい」
そう言ってメルファストさんが立ち上がると地図を持ってきました。
「メアリ先生の実家はこの街から南西に30キロほど進んだ場所にある小さな村だと聞いている。徒歩だと時間がかかるから馬車か何かを使って──」
「タルトに乗って行けばすぐに着きますので大丈夫です」
「姉さん、俺も一緒に行くか?」
「いえ、一人で大丈夫ですよ。ユリウスとルクスは学院内でも見て回っていてください。学院長もいいですよね?」
「ああ、それは別に構わない。何だったら誰か案内役でも用意しておこう」
「ありがとうございます。それでは行ってきますね」
ユリウスたちを残して私は学院長室を後にします。
そして、街の外を出て、タルトが元の大きさに戻っても騒ぎにならないほど移動してから『聖魔女の楽園』にいるタルトを呼び出します。
「タルト、行きたいところがあるので背中に乗せてくれますか?」
「キュイキュイ!!」
元気よく返事をするとタルトは元の大きさに戻ります。
タルトの背中に乗ると大きな翼を羽ばたかせてあっという間に空へ。そこからタルトは私の指示でメアリさんのいる村へと向かってくれます。
一応私も魔術を使って空を飛ぶことはできますが、タルトの方が速いので今回は頼りにします。
久し振り──というほどでもないと思いますけど、私を背中に乗せて飛ぶのが嬉しいのかタルトは普段以上にスピードを出しています。
そのおかげで20分足らずで到着しましたよ。まあ、まだ本気ではないのでやろうと思えばもっと早く到着できましたけど。
さて、村の入り口でタルトが地上に降りてしまうと絶対に驚かれるので、いつものように人の目がないところに降りてから徒歩で目的地へ向かいます。
メルファストさんが言っていた通りの小さな村です。ここにメアリ先生がいるんですよね。
村の入り口には門番さんらしき男性がいるので、まずは話しかけて村の中に入れてもらえるようにお願いしましょう。
「こんな村に誰かが来るなんて珍しいな。何か用か?」
と、男性が聞いてきました。
警戒はされていますね。まあ、いきなり訪ねていますし、向こうからすれば女性だとしても村を襲う盗賊なんてことも考えられますので仕方ありません。
「実はこの村に住むメアリ先──メアリさんに少し用事がありまして。大変な時に申し訳ないんですが、お話しできればなと……」
「メアリと? それは難しいと思うぞ」
「そこをなんとか。少しだけでいいんです」
「いや、少しも何も、まだうまく喋れないし」
まだうまく喋れない? それってどういう……。
「あと大変な時っていうのはなんだ?」
「えっ、メアリさんの身内に不幸があったと聞いて……」
「ん? この村で最近亡くなった人はいないぞ。じいさんもばあさんもみんな元気に暮らしてる」
もしかして私、来るとこ間違えました?
いや流石にそんな失敗はしないでしょう。ちゃんと南西に向かって飛んだわけですし。地図も頭の中に入っているので間違いありません。メルファストさんも間違った情報を私に教えたとは思えません。
だからここがメアリ先生の生まれ故郷のはず。
そんなことを考えていると少し離れたところで私に気づいたのか小さな女の子がやってきました。
「ねえねえ、この人、お客さん?」
「ああ、なんでもメアリと話がしたいらしい」
「えぇ、無理だよ。だってメアリちゃん、生まれたばっかりだからお話なんて出来ないよ」
「俺もそう思うんだが……」
ちょっと待ってください。
メアリ先生が生まれたばかり?
いやいや、そんなはずないでしょう。メアリ先生は学院で教師の仕事をやっているんですから。
でも、この2人が嘘を吐いているようには見えません。ということはつまり──
「あの……一つ確認したいんですけど、メアリさんって……」
「3週間前にこの村で生まれた女の子のことだが。生まれたばかりだから当然話をすることも出来ないだろ」
確かに、3週間前に生まれた赤ちゃんと話をするのは難しいですね。というか、まともな会話はできません。
「ほ、他にメアリという名前の女性はいないんですか? 背丈が私と同じくらいの女性です」
「君と同じくらいの背丈の女はこの村にも何人かいる。けど、メアリという名前は今話した娘しかいないな。一応言っておくと、俺はずっとこの村に住み続けているが、俺の知る限りで君くらいの歳の娘でメアリという名前の者は一人もいない」
メアリ先生はこの村で生まれ育っていない。
学院の方では教師の個人情報も厳重に保管していると聞いていますが、その情報も偽装しているというわけになりますか。
これは、もう……。
まだ犯人ではない可能性は残しておきたいというのが私の本心ですが、このことはメルファストさんに伝えないといけません。
メアリ先生がいないのであれば、この村に用事はないので「どうやら場所を間違えたみたいです」と一言謝罪して街に戻ります。
それにしても、メアリ先生が向かった場所がこの村でないのならいったい何処へ向かったというのでしょうか。
続きは投稿されているはずです。





