情報共有
「さて、それじゃあこの場所やら異界のことについて話を聞かせてもらおうか」
と、ある程度食事を済ませたユリウスが私に言ってきました。もともとその話をする予定でしたからね。
まずはユリウスに『聖魔女の楽園』が出来た経緯を簡単に説明します。
テルフレアで起きたことを話すと、ユリウスもその件については知っていたようです。まあ、アルゴギガースほどの巨大な魔物が復活したのですから話は聞いていますか。
ちなみに、今はただの置物になっているアルゴギガースがこの場所にあると教えてもユリウスは驚きませんでした。いや、驚かなかったというより、驚きを通り越して呆れてた感じですね。
その話で思い出しましたが、バエルがアルゴギガースを改造するとか言っていましたよね。
どうやら順調に進んでいるみたいですよ。時間はまだかかるみたいで、お披露目はもう少し先の話になるようですが。
「まだまだ紹介しきれてない場所がありますけど、それはまた別の機会にしましょうか。ユリウスも仕事があって時間も作れないでしょうし」
「そうだな。全てが終わった後にでも紹介してくれ」
「じゃあ次は異界について話したいところですが──ルクスも同席させなくていいんですか?」
ルクスは今も用意された料理を食べています。
口いっぱいに頬張って子供みたい。でも、あんな風に誰よりも美味しそうに食べてくれると作ってくれた魔物たちも喜ぶでしょうね。
「俺と同じ『勇者』だからな。情報を共有するためにも同席させる。俺が連れてくるから姉さんは待っててくれ」
ユリウスはルクスのもとへ行きました。
異界──私は裏世界と言ってましたが、統一したほうが良さそうなので──の話は『勇者』が知っておくべきことでしょう。
となれば、ノエルさんも同席させた方がいいのでは?
以前「『勇者』が原因で命を狙われることがある」と言いましたし、これを機にしっかりと説明した方がいいかもしれませんね。
ユリウスには待っていろと言われましたが、ノエルさんはすぐそこにいますし、呼びに行くくらいならそこまで時間はかかりません。
そういうわけでユリウスがルクスを呼びに行っている間、私はノエルさんのところへ向かいます。
「皆さん、楽しんでいますか?」
「はい! あっ、でもアースリィたちから聞きましたよ! 合同授業に備えて強化合宿っていうのをここでやって、美味しい料理が毎日食べられて、ふかふかのベッドで休めて、何より充実した特訓が出来たって。ズルいです! 私たちも強化合宿やりたいー!」
「わかりました。では、近いうちにまた強化合宿をやりましょう」
「やったぁ! 絶対だよ!」
「約束は守りますよ。それはそうと、ノエルさんを少しお借りしてもいいですか? 大事な話があるので」
「私ですか? わかりました」
ノエルさんを連れて先程居た場所へ戻ります。
ちょうどタイミングが良かったみたいでユリウスたちとも合流できました。ルクスはまだ料理が乗った皿を持っていますね。
話が終わってもまだ残っていると思いますが、もし残っていなくてルクスが希望するなら魔物たちに頼むのも迷惑かもしれないですし、私が後で何か作りましょうか。材料はあるのでお肉を焼いただけなんてことはないですよ。
「あ、あの、リリィ先生……」
私の後ろで緊張しているノエルさん。
目の前に憧れているユリウスがいますからねぇ。すぐそこにいるんですから緊張してしまうのは仕方ないのでしょう。
「話はしたことないが、君とは一度会ってるな」
「は、はい! 覚えていてくれてたんですね」
「ああ。俺はユリウス・オーランドだ。ノエルさん、だったか。同い年なんだからそんなにかしこまらなくてもいいと思うんだが」
「まあ、ノエルさんにも事情があるんですよ」
「そうなのか。ところで、どうして彼女をここに? ……いや、姉さんが連れてきたということはそういうことか。だとすれば、異界の者がこの街に来たというのも納得できる」
「あの、話が全然わからないんですが……」
話をする前に場所を移します。
ノエルさんが『勇者』であることは秘密。ここにはアースリィ君たちもいますから、万が一も考えての移動です。
場所はここから近いので私の家にしましょう。
こうして自分の部屋に魔物以外を招待するのは初めてですが、これといって見られて困るものは──あるにはありますけど、女性の部屋の中を隅々まで探索するようなことをユリウスやルクスはしないでしょう。
ソファーに座ると扉の向こうからノックが。
入ってきたのは私の家に仕える中級悪魔の女の子。紅茶などの飲み物を手際よく用意してくれて、終わったらすぐに退室しました。
「話を始める前にノエルさんのことから。ルクスは既に知っていますし、ユリウスも気づいていると思いますが、ノエルさんは『勤勉』のユニークスキルを持つ『勇者』です」
「やはりそうか。しかし、この場に『勇者』が3人もいるとはな」
確かに、世界に7人しかいない『勇者』のうち、この場に半数近い3人が集まっているなんて奇跡みたいなものですよね。
本題に入る前にノエルさんにはこの世界と異界との関係について説明します。
この世界とは別の世界が存在し、その世界の住人がこの世界の『勇者』と『魔王』を殺すためにやってくる。
その理由として2つの『職業』には魔物を倒した際、魂に強大なエネルギーを与える力がある。その魂はもう一つの世界へ行き、新たな生命として活動する。それを阻止するためにこちらの『勇者』と『魔王』を殺す。
ただ、それは向こうにも同じことが言えるのでしょう。こちらの『勇者』と『魔王』と同じ力を持った者は異界にもいるでしょうし。
それに、こちらの『勇者』と『魔王』を殺したところで、資格とも言えるユニークスキルは所持者が亡くなれば次の候補へと譲渡されるんですから無意味な戦いなんですよ。
「──という感じですね」
「2つの世界にそんな関係があるとは知らなかったな……」
「ユリウスは知らなかったんですか?」
「俺が聞いたのは異界の奴らが殺しに来るということだけで、皇帝陛下からはそのようなことは一切聞いていない。単に知らなかったのか、それとも伝える必要がないと考えたのか。まあ、この際どっちでもいいか」
「リリィ先生が以前私に「命を狙われる」と言っていたのは今のが理由なんですね」
「はい。そして、おそらくノエルさんの命を狙う異界人はこの街の何処かにいる。そうですよね、ユリウス」
「そうだ。だから俺たちがこの街に来た」
次にユリウスからの話をまとめると。
どうやらこの街には神聖帝国マリアオベイルから派遣されていた兵士がいたようです。付け加えると派遣している兵士はこの街だけではなく、他の街にもいるみたいです。
その兵士はこの街の地下牢での仕事を任されていた。
しかし、突然連絡が取れなくなった。理由はその兵士が亡くなっていたから。
地下牢の時点で気づきましたが、その兵士は最近起きた事件の被害者の一人です。
ちなみに、その話が出たのでユリウスたちにもあの日の事件やその前に起きたことも話しました。
それで、被害者の兵士には何らかの魔術が施されていたみたいで、異界人に殺害されたら連絡が行くようになっていたとか。
そんな魔術があるのかと私が驚いていたのは話に関係ないので無視するとして、ユリウスはマリアオベイルの皇帝からこの街にいる異界人の殺害もしくは拘束を命じられた。
「ただ、問題はその異界人が何処にいるか、だな」
「事件が起きてから数日経っている今でも見つかりませんからね……。あれから特に事件は起きていませんし。きっとうまく姿を隠しているのでしょう」
「その異界人、探しても見つからないんじゃなくて、何食わぬ顔でここでの生活に溶け込んでいるんじゃない?」
今まで大人しく話を聞いていたルクスがそう言いました。
「だとしても、何処にいるかはわからないまま……」
「シャルルフォーグ学院」
「……えっ?」
「あくまでも僕の推測だから確証は当然ない。リリィが話してくれた事件を聞いて何となくそう思っただけさ」
ワーナー先生はセルマーク君に禁忌の魔術が記された書物を渡した。
それを見つけたのは異界人と断定していい。禁忌の魔術を用いてノエルさんを殺害しようと計画していた。
街の被害やこの街の住民が巻き込まれるのはそのついで。異界人からしたら、そんなことどうでもいいことだから。
そして、仮に異界人が学院内にいるなら、学院の内情は知っていて、元AクラスとEクラスで行う合同授業を利用できると考えられます。
シルファさんが言っていた「黒いローブを着た人が学院方面に向かっていた」というのも異界人が学院関係者だから。まあ、これに関しては異界人ではない別人とも考えられますか。
もし本当に学院内に異界人がいるとして、それは誰なのか。
ふと、私は“とある人物”が頭に思い浮かびました。
何故この人が思い浮かんだのか私自身わかりません。ただ真っ先に浮かんだのがあの人でした。
正直、間違いであってほしいと心の底から願っていますよ。もっと言えば学院内に異界人はいないことを。
でも、その人だった場合、いろいろと辻褄が合うというか、納得できることが多々あるんですよね。
「はぁ……」
「どうしたんだ、姉さん。急に溜め息なんて」
「探している異界人、わかったかもしれません」
「本当か!? いったい誰なんだ?」
この場にはノエルさんがいるので言いづらいですが、ユリウスたちの命がかかっていますので、あくまでも「かもしれない」ということを先に伝えてからユリウスたちに教えます。
当然ユリウスはその人を知らないので名前を言ったところでわかりません。
しかし、ノエルさんは知っています。その名前を聞いた途端、信じられない様子でした。私も信じたくはないですよ。
ルクスはというと──
「その人とはさっき学院で会って挨拶したけど敵意とか殺意は感じなかったよ」
「会ったのか!? というか、挨拶しただけ敵意や殺意は向けられないだろ」
「それなんだけど、僕は別に隠してないから話の流れで『勇者』だって言っちゃった。異界人なら『勇者』って聞けば少なからず動揺するでしょ。だって目の前に突然標的が現れたんだから。でも、その人は特に動揺もせず普通だった」
「まあ、かもしれないと言いましたからね。まだ異界人だと決めつけることはできません。このことは私が学院で調査しますのでユリウスたちは──」
「いや、俺も手伝うよ」
「僕も行くよ。学院内を見て回りたいからね」
「ルクスは目的がズレていますが……まあいいでしょう。では、明日学院に行きましょうか。ノエルさんも気を付けてくださいね」
「……はい」
そして、話は終了。
私たちは広場の方へと戻ります。
ルクスは再び料理の方へ。まだ食べるみたいです。ユリウスは神聖帝国騎士団の方々を呼んで話をしています。
ただ、ノエルさんは終始元気がありません。
推測とはいえ、あんなことを言われて元気があるほうが難しいですよね。
今になってノエルさんがいないところでユリウスたちに言えば良かったという気持ちと、自分の命を守るためにも伝えて良かったという気持ち。その2つの気持ちがあって複雑な気分です。
「ノエルさん。さっきはああ言いましたけど、私だって本当は信じたくありません。だから、絶対に違うと信じましょう」
「そう、ですよね。絶対、違いますよね。もう大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」
そう言ってノエルさんは生徒たちの方へ走っていきました。
全然大丈夫じゃないことはわかりますよ。それでもノエルさんはクラスメイトたちに心配されないよう普段通りの自分を見せていました……。





