2人の『勇者』
遅くなりましたが、新年一発目の更新です。(夜中で申し訳ない……)
今回の話は第二章「幕間 勇者ルクス・エヴァーテイル」の続きという形になりますが、読み返さなくても特に問題はないです。ルクスパーティーのメンバーの容姿も記載しておきました。
あと、近々第四章の主要人物の容姿などをまとめたものを投稿しようと思っていますので、もう少々お待ちください。(これが思いの外、時間がかかるんです……)
■ルクス・エヴァ―テイル
性別:男性 職業:『勇者』
ユニークスキル『純潔』所持者
黄土色の髪色。金色の瞳。身長は175センチ程度
■フィリス・ミラーナ
性別:女性 職業:『賢者』
ルクスのパーティーの一人
腰付近まで伸びた深紅の緩い癖毛。翡翠色の瞳。
■シウ・アンバー
性別:女性 職業:『拳闘士』
肩まで伸びた白金髪。紺碧の瞳。元気いっぱい。
■タルラ・フリッツ
性別:男性 職業:『魔法剣士』
灰色髪のショートカット。紫色の瞳。中性的な顔立ちで冷静沈着。
時はルクスがアルファモンスを出発した頃に戻る。
ルクス一行はアルファモンスに存在する『神々の塔』攻略を断念。次の目的地と予定していた神聖帝国マリアオベイルへと向かっていた。
特にマリアオベイルに用事があるわけではない。
次は何処へ行こうか悩んでいた時にパーティーメンバーであるタルラが提案し、まだ行ったことがないからという理由で決まっただけだ。
しかし、目的地までは距離がかなりある。
徒歩で向かうのはまず無理。何か月もかかってしまう。
そのため馬車を利用して向かっている。といっても、自前の馬車など冒険者として各地を旅しているルクスたちが持っているわけもなく、アルファモンスを出発する際にとある商人の護衛として乗せてもらっているのだが。
そして、馬車に乗ってから4時間。
乗せてもらった商人の目的地である街に到着した。
まだマリアオベイルまで距離はあるが、乗せてもらっている身でわがままを言える立場ではない。
それに、到着した街はまだ訪れたことのない場所だった。アルファモンス並みに大きいわけではないが、急いでいるわけではない。せっかく来たのだから見て回りたいという気持ち少なからずある。
そういうわけでルクスたちは一晩その街で休み、翌日冒険者ギルドに向かって似たような護衛の依頼がないか確認。運よく護衛の依頼が見つかったルクスたちはそれを受け、マリアオベイルに向けて出発した。
商人たちは目的地までの安全を保障。ルクスたちはマリアオベイルに楽して近付ける。
そうして3日後に到着したのは【ボルトス】という街である。
位置関係で言えばちょうどアルファモンスとマリアオベイルの中間地点にあたる場所だ。今回の護衛依頼はボルトスまでということでルクスたちはこの街に足を踏み入れる。
この街もまだ訪れたことのない街だ。であれば、やることは決まっている。
「続きは明日ということで今日は各自自由行動! 集合は夕方6時、場所は今いる噴水広場! 遅れないように」
と、パーティーメンバーに告げるルクス。
当然「お前が言うな」というようなツッコミが全員からくる。それもそうだろう。ルクスはパーティーメンバーを困らせる迷子常習犯なのだから。
ルクスを一人にしてはいけないとパーティーメンバーのタルラが口を開く。
「ルクスには俺が同行しよう。フィリスとシウは2人で街を見て回るといい。心配しなくてもルクスのことはしっかり見張っておく」
「それじゃあ、お言葉に甘えようかな」
「そうだね。服とかゆっくり見たいし」
フィリスとシウはルクスたちと別れて洋服屋へと向かった。
見送った後、ルクスたちはフィリスたちとは別方向へと歩き出す。
フィリスたちに対してルクスたちは特にこれといって目的はない。ただ何となく街をぶらついているだけだ。
まあ、現状で目的はなくとも、いろいろ見て回れば面白いものや興味を引くものがあるかもしれない。そう思いながらルクスは街中を見つつ歩いていた。
そんなルクスをタルラはしっかりと見ていた。
仮にいなくなっても探そうと思えば見つけることは出来る。ただ、正直面倒であるため、そうならないためにも用心しなければならない。
しばらくして、ふと思い出したのかルクスはタルラに問う。
「あっ、もうすぐ昼だからみんなでご飯食べてから自由行動にするべきだったね。まあ今からフィリスたちを探すのも大変だし、2人もきっと何処かのお店に入って食べるか。タルラはどう? お腹空いたりとかしてない?」
「……いや、俺はいい。ルクスはどうなんだ?」
「うーん、僕もそこまでかな。お腹空いたら適当に軽食でも買えばいいし」
「……そうか」
「じゃあタルラは何処か行きたいところはないの? ずっと僕に付き合わせるのも悪いからさ。行ってみたいところがあるなら言ってよ」
そういうことなら、とタルラは目的地を明かさずに歩き始めた。
タルラはあまり自分から何処かへ行きたいとは言わないタイプだ。いつも自分ではなく他のメンバーを優先する。結構長い間パーティーを組んでいるが、今回のようなことは初めてかもしれない。
だからルクスはタルラが向かう場所に興味を持った。
歩き進めること20分。
場所は建物と建物にある小さな道。タルラは後ろにいるルクスを気にかけながらその道を何も言わずに歩いていく。
正直、この先に何があるのかルクスにはわからない。
実はパーティーを組む前にタルラは一度この街を訪れたことがあって隠れた名店のようなものを紹介してくれようとしているのか。
そんなことをルクスは考えていた。
それにしても、タルラが入った道は複雑に入り組んでいる。
こうしてタルラが前を歩き、それを追っているからルクスは迷子にならないが、ルクス一人で入ってしまったら見つけることは不可能に近い。いや、こればかりはルクス以外にも言えることか。
一向に目的地が見えず、会話もほとんどないため、ルクスは何か話題を振ろうと考える。
思い返せばタルラと2人きりで話すことも少なかったかもしれない。
基本的には男女で部屋を分けるために宿などでは二部屋借りるのだが、だいたいは何か話す前にタルラは寝てしまう。裸の付き合いと風呂に誘ったことも何度かあるが全て断られている。
だが、風呂の件は仕方ないことだとルクスは割り切っていた。あくまでもルクスの勘だが、それがもし当たっていれば断るのにも納得が出来る。
しかし、改めて考えて見ると気になってきたルクス。
せっかく2人きりで話題もないのだから聞いてみようとタルラに問う。
「そういえばさ。タルラは良かったの? フィリスやシウと一緒に洋服見なくて。店内なら流石の僕も黙って待てるし、遠慮しなくてもいいんだよ?」
「……別に俺は服などに興味ない」
「そうなんだ。女の子ってオシャレするのが好きなのかと思っていたけど、全員がそういうわけじゃないのか……。なるほど、勉強になった」
今の言葉に淡々と歩いていたタルラは立ち止まった。
そして、そのまま振り返らずにルクスに聞き返す。
「今、なんて……?」
「えっ? 勉強になったって」
「違う……その前だ」
「ああ、タルラは女の子って言ったこと?」
聞き間違えなどではなかった。ルクスは今はっきりと自分のことを女の子だと言った。
ルクスは妙に勘が鋭いところがあるとタルラは理解していた。故に動揺はあまりしていない。
ここで誤魔化す意味もなかったため、タルラはルクスに聞くことにした。
「気づいていたのか? いつから?」
「最初に会った時だからタルラが僕に声をかけてきた時かな。初めてタルラを見た時、普通に女の子だと思ったもん。「よく女性と間違えられて苦労している」って言ってたから敢えて詳しく聞かなかったけど、その様子だと本当みたいだね」
「そう、か。なら何故すぐに聞いてこなかった?」
「わざわざ性別を偽るくらいなんだから何か理由があるんでしょ? 言えないことの一つや二つ、誰にだってあることだし、言いたくないなら別に聞かなくてもいいかなって。まあ、今はこうして聞いちゃってるけど。もちろん隠しているんだからフィリスたちには言わないよ」
「……いや、その必要はない。俺──いや、私の任務はもう終わった。お前たちと一緒に冒険することはこの先ない。だから言いたければあの2人にも言えばいい」
任務はもう終わった。その意味から察するにタルラは誰かの命令でルクスに近付いていたと考えるべきか。
この状況。考えてみれば逃げ場が少ない場所へと誘導されたようにも捉えることが出来る。
(タルラが僕をこんな狭い場所に案内したということは、タルラ以外にもこの近くに誰かいると考えた方がいいかな。前方にはタルラ。後方は誰もいないけど、もしその考えがあっているなら間違いなく回り込まれているよねぇ……。それ以前にこんな複雑な場所、僕一人で迷わず街の通りまで帰れるわけないし!)
そんなことを考えていると後方に人の気配を感じたルクス。
実力で言えばルクスの方が上ではある。しかし、出来れば争いごとにはしたくないし、仮に戦闘になっても狭い通路では思うように動けないだろう。
ただ、それよりもルクスは前方から近付いてくるもう一つの気配が気になって仕方なかった。
後方から近付いてくる者とは比べ物にならない強さを持っている。実際に目にしていないが、そう直感が告げている。
そして、姿を現したのは純白の鎧を纏った黒髪蒼眼の少年。
そう、リリィの弟であるユリウス・オーランドだ。
「ユリウス聖騎士長。お疲れ様です」
「ああ。タルラ、ご苦労だった。それで、そこにいるのが『純潔』のユニークスキルを持った『勇者』か」
「どうも、ルクス・エヴァ―テイルです。えっと……ユリウス君、だっけ? これは君がタルラに命令したことなのかな?」
一応挨拶をし、そう問うルクスだったが、ユリウスが答える前に何故かタルラに睨まれた。おそらくユリウスを“君”呼びしたのが気に入らなかったのだろう。
だが、ルクスはまったく気にしていない。何だったらユリウスのことは聖騎士長と呼ばれていたから「きっと偉い人なのかな」程度にしか思っていない。
ルクスを睨むタルラの肩をユリウスは軽く叩き、そのままルクスの前まで足を進めた。
「そうだ。俺が命令した」
「いったい何のために? 当然理由はあるんでしょ?」
「お前の監視とマリアオベイルへの誘導だ。俺と同じ『勇者』とはいえ、弱ければ使い物にならない。まあ、報告を聞く限りでは問題はなさそうだが」
その発言に納得するルクス。
「へぇ、僕と同じか。『勇者』は世界でも7人しかいないっていうけど、意外と簡単に会えるもんなんだね。いや、タルラがそうなるように仕向けたからか……」
タルラは自分とユリウスと会わせるために次の目的地に神聖帝国マリアオベイルを提案したのか、と。
その前にボルトスで合流することになった理由は定かではないが、事情があってなるべく早めに合流したかったとかそんなものだろうから気にすることもないとルクスは考える。
「その鎧に聖騎士長……そしてマリアオベイル。確か聖騎士で構成されている集団があったっけ……。名前は、なんとかナイツ」
「神聖帝国騎士団だ。厳密に言えば聖騎士のみで構成されているわけではない」
「そうそう、神聖帝国騎士団。ご丁寧に補足までありがとう。で、その神聖帝国騎士団の聖騎士長様がわざわざ僕に接触してきたってことは勧誘か何かかな? 情報もある程度はいってるみたいだし」
「皇帝陛下は『勇者』を欲している。単に戦力として欲しているのか。もしくは別の理由があるのか。俺は後者だと思っているが、そんなことは今どうでもいい。詳しい事を知らされていなくても皇帝陛下の命であれば動かないわけにはいかない。そういうわけだ、大人しく来てもらうぞ」
「なるほどね。とりあえず、せっかく見つけた『勇者』を手の届くところ──神聖帝国騎士団に置いておきたいって感じかな。でも残念、僕にその気はないよ」
ルクスはそのまま言葉を続ける。
「神聖帝国騎士団の名前は覚えていなかったけど、噂は何度か聞いてるよ。魔物を絶対悪と決めつけ、それが他人の従魔であっても容赦しない。もしそれが真実なら、君たちは間違っていると思うよ」
「……何だと」
「そりゃこの世界は弱肉強食だから命の奪い合いは仕方のないことだ。けど、全ての魔物が悪だとは限らない。心優しい魔物だっていることを僕は知っている」
「…………」
「それにさぁ、従魔と主人の間には絆があるはずだ。それを断ち切ろうとする集団なんて、僕からすればそっちの方が十分悪だと思うけどね」
「…………違う。魔物は悪だ……魔物がいるから……」
ユリウスは右手で自分の顔を隠しながらブツブツと呟き、それをルクスは明らかに様子がおかしいと思いながら見ていた。
魔物に強い復讐心があるのは確かだろう。しかし、それ以外にも何かあるような気がする。
その何かを考えているとユリウスが口を開いた。
「魔物は悪だ。そしてお前は必ずマリアオベイルへ連れていく」
「はぁ……。わかった、わかったよ。どうせ嫌だって言っても追ってくるんでしょ。でも条件がある。僕と勝負して勝ったら大人しく従ってあげるよ。僕を連れていきたいなら力ずくで。それでどう?」
「いいだろう。俺が負けたらお前には近づかないことを約束する」
「よし。じゃあ移動しようか。心配しなくても逃げるつもりはないから。ああでも、フィリスたちに伝えないと駄目か」
「その必要はない」
次の瞬間、ルクスの足元に魔法陣が浮かび上がり、視界が真っ白になって気付けば見知らぬ場所にいた。
外であることは間違いない。周りを見渡すと折れた岩柱や瓦礫が乱雑に置かれていたりしている。
周りを確認しているとルクスはユリウスを見つける。近くにはタルラや他の神聖帝国騎士団、そしてフィリスたちもいた。フィリスたちの後ろには逃がさないように神聖帝国騎士団が立っている。
「フィリス、シウ!! 詳しいことは後で話す。けどまあ、僕が負けたら神聖帝国騎士団ってのに入ることになるっぽいから、そこんとこよろしく!」
「よろしくって……急に鎧を着た人たちが来て、気付いたらこんな場所に……まだ状況がわからないんだけど!!」
「とりあえずごめん!! どうしても聞きたかったらタルラに聞いて。あと本人が言っていいって言ってたから言うけどタルラ、女の子だから。今言うことじゃないと思うけど!」
「「ええっ!?」」
フィリスたちに謝罪するとルクスは目の前に立つユリウスのことを見る。
転移で場所を移動できるなら直接マリアオベイルに向かえば良かったのに。
ルクスはそんなことを考えていたが、すぐに切り替えた。
一筋縄ではいかない相手にどうやって勝つか。今はそれだけを考えている。
そして、フィリスやタルラたちが見据える先で2人の『勇者』の剣が交差し、かくして戦いが始まった。





