思わぬ再会 そして……
あれから5日が経過。
ワーナー先生たちを殺害した犯人は未だ見つかっていません。
捜索は隈なく行っているようですが、一向に見つからないということで犯人は既に街の外へと逃亡したのではないか、なんて話も出てきています。
あれ以降、目立った事件も起きていませんし、私もその可能性があると思っていたりします。
ただ、それでもまだ油断は出来ないでしょう。捜索を止めて油断しているところに第二、第三の被害者が出てしまうことも考えられます。
一応捜索は続いていますが、街の外へ逃亡したと確定して打ち切られるのも時間の問題。まあ、バラムとフォルネたちがいるので完全にとはなりませんが。
それはそうと、予定通り開催されることになったお祭り。
メルファストさん曰く、街全体で行われるということで規模は大きい。開催まで1か月を切っているので既に準備が始まっているところがあるようです。
そして、このお祭りと同時期にシャルルフォーグ学院にて学院祭が行われるそうです。まとめてやっちゃおうみたいな感じですかね。
この学院祭では生徒たちが店を出したり、演劇などの出し物をしたりと他にもいろいろあるみたいです。
こういう行事も学院ならではなのでしょう。クラス全員が一丸となって何かをやる。絶対にいい思い出になります。
放課後に学院祭で何をするか全員集まって検討し、つい最近決まったのでその準備に取り掛かっています。
言うまでもないことだと思いますが、私は担任ですので何をやるか知っていますよ。案を出してきて実際にやれるかメルファストさんに聞いたのも私ですし。
ただ、その……一部の生徒は可哀そうだと思いましたね。
まあ、全員納得して決めたことなのでしょう。
……と思いつつ、多分違う気もしますが、もうこの案が通ってしまったのでどうしようもないですか。
今は放課後ですが、作業はしているようなので少し様子を見に行こうと教室へ向かいました。
ワイワイと賑やかな声が教室の外からでも聞こえます。
ワーナー先生の件もあって元気がなかったところもありますが、生徒たちの笑い声などが聞こえて安心しました。
私は扉を開けて教室の中へと入ります。
すると、そこにはどう感想を言えばいいかわからない光景が。
えっと……見たままの光景を話しますよ。
クラスの中でも一番体格がしっかりしているベル君がですね、メイド服を着て筋肉を見せつけるようなポーズを取っていました。
と、とりあえず、教室の扉を閉めて一度冷静になって考えてみます。
いったい何がどうなってあんなことに?
ちなみになんですが、私のクラスでやるのはメイド喫茶というもので、何処で知ったのか知りませんけど、ミーシャさんとサリーさんが提案したみたいです。
まあ、簡単に言えば接客業。他のクラスでもそのような類の出し物をするようですし、特に問題はないのでしょう。
でも何故ベル君があんな恰好を?
まさかそういう趣味を持っていて……。
個人の趣味を否定するつもりはないですが、流石に予想外でした。
って、勝手に決めつけましたけど、あれには別の理由があります。ただ、それが学院祭当日に現実にならないことを祈るしかありません。
さて、生徒たちは私が教室に入ってきたのにすぐ扉を閉めて困惑していると思いますから次はちゃんと教室に入りましょう。
もう一度教室の扉を開けて、ベル君の姿が見間違えではなかったことを確認してから生徒たちに挨拶をします。
「準備の方は順調ですか?」
「えっ、リリィ先生、ベルのことはスルーの方向でいくの?」
「あっ、やっぱり触れた方がいいです? じゃあ、何故ベル君はそんな恰好を? サイズもベル君用にしっかり仕立てられていますし……まさか本当にやるんですか?」
「元AクラスとEクラスが統合したとはいっても、私たちのクラスは他のクラスよりも人数が少ないですから。私、ミーシャ、サリー、ノエル、アンリ、フィリアの女子6人だと圧倒的に人手不足ですし、出来る限り人数は増やしたいところです」
と、カティさんは真面目な表情で言います。
そう。これが一部の生徒──この際はっきり言うとアースリィ君たち男子生徒が可哀そうだという理由です。
人手不足だから女装して手伝うことになる。
それを良しとした男子生徒たちにそういう趣味はなく、他にいい案が出なかったので仕方なくだそうです。
だとしたら、出し物自体しないという選択肢もあったのに……。
実は学院祭の出し物は自主的にやるものであって、絶対にやらないといけないわけではないんです。
にもかかわらず、その選択肢を選ばなかったのには理由がありまして。
どうやら出し物をしているクラスの中で一番人気だったクラスにはご褒美があるみたいです。噂によると温泉旅行などなど。
おかげで女子生徒たちはやる気満々。お客さんをたくさん呼べる可能性がある出し物を考えた際にミーシャさんたちの提案もあってメイド喫茶になったというのが事の流れです。
考えれば他にもあると思いましたが、もう決まってしまったことですので今更どうこう言っても仕方ありません。
「それで、アースリィ君たちも接客に回すとして、衣装とかの準備は進んでいるんですか?」
「そこはバッチリですよ。化粧の方も問題ありません。アースリィとセルマーク、オーグ、レイジは十分戦力になります。ベルとテオドールは……どうしても必要になった状況の場合のみ出動させます。それまでは裏方に徹してもらいます」
私もその方が良いと思いますね。ベル君とテオドール君は体格がいいですから……。
ちなみにレイジ君とテオドール君というのは元Aクラスの男子生徒です。言う必要はないと思いますが、今では皆さん仲がいいですよ。
「まあ、俺とテオドールはぶっちゃけネタ枠だな」
「ベル君はそれでいいんですか?」
「ん? 別にこれで笑いが取れるならいいと俺は思うけどな。実際みんな笑ってたし、恥ずかしがっても逆に変だろ。だったら全力でネタに走った方がいい」
「俺もベルと同意見だ」
「ふ、二人がそう言うならいいですけど……」
「それはそうと、はい、リリィ先生」
ミーシャさんから渡されたのはメイド服です。あとはもう一着ありますね。
「さっきカティも言ってたでしょ? 人手不足だって」
「私もやるんですか?」
「学院祭当日に生徒の出し物を教師が手伝ったら駄目っていうルールはないし、念のため学院長に直接聞いてみたけど、「これも青春の一つだ、リリィ先生もいい思い出になると思うから力を合わせて頑張って」って言ってたよ」
正直に言うと、私も一緒にやりたいなぁ、なんて思っていたり……。でも私は教師ですし、自分から一緒にやりたいだなんて言えなくて。
だから、私の分まで衣装を用意してくれて一緒に出来るなんて嬉しいです。私の体の正確なサイズとかカティさんたちはわからないと思うのに、何故か用意できているのかは一旦おいといて。
「メアリ先生も誘ったんだけど、恥ずかしくて出来ないって断られちゃってさ」
「そうですか。ではメアリ先生の分まで私が頑張りますね」
「リリィ先生はやる気だね」
「はい、実はやってみたかったので。ところで、こっちの衣装は?」
「ああ、それね。さすがにメイド喫茶だけだと男子たちが可哀そうだからって話になって、午前はメイド喫茶、午後は執事喫茶っていうのにしたの。執事喫茶はメイド喫茶とほぼ同じだから説明は省くね。で、案が通った後にそれを思いついちゃって無理かなって思ったけど、学院長に聞きに行ったついでに聞いてみたらオッケーもらった」
なんだか随分と軽い感じがしますね。でもまあ、オッケーなら気にしなくていいのでしょう。
こっちの執事服も普段は着ることのない服ですので、興味もありましたし、後で着てみましょう。
しかし、着なくてもメイド服同様にこの執事服も私にピッタリなサイズに見えます。デザインも少し変わっていますが、何処かで見たことあるような……。
思い出した私は『聖魔女の楽園』からバエルを呼び出しました。
問い詰めるとこれらの衣装はバエルが用意したみたいです。バエルなら私のこと、何でも知っているでしょうし、用意することも容易いのでしょう。
私も気にしていませんし、特に責めることはありません。問題はバエルが用意した衣装を使ってもいいのかという点ですが、メルファストさんのことですからミーシャさんの発言から予想するに問題ないと言いそうですね……。
「それじゃあこの後は当日お客さんに出すメニューを考えないとね」
「あと必要なものの買い出しかな。とりあえず決まっているメニューの試作もしないといけないし」
「買い出しなら私が行ってきますよ。皆さんはそちらの方に集中してください」
「なら私はリリィ先生についていく。必要なものは全部覚えているから」
「ノエルさん、よろしくお願いしますね」
「リリィ様、私もお供します」
こうして私とノエルさん、バエルの三人で街の方へ出かけることになりました。
「次は向こうにあるに店に行きます」
ノエルさんがどの順番でいけば効率よく買い出しを終わらせられるか事前に考えていたみたいで、買い出しも順調に進み、残るお店はあとわずかになりました。
私ならきっと倍の時間はかかっていたと思います。ノエルさんがいて非常に助かっていますよ。
街中を歩きながら見て回っていますが、この街に住む人たちは何となく準備で忙しいような気がします。まあ、開催まで残り2週間と少しですからね。
ノエルさんの案内でお店に向かう私たち。
特に気にもせずその場所を通ったのですが、そこに上を向いて立っていた人物がとある人物と似ていたような気がしたので、確認のために一度戻りました。
その人物は間違いなく私の知り合いでした。
なんでここに?
という疑問は当然あります。偶然だとしてもこんなに早く再会するとは思わないじゃないですか。
それに、以前とは違って白をメインとした鎧を着ています。
最初に思いつく理由としては防御力などを上昇させるためでしょうか。でも、以前の装備でも十分だったと個人的には思います。
とりあえず、考えても時間の無駄なので本人に聞いてみましょうか。
「あの……ルクス?」
「あれ、リリィじゃん! 久し振り! こんなところで会えるなんて思ってもいなかったよ」
「それは私もです」
まさかのルクスと再会。ノエルさんはもちろんのこと、バエルもルクスのことは知りません。ルクスと会って別れたのはバエルと会う前の話ですからね。
2人の紹介はひとまず措いとくとして──
「ルクスのその恰好は……」
「ああ、ちょっと訳ありで。実は僕、神聖帝国マリアオベイルっていう国の神聖帝国騎士団って組織に入っているんだよ。これはそこで支給された装備。あまり着慣れていないからまだ違和感はあるけど、性能はかなりいいよ」
神聖帝国マリアオベイル。そして神聖帝国騎士団。
確か魔物に対していろいろありましたね。完全に敵視しているとか、殲滅対象とか、そんな感じの……。
でも、ルクスは言うほどと言いますか、見た目の装備はかなり変わっていますけど、それ以外は全然変わっていませんね。
「ところで、リリィは? どうしてこの街にいるの?」
「臨時ですが私はこの街の学院で教師をやっているんですよ。今は学院祭準備のための買い出しです」
「そっかぁ、お祭りかぁ。楽しそうだし、僕も参加したいけど仕事があるからなぁ」
「仕事ですか」
「そう。実はね──って、これは秘密だった。言っても何のことかわからないと思うけど、リリィにも教えられないんだ、ごめんね」
「いえ、気にしなくていいですよ」
「助かるよ。そういえば、後ろにいる人たちはリリィの友達?」
私たちの会話を黙って聞いていたノエルさんとバエルを紹介します。
バエルは簡潔に自己紹介をしました。見た目は普通の人間に見えますし、自分から悪魔族だとは言っていないので気付かれることはないでしょう。仮に気付いたとしてもルクスなら問題ないはずです。
「次はノエルさんですね。彼女は──」
「僕と同じ『勇者』、だよね?」
ルクスの言葉に驚くノエルさん。
「どうしてわかったんですか?」
「うーん、勘? それか同じ『勇者』だからかな。何となくだけどわかるんだよ」
「そうなんですか。あっ、ノエルさんが『勇者』だということは内密でお願いします。学院の方でも秘密になっているので」
「ああ……バレたらいろいろ面倒だしね。わかった。リリィがそう言うならこのことは誰にも話さないよ」
「ありがとうございます」
「いやぁ、それにしても知り合いがいて助かったよ。このまま見つかるまで一人っていうのも寂しいからさ」
「見つかるまでって……まさか」
「うん。お察しの通り、迷子です……」
やっぱり変わっていないようでなんか安心しましたよ……。
知らない街だから迷子になる。それはまだわかりますけど、ルクスはこれが普通なんですよね。この迷子癖はいつ直るのやら……。
多分直るのは遠い未来の話なんだろう、と思いながらも事情を聞きました。
ルクス曰く、先程言っていた仕事で他の神聖帝国騎士団と一緒にこの街へ来たみたいです。
そして、途中まで一緒にいたが気付いたら一人になっていたと。
もう体に縄を巻きつけた方がいいんじゃないですかね。そうすれば迷子にならずに済むと思いますよ。
ちなみに、ルクスと同じパーティーだった方は一緒ではないのか聞いてみると「別件で今回は一緒じゃない」とのことです。特例ですが神聖帝国騎士団には所属しているようです。
話を戻します。
ルクスは一人になっていたことに気づき、ひとまずはその場に居ようと考えて、今いる場所で他の神聖帝国騎士団が見つけてくれるのを待っていたそうです。
迷子が街の中でうろつかれると見つけるのに苦労しますからね。今頃ルクスのことを探していると思いますし、賢明な判断でしょう。
さて、知り合いが迷子になっているのに1人放置するのも可哀そうですし、見つけてくれるまで一緒にいてあげたいところですが──
「あっ! ルクスさん発見しました!」
どうやらその必要はないようです。
遠くの方でルクスの名前を呼ぶ声が聞こえました。そちらの方を見るとルクスと同じ白い鎧を着た人たちが男女2名。そのうちの女性が駆け寄ってきます。
「もうっ、目を離したらすぐいなくなるんですから」
「ごめんごめん。これからは気を付けるよ」
「お願いしますよ! 探すの大変なんだから。わかりましたねッ!? 絶対ですよッ!?」
「はい、本当に迷惑かけてごめんなさい……。これからは迷子にならないように常に気を付けます……」
「まったく、うちのツートップの1人が本当は迷子常習犯だなんてカッコ悪いんですからしっかりしてくださいね?」
「はい……。ああ、なんか忘れている気がするけど、いずれ思い出すからいいか。それじゃあね、リリィ。しばらくこの街にいるからまた会えるはずだよ──あれ、リリィ?」
ルクスが何か言っていたような気がします。
ですが、その言葉は届いておらず、私はもう一人の方を見つめていました。
忘れるはずも、ありません。
私と同じ黒い髪。私と同じ青い瞳。背丈なんか私を軽く超えています。
あれから月日も経って大人っぽくなり、顔も3年以上見ていませんでしたが、それでも私が見間違えるはずありません。
「ユリ、ウス……?」
「姉、さん……?」
「ああ! 思い出した!! リリィに神聖帝国騎士団には弟のユリウス君がいるって伝えようと思ってたんだ。いやぁ、思い出せてスッキリした!」
「ルクスさん。なんか今はちょっとそんな雰囲気ではないっぽいので一回空気読んで大人しくしておきましょうか」
きっとユリウスもこんな日がまさか今日来るとは思ってもいなかったでしょう。
冒険者活動で故郷を離れていたのも数えるとおよそ4年。
私たち、オーランド姉弟は約4年ぶりにこの地で再会したのでした。





